プラス的 異世界の過ごし方

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12章 人間模様、恋模様

第498話 禍根⑨ダイブ

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 ノープランで塔についてしまった。
 わたしの不安がわかったかのように、ホーキンスさんはわたしの手を強く握る。

「ほら、チンタラしてねーで、階段を登りやがれ!」

 ホーキンスさんの足を蹴る。
 んー、もう魔法使って逃げるか。

 と、目の端に映る。ルシオ?
 神官服に着替えたか、中に着ていたのか。
 近くにいられたら、魔法が使いにくいじゃないか。
 どっか行って欲しいと思ったのに、後ろに大人の神官を従えたルシオがこちらに歩いてくる。

 な、なんでー?
 ロサがいて、ブライがいて、ルシオがいる。アイリス嬢もいた。
 ……これは街に遊びに来たわけではなく、何かあったんだ。
 目的は鐘つき塔だった?
 ここに何があるというんだろう?

「すみません、お話をよろしいでしょうか?」

 大人の神官が団長に声をかける。

「神官さま、何用でございましょう?」

 団長はもみ手をしている。

「鐘つき塔には何のご用でしょうか?」

「だ、誰でも登っていいと聞いていますが?」

 団長が慌てていう。

「ええ、自由に見ていただいてかまいません」

 団長はおでこを拭う。

「この子がね、鐘つき塔に登ってみたいっていうから、連れてきてやったんですよ。なぁ、ジェインズ」

「……そうです」

 なんで? ジェインズさん、チャンスだったのに。
 今ぶちまければ、ここで味方ができれば逃げ出せるのに。
 と言うか、わたしが言うべき?

「……そうですか」

「僕と一緒に登らない?」

 ルシオがわたしに手を差し出した。
 わたしはずっと、少し先の足元を見ている。顔は見えてないはずだ。
 わたしって気づいてる? 気づいてない?
 ノーリアクションだったからか、ルシオの残念そうな声だ。

「怖がらせちゃったかな」

「レディー、こちらの神官さまと一緒に行くといい」

 ホーキンスさんが、自分と繋いだわたしの手をルシオに預ける。

 えええええええっ。
 ホーキンスさんにすると、わたしを劇団の人たちと離すことで、わたしが安全になると思ったのだろう。
 団長側にすると、わたしは途中まで登れば空へとダイブするはずなので、近くに誰がいても構わないのだろう。止めもしない。

「何人かついていってやれ」

 団長が用心棒にいう。
 自分は下にいて、用心棒にホーキンスさんをどうにかさせるつもりだ。
 でも、神官たちが一緒にいるのに? どうやって?


「団長、団長だけでいいですよ、一緒に登りましょう。そして団長の思いを自分でやり遂げなければ」

 ホーキンスさんは団長に詰め寄った。
 魅了だ。魅了をかけた。
 で、でも、それじゃあ、団長は塔でホーキンスさんを落とそうとするんじゃない?

「さ、行こう。階段だよ」

 ルシオに手を引かれ、一段ずつ階段を登る。
 ルシオは後ろを振り返ってから、声を潜めた。

「僕はあなたの味方です。あなたはあの人たちに何か命令されているのではありませんか?」

 ……バレてない?
 ど、どうしよう? 助けを求めた方がいいの? と迷っていると、ルシオが衝撃的なことを言った。

「信じられないかもしれませんが、……知人が未来視したのです。赤い髪の女の子がこの塔から落ちると。僕たちはそれを防ぎに来ました」

 わたしってバレてなさそう。
 そして、未来視、アイリス嬢だ。
 アイリスは赤い髪した女の子、つまりわたしがこの塔から落ちるところを見たの?
 ええ? フリだよ、フリ。わたし、落ちるつもりはないのに、落ちるの?
 それに、この柵の高さがあれば、わたしが魅了にかかっていてもダイブはできない。わたしの運動能力だとこの柵に登れない。

 あれ? アイリス嬢は未来視の話をルシオにしたの? っていうか、ブライ、ロサたちも知ってるってことだ。だって一緒にいたもの。ロサたちに話したの? どこまでを?

 え? 下の方が騒がしく、柵の隙間から下を見るようにすると、衛兵が用心棒たちを囲んでいる。
 なんで、どうして?

 わたしはホーキンスさんを振り返った。彼が下の騒動に気づき、ニヤリと笑っているところだった。
 ええ?

 団長さんが奇声をあげ、ホーキンスさんにタックルした。
 これには一緒に登っていた神官さんたちもびっくり。
 柵へ背中をぶつけたホーキンスさんが座り込みそうになる。
 そのおぼつかない足を団長さんが持ち上げた。柵にあたっている背中を支点にして足を持ち上げれば、柵より上に重量がいっちゃう。
 つまり、ホーキンスさんが落ちちゃう!
 わたしが手を伸ばすと、ホーキンスさんが優しく微笑んだ。覚悟していたことのように。

 な、何やってんのよ!
 わたしはルシオを振り切って、ホーキンスさんのズボンを掴んだ。
 子供のわたしに、柵を越え、落ちそうになっているホーキンスさんを引き止める力などあるはずなく、わたしも柵をこえた。
 ホーキンスさんの目が大きくなり、わたしの手を掴みグッと引き、自分の胸に抱き寄せる。

 風よ、わたしたちを守って!

 下から風が吹き上げ、わたしたちは落ちたところより上へと飛び上がる。
 ええ? やりすぎ!
 上へと持ち上げられたのに、そこから自由落下が始まる。
 嘘でしょっ。

 地面すれすれのところでまたバウンドするように風が吹き上げ、ポンポン弾むように遠くに飛ばされた。
 鞄の中では、先ほどまでの野次と違って、楽しそうな声が上がっている。わたし、酔いそうなんだけど。
 
 何度かバウンドを繰り返し、どこかの裏通りにやっと転がった。

「だ、大丈夫?」

 わたしを胸にきつく抱きしめていたホーキンスさんが腕を緩め、わたしを覗き込んだ。

「なんとか」

 これ以上続いてたら、酔っていたと思うけど。

「あれは君の風魔法?」

「はい。初めての使い方だったので、加減がわからず、すみません」

「いや、助かったよ」

 そう言われて思い出す。
 わたしはキッとホーキンスさんを見た。

「死ぬつもりだったんですか?」

「まさか! あの高さならよほど運が悪くなければ死なないよ」

「でも、その可能性もありました!」

 ホーキンスさんはふっと目を和ませた。

「幸運の女神がついているから、僕は死なないと思った。その通りになった」

 ホーキンスさんの上に、いつまでも座っているのもなんなので、わたしは地面へと横にズレた。ホーキンスさんが顔をしかめた。
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