プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
497 / 799
12章 人間模様、恋模様

第497話 禍根⑧色男のエスコート

しおりを挟む
「なんでついてくるんだ?」

 後ろでホーキンスさんが問いただす声がした。

「団長がジェインズに任せたしか言わねー。お前、団長にスキル使ったんじゃねーか?」

「違う」

「信用ならねー。見張らせてもらうまで」

 あー、なるほど。恐らくホーキンスさんは、魅了で団長さんを一時的に邪魔できないようにしたんだね。
 そしてわたしを逃がしながら、一緒に逃げるつもりだった。
 ところが、団長の仲間がおかしいと思って、わたしたちを見張っているってことか。


 !
 心臓がどきんと跳ねる。
 前にいるのはブライとルシオだ。
 なんだってあんたたち、授業中、こんなところに?
 わたしは少し下を向いて、歩みを進める。
 正面から見られなければ、すぐにはバレないはずだ。
 イザークがいなくてよかった。
 イザークには魔力のオーラでバレそうだ。
 ………………………………。
 でも、ロサがいて、ブライとルシオがいる。ってことは近くにイザークもいるのでは? そして、もしや兄さまも。
 いやーーーーーーーーーっ。
 

 わたしは思っていた。危険な目にあってもいいと。
 変装して危険だと言われているのに、外にフラフラ出ているのは、誰かに罰して欲しかったからだとさえ思った。
 でも、でもね。今更だけど、それはちょっとした罰の叱られごとで、こんなところで遊んでサボっていたのかとか、ひとりでフラフラして危険な!とかそれぐらいを想像していたのであって。
 こんな、よくわからない犯罪に首を突っ込んで、魅了されて教会の鐘つき塔からダイブするフリをしているところをみつかりたいわけじゃないのよ!
 でも今バレたら、そういうことになるよね?



「エイウッドさま!」

 アイリス嬢の声? いやー、また知っている人が増えた。3年生、みんな何やってるの?
 アイリス嬢に呼ばれて、ブライとルシオがアイリス嬢の方を見た。
 今のうちだ。わたしは少しだけ歩みを早める。
 3人で何かを話している。
 うわ、あっちにある豪華な馬車、あれにロサが乗ってそう。
 横を歩く気にはなれない。
 遠回りになるけど、こっちの道を。

「レディー、こっちだよ」

 ホーキンスさんがわたしの手を取る。
 うわーん、ロサの馬車の横を通ることになる。
 背中に視線が集まっているような気がするけど、気のせいだよね、きっと。
 でもホーキンスさんと手を繋いでいれば、わたしと思う要素は減るはずだ。

「あ、すみません」

 ブライの声。
 バレた?? なんで?

「はい?」

 ホーキンスさんが答える。
 ど、ど、ど、どーしよーーーーー。
 わたしは顔を上げられない。

「役者のジェインズ・ホーキンスさんではありませんか?」

 へ?

「あ、はい、そうですが。君は……?」

「あなたの大ファンなんです!」

 嘘、ブライが? ダニエルに、芝居が始まって3分で寝た馬鹿者とは、一生一緒に観に行かないと言われていたブライが、ホーキンスさんのファン?

「それは光栄だな」

 ホーキンスさんとブライが握手を交わす。
 わたしとは手が離れたので、わたしは鐘つき塔に向かい歩き出す。
 速やかにこの場を離れたい。

「あ、お嬢さんが」

「大丈夫だよ、行き先はわかっているから」

「いえ、ひとりは危険ですよ。カートライト嬢、そちらのお嬢さんを……」

 ブライが要らん気遣いを見せ、アイリス嬢にわたしの面倒をみろとけしかけている。
 嘘でしょ?
 気を失っていいデスカ?

「おい、すみませんが、役者に馴れ馴れしくしないでもらえますかね?」

 用心棒だ。ホーキンスさんは早く行けと言われ、再びわたしの手を取る。
 用心棒たちと対峙しているブライが心配だけど、それ以上に突っ掛からなければ何もしないだろうし、したとしてもブライもあれでいて強いし、近くにロサもいるのだから何とかするだろう。



「ホーキンスさん、これからどうするんですか?」

 小さい声で尋ねる。

「その角を曲がったら走るよ。追手を撒く」

 角を曲がり、多分わたしを抱き上げようとして、ホーキンスさんが止まった。

「よう、ジェインズ。舐めたまねしてくれたじゃねーか」

 シルクハットの団長さんが目の前にいた。

「さて、嬢ちゃんひとりで塔から飛び降りるんじゃ寂しいだろうからな、稀代の色男ジェインズ・ホーキンスがエスコートしてやれよ、あの世にな」

 用心棒たちに挟まれて、塔へと移動することになった。
 さて。どうやって収拾をつけようか。

 っていうか、この人たち、何気に頭が悪いのでは?と少々失礼なことを思う。
いや、決して頭を働かせて欲しいわけじゃないんだけど。
 魅了が効いているわたしは、勝手に鳥になれたと思ってダイブするかもしれないけどさ。背が高くてしなやかな筋肉がついているホーキンスさんを、死にたくはないホーキンスさんを、塔から落とすのは骨が折れるんじゃないだろうか?
 普通なら、ここで、〝片付ける〟方法を変えると思うんだけど?
 他の方法にさ。
 何でこの人たち素直に塔に向かっているんだろう?

 疑問に思いながらも尋ねるわけにもいかず、促されるまま、歩いていくしかない。
 教会自体は各地区にあるけど、鐘つき塔は3地区、6地区、9地区にしかない。
 教会の隣に立てられた、細長い建物で、ぐるぐると螺旋階段があり、その1番上に、時を知らせる大きな鐘がついている。
 現在では朝と夜の6時にしか、鐘は鳴らさない。あと、非常時や特別な何かある時は鳴らすらしいけど。
 やっぱり、階段の柵は大人の腰ぐらいまであり、しゃがまなければ、外から丸見えだ。
 ここで、ホーキンスさんを無理やり落とすのなら、その犯行は誰に見られてもおかしくない。用心棒たちで口裏を合わせても、見られてたらさすがにアウトだろう。
 それ、考えてないの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...