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12章 人間模様、恋模様
第477話 収穫祭⑦外国の思惑
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大人たちの話があるというので、わたしたちは部屋を移った。
みんな頬が上気していて、興奮状態だ。
規格外のプレゼントに度肝を抜かれながらも、みんなもっとじっくり別荘を知りたくてたまらなくて、気持ちは別荘に向かっている。
「リー、頼みがある」
ロビ兄が真面目な顔をした。
「おれの別荘にルームを作ってくれ!」
「オレもお願いしたい!」
「うん、父さまに相談してからになるけど、いいって言われたら、みんなのを繋げるよ」
「なぁに、ルームを作るって何?」
エリンに聞かれて、昨日一気には教えられてないので、付け足すようにルームのことを話した。
「すごい、姉さま、やっぱり凄いのね」
「凄いのは魔使いさんだよ。わたしはその恩恵を受けてるだけ」
本当にそうなんだよね。
ハウスさんにしても、アオにしてもミラーダンジョンも、この恩恵がなかったら……こんなに好き勝手生きられてないだろう。
しばらくして、父さまたちが部屋から出てきた。
重たい雰囲気を纏っていたけれど、エリンがクジャクおじいさまに飛びつくと、一気に皆さまの表情が緩む。
公爵さまの転移で、町の広場に向かった。
収穫祭の始まりだ。
広場にはもう人が詰めかけていた。
「領主さま!」
誰かが父さまに気づいて声をかけると、父さまが広場に行けるように道ができた。
あれ、貴族か?
一見着ているものはきらびやかではないけれど、仕立てがいい。
6年前、領地に人が流れ込んできたとき、貴族も住み着いた。でもそれは傍系の人たちだし、働きにきている貴族の人もいたけど、ここまで人数は多くなかったはずだ。集まっている中で、知らない人は全員貴族っぽくないか?
シュタイン領の収穫祭になんでこんなに貴族が?
「リー」
驚いて足を止めていると、ロビ兄に促される。
『どうした、リディア?』
わたしはもふさまを抱き上げた。耳に口を寄せる。
「不安。あと、貴族多い」
もふさまの耳がピクッと動く。
マップを出してみたが、赤い点はない。とりあえず胸を撫で下ろす。
「お嬢ちゃん、あちらの赤い服をきたお嬢さまは、領主さまのご息女かね?」
横にいたおじいちゃんに声をかけられた。
「そうですよ」
答えると、おじいさんはニコッと笑う。貴族だね。エリンを見にきたのか?
「そういえば、こちらにはもうひとりお嬢さまがいらしたと思うが、王室に嫁ぐとは本当かね?」
わたしはマジマジとおじいさんを見てしまった。
「それはあり得ませんね」
「なぜ、言い切れるんじゃ?」
「他の方と婚約しているからです」
「何を言っておる。王室だぞ。王族になれるんだぞ? そんなチャンスがあったら、誰でも飛びつくだろう?」
「……そうとも限らないのでは? その話はどこから聞いたんですか?」
また奇怪な噂が出たのかとわたしは訝しんだ。
「何やら、王都でシュタイン領主と一族が王室に呼ばれたそうだ」
あー、シンシアダンジョンの報告を、深読みした人がいるわけね。
「それは、ダンジョンの報告ですよ」
「ダンジョンの報告?」
「はい。魔物のことで、その時にダンジョンに入っていた人は、みんな呼ばれたんですよ」
「へぇー、そうなのかい? てっきり今度こそめでたく、王室に嫁がれるのが決まったのかと思ったよ」
なんだそれは。
「王室に嫁ぐと、めでたいですか?」
「そしたらお姉さまは王妃さまだ。妹さまにも箔が付く。それで我が一族に嫁いでくれれば……」
おじいさんはエリンを見たまま、にやりと笑う。
はぁ?
