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13章 いざ尋常に勝負
第535話 使者②出されない案
しおりを挟む「メロディー嬢は関係なかったというの?」
開いた口が塞がらないとはこのことだ!
わたしはその開いた口をアダムに塞がれた。
廊下の壁に体ごと押しつけられる。
少し先を女の子二人組が通り過ぎた。
アダムは声を潜める。
「ブレドと君の婚約者が調べたんだ、間違いないよ」
「うーうー」
「大声出さない?」
わたしは仕方なくこくこくと頷く。
「使者とメロディー嬢の関係は?」
使者が勝手にメロディー嬢を知っていると一方的に言ってると。王族とは繋がりがないと言っているそうだ。
「使者はフォルガードで間違いないの?」
アダムは目を細くする。
「リディア嬢は……使者を捕まえたい?」
「そりゃそうよ。わたしを女王に仕立てようとしたのよ? 誰の差し金だか知りたいわ」
「使者を誘き出せばいいのに、ブレドも君の婚約者もその案を出さないんだ。君の安全を確保するためにね」
「わたしが囮になればいいの?」
「まあ、簡単にいうとそうだね」
「あんたならできる?」
「え?」
「ロサや兄さまは、わたしを囮になんかできないだろうから」
「いやだなぁ。僕なら心が痛まないってトゲを含んでない?」
「できるなら、あなたかなと思っただけよ。で、どうすればいい?」
「……そんなことをしたら、ブレドや君の婚約者に恨まれる」
「そんなこと言ってる場合? あなたの婚約者もまずい立ち位置にいるのよね? それをどうにかしないとなんじゃないの?」
アダムは強張った顔のまま、口の端だけをあげた。
わたしは父さまから正規のルートで所有権を得た伝達魔法の魔具でアルノルトに連絡を入れる。今日から寮へ帰ると。
父さまはわたしがそのまま魔具が必要になると見越して、すで兄さまに新しい魔具を渡していたのだ。だから兄さまから借りている伝達魔法の魔具はそのままわたしのものになった。
放課後アダムと一緒に、とある屋敷へと向かった。
そこにはワーウィッツの王子と王女が滞在していた。
アダムは制服から品のいい服に着替えていた。第1王子として面会に行くようだ。
最初はミーア王女もいて、わたしに嫌悪感丸出し、そしてアダムには目をハートにさせていたけれど、ジュエル王子に部屋を追い出された。ミーア王女も状況は知っているだろうけど、足を引っ張るタイプなのかもしれない。
「それで第1王子殿下と、リディア嬢がなんのご用でしょう?」
イライラしているし、怯えているようにも見えた。
「第2王子殿下に、リディア嬢と関わらないよう言われているので、困るのですが」
わたしにチラリと目を向ける。
それがイライラの理由のようだ。
そうだね取り引きがなくなったら痛いもんね。
「あなたのためを思ってリディア嬢をお連れしたのですが?」
アダムが切り出す。
「使者だって、その後ろにいる人だって、あなたのすることを一挙一動見守っていると思いますよ。
ブレドたちが行動を起こしているけれど、それが相手の打撃となるには時間がかかる。君が思い通りになっていないと思ったら、その時差の間に、君の国が攻撃されるかもしれないね」
ジュエル王子が顔をあげた。
「奴らが手を出せない状態になるまで、計画はうまく行っていると思わせないとではないかな? リディア嬢をワーウィッツに連れて行くんだと見せかけないと……使者は様子を確かめているはずだよ?」
「……第1王子殿下がそうしてくださる理由はなんですか?」
「その使者に用があるんだ。我が婚約者と知り合いかどうかをね」
アダムは怖い顔をしていた。
『リディア、本当にここに泊まるのか?』
「うん。もふもふ軍団に連絡を取れないから、心配させてそうだけど……。使者を突き止められるなら突き止めておきたい」
わたしの敵であり、ユオブリアの敵だろうから。
もふさまが顔をあげる。
「どうかした?」
『探っている気配がある』
「使者かな?」
『そうかもしれない』
ノック音があった。
「僕だ」
『ヤツだ』
もふさまがアダムだというので、ドアを開ける。
「リディア嬢、すぐに上着を着て」
わたしはいつでもすぐに取れるようにソファーの上に置いておいたコートを着込む。これなら中が夜着でも問題ない。
「どうしたの?」
「窺っている気配があったから追っている」
コンという壁を叩く軽い音がした。
「捕らえたようだ」
うぉー、優秀。
応接室で、ジュエル王子は迷惑顔だ。
「こんな時間に呼び出してなんですか?」
護衛に手を縛られた男が連れて来られると、目を大きくする。
「な!」
「この屋敷を窺っていました。リディアさまに何かあってはいけませんからひっ捕らえました」
アダムはまるで自分はわたしの侍従だとでもいうように平伏している。
ジュエル王子は護衛を突き飛ばすようにして、手の縄を解こうとした。
「こちらはフォルガードの使者殿です。手荒なことは困ります」
この人が!
