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13章 いざ尋常に勝負
第526話 狐福⑤ワーウィッツ表の目的
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結局、アダムは詳しいシナリオを教えてくれなかった。
メロディー嬢は第1王子の名代でレアチーズケーキを取りにくるという。
情報の対価をまだ渡してなかったんだよね。具合悪くなっちゃって、それどころじゃなかったから。悪いことをした。
けど、覚えていたところがさすがだ。
それを渡せばいいそうだ。
そして家に帰ると、すでにロサが来ていた。
アルノルトが物言いたげな顔をしていたけれど、兄さまからもそう連絡はあったようだ。
狐牧場の様子を見にいきたいが、そうも言っていられない。
ロサの表情は硬い。
「リディア嬢は兄上と会ったの?」
そう尋ねられる。
「第1王子殿下と?」
頷くので、首を横に振る。
それで、いいんだよね、アダム?
心の中で問いかける。
ロサはふぅーと息をついた。
「兄上から手紙が来たんだ。他国の王族がシュタイン令嬢に迷惑をかけようとしているって。あの国は兄上が何かするんじゃないかと気にしていたみたいで。ちょっと揺すって欲しいって言われたんだ。あ、フランツも了承済みだから」
「わ、わたし、何がなんだかさっぱりなんだけど」
「……私を信じて、私に合わせて欲しい」
え。
実はわたしが頼み込んだことで、ロサは引きずり込まれただけなのに。
ロサ、ごめん。心の中で謝る。
「手紙にも書いたけど、ワーウィッツはあのことを知ってる。その人たちがウチに来ると聞いてどうしようと思っていたの。だからロサが来てくれて心強い。ごめんね、ありがとう」
本音を言うと、ロサは視線を逸らす。
「あ、兄からの頼みだから、気にしないでくれ。それに、あの文書を見たことも気になる。秘密裏に調べさせているから、これからわかってくると思う。あの文書を知り、リディア嬢に何を仕掛けてくるのかが気に掛かる」
ワーウィッツはわたしを女王に仕立てて神聖国を再建するつもりだったみたいだ。それによって何を得たいのだろう?
神聖国のこと、ロサにも言った方がいいかな?
「わぅん」
もふさまが犬のように吠えると、ノックがありアルノルトがやってきた。
「お嬢さま、ワーウィッツのジュエル殿下がお越しです」
お迎えしなくちゃと思うと、ロサに手を引っ張れる。
わたしをソファーに座らせる。そしてロサもその横にぴったりと座った。
「通してくれ」
ロサがアルノルトに告げる。
わたしの手を押さえて、立ち上がるなとロサの無言の圧力。
ええっ。
アルノルトに導かれてやってきたのは、ジュエル殿下と護衛とお付きの侍従。
ロサを見て目を大きくする。
「これはブレド殿下、こちらでお会いするとは夢にも思いませんでした」
「それはこちらのセリフですね。他国の王族が、伯爵家令嬢のリディアになんの用があるのでしょうか?」
呼び捨てにされ、びっくりした。なんかものすごく親しげに聞こえちゃうと思うんだけど。
「座っても?」
あ、やべ。ホストであることを忘れ、完全に雰囲気に飲まれていた。
わたしはどうぞお掛けくださいと、にこやかに案内した。
「確かリディア嬢の婚約者がブレド殿下の友達でしたね。それにしては婚約者を飛び越してふたりが親しげに見えますが……」
笑みを貼り付けて、ロサに尋ねる。
ロサはハハッと笑い声をあげた。
「そんな見ればわかることを、聞かないでくださいよ」
「……相手がいるのに、婚約者候補を募っているのですか?」
あー、妹が婚約者候補なわけだもんね。そりゃムッとくるだろう。
「それに、リディア嬢は婚約者がいるんですよ?」
「……だから、私の友達が婚約者なんですよ」
ん? 今、すごいこと言った? それじゃあまるで、わたしとロサがラブラブで、それを隠すのに事情を知るロサの友達にわたしの婚約者の枠を押し付けたとも取れるんじゃない?
「……まだ幼いのに、大した女性ですね」
「誤解があるね。私が離したくないだけだ。それでジュエルさま、あなたは私のリディアに何用でこちらに参ったのですか?」
わ、わたしのリディア?
