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13章 いざ尋常に勝負
第543話 魔法戦①ペア
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メロディー嬢は噂になる前にと、ひっそり国外追放されたそうだ。
アダムはしばらく学園を休んでいた。ロサも昨日まで学園を休んでいたと、兄さまから聞いた。
事情を知らないD組のみんなは、また体調を悪くしたんだと思って、魔法戦の大将がアダムなことに不安を覚えている。
ぶっつけ本番となるけど、わたしはそこは心配していなかった。アダムの能力なら、ね。
魔法戦の授業は、男子と女子とで合同になってから全体的にレベルがアップした。どちらかというとだし、もちろん個人差はあるけど、男子は武力に長けていたし、女子は魔法に長けていた。お互い学ぶところがあって、結束力も高まった。それはA組も同じだけれど。
年末のクラス対抗の魔法戦は、毎年趣向を替えるそうだ。
その試験方法も開始30分前に知らされる。つまり30分で状況に応じた作戦を練らなければいけないということだ。
それが得意そうなアダムがいることで安心感はあるけれど、ちょっと痩せたところは心配だ。
兄さまからはアダムには極力近づかないようにした方がいいと言われた。婚約破棄に至った原因の一端がわたしにあるといえばある。理不尽だけど。
アダムはそれを表には出さないけど、もしかしたらわたしを恨んでいるかもしれないと兄さまは言う。
確にそうかもしれない。アダムやロサに恨まれているかもしれない。もう仲良くできないとしたら、わたしこそメロディー嬢を恨みたい。……王族には関わりたくないと言っておきながら、そこに変わりはないけど、ふたりと楽しく話したりできないのは、とても淋しいと思った。ふたりがどう思っているかは分からない。
でも、今日の魔法戦だけはクラスメイトとして接してくれるだろう。
鐘が鳴った。
みんなの顔が緊張している。
テストだからか何人もの先生がいらしている。メリヤス先生を始めとして看護系の方も何人もいる。不穏なものを感じた。
試験は学園内の〝魔の森〟でするといい、制限時間は5時間だと。
みんな呆然とした。もちろんA組も。
魔法戦を習い出して9ヶ月。その1年生に、いきなり魔の森で5時間戦? それありなの?
先生はこの試験は難易度が高いと言った。これは新年度の陛下の挨拶で国民に発表されることだが、ユオブリアは水面下で他国から攻撃を受けていると考えられていると聞いて、生徒たちはざわっとした。
そして例のシンシアダンジョンであったことが簡単に説明され、今後こういうことが身近に起こるかもしれないと、生徒を見回した。その時に何ができるかで生死が変わる。みんなに生き延びてほしいことから、魔法戦の授業でも基準を引き上げることにした、と。
えー、気持ちはわかるけれど、それテストから引きあげっておかしくないか?とわたしは思ってしまった。習うことが厳しくなるのはわかるけど、急に試験の基準を引き上げられても!
