プラス的 異世界の過ごし方

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13章 いざ尋常に勝負

第520話 木を隠すなら森の中

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 夜になると、父さま、母さま、エリンとノエルが来てくれた。
 スープがおかゆへとグレードアップだ。アルノルトが連絡してくれたみたい。
 みんなにギュッと抱きしめられる。
 もふもふ軍団も飛び跳ねて喜んでくれた。

 久々に穏やかな気持ちでベッドに入った。
 みんな定位置について、あとは眠るだけ。
 目を閉じて、今日あったことを振り返る。
 わたしなんて自分のことで精一杯なのに、ロサは辻褄合わせも考えてくれたんだ。すっかり忘れていたから後で困ったことになったかもしれない。
 こういうのが器の違いっていうのかな。
 一国の王子で、背負っているものも段違いなのに、それでもわたしのことまで気にしてくれたなんて……。
 アイリス嬢がロサに相談できたのはよかったと思う。
 ロサの心配事を増やしてしまったけど。
 でも、ユオブリアの危機を免れられたら、世界の未来も変わっていくのだから。
 
 わたあめを食べ終え片付けをしながら、赤い魔石の出来事の顛末をロサに聞いていた。いろいろ中途半端に話が流れてしまったからね。
 普段だったらわたしがいの一番に、どういうことと聞くだろうに全く尋ねないから、やっぱり本調子じゃないと思われたようだ。
 本当のところは、どこまでがわたしが知っていておかしくないか、境界線が曖昧だからだった。
 不思議なことに捕まった劇団のオーナーも用心棒たちもホーキンスさんのスキルのことは告げてないみたいだ。それこそ声を高らかにして言うかと思ったけど。
 みんな少女のことはよく知らないのだと言った。赤い魔石を見られてしまったから、口封じするつもりだった。
 ホーキンスさんは、とにかく巻き込んでしまった赤毛の女の子を助けることしか頭になかったという。
 オーナーは、ホーキンスさんを害して、赤い魔石の運び屋をやっていた罪を被せるつもりだったといい、用心棒たちはオーナーに雇われて、いう通りにしていただけ。ホーキンスさんに全ての罪を被せるつもりだったという。
 意味が通らないところがあるにはあるが、用心棒もオーナーも役者も口を揃えていることから、追い詰められた者たちの心理だからかと着地したっぽい。
 ロサがある程度のことをアラ兄とロビ兄に話したので、これで赤い魔石の知りえた事実を家族にも話せるね。

 あ、大事なこと忘れてた。
 ノエルから後で読んでと手紙をもらっていたのだ。
 起き上がると、もふさまから声をかけられる。

『どうした?』

「ノエルから手紙もらったの忘れてた」

 カーテンの隙間から漏れる月明かりを頼りに、スリッパを履いてそろそろと机の方へ歩き出す。引き出しを開ける。
 アオが部屋の明かりをつけてくれた。

「ありがと」

 封筒を開けると便箋ではなく、何かを包んでいたような裏紙が折り畳まれていて。開いてみれば、あれ、ノエルの字じゃない。
 ビリーからだった。
 一応、知らせておく。そんな前文で始まった手紙を読み終えた時、わたしの手は微かに震えていた。

『どうしたリディア?』

「ふ、震えてるでち」

『リー』

『リー』

「ペリーが7年前のことを探っている」

『7年前?』

「わたしたちが領地に行ってすぐのこと。ビリーには聞かなかったけど、他の子にどんなふうに仲良くなったか聞いて、狩りの勝負したって話をしたみたいなんだけど、ひとりが大人たちの様子を報告して欲しいって言われてって話したみたい。呪いのことまで言ってないけど、後から秘密のことだった、口を滑らせたと思って、ビリーに相談したみたい。わたしたちが命令するようなそういうことがあったんだって?って、また聞きまわっているみたい」

 ……ペリーの後ろにいる、ウチを潰そうとしているペネロペ商会に、『呪い』のことが知れたら……。
 呪った人サイドは悪事がバレるわけだから言いふらしたりしないだろうけど、その情報を知った人なら……。誰が呪われたとか、何が起きたとか、呪いをどうやって解いたとか、思いを馳せるかもしれない。

