プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
474 / 886
12章 人間模様、恋模様

第474話 収穫祭④補償

しおりを挟む
 できあがったばかりのコイタさまを持って、広場へ赴く。
 祭壇はもうできていて、周りに花やら草やらが敷きつめられていた。

「こんにちは。コイタさまはどちらに置けばいいですか?」

「あ、ミニーにお嬢さま、こちらにお願いします」

 今年の祭壇の係は、ヨムの家も担当みたいだ。

 ミニーがお皿に紙を敷いて、独特な積み上げ方をしていく。
 わたしも習って手伝う。

「おばさーん、お肉が届いたよ。これどこに置けばいい?」

 明るい、通る声がした。

「ペリー、ありがとう。祭壇の横に置いてくれる」

「はぁい!」

「ペリー、貸せ。持つよ」

「持つなら、もっと早く持ってよ!」

 カールと笑いあっている。

「あ、お嬢さま。学園じゃなかったのか? 今年は参加できないのかと思ったよ」

 カールがわたしに気づいて、ニカっと笑った。

「うん、お祭りの間だけ帰ってきたの」

「そうか。フランツさまたちも?」

 わたしは頷く。

 カールの肩に顎を置くようにして、こっちを覗き込んだ水色の瞳と目が合った。ストレートの髪は茶色い。

「はじめまして、領主さまのご息女さまですね? 私、ペリーっていいます」

 思慮深く、微笑んだ。
 エリンやアイリス嬢のようなかわいさではないが、騒がれたのはわかる気がする。愛嬌があり、仕草がかわいらしい。

 ただ幼なじみの気軽さなのか、マールという彼女がいるカールに対して親しげすぎる気がした。わたしがマールだったら嫌だろうなと思う。

「お嬢さまたちがいらっしゃる前に、この領に住んでいました。税が払えなくて夜逃げしたんです」

 みんな知っていると言っても、そんな事情だ。口にしなくてもいいのに。

「商会に就職して、北支部所属になりました。住んでいたシュタイン領を拠点にしようと思いまして、越してきました。これからどうぞよろしくお願いします」

 誰が聞いても気持ちのいい挨拶だ。
 でも、その時なぜか、メロディー嬢の顔が浮かんだ。
 だからか、わたしは彼女に向かい、カーテシーで応えていた。

「はじめまして。そして前領主が多大なるご迷惑をお掛けしたこと、心よりお詫び申し上げます。謝って済むことではございませんが、申し訳ありませんでした」

 わたしは深く長く頭を下げた。

「そ、そんなぁ、お嬢さまに謝っていただくことではありません!」

 ペリーが慌てている。

「そうですよ、ジュレミーさまやご家族みなさまが、どれだけこの領地をよくしてくださったか」

「感謝しかありません」

 祭壇の準備をしていた町の人たちが、次々に口にした。

「そうだよ、お嬢さま。あたしたち、本当にお嬢さま一家に感謝しているんだから!」

 ミニーにギュッと飛びつかれる。
 わたしはそろそろと体を起こした。一瞬だけ、冷めた目で見られていたのを、わたしの目は捉えた。
 やっぱり、彼女はウチを許していない。

「なんかすみません。ご挨拶したかっただけなのにぃ」

「いえ、とんでもない。謝罪するべきは、こちらなのですから」

 わたしは謝りながら、彼女を観察した。



「どうした?」

 ビリーの声だ。
 ミニーが顔を上げる。
 ミニーの頭に手を置いたのはビリーで、その後ろには兄さまがいた。
  雰囲気で何かあったと思ったのだろう。

「ペリーとお嬢さまが挨拶してて……」

 ミニーが、わたしとペリーを交互に見た。
 ペリーが兄さまに目を留めて、頬を染めている。
 兄さまはわたしの肩を持って、自分の方に引き寄せた。

「どうした、リディー?」

「兄さま。おじいさまの過ちをどうしたら償えるのか、考えていたところよ」

 兄さまは思い当たったように、眉根を寄せた。

「ビリーから聞いた。君がペリーかな? ご家族は今どちらに?」

「ど、どうしてです?」

「例の2年、シュタイン領で被害に遭われた方に、せめてもと補償金を出しているんだ。ほとんどの方はどちらにいらっしゃるかわからないけれど、居処がわかる方には少しでも何かしたくてね」

 一瞬、彼女は下を向いた。

「慈悲深いんですね、現シュタイン領主さまは」

 顔をあげ、にっこり微笑んだ。
 父さま、そんな対策立ててたんだ、知らなかった。

「シュタイン領が栄えているのは、領主さまのそんな采配があるからなんでしょうね」

「ペリー、領主さまだけじゃないよ。お子さまたちも素晴らしいからね、シュタイン領は安泰だよ」

 おばさんが景気良くいう。

「さあさ、話は終わりにして準備を終わらせないとね」

 コイタさま置きが一番数があるので大変だったけれど、ビリーも兄さまも手伝ってくれたので、お昼前に終えることができた。

 わたしと兄さまは、カトレアの宿に行くのに祭壇を離れることにした。
 ビリーがミニーの手をとって、どこかに行こうとしてたので、ほっとする。
 顔馴染みに、また夕方と手をあげて、兄さまとテクテク歩く。

 兄さまは走っていくつもりだったそうだ。
 わたしの歩調に合わせると遅刻になると、わたしを抱えて走ろうかというので、わたしはもふさまに乗らせてもらうことにした。

「昨日の……エリンとノエルの話はなんだったの?」

 もふさまと並走しているのに、息が上がっていない兄さまがわたしに尋ねる。
 あの子たちがわたしに何か話したいことがあるのは、わたしにもわかったぐらいだから、兄さまも気づくよね。
 
「……わたしからは言えないんだけど、まだ小さいのに、家族を守ろうとしてくれてた」

「そうか。私はまたとんでもない未来視でも観て、リディーに打ち明けたのかと思ったよ」

 ドンピシャ。
 わたしはもふさまに乗っていて良かったと思った。
 手を繋いでいるとかしてたら、絶対バレた。

 今は、少し前屈みになって、もふさまに乗っているのがやっとのていを装う。
 もふさまの魔力に守られているから危険はないんだけど、スピードに目がついていけないとき、わたしはよくこうしているから、きっとそれだと思うだろう。

「あの娘の、ペリーの勤めている商会の名前を聞いた?」

「いいえ。兄さま、聞いたの?」

「ああ、ビリーから」

「どこなの?」

 兄さまがわざわざ話題にするということは、何かしら意味があるんだろう。

「ペネロペだ」

 え?
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

次は幸せな結婚が出来るかな?

キルア犬
ファンタジー
バレンド王国の第2王女に転生していた相川絵美は5歳の時に毒を盛られ、死にかけたことで前世を思い出した。 だが、、今度は良い男をついでに魔法の世界だから魔法もと考えたのだが、、、解放の日に鑑定した結果は使い勝手が良くない威力だった。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...