先生は実践というのは人を大きく成長させるといい、だからこの試験のレベルを引き上げたと言った。
魔の森とは仮想空間みたいなものじゃないかと思う。ミラーハウスやミラーダンジョンと同じ感じ。それを作れる能力のある人が学園にはいるんだね。主に戦いの授業で使われるところだ。その森の〝ある場所〟に〝ある物〟が隠されている。その〝物〟と〝場所〟が書かれたものを試験開始時に渡すので、それを読み解き、クラスで決めた大将が〝物〟を持ち帰ること。早く、より正しい物を持ちかえってきた方が勝ちで、妨害もオッケー。
え。
息の根を止めるような危険行為は禁止。
魔法はギフト込みで使って可。
魔の森はレベルを落としてはあるが魔物がいるので危険。絶対にペアで行動すること。そのペアを書いたものを30分後に提出。ひとりずつ魔具がつけられて、怪我をしたり、危険な域になったら先生が生徒を回収する。ペアの片方が負傷してもどちらも退場となる。
説明の後に質問タイムが設けられていた。
何人も手があがった。
A組は35人、ひとりペアになれないものが出てくるがとの問いかけには、学園側から何も手出しはしないがひとり補助要員を出すとあった。戦うことをせず、怪我をするようなことはないと先生は咳払いで言葉を濁した。
そう紹介されたのは、同じ歳ぐらいに見える男の子だった。髪は白く、目が赤い。彼はわたしたちにひらひらと手を振った。ただの頭数をそろえるためだけの存在で、話すこともないからと先生は言った。
A組の子の、妨害により全員負傷した場合どうなるのかという質問には、それは棄権扱いとなるそうだ。
持ち帰るのは絶対に〝物〟かという確認に、先生はニヤリとした。〝物〟になっていればいいといい、生徒たちは首を傾げた。
〝読み解け〟というからには、はっきり書かれていないのだろうから、〝物〟と言っておいて本当のところ〝理解度〟なんかだったら探し損になる。でも〝物〟になっていればいいとはどういうこと? でもそれ以上〝物〟についての質問が出ても、読み解けとしか言われなかった。
クラスで持ち帰るはずの〝物〟は違うのかと言う問いかけには、それには答えられないとのことだった。
同じ物な場合、奪うのはありなのかという問いかけには、正しい〝物〟を持ち帰った方が勝者だとあった。
うわー、奪い合うも含まれるのか。
物があっても大将が回収されるくらい負傷したらどうなるのだという問いかけには、大将が持ち帰ることが試験の条件なので、それは棄権と同じだという答えだった。
えぐい、とわたしは思った。
まず最初に大将を負傷させるという作戦も立てられるからだ。
逆に大将はずっと隠れていて、ゴール付近にいて、〝物〟を他の人たちで取ってきて渡すという作戦も考えられる。
これは厄介だ。何せ作戦を立てる時間は30分しかないし、でもその時には、場所と物が書かれた物はまだ渡してもらえないのだ。
A組からわたしはお遣いさまとセットなのかと質問が出て、お遣いさまには魔の森の外で待機してもらうと言われた。
はーい。
わたしは魔具など使用していいのか、それから5時間も森の中にいる場合、水分補給や物を食べてもいいのかを尋ねた。
先生たちが軽く話し合う。
水分補給、物を食べるのは自由。魔具は攻撃するのに使用しなければ自由と言われた。
手が上がらなくなったので、作戦会議となる。
クラスで集まると、みんなはアダムの体調を気にした。
みんな具合が悪くて休んでいたと思っているからね。顔色も青白いし。
アダムは大丈夫だと言った。
まずペアを決めることになった。
男子19名、女子17名だ。男子のみのペアをひと組作り、あとは男女で組むことにした。妨害にあった時、女子だけのペアが力で勝てない可能性が出てくるからだ。
どうペアを決める?となった時、アダムが、自分はわたしと組むと言った。
イシュメルが反対はしないけどなんでだと聞いた。
アダムはわたしに憐めの目を向ける。
「5時間なんて、彼女の体力持つわけないだろう? その時に彼女を背負ったりなんだりできるのは、僕とリキぐらいだと思う。さらに戦いながらになると、僕が適任だと思うんだ」
そう言って、深いため息を落とした。
悪かったねー。けど、わたしだって好きで体力がないわけじゃないのに。
みんなはそれに納得したみたいだ。その通りではあるんだけど、ひどい。
「……劇の時、指針、目標を決めただろう? 今回もあるといいと思うんだ。もちろん、最終目的は魔法戦で勝って、ドーン女子寮の点数を上げることだけど」
