プラス的 異世界の過ごし方

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12章 人間模様、恋模様

第479話 収穫祭⑨宣告

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「わたし、のどかわいちゃった」

「大通りへ行く道に、ジュースのお店があったよ」

 ミニーが教えてくれる。

「まず、そこでもいいかしら?」

 ペリーに尋ねると、彼女は頷いた。
 今年の捧げられた獲物は大きかっただの、たわいのない話をして歩いた。

 ジュースのお店は、オレンジジュースかグレーンジュースの二択。
 わたしとミニーはオレンジで、他の人はグレーンにするそうだ。
 兄さまが奢ってくれるというので、甘えることにした。
 ペリーが恐縮している。
 ペリーはカトレアと同い年と知った。

 お店の場所を尋ねると、大通りのわりといいところに店を構えていた。そこなら自警団も目が届くところだろう。
 ひとりでお店を任されるなんて凄いねと素直な感想を述べれば

「それより、あんなにちっちゃかったミニーが、こんな成長していて、それにビリーと付き合っていることに驚くばかりよ」

 ペリーが目を見張って言う。
 ビリーとミニーが付き合っていることは知っているんだと、ちょっとほっとする。

「そりゃ6年も経ったもの、あたしだって成長するわ」

「どの辺がだ?」

 頭に手を置かれ、ミニーの頬がぷぅっと膨れる。

『大丈夫だ、リディアも大きくなったぞ、多少は。大丈夫だ』

 もふさま、大丈夫ってなんなの? わたしだってしっかり成長したってば。わたしの頬も膨れたかもしれない。

「ちゃんと大きくなってるもん!」

 ムキになるミニー。
 それに便乗するペリー。

「あの頃、かわいかったな。よちよち歩いてて。サロの後を追っかけてきてさ」

 ミニーの頬が赤くなる。
 ミニーはビリーと年が離れていることを気にしている。自分が幼くてビリーと釣り合わないとされることを怖がっている。そこに焦点を当てたような話向きになり、わたしは慌てた。
 けれど、ビリーが一言。

「お前は、あの頃も今も、かわいいところは変わらない」

 おおっ。
 ミニーが真っ赤になる。トマトンみたい。
 なんだ、ビリーってば、わかってるじゃないか。

 そういえばあの頃。マールがビリーを好きで、ビリーはペリーが好きだったって話を聞いていたから、それ以上に思ったことはないんだけど。思い返せば、ビリーはミニーを構っていたな。サロの妹だからってこともあるんだろうけど。サロがいなくなった時、ウチに助けを求めようとしたミニーに付き合ってきたのは、ビリーとカールだった。春祭りの時や、いろんなシーンでミニーを気遣う発言をしていたビリーを思い出す。面倒見がいいからかと、特に気にしなかったけど、ひょっとして、あの頃からビリーはミニーを憎からず思っていて……。

 ふたりを視界に収める。……どうだったかはわからないけど。
 でも、そっか。ペリーがまだビリーを思っていたとしても。
 ミニーが不安に思っても。
 ビリーがしっかりしていれば、揺らぐことはないってことだね。
 こりゃ一本取られた感じだ。こちらに関してはわたしがでしゃばる必要はなさそうだ。

 赤くなったミニーの鼻の頭を、ビリーが指で弾いている。
 ペリーを見ると、ちょっと切なそうな顔をしていた。
 見ているわたしに気づいて、急いで笑みを浮かべている。

「ペリーさんはお仕事を始めてから、どれくらい経つんですか?」

「商人見習いは3年目です。今勤めているところに、半年ほど前に声をかけてもらいました」

 やっぱりそんな短期間で店を任されるってのは、並大抵のことではない。シュタイン領出身ってところで目をつけられたのだとしても、仕事自体ができなければそこまで任せられたりしない。彼女は〝できる人〟なんだ。

