プラス的 異世界の過ごし方

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13章 いざ尋常に勝負

第529話 狐福⑧秘匿

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 フォルガードが?
 ユオブリアの親善国であるフォルガードが?

「貴様、嘘をつくな!」

「殿下!」

 兄さまが止めに入った。

「嘘じゃない!」

 首に刃を当てられているのに、首元を掴んでいるロサに挑む。ジュエル王子は赤い線の入った首をものともせず、言い募る。

「神聖国が立ち上がれば、エレイブ大陸の時代になる。神聖国を立ち上げるには女王がいるそうだ。その女王の素質を備えているのは、ユオブリアのリディア・シュタインだと。女王をたてたなら、フォルガードがワーウィッツの功績を称え後ろ盾になると言われた。セイン国から宣戦布告を受けている。お前のいう通り、前から他国と手を組んでいたんだろう。女王を立てれば守ってもらえる。国は守られる。だからリディア嬢を女王に立てようと思った」

 そしてキッとロサを睨みつける。

「本当にフォルガードだったのか? 装っていたのではないか?」

「遣いの者だが、印はフォルガードの王家のものだった。魔判定したから確かだ」

 ジュエル王子はそこで冷静さを取り戻した。

「これ以上に疑うなら自国で問いただされたらいかがです? その者を紹介してくれたのはこの国の令嬢ですからね」

 !
 目の前が暗くなる思いだ。それってもしかして……。

 表情を一切削ぎ落とし、ロサが尋ねる。

「それは、メロディー公爵家令嬢か?」

「ご名答」

 !
 メロディー嬢は、他国の紛争になるようなことに手を出したの?
 あれ、でもそうか、メロディー嬢がわたしが女王になれるって言ったってこと?
 いや、違う。そう言ったフォルガードの人と伝があるということだ。
 どこまで、誰が、何を、しようとしているの? こんがらがってくる。

 ロサはジュエル王子の首元を引き寄せる。

「……それはとても残念だ。それで、お前はどうする? 私からの提示は変わらない。洗いざらい話し、リディアとユオブリアに害をなさないというのなら、甘味の取り引き相手となろう。だが、これ以上おかしなことをするというのなら」

 ロサの目が鋭くなる。

「待て。このことにメロディー公爵令嬢が加担しているのだぞ、第一王子の婚約者が」

 焦るジュエル王子。ロサは鼻で笑った。

「お前の国は兄弟の仲がいいのだな。私は第二王子だ。義兄の婚約者が国家に害をなすなら、兄の評判が下がるだけ。私は痛くも痒くもない。逆にありがたいぐらいだ。私の王位継承権がより強固になるのだから」

 嘘だ。ロサはメロディー嬢のことを大切に思っているし、第一王子にも敬意を払っている。……でもワーウィッツの王子殿下に主導権を握られないために、あんな態度をとっているんだ。
 ロサが王になるには、第一王子は蹴落とさないといけないのは確かだから、真実味はあるだろう。

『リディア、どうした?』

「メロディー嬢はやっぱりわたしが気に食わないんだね。その女王としてたてる話はどっちが言い出したのか、何か根拠があったのか、フォルガードの誰なのか、そこらへんが気にかかるけど」

 ジュエル王子は肩を落とした。
 ロサはジュエル王子の胸を押して、転ばせるようにソファーに座らせる。
 ロサは立ったまま、ジュエル王子を見下ろす。
 そこからロサは淡々とジュエル王子と交渉を進めた。

 ロサって王子だったんだなって思う。いや、もちろん知っていたんだけどね。
 この交渉の詰めかたにしてもだけど、さっきの兄さまの剣を取って、あっという間にジュエル王子に剣を向けたのも凄かった。護衛に守られているだけに、守られる人って印象だったけど、ロサ自身も腕はあるってことなんだね。そりゃそうか、今まで危険なこともいっぱいあったみたいだもんな。命を狙われるようなことがあったみたいだから。それは毒だけでは決してないだろう。
 今も、さりげなく、わたしを絶対に引き合いには出させないように言質を取っている。結局、洗いざらい吐かせて、甘味を買い入れることで手助けすると話はついた。それもその甘味、ザラメンっぽい。

