プラス的 異世界の過ごし方

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12章 人間模様、恋模様

第466話 火種⑤予測不能

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「わたし、水を見ていると落ち着くんです」

「……本当に授業に出ないつもり?」

  ガネット先輩、やっぱり顔色が悪い。

「ひとつ、どうしても聞きたいことが」

「…………………………」

 青白いガネット先輩の表情が固くなる。

「チャド・リームの、どこがいいんですか?」

「なっ」

 ガネット先輩の顔が赤く染まった。
 気を削ぐことに成功した。張り詰めていた雰囲気が、違う方向に爆発したみたいだ。

「リズとのことを、聞くんじゃないの?」

「それは先輩が話したくなったらお願いします。……それより知りたいのはチャド・リームです」

「リームさまは5年生よ、敬意を持って」

「チャド・リームさまのどこがいいんですか?」

 敬意を示して、再び尋ねる。
 ガネット先輩は、池の淵に座る。
 わたしも隣に座った。

「私の住む領地の領主さまのご子息よ。話したでしょ、子供の頃、身分とかわからずに、一緒に遊びまわったの。私ね、不思議と思うことがいっぱいあったの。空はどこまでが空なのか。魔法の意味、魔素の不思議。みんなに聞きたがり屋だって、からかわれた。けれど、答えを教えてくれる人はいなかった。からかったり、ばかにするだけ。そんな中、リームさまだけが調べてくれたの。わからない時は、調べたけどここまでしかわからなかった、とね。私はそんなリームさまを尊敬しているの。だから、変な思いじゃないのよ。勘違いしないで」

 ふーん、そうだったんだ。いいところもあるんだね。

「ガネット先輩は魔法の意味、わかったんですか?」

「リームさまに教わったわ。魔法とは魔の法則を編むことよ」

 その時わたしは衝撃を受けた。雷を受けたぐらいの! って雷を受けたことないんだけど。でも頭にガツンと何かがわたしに突き刺さった。

「……リーム領って王都からどの方向ですか?」

「え? 西よ。王都から5日ね。途中、転移門を使えば1日半よ」

 いいな、西もあるんだ。東もあるって聞いたから、本当に北方面だけないんだね。どんだけ栄えてなかったかということがわかるってもんだ。……切実に北側にも転移門を作って欲しい。

「あなたって予測不能だわ」

 ガネット先輩はクスッと笑った。

「ねぇ、もふさま、だったわよね。触らせてもらってもいいかな?」

「もふさま、いい?」

 もふさまは一回しっぽを揺らして、わたしとガネット先輩の間に座り直した。

「いいみたいです」

 告げると、ガネット先輩はそうっともふさまの背中に手を当てた。そしてゆっくりと動かす。

「すっごく柔らかい毛なのね。……体が熱いところは、他の動物と一緒だわ」

 顎の辺りを撫でている。もふもふ上級者だね。

『この娘も迷い子だな』

「ふふふ、気持ちいい?」

 もふさまの声を喉を鳴らしたと思ったようだ。
 再戦は決まったのに、ガネット先輩は未だ浮上できていない。
 他の先輩たちは寄付金を学園祭で集めると決めてから、ずいぶん落ち着いた。
 再戦の結果も勝負に負けた方がひと月、何もかもを削った生活をするだけだ。
 いつまで続くかわからないとなれば辛いかもしれないけど、期間もひと月と設けてある。一度経験があるだけに、それなら、がむしゃらに勝負すればいいだけと腹を決めたようだった。

 そんなふうにみんなが出来事に決着をつけ、新しい何かに目を向け始めても、ガネット先輩だけはずっと辛そうだった。
 試験という言葉が出るたびに、痛みを覚えるようだった。トップだっただけにみんなに悪くて、その思いから立ち直れなくて、先輩の傷が癒えるには、みんなよりずっと時間がかかってしまうのかと思っていた。でも、それだけじゃないのかもしれない……。
 それがヤーガンさまとの何かなのかな?
 それともチャド・リームに関する? いいや、チャド・リームの話をした時、特別に感情の揺れはないように感じたけど……。

「私、前寮長に、次の寮長になってくれって言われた時、すごく嬉しかった。認められたんだって思って。ガネットガンネが人の上に立てるなんて、誇らしかった。けれど、私は上に立つ器じゃなかった。シュタインさん、あなたみたいな人が上に立つ人なんだわ」

 壊れそうに笑うから、危ういと思った。
 どうしよう。ガネット先輩、変だ。

 でも、わたしはガネット先輩が何を好きで、何をしたら喜ぶのかわからない。

「ガネット先輩の好きなことって何ですか?」

「好きなこと? なんだろう? 小さい頃はあった気がするけど……」

「わたしは食べることが好きです。楽しそうなことが好きです。もふもふが好きです」

「すっごく、わかるわぁ。シュタインさんらしい」

「わたし夏休み前に失敗しちゃったんです」

「失敗?」

 わたしは静けさが降りることを恐れて、脈絡なく思いつくことを話した。

「いっぱいいっぱいになっちゃって、家族に心配をかけながら、いけないことをいくつもやり倒していました。ただ会いたいって、その気持ちだけに突き動かされて」

 ガネット先輩が微かに頷く。

「心配をかけて、いけないことをしたのに、わたし怒られなかったんです。怒られなくてほっとしながら、怒られるより胸が痛かった……」

「……わかるわ」

「じゃあ怒られたかったのかというと、それとも違うんですけど」

「私は怒られたいのかもしれないわ」

 さっき、先輩はみんなに叩かれなくちゃとか言わなかったっけ?
 何があったんだろう?

「あれ、授業はどうしたんだい? サボリかな?」

 音なく近づいてきたのは新人司書のマヌカーニ先生だった。
 もふさまは相変わらずガネット先輩に撫でられたままで緊張もしていないから、悪い何かではない、はず。

「授業は自主的に休んでいます」

「それをサボるっていうんじゃないっけ?」

「今、授業より大切な話をしているんです」

「へー、それは興味あるなぁ」

 あっちへ行けと含ませたのに、通じないのか。

「今、恋愛相談中なんです、男性には聞いて欲しくありません」

 しっかりと拒絶した。
 ガネット先輩は瞬きをしている。

「1年生の君が、恋愛相談を?」

「ええ。婚約者に求められた場合の心構えを。同じ歳の方に聞くのも何ですので、寮の先輩に聞いていますの。邪魔なさらないでください」

「こ、婚約者……に、も、求め……。……………………。お邪魔しました」

 やっと回れ右した。
 司書の先生がいなくなってから、ガネット先輩は吹き出した。
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