「お店の名前はなんと言うのですか?」

 素知らぬ顔で尋ねる。

「……ペネロペ商会です」

「! まぁ」

「ど、どうしたの、お嬢さま?」

 ミニーを本当に驚かしてしまった。

「ペリーさんはご存知ですか? 実はウチとペネロペ商会でイザコザがありましたの」

 ペリーの表情が引き締まる。

「イザコザ、ですか?」

「ええ。聞いてます?」

「初耳です」

 初耳なら、災難だね。

「あの、どういったことがあったのか、お聞かせ願えますか?」

「馬車を襲撃されて、命を落とすところでした」

 ビリーとミニーが息を飲む。

「ぺ、ペネロペ商会が、ですか?」

 本気で驚いているように見える。
 もふさまがわたしと彼女の顔を交互に見る。

「ええ」

「……そんな話は聞いたことがありません。……それが事実なら、ペネロペ商会の者が捕まったりするはずですよね? それも聞いたことがありません。それに、襲撃されるような心当たりがあったのですか? ただの商会が貴族を襲撃するなんて考えられません」

 理性的な反応だ。

「もしかして、私はリディアお嬢さまに嫌われているのでしょうか? 領地でペネロペ商会が発展することを、よく思われないという宣告でしょうか?」

 不安そうなふりをしているけど、彼女は堂々としている。

「今日初めて会った方を、どうして嫌うことができましょう?」

 彼女はほっとした顔をした。

「けれど、後半は当たりですわ。その通りです」

 彼女が息を飲む。伝わったようだ。

「お、おい」

 ビリーに腕をつかまれる。

「幼なじみにこんなこと言ってごめんね。でも、わたしは決して卑怯なことはしない。そこは信じて欲しい」

「それは知ってるよ」

「ありがと。ペリーさん、安心してください。シュタイン領が警戒しているわけではありません。わたしがペネロペに不信感があるだけです」

 威嚇しているのはわたしなのだと、印象づけておく。ビリーたちも聞いているから主語は大きくできないよ。広められても悪評がたつのはわたしだけだ。

「リディー」

 成り行きを見守っていた兄さまが、痛ましげにわたしを呼ぶ。

「……襲撃されるような何があったんですか?」

「ペネロペはウチの商品に、ただならぬ興味があるようです」

 ペリーは少し考えこむ。

「お嬢さまの考えすぎということは?」

「……時間がかかっても、事実をつまびらかにいたしますわ」

「ペリー、お前、その商会に入ったばかりなんだろ? そんな怪しい商会なら考えた方がいいぞ。お嬢さまは嘘をついたり、確信のないことを口にしたりしない。それに言ったことは絶対実行する」

「ビリーは……たった6年で、この領で何があったか忘れちゃったのね。懐柔されて、盲目的に信じているのね」

 ペリーが目を細めた。

「……ああ、この6年、この領で暮らした者にしか、この領のことをあれこれ言われたくないね」

『ほぉー』

 もふさまから感心した声があがる。

 ペリーとビリーの視線が衝突した。すぐにペリーは顔を背けたけど、そこには切ない感情があった。


「お嬢さま、満足ですか? 領地にきた気に食わない商会を、仲違いから締め出すやり方ですか?」

『この娘も必死だな』

 もふさまの呟きに心が傷んだ。でも、最初に伝えておこうと思った。わたしだってペリーを傷つけたくないし、傷ついて欲しくない。だけど、わたしの店や領地に害をなすなら、皆の幼なじみだろうが、前領主の悪政の被害にあったんだろうが、わたしは許すことができない。
 だから、わたしと敵対しないように最初に忠告する。

「気に食わない商会を追い出すだけなら、仲違いなんて面倒な方法を取らなくても、やりようはいくらでもありますわ。けれどわたし、卑怯なことはしたくありませんの。ですから問題がない限り、わたしは何もしません。商人ギルドがペネロペ商会を領地で開くことを許可したのです。それに異も唱えません。けれど、わたしの商会や領地に害をなすのなら、わたしは許しません」

「……ペネロペ商会から、私は仕事を任されています。ここでも成果を上げるのが仕事です。ひとつだけ注意されたのは、この領地の要はたった12歳のお嬢さまだと。まさか、そんなことと思いましたけど、情報は本当だったようですね」

 ペリーは微笑む。

「私は真っ当な商売しかしません」

「そうあることを、望みます」

 水色の目は一歩も引かなかった。
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