 ロサが知っていたのか、アダムの情報なのかはわからないけれど。
 ワーウィッツがわたしを神聖国の女王に立てたいと思っていることと、ユニコーンの角の検査結果の秘密文書を見たこと。そして保護者のいない王都の家に訪れる前触れがあったこと。
 元々諸外国の動きには目を走らせ情報を得てはいるのだろうけど、それだけの情報から、何をしようとしているのか予測して落とし所も考え、こちらが勝つシナリオを作り上げていたんだ。わたしに伝達魔法がきた時から今までの短時間で。
 ふたりとも凄い。今回も助けてもらっちゃった。
 話終えると、王子を帰し、拾えないような小さな声で兄さまと話す。

 何話しているんだろう?
 フリンキーに声を拾えないか聞いてみたけれど、かなりヒソヒソ話らしく、信号を受け取れる末端である床までも届かないような声で話しているらしい。
 うーむ。
 しばらくすると、ふたりは息をつく。


 そしてベルを手に取って鳴らし、アルノルトを呼びだした。
 話し合いが終わったことを、わたしに伝えるよう言っている。
 わたしはもふさまと部屋に戻った。
 アルノルトに着替えられなかったんですねと訝しまれてしまった。
 結果を知ってはいるけれど、気が焦って小走りになる。

「お嬢さま、走ると転びますよ」

 わたしをいくつだと思っているんだ?と思った瞬間、長い絨毯の毛足に足をとられて本当に転びそうになった。

「おっと!」

 うわっ。捕まえてくれたのは応接室から出てきたロサだった。胸に飛び込んで転ばなかったような形になる。

「ご、ごめんなさい、ありがと」

「少しの間、離れていたのが、胸に飛びこんでくるほど寂しかった?」

 な、何を言う!

「っ、ただ転びそうになっただけでしょ?」

 ふわっと浮遊感。兄さまに抱き上げられて移動させられた。

「リディア嬢、詳細はフランツから聞いてくれ。私は確認することができたから、ここで失礼させていただくよ」

 ロサは微笑んで、わたしに背を向けた。

「ロサ!」

 歩き出した背中に呼びかける。

「ん、なんだい?」

「どうもありがとう!」

 ロサは驚いた顔をして、少し頬を染める。

「義兄に頼まれたことだから、気にするな」

「……それでも、ありがとう」

 ロサは笑った。踵を返し、もう前だけをみて玄関から出て行った。
 馬車に乗る時も、振り返ることはなかった。

「リディー、安心していいよ」

「え?」

 兄さまを振り返る。

「ロサが話をつけてくれた。ワーウィッツのことは心配しなくていい」

「……兄さまも、ありがとう」

 変な役をさせてしまった。
 わたしたちは応接室に入った。

「リディーを神聖国の女王にと望んだのは、フォルガードの王室が関係しているかもしれない」

 わたしは何も言わず、次の言葉を待った。

「例の文書を見たと言ったから、そこから攻めて、こちらの条件を全て飲ませた」

 ……メロディー嬢のことは言わないんだ……。
 兄さまが教えてくれたのは、とてもすっきりさせた結末だけだった。
 わたしはもうワーウィッツから狙われないこと。
 言い出しっぺがフォルガードの王室かもしれないこと。
 それだけ。

「どうした? 変な顔して」

「え、うん、別に……」

 聞いていたんだと言いそびれた。

「ロサが、なぜリディーと指定してきたのかを、これから調べてくれる。もう、大丈夫だからね」

 うん、とわたしは頷いた。
 アルノルトがノックの後入ってきて、トレーの上にはおしぼりが置かれていた。
 兄さまはお礼を言って、そのおしぼりを手に取り、広げる。
 ホカホカと湯気が上がっている。

「リディー、顔を拭いてあげる」

 え?
 あったかいタオルで顔を拭われる。
 嘘、やだ、わたしどこか汚かったの?

「汚れてる?」

 うっそぉと思いながら尋ねると

「もう拭いたから大丈夫だよ」

 そう言って、今度は丹念にわたしの手も拭いた。指も一本ずつ丁寧に。
 拭き終わると兄さまは、おしぼりを畳んでテーブルに置く。

「リディー」

 兄さまがわたしの頬に手を添える。

「え、まだ汚れてる?」

「そうじゃなくて……」

 ええ?
 そのまま胸に抱きしめられる。

「に、兄さま?」

 声がくぐもる。
 ……頭のてっぺんにキスされてる?
 ど、どうしちゃったの、兄さま?
 なんだかわからないけど、安心したいんだと言って、しばらくわたしをぬいぐるみのように抱きかかえていた。
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