や、やめてー。大声で喚き散らしたい。すっごい、いたたまれない!
「毛皮に興味があるようなので、我が国にご招待しようと思ったんですよ。でもそうですか……ブレド殿下とリディア嬢はたいそう親しいわけですね。私は第2王子の秘密を握ったというわけだ……」
え? ちょっと待て、なんでそんな方向に?
「秘密でも、なんでもないが?」
ロサは堂々と言った。
ノックがあり、アルノルトだ。
「お嬢さま、フランツさまが……いらっしゃいました」
「通せ」
ジュエル殿下に尋ねることなく、ロサが兄さまの入室を許可する。
兄さまは入ってくる時、みんなに礼をして、ジュエル殿下にもきちんと挨拶した。
「婚約者殿、ご機嫌よう」
兄さまに言われて、ものすごくびっくりしたが、わたしもご機嫌ようと返した。兄さまは一瞬わたしを見ただけだ。すぐに興味を失ったように視線が移る。どこか冷たい。
「ロサさま、急ぎと聞き参上いたしましたが、いかがなさいました?」
「いつものように君の婚約者と過ごすつもりだったんだが、急な来客があってね」
「ああ、私が一緒だったという事実が必要なわけですね、心得ました」
「いつも、悪いな」
「いえ、いずれ私が領地を賜った時に、返していただければ問題ありません」
「任せておけ」
すっごい茶番だ。
これはロサとわたしはラブラブ。
婚約者のふりしてくれてる兄さまも、その見返りを期待して納得している設定なのね。わたし、ずぶとすぎる!
アダムに詳しいことを聞かないで、よかったかもしれない。
無理。こんな設定を最初から言われていたら、合わせて行動するって無理だからと言ってしまった気がする。他に対策も考えられなかったけど!
またノックがあり。今度はメロディー嬢だ。
ロサはまた入室を許可する。
入ってきたメロディー嬢は目を大きくした。
ロサがさっきからわたしの手を取っているから、それに目を留めた。
「メロディー嬢、よく来たね」
ロサは微笑む。
「よく来た、だなんて、……ロサさま、こちらのお屋敷に馴染まれていますのね?」
そう言ってからジュエル殿下に挨拶をした。
メロディー嬢は第1王子の名代でレアチーズケーキを取りにくるという。
情報の対価をまだ渡してなかったんだよね。具合悪くなっちゃって、それどころじゃなかったから。悪いことをした。
けど、覚えていたところがさすがだ。
それを渡せばいいそうだ。
そして家に帰ると、すでにロサが来ていた。
アルノルトが物言いたげな顔をしていたけれど、兄さまからもそう連絡はあったようだ。
狐牧場の様子を見にいきたいが、そうも言っていられない。
ロサの表情は硬い。
「リディア嬢は兄上と会ったの?」
そう尋ねられる。
「第1王子殿下と?」
頷くので、首を横に振る。
それで、いいんだよね、アダム?
心の中で問いかける。
ロサはふぅーと息をついた。
「兄上から手紙が来たんだ。他国の王族がシュタイン令嬢に迷惑をかけようとしているって。あの国は兄上が何かするんじゃないかと気にしていたみたいで。ちょっと揺すって欲しいって言われたんだ。あ、フランツも了承済みだから」
「わ、わたし、何がなんだかさっぱりなんだけど」
「……私を信じて、私に合わせて欲しい」
え。
実はわたしが頼み込んだことで、ロサは引きずり込まれただけなのに。
ロサ、ごめん。心の中で謝る。
「手紙にも書いたけど、ワーウィッツはあのことを知ってる。その人たちがウチに来ると聞いてどうしようと思っていたの。だからロサが来てくれて心強い。ごめんね、ありがとう」
本音を言うと、ロサは視線を逸らす。
「あ、兄からの頼みだから、気にしないでくれ。それに、あの文書を見たことも気になる。秘密裏に調べさせているから、これからわかってくると思う。あの文書を知り、リディア嬢に何を仕掛けてくるのかが気に掛かる」
ワーウィッツはわたしを女王に仕立てて神聖国を再建するつもりだったみたいだ。それによって何を得たいのだろう?
神聖国のこと、ロサにも言った方がいいかな?