もふさまは匂いを嗅いでいる。犬みたい……。
使者は縄を解かれて、軽く体を解している。
「リディアさまの護衛は仕事熱心ですね。ジュエル殿下やミーア王女に何かあってはと周辺を警護しておりました。そこを怪しまれたようです」
「使者殿と言いますと?」
アダムはジュエル王子殿下に近寄って、なにか囁いた。
「フォルガードの方です」
「フォルガードの方が、どうしてワーウィッツの殿下の警護を?」
「国で話はしたけれど、どうしてここにいるのかはわかりません」
「リディアさまは彼をご存知ですか?」
「いいえ、存じません」
フォルガードには行ったことないし、フォルガードの知人といえば学園に入園したラスレッド王子だけだ。
「貴様、本当にフォルガードの者か?」
アダムが声を大きくして威圧的に尋ねた。
「リディアさまの護衛は無礼ですね。ジュエル殿下のおっしゃるように、私はフォルガードの使者です」
「フォルガード語が母国語の方はユオブリア語になると〝使者〟の発音がおかしいのが普通なのですが、〝使者さま〟は発音が完璧ですね」
アダムは使者を睨みつけて、不敵にニッと笑った。
開いた口が塞がらないとはこのことだ!
わたしはその開いた口をアダムに塞がれた。
廊下の壁に体ごと押しつけられる。
少し先を女の子二人組が通り過ぎた。
アダムは声を潜める。
「ブレドと君の婚約者が調べたんだ、間違いないよ」
「うーうー」
「大声出さない?」
わたしは仕方なくこくこくと頷く。
「使者とメロディー嬢の関係は?」
使者が勝手にメロディー嬢を知っていると一方的に言ってると。王族とは繋がりがないと言っているそうだ。
「使者はフォルガードで間違いないの?」
アダムは目を細くする。
「リディア嬢は……使者を捕まえたい?」
「そりゃそうよ。わたしを女王に仕立てようとしたのよ? 誰の差し金だか知りたいわ」
「使者を誘き出せばいいのに、ブレドも君の婚約者もその案を出さないんだ。君の安全を確保するためにね」
「わたしが囮になればいいの?」
「まあ、簡単にいうとそうだね」
「あんたならできる?」
「え?」
「ロサや兄さまは、わたしを囮になんかできないだろうから」
「いやだなぁ。僕なら心が痛まないってトゲを含んでない?」
「できるなら、あなたかなと思っただけよ。で、どうすればいい?」
「……そんなことをしたら、ブレドや君の婚約者に恨まれる」
「そんなこと言ってる場合? あなたの婚約者もまずい立ち位置にいるのよね? それをどうにかしないとなんじゃないの?」
アダムは強張った顔のまま、口の端だけをあげた。
わたしは父さまから正規のルートで所有権を得た伝達魔法の魔具でアルノルトに連絡を入れる。今日から寮へ帰ると。
父さまはわたしがそのまま魔具が必要になると見越して、すで兄さまに新しい魔具を渡していたのだ。だから兄さまから借りている伝達魔法の魔具はそのままわたしのものになった。
放課後アダムと一緒に、とある屋敷へと向かった。
そこにはワーウィッツの王子と王女が滞在していた。
アダムは制服から品のいい服に着替えていた。第1王子として面会に行くようだ。
最初はミーア王女もいて、わたしに嫌悪感丸出し、そしてアダムには目をハートにさせていたけれど、ジュエル王子に部屋を追い出された。ミーア王女も状況は知っているだろうけど、足を引っ張るタイプなのかもしれない。
「それで第1王子殿下と、リディア嬢がなんのご用でしょう?」
イライラしているし、怯えているようにも見えた。
「第2王子殿下に、リディア嬢と関わらないよう言われているので、困るのですが」