エリンへの縁談か。
「おじいさんは、どちらのお貴族さまなんですか?」
名前を聞いておいて、その縁談は絶対阻止しなければ。
「わしかい? わしはハメール大国のドイト伯だ」
外国人だったか。
「ユオブリア語、お上手ですね」
まったく外国人だと思わなかったし、ましてや大陸違いなんて。
「孫の嫁にと目をつけてから、言葉を習ってな」
手の内をこんなペラペラと話しちゃうことから、悪党にはなれなさそうだけど、一般的な貴族の結婚、つまり地位向上を目指す結婚に、エリンを行かせたくはない。
「お嬢ちゃんもどこぞのご令嬢に見えるぞ。所作も美しいな。シュタイン領は本当にいい領だ」
収穫祭がスタートするようだ。
父さまがスピーチに立つ。
今更、みんなの近くに行くのも、始まってからの移動は迷惑かと、その場に居座ることにする。
「シュタイン家の血筋は素晴らしい。これで光属性をお持ちだったら、どちらのお嬢さまでも神聖国を復刻させられただろうに」
「神聖国?」
聞いたことのある国名を聞き、わたしは見上げた。
「聖女さまの末裔がお作りになった聖なる国だよ。聖なる力が衰え、国は廃れてしまったが、力ある方をお迎えになれば、そこに集う者はどれだけいることか……。本当に上のお嬢さまは惜しい。光属性がなくても、聖なる方を遣わされたと聞く。やはり王家の、聖女さまの血が流れているのだ。そんな方が神聖国に立たれたら、エレイブ大陸の歴史は変わる。ユオブリアだけがいい思いをすることもない。これからはエレイブ大陸の時代になる!」
見上げているわたしに気づいたみたいだ。熱く語ったことが恥ずかしかったのか頬を染めた。
なんか恐ろしい話を聞いた気がする。アダムが言ってた血筋どうこうってそういうこと?
王家に属する公爵家の血が流れるってことは遡っていくと、聖女さまの血を引き継いでいるかもしれないって、本当に、一般的にもそう思われちゃうの?
神聖国も縮小され、地図から消された国のはずなのに、エレイブ大陸ではまだ名が通っていて、熱く語れるほどの国ってこと? この方はおじいちゃんだから、年配の人はそう思ってるってとこかな?
みんな頬が上気していて、興奮状態だ。
規格外のプレゼントに度肝を抜かれながらも、みんなもっとじっくり別荘を知りたくてたまらなくて、気持ちは別荘に向かっている。
「リー、頼みがある」
ロビ兄が真面目な顔をした。
「おれの別荘にルームを作ってくれ!」
「オレもお願いしたい!」
「うん、父さまに相談してからになるけど、いいって言われたら、みんなのを繋げるよ」
「なぁに、ルームを作るって何?」
エリンに聞かれて、昨日一気には教えられてないので、付け足すようにルームのことを話した。
「すごい、姉さま、やっぱり凄いのね」
「凄いのは魔使いさんだよ。わたしはその恩恵を受けてるだけ」
本当にそうなんだよね。
ハウスさんにしても、アオにしてもミラーダンジョンも、この恩恵がなかったら……こんなに好き勝手生きられてないだろう。
しばらくして、父さまたちが部屋から出てきた。
重たい雰囲気を纏っていたけれど、エリンがクジャクおじいさまに飛びつくと、一気に皆さまの表情が緩む。
公爵さまの転移で、町の広場に向かった。
収穫祭の始まりだ。
広場にはもう人が詰めかけていた。
「領主さま!」
誰かが父さまに気づいて声をかけると、父さまが広場に行けるように道ができた。
あれ、貴族か?
一見着ているものはきらびやかではないけれど、仕立てがいい。
6年前、領地に人が流れ込んできたとき、貴族も住み着いた。でもそれは傍系の人たちだし、働きにきている貴族の人もいたけど、ここまで人数は多くなかったはずだ。集まっている中で、知らない人は全員貴族っぽくないか?
シュタイン領の収穫祭になんでこんなに貴族が?
