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12章 人間模様、恋模様
第486話 尻尾
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ヤキモキした。兄さまが魔具を持ってきてくれたのは、寮の門限である18時ギリギリだった。
だから兄さまは話すことなく、わたしに魔具を渡しただけで帰って行った。
理由を言わなくて済んでほっとしたのも束の間、今度はモヤモヤ感が長引くだけのことに気づき、愕然とする。
うー、でも今は報告だ。
父さまには長い手紙となった。
マヌカーニ先生に言われたこと。それに対し答えたこと。
そして〝女王〟とはなんぞやと、わたしがマヌカーニ先生に聞いてみてもいいかを尋ねた。変なことを言う司書が紛れ込んでいると、追い出してもらうこともできそうだけど、マヌカーニ先生を含めた団体が何を考えているのか知りたい。どこの団体なのかということも。
それから商会の方から父さまにも報告は行っていると思うけど、訴えられた件をウッドおじいさまに相談していいかを尋ねた。
親戚の皆さま方に、もう少し打ち明けた方がいいのかなと、アラ兄と話したことも書いた。
ご飯を食べて食堂から戻ると、父さまから返信が来た。
ウッドおじいさまには、父さまからも連絡しておくとあった。
マヌカーニ先生のことも父さまも調べるといい、わたしが接触するのも許してくれた。でもその時に、アラ兄かロビ兄と一緒に行くことと条件があった。
親戚の皆さまに打ち明けることについては、週末に会った時に話そうと書かれていた。
わたしはウッドおじいさまに手紙を書き、またエリンとノエルにも手紙を書いた。最後にジェイお兄さんにも。
次の日の放課後、クラブには図書室で活動することを伝え、わたしはマヌカーニ先生に会いに行った。
付き合ってもらっているのはアラ兄だ。
わたしを認めると、瞳をウルウルさせる。
なんか思うんだけど、この先生大人っぽくないよね。幼いっていうか。
アラ兄は、そんなマヌカーニ先生を怪しいと思ったみたいで、わたしと先生の間に入る。
先生はワゴンにあった本たちを、本棚に一冊ずつ戻している。
わたしはもふさまに合図した。手筈通りレオが外に話が漏れないよう結界を張ってくれた筈だ。もふさまともふもふ軍団が魔を発しても、聖樹さまから許しを得ている彼らなので、学園の魔力感知には引っ掛かりにくい。
わたしはポケットの中で念のため盗聴防止魔具を使う。
アラ兄には後で説明するから、あまり驚かないようにと言ってある。
「先生、先生はどうしてこの学園に?」
先生は口を尖らせた。
「それはもちろん、君を勧誘するためだよ」
やっぱり、この人、勧誘役に向いてない。
何が〝人〟を怖がらせるかがわかってない感じ。
なんでこんなのを前面に押し出してきたのか、団体の人選に不審感が増す。
怪しさをさらに感じ取ったみたいで、アラ兄が変な顔をわたしに向ける。
「なぜ〝わたし〟なんですか?」
もふさまを遣わされたからか、血筋系か、はたまた両方か。
「そりゃ君は光を宿しているし、魔力も十分だからだ」
え?
光属性を持っているとわかるってことは、隠蔽が効いてない。
この人、人族ではない?
「……女王とは? どこの? 何のですか?」
マヌカーニ先生はパッっと顔をあげた。
「なに、興味あるの?」
「興味はあります」
「え? 本当に?」
「先生が所属するのは、どういった団体ですの?」
「女王とはもちろん神聖国の女王。私たちは女王となれる方か見極めるよう依頼されたんだ」
アラ兄と目を見合わせる。
「で、あなたの種族は? 人族ではありませんよね?」
「なななななななななな、何で私がシュシュ族だと?」
いや、言ってないけど。
「シュシュ族なんですか?」
アラ兄が尋ると、口を押さえている。
「シュシュ族が、なぜ神聖国の女王候補を見極められるんです?」
マヌカーニ先生は左右に頭を振った。
「君が女王になれるなら言っても良かったけど、女王になれない君に言う必要ないでしょ」
「答えてくれないなら、学園にあなたのことを言いつけます」
「え?」
「生徒に対して、何を言い放ったか覚えてます?」
「え?」
「シュシュ族ってことも学園に伝えてないようですね。詐称ですか?」
「あの、それは。ここに入るのに、手伝ってもらった人に迷惑をかけてしまうので。って、私が何したっていうんです? 何もしてないじゃないですか?」
「わたしに付き纏いましたよね? 女生徒に」
「え、それは聞きたいことがあっただけで」
「付き纏いましたよね?」
「何が知りたいんだよ?」
先生はそっぽをむき、腕を組んだ。頬が膨らんでいる。
「シュシュ族がなぜ、神聖国の女王候補を見極めるんです?」
「神の御坐す場所整えるのは、シュシュ族の仕事だ。それなのに、人族が蔑ろにしたから均衡が崩れ、廃れた。過ちにやっと気づいたのだろう。長老に頼み込んできた。神の御坐す場所を作れる人族が現れたから、様子をみるように。条件に当て嵌まるなら、女王として立てろと」
途中から耳に入ってこない。
だって、だって、ふさふさの狐のような尻尾が!
