プラス的 異世界の過ごし方

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11章 学園祭

第450話 普通の子供

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 展示と聞いて、前世の展覧会を思い浮かべていたのだが、それよりずっと深いものだった。研究結果のわかりやすいプレゼンみたいな。
 レベルが高いというか……。

「さすがユオブリア、レベルが高いですね。これが4年生? すぐにでも官僚になれそうだ」

 将軍孫が唸った。
 お世辞をいうような子には見えないし……本当にそう思っていそうな感じだ。
 確かにこんな案件を考えられる柔軟性は子供の特権だと思うし、もしそれを実現できる権力とさらなる深い思考が加われば、未来は明るい気がする。

 展示も楽しめるものだとわかったので、片っ端から入っていった。ロサもカフェに貢献していてほとんど回っていなかったそうで、新鮮だと楽しんでいる。
 これはすごい案だ、よく実験したね、など言い合いながら、教室を回っていく。
 レモネードで喉を潤して、おしゃべりして。将軍孫は人当たりは悪くないので、気を許しそうになって、慌てて気を引き締めたりした。
 そしてクレープ屋に行って、お金を落としてくれた。毎度あり。

 ロサが見るものや手にしたものはロイヤル追い風が吹く。
 ますます長蛇の列になった。ありがとーございます。
 わたしは練習の時から長いスパンでクレープを食べ過ぎているので、今日は食べなかった。もふさまにわたしの分を食べてもらう。

『チョコだけのものも、これはこれでおいしいな』

 でしょ! 鉄板で温めてチョコがとろけるから、他のみたいにチョコを振りかけるのとはまた違ったおいしさがあるんだよ。
 そう言いたいけど、ロサや将軍孫がいるから言えない。
 後で覚えてたら言おう。

 そんなふうにふらふらと目につくところに入ったり、食べたりしているうちに、クラブの当番の時間になった。

 わたしがそういった時、ブライが駆けてきた。

「ロサ殿下!」

 わたしたちに挨拶してから、ロサに耳打ちした。
 なんかあったみたい。

「生徒会に戻らなくてはならないようだ。残念だが、ここまでだ」

 わたしやロビ兄、最後に将軍孫に挨拶して、ブライと一緒に歩いて行った。
 本当に店番なんだけれどもと、言ってみたがついてくるという。
 ロビ兄も付き合ってくれるみたいだから、まぁいいけど。

 当番に3人という大所帯で行くと、エッジ先輩は顔を引きつらせていた。
 パラパラとだけど人は訪れる。エッジ先輩のお菓子は完売、ユキ先輩と部長の絵と椅子が数点残るだけだ。
 商品も少ないし、外に出ていていいよと言われる。
 っていうか、広くはない部室に、お客さまだけでなく3人いて鬱陶しいのだろう。
 最後の当番の時間も30分と元々短かったので、お言葉に甘える。
 部室から出て、屋上で待機した。お客さんが増えたら応援に入ろう。

「学園というのは思ったより楽しそうだな」

「ガゴチに学園はないんですか?」

「……ああ、ないな。教育など不要。武を極めろという方針だ」

「それなのに留学はどうして?」

 将軍孫がこちらを見た。

「さぁな、ジジイとオヤジの考えだから。でも俺は思惑にただ乗るつもりはない。学びはどんなことでも必要だから、俺はそれを糧にして新しいガゴチを作る」

「新しいガゴチ?」

「ジジイもオヤジも頭がおかしいんだ。奪うことでしか国を守れないと思っている。古い考えだ。そんなんだから、余計にバカにされんだ。でも武の部分は尊敬している」

「強いのか?」

 ロビ兄が初めて将軍孫に話しかけた。

「ああ、強いぞ」

「お前は強いのか?」

「ジジイやオヤジには全く届かない」

「リー、木刀出して」

「え、ここで?」

 ロビ兄が頷くから、見せ収納袋から木刀を取り出す。

「収納袋持ちか?」

「ダンジョンで出たんだ」

 ロビ兄がわたしの代わりに答えて、木刀の一本を将軍孫に投げた。

「打ち合いしようぜ」

 将軍孫はニヤリと笑った。
 受け取った木刀をお互いに打ち付けた。

 一拍おいて、すごい速さで打ち付ける音が聞こえる。けど剣筋は見えない。
 早い、早すぎる。

 カン カン カン カン カン カカーン カン カン カン カッ

 お互いに飛び退く。お互いに走り寄ってまた剣先がぶつかり合う。

『ほう、これは……』

 もふさまの尻尾が揺れる。楽しそうに。

 ギャラリーが集まり出した。
 そりゃそうだよな。何のパフォーマンスかと思ったのだろう。
 決着はなかなかつかない。
 ロビ兄と同じぐらい強い。

 木刀が飛んできて、もふさまが咥えた。

「リー、ごめん、大丈夫?」

「もふさまが守ってくれた」

「もふさま、感謝します!」

 将軍孫が弾いたロビ兄の木刀が、わたしたちの方に飛んできたのだ。

「もふさま、ありがと」

 お礼を言えば、もふさまは木刀をペッとした。

「すまない、怪我がなくてよかった」

 将軍孫は顔を青くしている。

「わざとじゃないのはわかっていますから、大丈夫ですよ」

「お前、強いな」

 ロビ兄がニッと笑う。釣られたのか将軍孫も笑った。
  こうしていると普通の子供にしか見えない。腕は立つし、頭も良さそうだけど。

 でもさ、ガゴチ将軍の孫なんだ。
 この子は何をするつもりがなくても、将軍はアイリス嬢とメロディー嬢と懇意にしたがったっぽい。何かを仕掛けるつもり? 聖女候補を拐おうとしたぐらいだから、アイリス嬢はわかる。でもメロディー嬢は? すでに婚約者もいる。それも相手は第1王子だ。
 何、何が目的?
 聖女候補で何をする気なの?
 ……でも、この子はただその人たちの子供なだけだ。

 それはわかっているけれど、誘拐犯1の国にしたことを知ってしまった。その国の将軍の子だと思うと……。
 歴史を辿れば、国の成り立ちは血生臭いものが付き纏う。ユオブリアだって、最初は領土を広げていった。それもわかってる。

 だけど、ガゴチという国名を聞くだけで、気持ちが穏やかではいられない。
 目の前にいる子は、普通と変わらないのに。
 なんていうか、気持ちの収めどころが難しい……。
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