「リー」
驚いて足を止めていると、ロビ兄に促される。
『どうした、リディア?』
わたしはもふさまを抱き上げた。耳に口を寄せる。
「不安。あと、貴族多い」
もふさまの耳がピクッと動く。
マップを出してみたが、赤い点はない。とりあえず胸を撫で下ろす。
「お嬢ちゃん、あちらの赤い服をきたお嬢さまは、領主さまのご息女かね?」
横にいたおじいちゃんに声をかけられた。
「そうですよ」
答えると、おじいさんはニコッと笑う。貴族だね。エリンを見にきたのか?
「そういえば、こちらにはもうひとりお嬢さまがいらしたと思うが、王室に嫁ぐとは本当かね?」
わたしはマジマジとおじいさんを見てしまった。
「それはあり得ませんね」
「なぜ、言い切れるんじゃ?」
「他の方と婚約しているからです」
「何を言っておる。王室だぞ。王族になれるんだぞ? そんなチャンスがあったら、誰でも飛びつくだろう?」
「……そうとも限らないのでは? その話はどこから聞いたんですか?」
また奇怪な噂が出たのかとわたしは訝しんだ。
「何やら、王都でシュタイン領主と一族が王室に呼ばれたそうだ」
あー、シンシアダンジョンの報告を、深読みした人がいるわけね。
「それは、ダンジョンの報告ですよ」
「ダンジョンの報告?」
「はい。魔物のことで、その時にダンジョンに入っていた人は、みんな呼ばれたんですよ」
「へぇー、そうなのかい? てっきり今度こそめでたく、王室に嫁がれるのが決まったのかと思ったよ」
なんだそれは。
「王室に嫁ぐと、めでたいですか?」
「そしたらお姉さまは王妃さまだ。妹さまにも箔が付く。それで我が一族に嫁いでくれれば……」
おじいさんはエリンを見たまま、にやりと笑う。
はぁ?
エリンへの縁談か。
「おじいさんは、どちらのお貴族さまなんですか?」
名前を聞いておいて、その縁談は絶対阻止しなければ。
「わしかい? わしはハメール大国のドイト伯だ」
外国人だったか。
「ユオブリア語、お上手ですね」
まったく外国人だと思わなかったし、ましてや大陸違いなんて。
「孫の嫁にと目をつけてから、言葉を習ってな」
手の内をこんなペラペラと話しちゃうことから、悪党にはなれなさそうだけど、一般的な貴族の結婚、つまり地位向上を目指す結婚に、エリンを行かせたくはない。
「お嬢ちゃんもどこぞのご令嬢に見えるぞ。所作も美しいな。シュタイン領は本当にいい領だ」
収穫祭がスタートするようだ。
父さまがスピーチに立つ。
今更、みんなの近くに行くのも、始まってからの移動は迷惑かと、その場に居座ることにする。
「シュタイン家の血筋は素晴らしい。これで光属性をお持ちだったら、どちらのお嬢さまでも神聖国を復刻させられただろうに」
「神聖国?」
聞いたことのある国名を聞き、わたしは見上げた。
「聖女さまの末裔がお作りになった聖なる国だよ。聖なる力が衰え、国は廃れてしまったが、力ある方をお迎えになれば、そこに集う者はどれだけいることか……。本当に上のお嬢さまは惜しい。光属性がなくても、聖なる方を遣わされたと聞く。やはり王家の、聖女さまの血が流れているのだ。そんな方が神聖国に立たれたら、エレイブ大陸の歴史は変わる。ユオブリアだけがいい思いをすることもない。これからはエレイブ大陸の時代になる!」
見上げているわたしに気づいたみたいだ。熱く語ったことが恥ずかしかったのか頬を染めた。
なんか恐ろしい話を聞いた気がする。アダムが言ってた血筋どうこうってそういうこと?
王家に属する公爵家の血が流れるってことは遡っていくと、聖女さまの血を引き継いでいるかもしれないって、本当に、一般的にもそう思われちゃうの?
神聖国も縮小され、地図から消された国のはずなのに、エレイブ大陸ではまだ名が通っていて、熱く語れるほどの国ってこと? この方はおじいちゃんだから、年配の人はそう思ってるってとこかな?
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