プラス的 異世界の過ごし方

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12章 人間模様、恋模様

第467話 火種⑥SOS

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「あなた、ほんっと予想外だわ。私、求められた時の心構えなんて教えられないわよ」

 ガネット先輩はクスクス笑う。

「そんなの全員違うはずだから、教えられるものじゃないですよ、大丈夫です」

 ガネット先輩はお腹を抱えて笑っている。
 笑う元気が出たなら、少し嬉しいと思う。

「よく、そんなこと思いついたわね。あれ、え? 本当のことだったり?」

 まさかと笑い飛ばすつもりで失敗した。多分顔が赤くなったのだろう。

「本当に? あらら、愛されてるのね」

「いえ、そんなすごいレベルの話じゃないんで!」

「ふふ、でもよかったの? あの先生信じちゃったんじゃない?」

「まさか、早くいなくなって欲しいって意味だと気づくでしょう?」

「そんな勘が良かったら、恋愛相談中ってところで察して離れたんじゃないかしら?」

 え。そ、そう言われると、そんな気もする。でも、司書の先生が生徒の話を言いふらすわけないし、別になんてことないわよね。
 今はガネット先輩だ。

「ガネット先輩」

「ん?」

 笑いすぎて、目の端に溜まった涙を指で拭っている。

「小さい頃、お茶会の主宰を任されたことがありました」

「ああ、貴族だとそんなことがあるのね」

「第2王子殿下に場所は指定されて。そのお茶会の場所を提供してくださった方が、とても素晴らしい方で、お茶会に集まる方々もその方と繋がりのある方でした」

 そう、というように先輩は頷く。

「その方は騙されて、その後すぐにお屋敷を手放すことになっていました」

 ガネット先輩の眉が寄っている。

「殿下がお茶会の場所をそこに指定したのは意味があるはず。どんな意図があるんだろうって、考えたけどわかりませんでした。お茶会が終わった後に、招かれた子供たちが恩師に起こったことを知りました。それで口々に言ったんです。わたしたちの先生なんだから、悪いことなんかに負けないでって。それで夫人は訴えることにしたんです。被害にあった時に、とても情けなく惨めな気持ちになって、思い返したくなくて、被害にあったという気持ちごと、蓋をしたんです。だから、権威ある人たちは夫人を助けたくても、夫人が声をあげないから何もできなかった」

 もふさまが腰を上げてブルッと体を震わせた。伸びをして、わたしの膝に乗ってきた。

「声をあげてください。大したことできないかもしれないけど、わたしはガネット先輩を支えたいです」

「……私、支えてもらえるような、いい先輩じゃないわ」

 ガネット先輩の表情が曇った。
 わたしは声の調子を変えて言った。楽しげに。

「わたしの評判、少し上がったんです。寮長を引き継いでくれてありがとうって。ドーン女子寮が辛いのはわかっていたのに、何もできなくて辛かったって。保身にはしる自分が汚くて、それが嫌だったって。それを覆してくれてありがとうって言われました。わたしはご飯をお腹いっぱい食べたかっただけですけど」

 もふさまをいっぱい撫でる。

「評判が上がったから、お礼です。わたし、ガネット先輩の力になります」

「……こればっかりはどうにもならないわ。私とんでもないことをしてしまったんですもの。許されない……」

 手を伸ばせば触れる位置にいるのに、ガネット先輩が遠く感じた。
 聞いてくれるし、話しているのに、違う次元にいるような。

 鐘がなった。ガネット先輩が立ち上がる。
 わたしを見る。

「ごめんね。それと、ありがとう」

 先輩は歩き出した。




「先輩を励ませなかった」

『そうか? 足取りは軽くなったようだが』

『何で引っ叩かれたのか聞けば良かったのに』

 リュックから頭だけ出す。
 レオのいうことはもっともなんだけど、言いたくないことを言わせるのは、ね。
 そういうと、レオは人族は複雑が好きなんだなーと変な納得をしていた。


 教室に行くと、アダムに保健室にでも行っていたのかと尋ねられた。
 言われて、そうだ、授業をサボったんだなと実感した。
 保健室と言われてひらめく。そうだ、いるじゃないか専門家が。
 悩みを聞いて道を指し示す、神官はそういう役目もしている。
 ルシオに人の話を聞く時のコツとか聞いてみよう。
 次の休み時間に行ってみようと思っていると、担任から呼び出された。

 職員室へ行くと、1限目、どうして授業に出なかったんだと頬杖をついたまま聞かれた。
 なんて言おうかと考えていると

「ドーン女子寮の寮母から、寮生の様子がいつもと違ったと報告が来ていてな。それで1限目、寮長のお前と、前寮長のガネットが欠席していた」

 ローマンおばあちゃん、さすがである。

「解決できそうなのか?」

 聞かれて、正直に答えた。

「……わかりません」

「えらく弱気じゃないか」

「……先生、わたしガネット先輩が〝危うい〟って気がしたんです」

 ヒンデルマン先生の隣の先生が顔をあげる。そしてこちらを見た。

「シュタインは〝そう〟感じたんだな?」

「はい」

 先生が立ち上がった。先生はわたしの頭を撫でた。
 え?

「〝仲間〟にしかできないこともある。シュタインはこれからもそれを続けてくれ。〝見守る側〟は見守る側のできることをするから」

 先生はちゃんと受け取ってくれた。自分で言っといてなんだけど、わたしは今、〝わたし〟がSOSを出したんだと気づいた。

 わたし自身が気づいてなかったのに、先生は受け取ってくれた。そして動いてくれる。さっきまでの追い詰められた感が、薄らいでゆくのを感じた。
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