プラス的 異世界の過ごし方

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13章 いざ尋常に勝負

第544話 魔法戦②バランス重視

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 誰も負傷せず、最後まで。スローガンが決まり、バランス重視ペアをと気持ちがひとつになったので、他のペアもさっくり決まった。どのペアも何かに秀でていて、パートナーで補い合えていると思う。他のことは時間もないことだし、大将のアダムに全振りした。

 アダムは班を二つに分けた。けれど全員で行動する。
 そのうちひと班は物を見つけ、持ち帰ることに全力をかける。
 もうひとつの班は、フォローに回る。妨害があるだろうから、それを弾く班だ。
 大将のアダムとペアのわたしは物を見つける班。
 まず開始後はとにかく逃げる、と言った。
 アダムがいうには、先手必勝で数を散らしにくるだろうという読みだった。
 だからまず逃げて、逃げ切ったところで、読み解くことにする。
 自分が先頭に立って走っていくので、ペア同士補いあいながらついてきてほしいと言った。
 先頭で走る? 嫌な予感しかしない。わたしが無理だ。
 アダムは

「リディア嬢。勝ちたいんだよね?」

 とわたしに問いかける。頷けば、

「僕が何をしても騒がないでね?」

 と横目で見られた。

「ご迷惑をお掛けします」

 先に謝っておく。かなりスピーディーに話をしたと思うけど、もう集合の合図だ。

 わたしたちはペアを書いた物を提出した。
 先生たちから腕輪を装着させられる。
 シルバーの細い腕輪に小さな石が埋められていて、それが青く光りだした。

『リディア、我はここにいる。ないとは思うが、危険なことがあったら聖樹さまの元に飛べ』

 わたしは頷いた。

 ふと視線を感じて顔を上げると、エリーと目があった。その目が「負けないわ」と言っているのを感じる。わたしも「負けない」と彼女を見返した。

「いいか、5時間だ。魔力配分を間違えるなよ?」

 先生はわたしたちに念を押す。

「大将、前へ」

 アダムとA組のニヴァ公爵子息が歩み出る。
 先生は紙をくるくる巻いてリボンで止めた物を、それぞれふたりに渡した。

「ではこれより、A組対D組の魔法戦対抗試合の試験を始める。腕輪の石が赤くなったら棄権となる。そうなったらその場で待機するように。では、始め!」

 え? アダムが走ってきてふわっと浮遊感を感じたのも束の間。
 え、これ、わたしアダムに俵担ぎされてる?
 アダムの肩にお腹があたり、足をアダムに捕まえられている。
 
 そして高速で走り出す。みんながそのアダムを追って走るのがよく見える。
 しばらく走ったところで、アダムはわたしを下ろした。

「ありがと」

 気持ち悪くなる前に解放されてほっとした。
 汗だく、荒い息で、みんな辛そうだ。
 アダムは手の甲で額を拭うようにしたけど、特に息は上がっていない。わたしというお荷物を抱えて走ったにも関わらず。

 アダムは巻物のリボンを解いた。
 物を見つける班の子が集まってきて、他の子はわたしたちを囲むように円になり警戒をした。
 ギフトもオッケーなので、わたしはマップを呼び出した。近くにはわたしたちの塊以外、人も魔物もいない。

「読み解けっていう割に普通だな」

 どれどれと覗き込む。


 森のほぼ中央
 高くそびえ立つ3つの木の真ん中に、風の通り道あり
 抜ければ風のドラゴンの守りし白き像あり
 その一部を持ち帰られたし


 そのまま受け取れば、森のほぼ中央に高くそびえ立つ3本の木があって、その真ん中に穴が空いている。そこを降りると風のドラゴンが白い像を守っている。その白い像の一部を持ち帰る、となる。

 ど、ドラゴンと戦わせるの?
 それにもし目指す物が一緒なら、中央で鉢合わせする。取り合いになる可能性もある。あ、ドラゴンだから共闘して倒せってこと? それでA組とも戦わせるとか?
 アダムは言った。

「目指す物が一緒だったら。ぐずぐずしている暇はないな。中央を目指そう」

 わたしたちは頷いた。
 マップに赤い点が出た。
 あ、魔物っぽいな。

「なんかいる」

 わたしが目を向けると、みんなそちらを見た。
 現れると一見リスに見えたので、みんなほっとしたようだ。

「魔物だよ、気を抜かないで」

 わたしは注意した。
 そいつは素早かった。木の幹上へと走ったかと思うと、そこから男子ペアであるエトガルとローレンに飛びかかった。ふたりの頬に赤い線が走る。アマディスの投げた短剣が木にリスもどきを磔にした。

 アマディスは慣れた様子で短剣を回収する。みんなアマディスにお礼をいう。
 慣れてる。あの素早い小さな動いている標的にナイフを投げて仕留めるなんて。
 わたしは怪我をしたふたりに駆け寄った。消毒し薬を塗るフリをして、光魔法で毒を浄化する。鑑定したら毒があったからね。
 その様子をアダムがじーっと見ていた。

「何?」

「いや、なんでもない……」

 まさか、バレてないよね? わからないよね?
 わたしたちは中央へと急いだ。そこからしばらく魔物に出会うことはなかった。


 あ、A組だ。
 マップ上に、わたしたちの塊と別な、4つの点が現れた。
 どうみんなに知らせようと思うと同時に、アダムが手を高くあげた。
 みんな口を閉ざして、低い体勢を取る。

 声が聞こえた。

「D組を見つけたら、魔法でパッと倒しちゃおうぜ」

「少し気を抜きすぎなのではありませんか?」

「なんだ、私たちがD組に遅れをとるとでも?」

「あなたの火魔法で森を丸焼けにする気ですの?」

 男女二人ずつの4人組だ。

「森といっても本物の森ではない。火は消えるだろう?」

「憶測で言っていますでしょう? それで火事となったらどうなさるの?」

「そうなったら先生が対処するだろう」

 馬鹿なの?

「それが間違った行いとして棄権となったらどうするんです?」

「禁止事項にはなかっただろう?」

「そうですけど……」

 そこ、押されちゃダメだろう。
 さて、あの危険思考を持つ馬鹿はどうするか。
 アダムが静かに振り返ってキャシーに合図をする。
 キャシーは胸の前で手を合わせて祈るようなポーズをする。
 A組の4人を囲んだ水柱があがった。

「え?」

「きゃあ!」

 驚いた悲鳴があがる。
 スコットとレズリーとロレッタとアダムが動いた。と思った次の瞬間にはA組の4人は拘束されていた。それぞれのペアが縄で足と手を縛っている。わたしも慌てて女子の手首を拘束した。

「リディア、それだと緩い」

 レニータにダメ出しをされ、彼女が女の子の手と足を縛ってくれた。
 何すんだと煩かったけど、アダムが負傷させた方がいい? と短剣を抜くと、首を横に振った。
 近くの木に4人を軽く縛りつける。
 しばらくは邪魔できないだろう。

「わかってないみたいだから教えてやると、ここの森でもすぐに消せない火を使ったら死ぬからな?」

 オスカーが馬鹿を諭した。
 わたしたちは彼らを置いて、中央へと歩き出した。
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