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13章 いざ尋常に勝負
第541話 着服
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ウッドのおじいさまに、めちゃめちゃ褒められた!
リディアは商才があると。
裁判が終わり、ぬいぐるみが危険なものだと訴えたペネロペは、裁判中に訴えを取り下げた商会だと世の中に知れ渡った。つまり事実でないか、思いこみだと、裁判中に認めたのだと。それと同時に、今度はこちら側が訴えたことで、ペネロペがウチに何をしたかということが、憶測を交えて広まり出した。
ぬいぐるみの中身を知りたいがために、なぜか幼い兄妹の乗る馬車を襲ったこと。それだけでも常識を疑われるところなのに、次はその商品が危険なものだと裁判まで起こした。
ぬいぐるみの類似品を売り出したが、それが余計に民衆の気持ちを逆撫した。
現在、世界にはぬいぐるみが溢れている。
世界中で売り出されたからだ。
わたしはぬいぐるみの類似品が売られると分かった時に考えた。
類似品が売られるぐらいなら、共有する権利を売ろう、手を組もうと。
お茶会で知り合った国々に声をかけた。
ぬいぐるみづくりの同盟を結びませんか?と。
ユオブリアと手を組み、同盟を結ぶなら、ノウハウと中身であるふわふわの雪くらげの住処を売ると。それらは素材で売ってはいけない。ぬいぐるみにして売り出すのは可。ユオブリアで今まで出したぬいぐるみは種類が少ないけれど、新しく考えても可。同盟は横つながりでは広がらない。絶対にウチを通しての同盟だ。
類似品を売り出した時に、そうやってぬいぐるみを市場に溢れ出させ、ぶつけた。
そしてウチはペネロペやその関係のある商会の手は取らない。
世界中でぬいぐるみは今、売れに売れている。類似品には目もくれない。類似品は中に布みたいな物を詰めている。固い置き物ではないけれど、ぬいぐるみのライバルにはならなかった。だってあのふわふわこそが求められたものだから。
ペネロペと手を組んでいたところは軒並み手を切りだした。
繋がっているとわかると、自分たちにまで被害が及ぶからだ。
どんどん市場を縮小しているようだし、元々外国からきたようなので、引き揚げるんじゃないかと思う。そうしたらシュタイン領の支部もなくなるだろう。
もし、ペリーが領地の子たちに聞き回っていなかったら、優秀なんだろうしヘッドハンティングすることも考えただろうけど、……彼女はアウトだ。
クラスは同じだし、隣の席なのに、アダムから呼び出された。わたしが人に聞かれちゃまずい話をするのは屋上とか人気のないところだけど、彼は届出を出したんだろう、別棟の個室だった。別棟自体貸切っていると、ドアは開けっぱなしにする。秘め事にしたいのかオープンなのか、少し謎だ。
いつもどこかおちゃらけているアダムが傷ついているようにも見えた。
わたしが椅子に座るとおもむろにアダムが言った。
「君の勘、当たってたよ」
「え?」
「僕は王子の願いを叶えられなかった」
「どういう……こと?」
「コーデリア・メロディーはペネロペと繋がっていた」
「やっぱり! そうじゃないかと思ったのよ!」
思った通りだと、気分が高揚する。
机の上の手は興奮してグーになっていた。
「商会に随分貢献したようだ」
「貢献?」
「元々、外国が拠点だったのをユオブリアに呼び寄せた。何かにつけて資金をせびられ、その度に支払っていた」
公爵家令嬢ともなるとお金も持っているのだろう。
っていうか、ペネロペを唆し、便乗したのではなく、メロディー嬢が主体だったの?
「メロディー公爵は女性は役立たずと公言憚らない人でね、コーデリアは虐げられていた。だから手持ちの資金などあるはずなく、支度金と祝い金に手をつけた」
「支度金と祝い金?」
さっきからおうむ返ししかしていない。
「第1王子と2年後婚姻する時に支払われる資金のこと」
わたしは言葉が出なかった。
「文字通り、結婚するのにあたって用意するための支度金。婚約したときに渡したものだが、準備にあてるのでなく使いこんでいた。祝い金は結婚してから国民に祝い返しをする一部に充てるもの。それに彼女は第一王子と地下で暮らすようになるから、その見舞い金もあった。でも、彼女は予算分、全て引き出して使い切っていた。婚姻する前にね」
「……それ、どうなるの?」
「使ったお金はもちろん返してもらうけど、婚姻と全く関係ないところで使っていた。しかもその出どころは税金だからね。そんな前代未聞なことをしたんだ。婚約は破棄だ」
!