司書の制服の長めの上着の裾から、顔を覗かせていた。
シュシュ族って狐?
アラ兄に袖を引っ張られる。
尻尾をガン見してた。
「コホン。本来の姿になってくれる?」
「え?」
「早く」
先生は涙目になりながらも、その場で宙返り。中型犬サイズの、麦の穂先色の狐になった。
どう見ても狐だ!
ぎゅーっと抱きつく。
「リ、リー」
アラ兄に引っ張られ、狐は目を白黒させている。
「お、お前、なんて不埒な! 相手がいるくせに、私にも抱きつくなんて!」
「あ、ごめん。あまりにもかわいい姿だったから」
「か、かわいい?」
「もふもふね」
「もふもふ?」
「頼まれたって言ったわね。あなたたち、騙されてるわ、絶対」
「え?」
「騙されてる? そ、そんなわけない。そんなことしても、何もいいことない」
「騙されるって言うより、利用されてるのよ。それで神聖国を立ち上げられればいいけれど、失敗したら、その罪をあなたたち種族に押し付ける気だと思うわよ」
「そ、そんなぁ」
狐はわたしの言葉を素直に信じたらしい。悲壮な顔になる。
もふもふにそんな顔をされると、抱きしめてナデナデして、ぎゅーっとしたくなる。でも、人の姿を思い出し、思い止まる。
それにしても、これは騙されやすそうだ。
だから兄さまは話すことなく、わたしに魔具を渡しただけで帰って行った。
理由を言わなくて済んでほっとしたのも束の間、今度はモヤモヤ感が長引くだけのことに気づき、愕然とする。
うー、でも今は報告だ。
父さまには長い手紙となった。
マヌカーニ先生に言われたこと。それに対し答えたこと。
そして〝女王〟とはなんぞやと、わたしがマヌカーニ先生に聞いてみてもいいかを尋ねた。変なことを言う司書が紛れ込んでいると、追い出してもらうこともできそうだけど、マヌカーニ先生を含めた団体が何を考えているのか知りたい。どこの団体なのかということも。
それから商会の方から父さまにも報告は行っていると思うけど、訴えられた件をウッドおじいさまに相談していいかを尋ねた。
親戚の皆さま方に、もう少し打ち明けた方がいいのかなと、アラ兄と話したことも書いた。
ご飯を食べて食堂から戻ると、父さまから返信が来た。
ウッドおじいさまには、父さまからも連絡しておくとあった。
マヌカーニ先生のことも父さまも調べるといい、わたしが接触するのも許してくれた。でもその時に、アラ兄かロビ兄と一緒に行くことと条件があった。
親戚の皆さまに打ち明けることについては、週末に会った時に話そうと書かれていた。
わたしはウッドおじいさまに手紙を書き、またエリンとノエルにも手紙を書いた。最後にジェイお兄さんにも。
次の日の放課後、クラブには図書室で活動することを伝え、わたしはマヌカーニ先生に会いに行った。
付き合ってもらっているのはアラ兄だ。
わたしを認めると、瞳をウルウルさせる。
なんか思うんだけど、この先生大人っぽくないよね。幼いっていうか。
アラ兄は、そんなマヌカーニ先生を怪しいと思ったみたいで、わたしと先生の間に入る。
先生はワゴンにあった本たちを、本棚に一冊ずつ戻している。
わたしはもふさまに合図した。手筈通りレオが外に話が漏れないよう結界を張ってくれた筈だ。もふさまともふもふ軍団が魔を発しても、聖樹さまから許しを得ている彼らなので、学園の魔力感知には引っ掛かりにくい。
わたしはポケットの中で念のため盗聴防止魔具を使う。
アラ兄には後で説明するから、あまり驚かないようにと言ってある。
「先生、先生はどうしてこの学園に?」
先生は口を尖らせた。
「それはもちろん、君を勧誘するためだよ」
やっぱり、この人、勧誘役に向いてない。
何が〝人〟を怖がらせるかがわかってない感じ。
なんでこんなのを前面に押し出してきたのか、団体の人選に不審感が増す。
怪しさをさらに感じ取ったみたいで、アラ兄が変な顔をわたしに向ける。
「なぜ〝わたし〟なんですか?」
もふさまを遣わされたからか、血筋系か、はたまた両方か。
「そりゃ君は光を宿しているし、魔力も十分だからだ」
え?