「わぅん」
もふさまが犬のように吠えると、ノックがありアルノルトがやってきた。
「お嬢さま、ワーウィッツのジュエル殿下がお越しです」
お迎えしなくちゃと思うと、ロサに手を引っ張れる。
わたしをソファーに座らせる。そしてロサもその横にぴったりと座った。
「通してくれ」
ロサがアルノルトに告げる。
わたしの手を押さえて、立ち上がるなとロサの無言の圧力。
ええっ。
アルノルトに導かれてやってきたのは、ジュエル殿下と護衛とお付きの侍従。
ロサを見て目を大きくする。
「これはブレド殿下、こちらでお会いするとは夢にも思いませんでした」
「それはこちらのセリフですね。他国の王族が、伯爵家令嬢のリディアになんの用があるのでしょうか?」
呼び捨てにされ、びっくりした。なんかものすごく親しげに聞こえちゃうと思うんだけど。
「座っても?」
あ、やべ。ホストであることを忘れ、完全に雰囲気に飲まれていた。
わたしはどうぞお掛けくださいと、にこやかに案内した。
「確かリディア嬢の婚約者がブレド殿下の友達でしたね。それにしては婚約者を飛び越してふたりが親しげに見えますが……」
笑みを貼り付けて、ロサに尋ねる。
ロサはハハッと笑い声をあげた。
「そんな見ればわかることを、聞かないでくださいよ」
「……相手がいるのに、婚約者候補を募っているのですか?」
あー、妹が婚約者候補なわけだもんね。そりゃムッとくるだろう。
「それに、リディア嬢は婚約者がいるんですよ?」
「……だから、私の友達が婚約者なんですよ」
ん? 今、すごいこと言った? それじゃあまるで、わたしとロサがラブラブで、それを隠すのに事情を知るロサの友達にわたしの婚約者の枠を押し付けたとも取れるんじゃない?
「……まだ幼いのに、大した女性ですね」
「誤解があるね。私が離したくないだけだ。それでジュエルさま、あなたは私のリディアに何用でこちらに参ったのですか?」
わ、わたしのリディア?
や、やめてー。大声で喚き散らしたい。すっごい、いたたまれない!
「毛皮に興味があるようなので、我が国にご招待しようと思ったんですよ。でもそうですか……ブレド殿下とリディア嬢はたいそう親しいわけですね。私は第2王子の秘密を握ったというわけだ……」
え? ちょっと待て、なんでそんな方向に?
「秘密でも、なんでもないが?」
ロサは堂々と言った。
ノックがあり、アルノルトだ。
「お嬢さま、フランツさまが……いらっしゃいました」
「通せ」
ジュエル殿下に尋ねることなく、ロサが兄さまの入室を許可する。
兄さまは入ってくる時、みんなに礼をして、ジュエル殿下にもきちんと挨拶した。
「婚約者殿、ご機嫌よう」
兄さまに言われて、ものすごくびっくりしたが、わたしもご機嫌ようと返した。兄さまは一瞬わたしを見ただけだ。すぐに興味を失ったように視線が移る。どこか冷たい。
「ロサさま、急ぎと聞き参上いたしましたが、いかがなさいました?」
「いつものように君の婚約者と過ごすつもりだったんだが、急な来客があってね」
「ああ、私が一緒だったという事実が必要なわけですね、心得ました」
「いつも、悪いな」
「いえ、いずれ私が領地を賜った時に、返していただければ問題ありません」
「任せておけ」
すっごい茶番だ。
これはロサとわたしはラブラブ。
婚約者のふりしてくれてる兄さまも、その見返りを期待して納得している設定なのね。わたし、ずぶとすぎる!
アダムに詳しいことを聞かないで、よかったかもしれない。
無理。こんな設定を最初から言われていたら、合わせて行動するって無理だからと言ってしまった気がする。他に対策も考えられなかったけど!
またノックがあり。今度はメロディー嬢だ。
ロサはまた入室を許可する。
入ってきたメロディー嬢は目を大きくした。
ロサがさっきからわたしの手を取っているから、それに目を留めた。
「メロディー嬢、よく来たね」
ロサは微笑む。
「よく来た、だなんて、……ロサさま、こちらのお屋敷に馴染まれていますのね?」
そう言ってからジュエル殿下に挨拶をした。
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