プラス的 異世界の過ごし方

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13章 いざ尋常に勝負

第522話 狐福①北にない転移門

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「ただいま~」

「お帰りなさいませ、お嬢さま」

「狐はどう?」

「相変わらず寝ています。でもこちらが見ていない時に食事をとっているようです。お嬢様のご指示通り、お皿が空になったら、またすぐに新しいものと替えて、いつでも食べられるようにしています。先ほどからは肉の塊を入れたようです」

「ありがとう」

 部屋に入れば、狐は狸寝入りしている。
 入れたという肉の塊もなく、お皿は空っぽだ。

「好きなだけいていいし、話したくなったら話せばいい。でも家のルールは守ってね。メイドのデルと執事見習いのヘリは先生のことただの狐だと思ってる。だから人になって驚かせたりしないでね」

 かわいくない、無反応だ。

 ホリーさんやウッドのおじいさま、エリン、ノエル、その他お手紙を送った人たちから返信がくる。
 よしよし。
 ウッドのおじいさまからオッケーは出たし、いきなり動いてくれているみたいだ。さすが、商団を成功させているだけあって決断も行動も早いし、概略だけしか書かなかったのに、全てお見通しだ。契約書もホリーさんと相談して用意してくれるようだ。
 わたしの方も、もふもふ軍団が頑張ってくれたおかげで、かなりの量の用意はできている。この事業が展開しても、すぐに素材を渡すことができる。ここから対外国はホリーさんに窓口となってもらうから、また仕事を増やしてしまうな。


 学園の宿題を終わらせ、聖水風呂に入ることにする。
 狐は入れるまではすっごい暴れたけれど、湯に浸かると借りてきた猫のように静かになった。気持ちいいみたい。
 その後、もふさまとお風呂に入る。
 聖水風呂は細胞が若返る気がする。
 部屋に戻ってみんなを温かい風で乾かして、ブラッシングタイム。
 狐はわりと大きいのでやりがいがある。
 これも最初は嫌がったけど、強制的にやりましたよ。
 まだ毛並みは戻らないけど、昨日とは雲泥の差だ。

 きれいになったところで、母さまの持ってきてくれたご飯をいただく。
 おかゆにお肉と野菜のおかずがついた。
 狐は誘ったけど、フイと視線を外したので、また部屋の中にご飯を用意した。
 アルノルトに伝達魔法の魔具をわたし自身が欲しいと思っていると伝えておいたので、父さまから返事がきた。
 わたしに今まで伝達魔法の魔具を渡さなかったのは、わたしが持っていたら、好き勝手に使いすぎると思ったからだと。だから、借りるというワンクッション置くことで連絡をすることの吟味にもなるし、わたしが誰かと連絡を取ることを誰かが知っていることにもなるからだと。
 でも裁判までわたしに伝達魔法の魔具が必要なのも確か。
 それで父さまはわたしに質問をした。
 ウッドおじいさまからの宿題、あれの答えは見つけたか?と。
 その答えを見つけたら、魔具を用意すると。

 ウッドおじいさまの宿題といえばすっかり忘れていたけれど、北方面にどうして転移門が設置されていないか、だ。
 ご飯をいただきながら考えていたけれど、なかなか思い浮かばない。
 部屋に戻ってからも、うんうん唸っていた。

「なんで唸るでち?」

「考えを捻り出そうとしているんだけど、出ないのよ」

『リディアは悩むのが好きだな』

「違う。父さまから伝達魔法の魔具を手にする条件で宿題をもらったの!」

『宿題?』

「うん、元々ウッドのおじいさまから考えてみろって言われたんだけど。転移門がなぜ北に作られないのかを」

 わたしは東にも西にも南にも転移門があることを話した。
 それを使うと、さらにその先へ行くのにショートカットができる。

「北にだけないんでちか?」

「そうなの。北が栄えてない、つまり需要がないから今までなかったのかと思ったんだけど、別に理由があったみたいなの」

「授業をサボったりするから、そんなこともわからないんだ」

 え、先生?
 みんな揃って狐を見る。

『なんだ、お前はどうしてかわかるのか?』

 レオが聞くと、狐は首を毛布に置いて、また目を閉じる。
 それ以上話す気はないみたいだ。

『……もし北に転移門があったらどうなるのか、それを考えてみたらどうだ?』

 もふさまに言われる。
 北に転移門があったら?
 王都からシュタイン領まで12日ぐらいかかる距離。ユオブリアの北の端はおじいさまとシヴァが守る辺境だ。シュタイン領から辺境までは5日ぐらいの距離。
モロールより西よりの北側は海と森と山。東よりの北側は、辺境へと続く道以外はほぼ山脈だ。

『王都から北に転移門を作るとしたら、どこらへんに作るのでしょうね?』

「スクワランあたりじゃないかな。そこから東西へと道が分かれるから」

『西方面に進むと?』

「海だよ。ゲルンとかケリーナとかあっちの方」

 ケリーナのさらに北はやっぱり山脈が連なっている。

『東方面は?』

「モロール、シュタイン、イダボアがある。後ろ、つまり北側は山脈。あとは辺境に続く道があるだけ」

『我はわかったぞ』

 え?

『私もわかった!』

 もふさまに続き、レオが嬉しそうに言った。

『わたくしも、わかった気がします』

『えー、わからない! 師匠、教えて!』

『師匠、教えて!』

『ダメですよ、自分で考えないと』

『アオは?』

「辺境は他国から国を守っているんでちよね?」

「うん、そうだよ」

 国境を守って……。あ。そっか。それか。
 国境を攻めこまれた場合、敵に王都へのショートカットを使われたら困るからか? ……と思ったけど疑問も残る。
 でもじゃあなんで北だけ? 他にも国境はあるし、海からだって攻め込まれる可能性はある。攻め込み、すぐに転移門があったら、簡単に王都へ行けてしまう。王都を落とすということは、国が落とされるということだ。

『わかったか?』

「わかったと思ったけど、やっぱり違うか。あー、わからない」

 馬鹿にしたように狐が笑った。

『おい、バカ狐、お前態度悪いぞ』

 レオがまともなことを言う。

『そうですよ。リディアに食べ物と寝床を与えてもらっているというのに。シュシュ族というのはずいぶん礼儀のなってない、恩を知らない種族ですね』

 ベアが憤慨したように言った。

「シュシュ族は礼儀も恩義も弁えているまともな種族だ! そっちが先に嘘をついたんじゃないか。それで私たちは……」

「嘘ついたってなんでち?」

「記録を見たそうだ。お前、生娘じゃないか!」

「12歳で、なんでそのことに憤慨されなきゃいけないのよ?」

「嘘をついたからだ」

「嘘はついてないよ。わたし、一度だって〝致した〟なんて言ってないもの」

 狐の目からブワッと涙が流れる。

「嘘だ! お前は私に……」

「先生の思っている通りですって言っただけよ」

 ガーンという顔をしている。そしてシクシク泣き続ける。
 そうなってくると、こちらも少し良心が痛む。
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