プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
540 / 888
13章 いざ尋常に勝負

第540話 ペネロペ裁判(後編)

しおりを挟む
 ペネロペ商会の人は言う。
 傍聴席にいるわたしに目をやり、わたしが毒のついた雪くらげの住処もあると言った、と。
 その証人としてクレソン商会のトップだった人を連れてきた。

 馬鹿なんじゃないの?
 思わず、そう思う。
 もう、ウチに打撃を与えることだけを考えて、他のことが見えなくなってるんじゃない? クレソンとの繋がりを自ら打ち出してくるなんて。

 潰したクレソン商会のトップは、やさぐれていた。
 あの時はインテリな感じが少しあったのに、今はどう見てもゴロつきだ。
 彼は嘘はつかないと宣誓してから、わたしが毒のある雪くらげの住処を使ったと言ったと証言した。その証拠に、触ってしまった自分に解毒剤を渡されたとも。

 馬鹿じゃないの?(2回目) じゃなくて馬鹿なんだね。
 わたしは呼ばれて、傍聴席から立ち上がる。

 父さまは最後の最後まで自分が証人になるって言ってたけど、わたしがやりたいと勝ち取った。
 父さまに手を取られる。やり切ってこいのメッセージにわたしは頷く。

 わたしも宣誓をして、裁判に参加だ。

 さてさて。
 わたしの作ったぬいぐるみに毒があったのか、正直に答えろと言われ、わたしは毒はないと真実を答えた。

「神聖なる裁判で嘘を言うな! お前は雪くらげの住処に毒がついていたから、それを触った人が死ぬんじゃないかと言ったじゃないか!」

 目を血張らせて言うことじゃないと思うけど。
 それに裁判員を無視して話まくっている。
 もっと敬うべきだ。

 わたしは第一書記官さまの言葉があってから、静かに、けれどはっきり告げた。

「お客さまにお売りするものに、毒を入れるわけないじゃありませんか」

 何当たり前のことが分からなくなっているんだと、わたしは非難する。

「書記官さま、この少女は嘘をついています。私は確かに言われたんです! ぬいぐるみの中に使われている雪くらげの毒が私の手についただろうとね」

 そんなこと言ってないよ。
 書記官さまは困った。わたしは毒なんか使ってないと言うし、証人はわたしが毒のついたものを使っていると言ったと言うし、平行線だ。

「そもそも、なぜ、ぬいぐるみの中の雪くらげを触られたんです?」

 わたしは素朴な疑問を返した。

「それは、中身を鑑定したら雪くらげの住処とでた。それがなんだか分からなかったので、中を出してみたんだ」

「なぜ、中身を知る必要があったんですか?」

「それは中身がなんだか調べろと言われたからだ」

「誰に?」

「ペネロペ商会にだ」

 はい、よくできました。
 わたしは数々の証拠の品を書記官さまに提出した。
 なんだと聞かれたので、クレソン商会とやりあった時の詰所の調書などだと答える。

「これは……」

 目を走らせた、裁判のスタッフの方々が、いろいろ察したようだった。と言うか、証拠があるからね、全部。
 クレソンとペネロペ商会の人たちだけがついていけてない。

「証人であるリディア・シュタインさんが、ぬいぐるみに毒を使ったと言ったのはいつのことですか?」

 書記官さまが尋ねたので、クレソン氏は喜んで答えた。

「半年ほど前の夏前のことでございます。クレソン商会に馬車を襲っただろうなど言いがかりをつけてきたんです。そこで、そのお嬢さんが言ったんですよ、中の住処を触っていたら毒が回って死に至るとね」

