プラス的 異世界の過ごし方

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12章 人間模様、恋模様

第509話 攻撃⑤奇遇ですね

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 すっごい華やかなドレス。今までの表に出ないように、息をするのさえひっそりとしていたかのような彼女はどこにいったのだろう。
 その豹変ぶりに驚く。誰よりも一番目立つドレスなんじゃない?
 ほっそいからだろう、宝石とレースとお花がゴテゴテ混在しているのに、色とりどりなのに、それでもすっきり見えて色も喧嘩していない。豪華でありながら上品に見える。
 お化粧は華奢で守ってあげたくなるようなところを、強調しているのはさすがだ。

「ヤーガンさま、いつ見てもお美しいですわ。ブルーがとてもお似合いですわね」

「恐れ入ります」

「セローリアさま、愛らしいこと。流行の最先端のドレスですわね」

「恐れ入ります」

「リディアさまも、とてもかわいらしくお支度されましたね。気合が入っていらっしゃいますのね、婚約者がいらっしゃるのに」

 隣のヤーガンさまとセローリア嬢がピクッとした。顔を上げるまではしなかったけど。

「ええ。婚約者に愛想をつかされないよう、努めてみましたの」

 ふたりは今度は顔を上げて、わたしの方をそっと見た。

「リディアさまは、面白い方」

 お前の方が面白いだろ。心の中で毒づいた。

「あ、みなさま、ご紹介しますわ。こちら、ワーウィッツ王国のミーア姫ですわ」

 前から仲がよかったのかなと思える雰囲気だ。
 メロディー嬢はわたしたち3人を王女さまに紹介した。
 フォルガード語だった。

 ミーア姫さまは、金髪の豊かな巻き毛に青い瞳。わたしよりは絶対上で、ヤーガンさまより下ってところだろう。スレンダーで背が高い。淡い黄緑色のドレス。襟のところにホワホワの毛皮がついている。ところ狭しとつけられた飾りがもったいない。シンプルなものを身につける方が、この人の美しさが光るだろうに。

「あなたの歌、素晴らしいと聞きました。ぜひ、聞いてみたいです」

 ヤーガンさまの歌声を褒め、セローリアの家系の勤勉さを尊んだ。

「シュタイン嬢ですね、お噂はかねがね」

 そうユオブリア語で話し、その後にめちゃくちゃ早口なフォルガード語で言った。

「婚約者がいるのに殿下に色目を使っている伯爵令嬢ふぜいが。私はそういう女性を軽蔑しているの」

 そう言ってにっこり笑って、わたしに手を差し出した。
 だからわたしも笑って手を差し出した。

「奇遇ですね。わたしも大して調べず、人の言うことをただ鵜呑みにする方を軽蔑しておりますの」

 フォルガード語で早口に捲し立てる。

「な、なんですって?」



「私のお茶会で何か不手際があったでしょうか? ワーウィッツ王女さま」

 ロサだ。
 みんなが一斉に礼を取った。
 ミーア王女が、口をギュッと結ぶ。

「ロサさま、申し訳ありません。私が至らないばっかりに。何か勘違いをさせて、リディアさまを怒らせてしまったみたいで」

 ロサとわたしを交互に恐々と見て、すかさずメロディー嬢が詫びを入れる。
 カチンときた。

「あら、メロディーさま誤解ですわ。わたしは奇遇だと話をしていましたのに」

「……そうですね、シュタイン嬢は確かに、奇遇だとワーウィッツ王女さまにお話しされてましたわ」

 氷の笑顔でヤーガンさまが後押ししてくれた。

「はい、確かに」

 とセローリア嬢も頷く。
 一瞬メロディー嬢の表情がなくなる。

 わたしたちは嘘は言ってない。わたしは本当に奇遇だと言ったのだから。お互い軽蔑しているところが奇遇で気が合いますねと。

「ええ、確かにシュタイン嬢は奇遇だとおっしゃいましたわ、殿下」

 ミーア王女さまは体制を整え直した。
 ここはユオブリア。ロサ殿下の婚約者候補を決めるお茶会だ。そうなりたい人にとって、ロサ殿下に悪い印象を持たれたら元も子もない。ロサのお茶会で騒ぎを起こすのは得策ではないものね。

 嘘は言ってないといえど、ヤーガンさまとセローリア嬢がわたしの肩を持つような発言をしてくれたのは意外だった。だって明らかにメロディー嬢は、わたしが勘違いしたと話を持っていきたいみたいだったからね。
 外国の王女を非難するわけにいかないのもわかるけど、それを被って平気でいられるほど、わたしは大人ではない。
 あんなピンポイントの悪口を言われて、どう勘違いしろというのか、メロディー嬢のそこが不思議だ。

「そうですか、それなら、良かった。彼女は私の〝友〟の婚約者なので、仲良くしてくれると嬉しい」

 メロディー嬢が顔色を変えた。

「殿下、お優しいのもいきすぎてはいけませんわ。王子が臣下を〝友〟となど表現したら、混乱が起こります」

 会場がロサの話を聞こうと耳を澄ませているのだろう。シーンとしている。

「臣下を得るのは陛下だよ、メロディー公爵令嬢?」

 ロサは余裕綽綽な顔でクスッと笑った。
 この場で第一王子の婚約者が第二王子が臣下を得ると、確信しているような発言はおかしいからフォローしたのだろう。
 メロディー嬢の顔に赤みがさす。

 メロディー嬢が大人しくなったところで、ひとりの青年が進み出た。
 兄さまぐらいに背が高い。短い金髪に青い目。どことなくミーア王女と似ている。

「シュタイン嬢、妹が失礼をしていなければいいのですが。
 私はジュエル・ニカ・ワーウィッツです」

 カーテシーでご挨拶。
 でもそれより、彼が片側の肩から垂らしている、狐の尻尾のような毛皮に目が釘付けだ。不躾な視線に気づいたようだ。

「お目に留まりましたか? これはフォックスの襟巻きです。見事でしょう? ご興味があるようでしたら、妹が迷惑をかけたお詫びに贈らせていただきますよ」

「いえ、とんでもない。すみません、あまりに素晴らしい毛並みに目がいってしまったのですわ、失礼しました」

 だって、馬鹿狐の色合いにそっくりなんだもの。思わず場を忘れてガン見しちゃったよ。
 その他の王族との挨拶合戦が始まる。
 国も名前も覚えられる気がしないよ。
 だからかフォルガードの王子、ラストレッド殿下をみるとホッとしてしまった。

「さて、私は令嬢たちと話してくるが、菓子をいろいろと用意したから、楽しんでくれ。リディア嬢、フランツに菓子を取り分けてもらうといい」

 と特別にお言葉をもらう。
 自分で取れるわよと普段ならいうところだけど、声をかけてもらいありがたき幸せとばかりに礼をするしかなかった。

 ワーウィッツのご兄妹は、少しばかり離れていく。兄ちゃんが説教をする感じだけど、そうとも限らない。そうしろって妹に言っていたのかもしれないしね。

 さて、わたしの兄さまは?と目で探すと、いく人かの女性に取り囲まれていた。
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