わたしにチラリと目を向ける。
それがイライラの理由のようだ。
そうだね取り引きがなくなったら痛いもんね。
「あなたのためを思ってリディア嬢をお連れしたのですが?」
アダムが切り出す。
「使者だって、その後ろにいる人だって、あなたのすることを一挙一動見守っていると思いますよ。
ブレドたちが行動を起こしているけれど、それが相手の打撃となるには時間がかかる。君が思い通りになっていないと思ったら、その時差の間に、君の国が攻撃されるかもしれないね」
ジュエル王子が顔をあげた。
「奴らが手を出せない状態になるまで、計画はうまく行っていると思わせないとではないかな? リディア嬢をワーウィッツに連れて行くんだと見せかけないと……使者は様子を確かめているはずだよ?」
「……第1王子殿下がそうしてくださる理由はなんですか?」
「その使者に用があるんだ。我が婚約者と知り合いかどうかをね」
アダムは怖い顔をしていた。
『リディア、本当にここに泊まるのか?』
「うん。もふもふ軍団に連絡を取れないから、心配させてそうだけど……。使者を突き止められるなら突き止めておきたい」
わたしの敵であり、ユオブリアの敵だろうから。
もふさまが顔をあげる。
「どうかした?」
『探っている気配がある』
「使者かな?」
『そうかもしれない』
ノック音があった。
「僕だ」
『ヤツだ』
もふさまがアダムだというので、ドアを開ける。
「リディア嬢、すぐに上着を着て」
わたしはいつでもすぐに取れるようにソファーの上に置いておいたコートを着込む。これなら中が夜着でも問題ない。
「どうしたの?」
「窺っている気配があったから追っている」
コンという壁を叩く軽い音がした。
「捕らえたようだ」
うぉー、優秀。
応接室で、ジュエル王子は迷惑顔だ。
「こんな時間に呼び出してなんですか?」
護衛に手を縛られた男が連れて来られると、目を大きくする。
「な!」
「この屋敷を窺っていました。リディアさまに何かあってはいけませんからひっ捕らえました」
アダムはまるで自分はわたしの侍従だとでもいうように平伏している。
ジュエル王子は護衛を突き飛ばすようにして、手の縄を解こうとした。
「こちらはフォルガードの使者殿です。手荒なことは困ります」
この人が!
もふさまは匂いを嗅いでいる。犬みたい……。
使者は縄を解かれて、軽く体を解している。
「リディアさまの護衛は仕事熱心ですね。ジュエル殿下やミーア王女に何かあってはと周辺を警護しておりました。そこを怪しまれたようです」
「使者殿と言いますと?」
アダムはジュエル王子殿下に近寄って、なにか囁いた。
「フォルガードの方です」
「フォルガードの方が、どうしてワーウィッツの殿下の警護を?」
「国で話はしたけれど、どうしてここにいるのかはわかりません」
「リディアさまは彼をご存知ですか?」
「いいえ、存じません」
フォルガードには行ったことないし、フォルガードの知人といえば学園に入園したラスレッド王子だけだ。
「貴様、本当にフォルガードの者か?」
アダムが声を大きくして威圧的に尋ねた。
「リディアさまの護衛は無礼ですね。ジュエル殿下のおっしゃるように、私はフォルガードの使者です」
「フォルガード語が母国語の方はユオブリア語になると〝使者〟の発音がおかしいのが普通なのですが、〝使者さま〟は発音が完璧ですね」
アダムは使者を睨みつけて、不敵にニッと笑った。
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