プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
511 / 885
12章 人間模様、恋模様

第511話 攻撃⑦種まき

しおりを挟む
「「メロディーさま」」

 ふたりは弾んだ声で、やってきた人を呼んだ。
 けしかけたのはやっぱりメロディー嬢?
 グルだとしたら、メロディー嬢はロジールナ令嬢が行方不明だということは、ふたりには伝えてないのね。
 真っ直ぐに見つめると、メロディ嬢は少したじろぐ。

「殿下のお茶会で揉め事は困りますわ、なにがありましたの? またリディアさまですの?」

 ……そうきたか。わたしが問題児だと印象づけたいみたいだ。

「シュタイン嬢が私にお酒をかけたのです!」

 は?

「家名を言いなさい」

 鋭く言えば、ふたりが、バッと顔を上げる。

「家名に誓って、わたしがお酒をかけたというなら受けてたちましょう。後悔しないようになさってください」

「リディアさま、ことを大きくすることはありませんでしょう?」

 わたしの本気度を感じ取ったのか、宥めるようにメロディー嬢が言う。

「大きくするつもりはありませんわ。そちらの令嬢はわたしのことをご存知のようですが、わたしは存じ上げません。ですから家名を尋ねました。それのどこがことを大きくすることになるのです?」

「リディアさまの気に障ったのなら、私が謝りますから、おさめていただけませんか? 今日はロサ殿下の大事なお茶会です。何かあってはなりません」

「未来の義弟おとうとを、大事にされてますのね」

 すっごい睨まれたので、自覚はあるみたいだ。

「なにが言いたいんですの?」

「おかしなことを言うのを、やめていただきたいだけですわ。わたしはことを荒立てる気はありません。正当な要求しかいたしません。よりによってロサ殿下のお茶会で、嘘をつかれて、シュタイン家を貶められるなんて、許せませんわ」

 メロディー嬢はハッと思いついた顔になる。

「嘘をついたのなら、すぐに謝るべきですわ」

 ふたりにメロディー嬢が諭したので、え?と言う顔でメロディー嬢を見返している。

「嘘をついたなんて、なにをおっしゃっているのか……」

「シュタイン嬢の言い逃れですわ。こちらは証人がおりますのよ。私のドレスだって濡れてます」

 黄色のドレスはニヤリと笑ってわたしを見た。

「でしたら、家名を」

 メロディー嬢は止めたけど2人は名前を言った。そして、わたしが令嬢のドレスを汚したのだから謝れと言う。
 わたしは正式に家から抗議することを伝えた。はぁ?と逆上したので、ネックレスを触ってみせる。全て録画してありますからと。モスグリーンの方の伯爵令嬢は録画の魔具の存在を知ってたようだが、黄色の方は録画の概念がないんだろう。何を言ってるの?とキャンキャン吠えてる。

 黙り込んだメロディー嬢に告げる。

「この方たち、おかしなことを言うのです。ロジールナ令嬢が修道院へ行ったと。ロジールナ令嬢は……」

「リディアさま、私がふたりとお話しますわ。謝罪もさせます。ですから、どうか騒ぎにしないでください」

 メロディー嬢はとりなすように、わたしに媚びる。
 確かにお茶会の小さなひとつの出来事も、アラを探している人がとんでもないスキャンダルにしてくることがある。わたしもロサにそんな思いをさせたいわけではない。けれど、それはそれで、これはこれだ。正式に訴えることにして、この場はおさめると伝えた。
 ふたりはメロディー嬢に、どうしてわたしを糾弾しないのだと意味あいを含ませたことを言ったけど、メロディー嬢はふたりを黙らせた。

 ああ、もう帰りたい。でも第一の目的のロサにあの時のことを話していないし、このお茶会でやることがある。

 

 あてもなく歩き出すと、声をかけられる。

「私の助けは必要なかったようだね?」

 兄さまだ。クスッと笑っている。

「兄さま、見てたの?」

「途中からね。姫君を救い出す騎士のように、カッコよく登場しようと思ったのに、その隙もなかったよ」

 手を翻して、茶目っけたっぷりに言う。

「……言われっぱなしで、泣き出すような子が、兄さまのお好み?」

 兄さまは首を横に振った。
 よかった。その演技は我慢強さが必要だ。

「私の好みはリディーそのままだから」

 兄さまはウインクした。どこでそんなことを覚えてくるのやら。

「さ、リディー、外国の方と商会のことで話すんだよね? 付き合うよ」

 わたしの視線で気づいたのか先回りされる。

「口を出したりしないよ。リディーがやりやすいように、案内するだけだ」

 まぁ、今日は種まきだから、兄さまに聞かれてもいっか。
 わたしは差し出してくれた兄さまの手に手を乗せる。
 兄さまはその手を自分の腕に絡ませる。
 今日のもうひとつの目的だ。
 戦闘開始。わたしは兄さまのエスコートを受けながら、笑顔を貼りつけた。



 わたしは国、名前、顔が一致していないけれど、兄さまがアナウンスしてくれるので、サッサと種をまくことができた。
 ペネロペ商会と縁がある家門に、果敢にアタックだ。ユオブリアの王子のお茶会、ウロウロしている人たちが身分の高い方たちばかり。そこから情報を得て、こちらからも少し撒いておく。
 ワーウィッツ王国と、その他2、3の人は、なんとなくフィーリングで辞めておいた。接触しない方がいいと思ったから。


 一通り終えると、兄さまはわたしを椅子に座らせて、お菓子とジュースを持ってきてくれた。
 お酒入りの菓子だった。ちょっとしか入ってないとは思うけど……。
 でも、兄さまが選んで持ってきてくれたので、お酒入りだからやめとくとは言えなくて、あむりといただく。
 ほんのりきかせたぐらいだった。お酒に強くないみたいなので、ちょっとでよかったとほっとした。
 周りを見渡すと、フォルガードのラストレッド王子とアイリス嬢が話し込んでいた。軽く笑い合っていい雰囲気だった。もちろんそれぞれに取り巻きがいて、一対一ではなかったけれど。


 ダニエルとブライがやってきた。

「フランツ、少し手伝って欲しいんだが……」

 ダニエルに言われた兄さまは、そっとわたしを見た。

「俺が一緒にいるよ」

 ブライがそう請け負うと、兄さまはわたしにいいかを確かめた。
 わたしはもちろん頷いて、ダニエルと兄さまが歩き出した。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

次は幸せな結婚が出来るかな?

キルア犬
ファンタジー
バレンド王国の第2王女に転生していた相川絵美は5歳の時に毒を盛られ、死にかけたことで前世を思い出した。 だが、、今度は良い男をついでに魔法の世界だから魔法もと考えたのだが、、、解放の日に鑑定した結果は使い勝手が良くない威力だった。

処理中です...