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13章 いざ尋常に勝負
第553話 魔法戦⑪総評
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「静かに。ここからは総評だ」
総評?
「お前たちの行動を全て見ていた」
え、見てたの? どこで?
「どちらの組も魔物に果敢に挑んでいた。それで負傷した者もいたが、武術でも魔法でもそれぞれ成長が見られ、大変よかった。ポイント各々に5点」
あ、5点プラスされた。
「魔法戦は〝いつどこで戦いが起きても、皆が生きていけるように〟を目的としている。その戦いは相手が人の場合もあるし、魔物の時もあるだろう。生き残ることを目的としているため、他の教科とは在り方も点数の付け方も異なっている。だから試験でも禁止行為は息の根を止めるようなものだけだとし、魔法はギフトこみで惜しみなく使えることとしたし、魔具の使用も攻撃に使うのでなければ許可した。だから、魔法戦において、どんなに姑息な作戦をたて、卑怯なことも、生き残ることが目的ゆえに、そこは問わない」
そうだった。魔法戦では、生き残ることを目的とする戦い方を習ってきた。
「ただお前たちより長く生きてきた者として忠告する。生き残ることは大事だ。けれど、後悔するような、心に痛みが残る作戦は立てるな。生き残っても後悔に押し潰されるような戦いはするな。生き辛くなるから。後悔ってのはな、思わぬところからも生まれるもんなんだ。それだけで手一杯だ。元々自分でわかっていながらする後悔はするな!」
貴族はプライドが高い。子供の時からそうなっていく教育をされていると思う。特に男の子に顕著だ。だから子供でも涙を見せるのを嫌う。
そんな貴族の権化であるA組が涙を流した。静かに泣く子もいれば、嗚咽を堪えられない子もいる。多くの子が〝後悔〟のある戦いだったんだと推察された。
自分たちでも横取りは卑怯だと思っていたんだろう。卑怯だとズバリ言われるより、それはよっぽど効いているようだ。
それから先生はA組の個別の戦い方について指摘をした。
概ねバランスが取れていて、ただ能力を過信するケースがあり、魔法がはじかれた場合や、反撃を受けた場合の読みが甘すぎると言う指摘が多かった。これは自覚して場数を踏めば、ずいぶん違ってくるとアドバイスが入っていた。
続いてD組の戦いについて。まだまだ甘いところが多いけれど、それをチームワークで補っていたと言うのが見立てのようだ。その甘いところをそれぞれ注意が飛ぶ。イシュメルは踏み込んだ時に左側がガラ空きになっている、とか。キャシーが人に魔法を向ける時当てることを怖がっている故に、左に的がずれているんだとか。本当に一人一人とちゃんとチェックしてたんだと慄く。
わたしは武術において半テンポ遅いと言われた。それから体力がなさすぎると。
アダムは
「なぜ今回は珍しくやる気を出したんだ?」
と絡まれている。アダムが目を逸らす。
「それは答えなくてもいいが、聞きたいことがある」
恐らくパーフェクト。注意するようなところはないんだろう。そのアダムに聞きたいこと?
「なんでしょう?」
「お前は魔物に同情してないだろう? なのになぜ大将のお前が引っ張らず、ドラゴンの守るものの一部を取るなんて面倒で、ある意味危険なことを許した?」
アダムはそこを突っ込むかという顔をした。
大将の責任? 骨を丸ごといただくことにすれば、ドラゴンのいるあの場で、作業しないわけだから、危険は少なくなる。
そうか、一部をとることを許したことは、大将がその危険なリスクもゆるし、ゴーサインを出したことになるんだ。
アダムがみんなと同じように同情していたらならともかく、アダムはあの時、魔物と人は分かり合えないとはっきり言ってたもんね。
「……試験会場でした。作られた、森。魔物もそうだと思いました。ドラゴンが〝守った〟とされているものは骨のようでした。確かにドラゴンはあの骨を身の近くに置いていましたが、それを守っているかは判断がつきません。けれど、持って帰るものは〝ドラゴンの守りし白き像〟でした。骨のように見える白い何かを守るものと僕たちに思わせたいのだと思いました。考えてもその目的も、本当のところも僕にはわかりませんでした。ですので多数決に従ったのです」
そ、そうだったんだ。
アダムはみんなを説得できるだけの〝答え〟が出ないから、みんなの思ってやろうとすることに乗ったんだ。
ふっと先生は笑った。
「この試験会場は過去に在った森だ。それを再現している」
再現?
「あのドラゴンは風属性のドラゴン。火竜や土竜と違い攻撃的ではなく穏やかな性格と言われている。あの白い像は、そうだ、ドラゴンの骨。一級鑑定士が鑑定したところ、あれは風竜の骨だった。あの竜はどこに行く時もあの骨を持ち歩く。けどな、骨に思い入れがあるのは確かだろうが、お前たちの考えるのとは恐らく理由が違う。あれは縄張り争いで勝ったという戦利品なんだ。風ドラゴンにはそういう習性があるらしい」
戦利品か……。
「穏やかな風ドラゴンといっても、ドラゴンには違いない。戦いになったらここにいる教師陣がみんなで戦っても勝てるかどうかわからない」
「そ、そんな危険なものと私たちを戦わせる気だったんですか?」
A組の子が金切り声をあげた。
総評?