光属性を持っているとわかるってことは、隠蔽が効いてない。
この人、人族ではない?
「……女王とは? どこの? 何のですか?」
マヌカーニ先生はパッっと顔をあげた。
「なに、興味あるの?」
「興味はあります」
「え? 本当に?」
「先生が所属するのは、どういった団体ですの?」
「女王とはもちろん神聖国の女王。私たちは女王となれる方か見極めるよう依頼されたんだ」
アラ兄と目を見合わせる。
「で、あなたの種族は? 人族ではありませんよね?」
「なななななななななな、何で私がシュシュ族だと?」
いや、言ってないけど。
「シュシュ族なんですか?」
アラ兄が尋ると、口を押さえている。
「シュシュ族が、なぜ神聖国の女王候補を見極められるんです?」
マヌカーニ先生は左右に頭を振った。
「君が女王になれるなら言っても良かったけど、女王になれない君に言う必要ないでしょ」
「答えてくれないなら、学園にあなたのことを言いつけます」
「え?」
「生徒に対して、何を言い放ったか覚えてます?」
「え?」
「シュシュ族ってことも学園に伝えてないようですね。詐称ですか?」
「あの、それは。ここに入るのに、手伝ってもらった人に迷惑をかけてしまうので。って、私が何したっていうんです? 何もしてないじゃないですか?」
「わたしに付き纏いましたよね? 女生徒に」
「え、それは聞きたいことがあっただけで」
「付き纏いましたよね?」
「何が知りたいんだよ?」
先生はそっぽをむき、腕を組んだ。頬が膨らんでいる。
「シュシュ族がなぜ、神聖国の女王候補を見極めるんです?」
「神の御坐す場所整えるのは、シュシュ族の仕事だ。それなのに、人族が蔑ろにしたから均衡が崩れ、廃れた。過ちにやっと気づいたのだろう。長老に頼み込んできた。神の御坐す場所を作れる人族が現れたから、様子をみるように。条件に当て嵌まるなら、女王として立てろと」
途中から耳に入ってこない。
だって、だって、ふさふさの狐のような尻尾が!
司書の制服の長めの上着の裾から、顔を覗かせていた。
シュシュ族って狐?
アラ兄に袖を引っ張られる。
尻尾をガン見してた。
「コホン。本来の姿になってくれる?」
「え?」
「早く」
先生は涙目になりながらも、その場で宙返り。中型犬サイズの、麦の穂先色の狐になった。
どう見ても狐だ!
ぎゅーっと抱きつく。
「リ、リー」
アラ兄に引っ張られ、狐は目を白黒させている。
「お、お前、なんて不埒な! 相手がいるくせに、私にも抱きつくなんて!」
「あ、ごめん。あまりにもかわいい姿だったから」
「か、かわいい?」
「もふもふね」
「もふもふ?」
「頼まれたって言ったわね。あなたたち、騙されてるわ、絶対」
「え?」
「騙されてる? そ、そんなわけない。そんなことしても、何もいいことない」
「騙されるって言うより、利用されてるのよ。それで神聖国を立ち上げられればいいけれど、失敗したら、その罪をあなたたち種族に押し付ける気だと思うわよ」
「そ、そんなぁ」
狐はわたしの言葉を素直に信じたらしい。悲壮な顔になる。
もふもふにそんな顔をされると、抱きしめてナデナデして、ぎゅーっとしたくなる。でも、人の姿を思い出し、思い止まる。
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