結婚する前に結婚時に使用する予算を、関係ないことをするのに引き出して使ったわけだから……当たり前といえば当たり前のことで……。
「君は満足?」
少し首を傾け、悲しい瞳でわたしに問いかける。
何それ。
「ごめん、八つ当たりした」
しゅんとして頭を抱えた。
それを見て思い当たる。
彼は婚約者を失ったんだ。
アダムはアダムなりにメロディー嬢を好きだったんだね。
ペネロペにされたことを思い出すと……自業自得と思ってしまうけど、アダムにそれをいうのは間違っているのはわかる。
アダムはゲンナリした声を出した。
「君、覚悟した方がいいよ」
「なにが?」
「第1王子に婚約者がいなくなったんだ」
アダムはため息をついた。
「それがどうしたの?」
「2年後には地下だ。そんな未来を望む令嬢はまずいない」
ま、アダムには悪いけど、そうだろうね。
「すぐに、コーデリアが平民に落とされて国外追放されたと噂は広がり、その理由がペネロペ商会への使い込みとわかるだろう」
「平民に落とされて、国外追放?」
「メロディー公爵は、公爵家の爵位剥奪より娘と縁を切ることを選んだ」
…………………………………………。
「ペネロペがああなったのは、君の商会とやりあったからだというのは誰もが知っている」
まあ、公の裁判もあったことだし。ぬいぐるみ同盟には絶対にあの商会は入れなかったからね。
「第1王子の婚約者はそのためにいなくなった、君のところにその責任をなすりつけると思うよ」
「どういう意味?」
「世論が第1王子の婚約者をシュタイン家に求めるってことだよ」
「わたしは婚約してるわ」
「妹がいるだろ」
「エリンは7歳よ?」
「それくらいの歳の差は、大したことないだろ」
「いいえ、陛下から約束いただいているから、ウチが王族に関わることはないわ」
アダムが顔をあげた。
「そういうことか。なんで君がブレドの婚約者にならないのか、本当に不思議だったんだ。陛下と約束が交わされてたんだね。……でも用心した方がいい。世論は怖いよ。大衆心理ってやつは、流れができてしまったら乗るしか道はなくなる」
ペネロペをやっつけたことが、エリンの未来に影を落とすの?
いやよ。そんなことはさせないわ。
……でも。確かに世論というのは、時代を動かしていく力があるのも事実だ。
それは父さまに相談しなければ。
もふさまが首をかいて、もう一度寝そべる。
二人ともしばらくの間話さなかった。
わたしは最後に聞いた。
「メロディー嬢は今どうしているの?」
「……捕らえられている」
リディアは商才があると。
裁判が終わり、ぬいぐるみが危険なものだと訴えたペネロペは、裁判中に訴えを取り下げた商会だと世の中に知れ渡った。つまり事実でないか、思いこみだと、裁判中に認めたのだと。それと同時に、今度はこちら側が訴えたことで、ペネロペがウチに何をしたかということが、憶測を交えて広まり出した。
ぬいぐるみの中身を知りたいがために、なぜか幼い兄妹の乗る馬車を襲ったこと。それだけでも常識を疑われるところなのに、次はその商品が危険なものだと裁判まで起こした。
ぬいぐるみの類似品を売り出したが、それが余計に民衆の気持ちを逆撫した。
現在、世界にはぬいぐるみが溢れている。
世界中で売り出されたからだ。
わたしはぬいぐるみの類似品が売られると分かった時に考えた。
類似品が売られるぐらいなら、共有する権利を売ろう、手を組もうと。
お茶会で知り合った国々に声をかけた。
ぬいぐるみづくりの同盟を結びませんか?と。
ユオブリアと手を組み、同盟を結ぶなら、ノウハウと中身であるふわふわの雪くらげの住処を売ると。それらは素材で売ってはいけない。ぬいぐるみにして売り出すのは可。ユオブリアで今まで出したぬいぐるみは種類が少ないけれど、新しく考えても可。同盟は横つながりでは広がらない。絶対にウチを通しての同盟だ。
類似品を売り出した時に、そうやってぬいぐるみを市場に溢れ出させ、ぶつけた。
そしてウチはペネロペやその関係のある商会の手は取らない。
世界中でぬいぐるみは今、売れに売れている。類似品には目もくれない。類似品は中に布みたいな物を詰めている。固い置き物ではないけれど、ぬいぐるみのライバルにはならなかった。だってあのふわふわこそが求められたものだから。
ペネロペと手を組んでいたところは軒並み手を切りだした。
繋がっているとわかると、自分たちにまで被害が及ぶからだ。
どんどん市場を縮小しているようだし、元々外国からきたようなので、引き揚げるんじゃないかと思う。そうしたらシュタイン領の支部もなくなるだろう。
もし、ペリーが領地の子たちに聞き回っていなかったら、優秀なんだろうしヘッドハンティングすることも考えただろうけど、……彼女はアウトだ。