「お前たちの行動を全て見ていた」
え、見てたの? どこで?
「どちらの組も魔物に果敢に挑んでいた。それで負傷した者もいたが、武術でも魔法でもそれぞれ成長が見られ、大変よかった。ポイント各々に5点」
あ、5点プラスされた。
「魔法戦は〝いつどこで戦いが起きても、皆が生きていけるように〟を目的としている。その戦いは相手が人の場合もあるし、魔物の時もあるだろう。生き残ることを目的としているため、他の教科とは在り方も点数の付け方も異なっている。だから試験でも禁止行為は息の根を止めるようなものだけだとし、魔法はギフトこみで惜しみなく使えることとしたし、魔具の使用も攻撃に使うのでなければ許可した。だから、魔法戦において、どんなに姑息な作戦をたて、卑怯なことも、生き残ることが目的ゆえに、そこは問わない」
そうだった。魔法戦では、生き残ることを目的とする戦い方を習ってきた。
「ただお前たちより長く生きてきた者として忠告する。生き残ることは大事だ。けれど、後悔するような、心に痛みが残る作戦は立てるな。生き残っても後悔に押し潰されるような戦いはするな。生き辛くなるから。後悔ってのはな、思わぬところからも生まれるもんなんだ。それだけで手一杯だ。元々自分でわかっていながらする後悔はするな!」
貴族はプライドが高い。子供の時からそうなっていく教育をされていると思う。特に男の子に顕著だ。だから子供でも涙を見せるのを嫌う。
そんな貴族の権化であるA組が涙を流した。静かに泣く子もいれば、嗚咽を堪えられない子もいる。多くの子が〝後悔〟のある戦いだったんだと推察された。
自分たちでも横取りは卑怯だと思っていたんだろう。卑怯だとズバリ言われるより、それはよっぽど効いているようだ。
それから先生はA組の個別の戦い方について指摘をした。
概ねバランスが取れていて、ただ能力を過信するケースがあり、魔法がはじかれた場合や、反撃を受けた場合の読みが甘すぎると言う指摘が多かった。これは自覚して場数を踏めば、ずいぶん違ってくるとアドバイスが入っていた。
続いてD組の戦いについて。まだまだ甘いところが多いけれど、それをチームワークで補っていたと言うのが見立てのようだ。その甘いところをそれぞれ注意が飛ぶ。イシュメルは踏み込んだ時に左側がガラ空きになっている、とか。キャシーが人に魔法を向ける時当てることを怖がっている故に、左に的がずれているんだとか。本当に一人一人とちゃんとチェックしてたんだと慄く。
わたしは武術において半テンポ遅いと言われた。それから体力がなさすぎると。
アダムは
「なぜ今回は珍しくやる気を出したんだ?」
と絡まれている。アダムが目を逸らす。
「それは答えなくてもいいが、聞きたいことがある」
恐らくパーフェクト。注意するようなところはないんだろう。そのアダムに聞きたいこと?
「なんでしょう?」
「お前は魔物に同情してないだろう? なのになぜ大将のお前が引っ張らず、ドラゴンの守るものの一部を取るなんて面倒で、ある意味危険なことを許した?」
アダムはそこを突っ込むかという顔をした。
大将の責任? 骨を丸ごといただくことにすれば、ドラゴンのいるあの場で、作業しないわけだから、危険は少なくなる。
そうか、一部をとることを許したことは、大将がその危険なリスクもゆるし、ゴーサインを出したことになるんだ。
アダムがみんなと同じように同情していたらならともかく、アダムはあの時、魔物と人は分かり合えないとはっきり言ってたもんね。
「……試験会場でした。作られた、森。魔物もそうだと思いました。ドラゴンが〝守った〟とされているものは骨のようでした。確かにドラゴンはあの骨を身の近くに置いていましたが、それを守っているかは判断がつきません。けれど、持って帰るものは〝ドラゴンの守りし白き像〟でした。骨のように見える白い何かを守るものと僕たちに思わせたいのだと思いました。考えてもその目的も、本当のところも僕にはわかりませんでした。ですので多数決に従ったのです」
そ、そうだったんだ。
アダムはみんなを説得できるだけの〝答え〟が出ないから、みんなの思ってやろうとすることに乗ったんだ。
ふっと先生は笑った。
「この試験会場は過去に在った森だ。それを再現している」
再現?
「あのドラゴンは風属性のドラゴン。火竜や土竜と違い攻撃的ではなく穏やかな性格と言われている。あの白い像は、そうだ、ドラゴンの骨。一級鑑定士が鑑定したところ、あれは風竜の骨だった。あの竜はどこに行く時もあの骨を持ち歩く。けどな、骨に思い入れがあるのは確かだろうが、お前たちの考えるのとは恐らく理由が違う。あれは縄張り争いで勝ったという戦利品なんだ。風ドラゴンにはそういう習性があるらしい」
戦利品か……。
「穏やかな風ドラゴンといっても、ドラゴンには違いない。戦いになったらここにいる教師陣がみんなで戦っても勝てるかどうかわからない」
「そ、そんな危険なものと私たちを戦わせる気だったんですか?」
A組の子が金切り声をあげた。
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