「それはこのことですね」

 わたしは録音されていたものを再生した。



ーーほら、わたしのぬいぐるみだけ、雪くらげの住処が足らなかったでしょう? 父さまから絶対ダメって言われていたけれど、売るのではなくてわたしのだからいいと思ったの。
ーーそれで?
ーーわたしは絶対に中身を出したりしないもの。だから、雪くらげの〝毒〟を抜く前の、雪くらげの住処を使っていたの。
ーーああ、なんてことをリディー。あの毒は触ると大変なことになるだろう。
ーーそうなの。最初はなんでもないのだけど、2日、3日と経つうちに皮膚が爛れてきて痛みが出てくるそうよ。そして呼吸が少しずつしにくくなってきて、ひと月もすると亡くなる人もいるって。
ーーいくら触らないからって危険なものを使っちゃダメじゃないか。
ーーごめんなさい。だって、毒を抜かない方がふわふわさは格別にいいんだもの。直接触らなければ害はまったくないし。それに万一に備えて解毒薬は持っていたから。

 わたしの声と父さまの声が交互に聞こえる。

「そう、これです! ほら、お嬢さんは毒があるって言ってるし、その父親も認めている! それなのに、お嬢さんは神聖なる裁判で嘘をついた!」

「あら、裁判で嘘はついていませんわ。わたしはぬいぐるみや商品に毒のあるものは使っていないと言ったのです。そこに嘘はありません」

「確かに鑑定の結果でも商品に毒は使われていませんよ」

 第一書記官さまが言う。

「住処には毒はないと言ってました。雪くらげに毒があると。ですから、雪くらげが使ったものかどうかで毒がつくかどうか分からないものなのですよ。そんな危険なものを商品にしているのです」

「書記官さま、鑑定していただいたように、雪くらげにも毒はありません」

「では前に言ったのはなんだったんだ!」

「ここまで言って分からないのですか? あの時言ったことが嘘なのです。でも、あなた方が先に嘘をついたのですよね。わたしたちを襲ってないと言いましたよね? 濡れ衣だと。
 ぬいぐるみの中身を知りたくて裂いたなら雪くらげの住処を触っているはず。それなら口を破らせるのにと、毒の話を作り上げたのです」

「嘘だ!」

「第一書記官さま」

 おじいさまが声を上げる。
 おじいさまはここまでの裁判の記録を〝押さえ〟を発動してほしいと願い出た。明らかにペネロペがギョッとしている。
 後から聞いたんだけど、〝押さえ〟とは裁判の記録を証拠能力があるとして留めておくことを言うそうだ。この裁判が取り下げられたとしても新たに裁判を打ち出しますので、これらは証拠能力があるとして取っておいてねと言う約束ごとらしい。
 訴えがあるから裁判をしているので、不利となりやっぱり訴えるのやめますと言う人も出てくる。そうなると裁判とならなかった裁判の議事録は残るものの、証拠についてはその裁判に対しての証拠だから、他では証拠能力がなくなってしまうこともあるらしい。

 わたしたちはここでクレソンがペネロペの指示だったよって言質をとるのが目的だった。父さまより証人がわたしの方が油断するだろうということも見込んでいた。まさかあんなに簡単に言うとは思わなかったけど。
 けれどここで不利になり訴えをやめられてしまったら、次にこちらが訴えた時にはペネロペに指示されたなんて言葉の綾ですと言い兼ねられない。だからおじいさまは続きをするからね、と宣言したのだ。
 〝押さえ〟は受理され、裁判は続く。

 半年前の件はわたしが嘘をついた調書も書き込まれている。それも録音されている。
 一旦話がついた後も襲われ、そんなことはなかったのだと言っても信じ切っているのも録音されている。それで仕方なく、詰所の人たちと相談して解毒剤を受け渡す経緯になったのもだ。もちろん解毒剤も水と鑑定済みだ。だって詰所の人と整えたんだもん。
 録音が流されていくと訴えた人の顔色はどんどん悪くなっていき、訴えを取下げ、裁判は終わった。

 おじいさまは即座に、半年前の出来事を含んだ、売れ筋商品であるぬいぐるみの中身を知るために、幼い子供たちの乗った馬車を襲撃し聞き出そうとしたのがペネロペ商会であること。それから、ぬいぐるみを危険なものだと騒ぎ立て、名誉毀損として訴えた。
 これはまた違う裁判になる。
 何はともあれ、裁判は終わった。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
【連載再開】  長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^) ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

処理中です...