プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
511 / 799
12章 人間模様、恋模様

第511話 攻撃⑦種まき

しおりを挟む
「「メロディーさま」」

 ふたりは弾んだ声で、やってきた人を呼んだ。
 けしかけたのはやっぱりメロディー嬢?
 グルだとしたら、メロディー嬢はロジールナ令嬢が行方不明だということは、ふたりには伝えてないのね。
 真っ直ぐに見つめると、メロディ嬢は少したじろぐ。

「殿下のお茶会で揉め事は困りますわ、なにがありましたの? またリディアさまですの?」

 ……そうきたか。わたしが問題児だと印象づけたいみたいだ。

「シュタイン嬢が私にお酒をかけたのです!」

 は?

「家名を言いなさい」

 鋭く言えば、ふたりが、バッと顔を上げる。

「家名に誓って、わたしがお酒をかけたというなら受けてたちましょう。後悔しないようになさってください」

「リディアさま、ことを大きくすることはありませんでしょう?」

 わたしの本気度を感じ取ったのか、宥めるようにメロディー嬢が言う。

「大きくするつもりはありませんわ。そちらの令嬢はわたしのことをご存知のようですが、わたしは存じ上げません。ですから家名を尋ねました。それのどこがことを大きくすることになるのです?」

「リディアさまの気に障ったのなら、私が謝りますから、おさめていただけませんか? 今日はロサ殿下の大事なお茶会です。何かあってはなりません」

「未来の義弟おとうとを、大事にされてますのね」

 すっごい睨まれたので、自覚はあるみたいだ。

「なにが言いたいんですの?」

「おかしなことを言うのを、やめていただきたいだけですわ。わたしはことを荒立てる気はありません。正当な要求しかいたしません。よりによってロサ殿下のお茶会で、嘘をつかれて、シュタイン家を貶められるなんて、許せませんわ」

 メロディー嬢はハッと思いついた顔になる。

「嘘をついたのなら、すぐに謝るべきですわ」

 ふたりにメロディー嬢が諭したので、え?と言う顔でメロディー嬢を見返している。

「嘘をついたなんて、なにをおっしゃっているのか……」

「シュタイン嬢の言い逃れですわ。こちらは証人がおりますのよ。私のドレスだって濡れてます」

 黄色のドレスはニヤリと笑ってわたしを見た。

「でしたら、家名を」

 メロディー嬢は止めたけど2人は名前を言った。そして、わたしが令嬢のドレスを汚したのだから謝れと言う。
 わたしは正式に家から抗議することを伝えた。はぁ?と逆上したので、ネックレスを触ってみせる。全て録画してありますからと。モスグリーンの方の伯爵令嬢は録画の魔具の存在を知ってたようだが、黄色の方は録画の概念がないんだろう。何を言ってるの?とキャンキャン吠えてる。

 黙り込んだメロディー嬢に告げる。

「この方たち、おかしなことを言うのです。ロジールナ令嬢が修道院へ行ったと。ロジールナ令嬢は……」

「リディアさま、私がふたりとお話しますわ。謝罪もさせます。ですから、どうか騒ぎにしないでください」

 メロディー嬢はとりなすように、わたしに媚びる。
 確かにお茶会の小さなひとつの出来事も、アラを探している人がとんでもないスキャンダルにしてくることがある。わたしもロサにそんな思いをさせたいわけではない。けれど、それはそれで、これはこれだ。正式に訴えることにして、この場はおさめると伝えた。
 ふたりはメロディー嬢に、どうしてわたしを糾弾しないのだと意味あいを含ませたことを言ったけど、メロディー嬢はふたりを黙らせた。

 ああ、もう帰りたい。でも第一の目的のロサにあの時のことを話していないし、このお茶会でやることがある。

 

 あてもなく歩き出すと、声をかけられる。

「私の助けは必要なかったようだね?」

 兄さまだ。クスッと笑っている。

「兄さま、見てたの?」

「途中からね。姫君を救い出す騎士のように、カッコよく登場しようと思ったのに、その隙もなかったよ」

 手を翻して、茶目っけたっぷりに言う。

「……言われっぱなしで、泣き出すような子が、兄さまのお好み?」

 兄さまは首を横に振った。
 よかった。その演技は我慢強さが必要だ。

「私の好みはリディーそのままだから」

 兄さまはウインクした。どこでそんなことを覚えてくるのやら。

「さ、リディー、外国の方と商会のことで話すんだよね? 付き合うよ」

 わたしの視線で気づいたのか先回りされる。

「口を出したりしないよ。リディーがやりやすいように、案内するだけだ」

 まぁ、今日は種まきだから、兄さまに聞かれてもいっか。
 わたしは差し出してくれた兄さまの手に手を乗せる。
 兄さまはその手を自分の腕に絡ませる。
 今日のもうひとつの目的だ。
 戦闘開始。わたしは兄さまのエスコートを受けながら、笑顔を貼りつけた。



 わたしは国、名前、顔が一致していないけれど、兄さまがアナウンスしてくれるので、サッサと種をまくことができた。
 ペネロペ商会と縁がある家門に、果敢にアタックだ。ユオブリアの王子のお茶会、ウロウロしている人たちが身分の高い方たちばかり。そこから情報を得て、こちらからも少し撒いておく。
 ワーウィッツ王国と、その他2、3の人は、なんとなくフィーリングで辞めておいた。接触しない方がいいと思ったから。


 一通り終えると、兄さまはわたしを椅子に座らせて、お菓子とジュースを持ってきてくれた。
 お酒入りの菓子だった。ちょっとしか入ってないとは思うけど……。
 でも、兄さまが選んで持ってきてくれたので、お酒入りだからやめとくとは言えなくて、あむりといただく。
 ほんのりきかせたぐらいだった。お酒に強くないみたいなので、ちょっとでよかったとほっとした。
 周りを見渡すと、フォルガードのラストレッド王子とアイリス嬢が話し込んでいた。軽く笑い合っていい雰囲気だった。もちろんそれぞれに取り巻きがいて、一対一ではなかったけれど。


 ダニエルとブライがやってきた。

「フランツ、少し手伝って欲しいんだが……」

 ダニエルに言われた兄さまは、そっとわたしを見た。

「俺が一緒にいるよ」

 ブライがそう請け負うと、兄さまはわたしにいいかを確かめた。
 わたしはもちろん頷いて、ダニエルと兄さまが歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結・短編】婚約破棄された悪役令嬢は、隣国でもふもふの息子と旦那様を手に入れる

未知香
恋愛
 フィリーナは、婚約者の護衛に突き飛ばされここが前世の乙女ゲームの世界であることに気が付いた。  ……そして、今まさに断罪されている悪役令嬢だった。  婚約者は憎しみを込めた目でフィリーナを見て、婚約破棄を告げた。  ヒロインであろう彼女は、おびえるように婚約者の腕に顔をくっつけて、勝ち誇ったように唇をゆがめた。  ……ああ、はめられた。  断罪された悪役令嬢が、婚約破棄され嫁がされた獣人の国で、可愛い息子に気に入られ、素敵な旦那様と家族みなで幸せになる話です。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

処理中です...