『呪い、ですか?』

 ベアが首を傾げる。
 アオとレオにも簡単な概略で詳細は話してないんだけど、アオが知っている母さまが呪われ、それをもふさまとわたしと母さまとで跳ね返した話をみんなにする。

『お前たちがグレーン農場に行っている間に、それ以外にもわかったことがある』

 もふさまがわたしを見るから、わたしも頷いた。

『呪術師の呪いは呪術師が適切な解除をしないと完璧にできるものではなく、光魔法での浄化だと光の使い手に呪いが残るそうだ。ゆえに、リディアの中にはその時の呪いの残滓が巣食っていることがわかった』

 ベアが息を飲んだ。

『それで腑に落ちました。瘴気が少ない者が瘴気に当てられやすいのは当たり前ですが、元々少ないのに、瘴気が寄ってくるようなところは不思議に思っていたのです。リディアは運がいいし、主人さまやラッキーバードなど悪いものを寄せつけない守りがあるはずなのに。リディアの中に残滓があり、それに瘴気が群がろうとしているのですね』

 なんか、怖い発言をされた。

『なんだ、それは? 主人さまやアオが近くにいないと、リディアにはますます瘴気が押し寄せるということか?』

 レオがベアに詰め寄った。

『あり得るのではないでしょうかね?』

 ベアはチラリともふさまを見ている。

「リディア、怖いでちか? おいら一緒にいるでち。悪いもの近寄らせないでち」

「ありがとう。でもこの震えは怖いからじゃない。わたし怒りでどうにかなりそうなの!」

「怒り、でちか?」

「そうよ。ウチのこと嗅ぎ回って」

 今までのことは、ペネロペ商会がしたことだと思えたけど、幼なじみ特権を利用して嗅ぎ回るのはペリーだけができること。ペリーは完全にアウトだ。
 わたしはそれが悔しい。ペリーは敵だと完全にみなさないといけない。

 呪いのことは隠したい。芋づる式にわかってしまうことが山ほどあるから。
 でもそこが弱点だとわかれば、そこを攻められるのはわかりきっている。

「呪いのことに感づかれたくない。嗅ぎ回って欲しくない。みんなならどうする?」

『そんなの簡単さ』

 さすがもふもふ軍団! 簡単なんだ。
 レオだけじゃない、みんな頷きあっている。

『完膚なきまでに叩きのめすんだ』

『起きあがれないぐらいにね』

『そしたら企めないよ』

『やるときは徹底的に、ですね』

「リディア、我慢しないで怒っていいでちよ」

『準備はしてきたのだろう?』

 もふさまはお見通しだ。

「……ぬいぐるみの中身に危険物を使っていると訴えられた。裁判をしても、取り下げても、ぬいぐるみが危険なものってイメージは残っちゃう。ペネロペはそのイメージが広がったタイミングで新しいぬいぐるみもどきを、安全なものとして売り出す気だったんだと思う。
 裁判してもいいことないから、裁判にならないぐらい向こうの言いがかりだったんだって、裁判に持ち込めなければそれが証明になる思ったんだけど、気が変わった。なかなかいい案だから、逆に利用させてもらおう」

「逆に利用でちか?」

 アオが首を傾げる。

「うん、派手に裁判をして、なぜ危険物だと思ったかそこらへんを自白させて、裁判でぬいぐるみを大々的に宣伝するの」

『宣伝?』

「そう。そして世界中で発売よ!」

『リー、悪い顔してる!』

『楽しそう!』

「領地から、ペリーも含めてペネロペを排除する。
 そうね、木を隠すなら森の中。食いつきそうな弱点かと匂わせる話を撒いておこう」

 もふさまが不意に外を気にした。

「もふさま、どうしたの?」

『狐が来たぞ』

「狐って、バカ狐?」

『ああ』

 もふもふ軍団が窓に張り付く。

『ほんとだ。でも様子が変だぞ』

「丸くなったでち」

『動かない』

『動かない』

 え?

『リディア、ガウンを着ろ』

 あ。もふさまに言われて、引き返してガウンを着込む。
 わたしが部屋を出て階段を降りると、みんなついてきた。
 玄関の鍵をあける。

「お嬢さま、何事ですか?」

 アルノルトもガウン姿だ。寝るところだったんだろう。

「アルノルト、外に狐が」

「狐?」

 アルノルトを引き連れて玄関を出る。階段を下りれば、そこに狐が丸くなっていた。
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