「なんか、考えがあるみたいだな?」
イシュメルが言った。
アダムは頷く。
「負傷しないこと。ひとりも欠けることなく、勝利をつかみとろう」
アダムは力の抜けた笑顔でいう。それは女子にものすごい破壊力をもたらした。
そのために、わたしとペアを言ったんだなとみんな納得した。
「そうだな、ひとりも欠けることなく、いいかもしれない」
オスカーも呟く。
そこかしこで自分もクラスの一員であると思えて嬉しかったのか、ざわざわした。
「いいこと、いうじゃんか!」
背中を叩いたイシュメルに、アダムは頷く。
「ああ、もう誰ひとり欠けて欲しくないんだ」
その呟きの奥にある思いを感じ取って、なんだか泣きたくなった。
アダムはしばらく学園を休んでいた。ロサも昨日まで学園を休んでいたと、兄さまから聞いた。
事情を知らないD組のみんなは、また体調を悪くしたんだと思って、魔法戦の大将がアダムなことに不安を覚えている。
ぶっつけ本番となるけど、わたしはそこは心配していなかった。アダムの能力なら、ね。
魔法戦の授業は、男子と女子とで合同になってから全体的にレベルがアップした。どちらかというとだし、もちろん個人差はあるけど、男子は武力に長けていたし、女子は魔法に長けていた。お互い学ぶところがあって、結束力も高まった。それはA組も同じだけれど。
年末のクラス対抗の魔法戦は、毎年趣向を替えるそうだ。
その試験方法も開始30分前に知らされる。つまり30分で状況に応じた作戦を練らなければいけないということだ。
それが得意そうなアダムがいることで安心感はあるけれど、ちょっと痩せたところは心配だ。
兄さまからはアダムには極力近づかないようにした方がいいと言われた。婚約破棄に至った原因の一端がわたしにあるといえばある。理不尽だけど。
アダムはそれを表には出さないけど、もしかしたらわたしを恨んでいるかもしれないと兄さまは言う。
確にそうかもしれない。アダムやロサに恨まれているかもしれない。もう仲良くできないとしたら、わたしこそメロディー嬢を恨みたい。……王族には関わりたくないと言っておきながら、そこに変わりはないけど、ふたりと楽しく話したりできないのは、とても淋しいと思った。ふたりがどう思っているかは分からない。
でも、今日の魔法戦だけはクラスメイトとして接してくれるだろう。
鐘が鳴った。
みんなの顔が緊張している。
テストだからか何人もの先生がいらしている。メリヤス先生を始めとして看護系の方も何人もいる。不穏なものを感じた。
試験は学園内の〝魔の森〟でするといい、制限時間は5時間だと。
みんな呆然とした。もちろんA組も。
魔法戦を習い出して9ヶ月。その1年生に、いきなり魔の森で5時間戦? それありなの?
先生はこの試験は難易度が高いと言った。これは新年度の陛下の挨拶で国民に発表されることだが、ユオブリアは水面下で他国から攻撃を受けていると考えられていると聞いて、生徒たちはざわっとした。
そして例のシンシアダンジョンであったことが簡単に説明され、今後こういうことが身近に起こるかもしれないと、生徒を見回した。その時に何ができるかで生死が変わる。みんなに生き延びてほしいことから、魔法戦の授業でも基準を引き上げることにした、と。
えー、気持ちはわかるけれど、それテストから引きあげっておかしくないか?とわたしは思ってしまった。習うことが厳しくなるのはわかるけど、急に試験の基準を引き上げられても!
先生は実践というのは人を大きく成長させるといい、だからこの試験のレベルを引き上げたと言った。
魔の森とは仮想空間みたいなものじゃないかと思う。ミラーハウスやミラーダンジョンと同じ感じ。それを作れる能力のある人が学園にはいるんだね。主に戦いの授業で使われるところだ。その森の〝ある場所〟に〝ある物〟が隠されている。その〝物〟と〝場所〟が書かれたものを試験開始時に渡すので、それを読み解き、クラスで決めた大将が〝物〟を持ち帰ること。早く、より正しい物を持ちかえってきた方が勝ちで、妨害もオッケー。
え。
息の根を止めるような危険行為は禁止。
魔法はギフト込みで使って可。
魔の森はレベルを落としてはあるが魔物がいるので危険。絶対にペアで行動すること。そのペアを書いたものを30分後に提出。ひとりずつ魔具がつけられて、怪我をしたり、危険な域になったら先生が生徒を回収する。ペアの片方が負傷してもどちらも退場となる。