クラスは同じだし、隣の席なのに、アダムから呼び出された。わたしが人に聞かれちゃまずい話をするのは屋上とか人気のないところだけど、彼は届出を出したんだろう、別棟の個室だった。別棟自体貸切っていると、ドアは開けっぱなしにする。秘め事にしたいのかオープンなのか、少し謎だ。
いつもどこかおちゃらけているアダムが傷ついているようにも見えた。
わたしが椅子に座るとおもむろにアダムが言った。
「君の勘、当たってたよ」
「え?」
「僕は王子の願いを叶えられなかった」
「どういう……こと?」
「コーデリア・メロディーはペネロペと繋がっていた」
「やっぱり! そうじゃないかと思ったのよ!」
思った通りだと、気分が高揚する。
机の上の手は興奮してグーになっていた。
「商会に随分貢献したようだ」
「貢献?」
「元々、外国が拠点だったのをユオブリアに呼び寄せた。何かにつけて資金をせびられ、その度に支払っていた」
公爵家令嬢ともなるとお金も持っているのだろう。
っていうか、ペネロペを唆し、便乗したのではなく、メロディー嬢が主体だったの?
「メロディー公爵は女性は役立たずと公言憚らない人でね、コーデリアは虐げられていた。だから手持ちの資金などあるはずなく、支度金と祝い金に手をつけた」
「支度金と祝い金?」
さっきからおうむ返ししかしていない。
「第1王子と2年後婚姻する時に支払われる資金のこと」
わたしは言葉が出なかった。
「文字通り、結婚するのにあたって用意するための支度金。婚約したときに渡したものだが、準備にあてるのでなく使いこんでいた。祝い金は結婚してから国民に祝い返しをする一部に充てるもの。それに彼女は第一王子と地下で暮らすようになるから、その見舞い金もあった。でも、彼女は予算分、全て引き出して使い切っていた。婚姻する前にね」
「……それ、どうなるの?」
「使ったお金はもちろん返してもらうけど、婚姻と全く関係ないところで使っていた。しかもその出どころは税金だからね。そんな前代未聞なことをしたんだ。婚約は破棄だ」
!
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「君は満足?」
少し首を傾け、悲しい瞳でわたしに問いかける。
何それ。
「ごめん、八つ当たりした」
しゅんとして頭を抱えた。
それを見て思い当たる。
彼は婚約者を失ったんだ。
アダムはアダムなりにメロディー嬢を好きだったんだね。
ペネロペにされたことを思い出すと……自業自得と思ってしまうけど、アダムにそれをいうのは間違っているのはわかる。
アダムはゲンナリした声を出した。
「君、覚悟した方がいいよ」
「なにが?」
「第1王子に婚約者がいなくなったんだ」
アダムはため息をついた。
「それがどうしたの?」
「2年後には地下だ。そんな未来を望む令嬢はまずいない」
ま、アダムには悪いけど、そうだろうね。
「すぐに、コーデリアが平民に落とされて国外追放されたと噂は広がり、その理由がペネロペ商会への使い込みとわかるだろう」
「平民に落とされて、国外追放?」
「メロディー公爵は、公爵家の爵位剥奪より娘と縁を切ることを選んだ」
…………………………………………。
「ペネロペがああなったのは、君の商会とやりあったからだというのは誰もが知っている」
まあ、公の裁判もあったことだし。ぬいぐるみ同盟には絶対にあの商会は入れなかったからね。
「第1王子の婚約者はそのためにいなくなった、君のところにその責任をなすりつけると思うよ」
「どういう意味?」
「世論が第1王子の婚約者をシュタイン家に求めるってことだよ」
「わたしは婚約してるわ」
「妹がいるだろ」
「エリンは7歳よ?」
「それくらいの歳の差は、大したことないだろ」
「いいえ、陛下から約束いただいているから、ウチが王族に関わることはないわ」
アダムが顔をあげた。
「そういうことか。なんで君がブレドの婚約者にならないのか、本当に不思議だったんだ。陛下と約束が交わされてたんだね。……でも用心した方がいい。世論は怖いよ。大衆心理ってやつは、流れができてしまったら乗るしか道はなくなる」
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いやよ。そんなことはさせないわ。
……でも。確かに世論というのは、時代を動かしていく力があるのも事実だ。
それは父さまに相談しなければ。
もふさまが首をかいて、もう一度寝そべる。
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