説明の後に質問タイムが設けられていた。
何人も手があがった。
A組は35人、ひとりペアになれないものが出てくるがとの問いかけには、学園側から何も手出しはしないがひとり補助要員を出すとあった。戦うことをせず、怪我をするようなことはないと先生は咳払いで言葉を濁した。
そう紹介されたのは、同じ歳ぐらいに見える男の子だった。髪は白く、目が赤い。彼はわたしたちにひらひらと手を振った。ただの頭数をそろえるためだけの存在で、話すこともないからと先生は言った。
A組の子の、妨害により全員負傷した場合どうなるのかという質問には、それは棄権扱いとなるそうだ。
持ち帰るのは絶対に〝物〟かという確認に、先生はニヤリとした。〝物〟になっていればいいといい、生徒たちは首を傾げた。
〝読み解け〟というからには、はっきり書かれていないのだろうから、〝物〟と言っておいて本当のところ〝理解度〟なんかだったら探し損になる。でも〝物〟になっていればいいとはどういうこと? でもそれ以上〝物〟についての質問が出ても、読み解けとしか言われなかった。
クラスで持ち帰るはずの〝物〟は違うのかと言う問いかけには、それには答えられないとのことだった。
同じ物な場合、奪うのはありなのかという問いかけには、正しい〝物〟を持ち帰った方が勝者だとあった。
うわー、奪い合うも含まれるのか。
物があっても大将が回収されるくらい負傷したらどうなるのだという問いかけには、大将が持ち帰ることが試験の条件なので、それは棄権と同じだという答えだった。
えぐい、とわたしは思った。
まず最初に大将を負傷させるという作戦も立てられるからだ。
逆に大将はずっと隠れていて、ゴール付近にいて、〝物〟を他の人たちで取ってきて渡すという作戦も考えられる。
これは厄介だ。何せ作戦を立てる時間は30分しかないし、でもその時には、場所と物が書かれた物はまだ渡してもらえないのだ。
A組からわたしはお遣いさまとセットなのかと質問が出て、お遣いさまには魔の森の外で待機してもらうと言われた。
はーい。
わたしは魔具など使用していいのか、それから5時間も森の中にいる場合、水分補給や物を食べてもいいのかを尋ねた。
先生たちが軽く話し合う。
水分補給、物を食べるのは自由。魔具は攻撃するのに使用しなければ自由と言われた。
手が上がらなくなったので、作戦会議となる。
クラスで集まると、みんなはアダムの体調を気にした。
みんな具合が悪くて休んでいたと思っているからね。顔色も青白いし。
アダムは大丈夫だと言った。
まずペアを決めることになった。
男子19名、女子17名だ。男子のみのペアをひと組作り、あとは男女で組むことにした。妨害にあった時、女子だけのペアが力で勝てない可能性が出てくるからだ。
どうペアを決める?となった時、アダムが、自分はわたしと組むと言った。
イシュメルが反対はしないけどなんでだと聞いた。
アダムはわたしに憐めの目を向ける。
「5時間なんて、彼女の体力持つわけないだろう? その時に彼女を背負ったりなんだりできるのは、僕とリキぐらいだと思う。さらに戦いながらになると、僕が適任だと思うんだ」
そう言って、深いため息を落とした。
悪かったねー。けど、わたしだって好きで体力がないわけじゃないのに。
みんなはそれに納得したみたいだ。その通りではあるんだけど、ひどい。
「……劇の時、指針、目標を決めただろう? 今回もあるといいと思うんだ。もちろん、最終目的は魔法戦で勝って、ドーン女子寮の点数を上げることだけど」
「なんか、考えがあるみたいだな?」
イシュメルが言った。
アダムは頷く。
「負傷しないこと。ひとりも欠けることなく、勝利をつかみとろう」
アダムは力の抜けた笑顔でいう。それは女子にものすごい破壊力をもたらした。
そのために、わたしとペアを言ったんだなとみんな納得した。
「そうだな、ひとりも欠けることなく、いいかもしれない」
オスカーも呟く。
そこかしこで自分もクラスの一員であると思えて嬉しかったのか、ざわざわした。
「いいこと、いうじゃんか!」
背中を叩いたイシュメルに、アダムは頷く。
「ああ、もう誰ひとり欠けて欲しくないんだ」
その呟きの奥にある思いを感じ取って、なんだか泣きたくなった。
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