450 / 799
11章 学園祭
第450話 普通の子供
しおりを挟む
展示と聞いて、前世の展覧会を思い浮かべていたのだが、それよりずっと深いものだった。研究結果のわかりやすいプレゼンみたいな。
レベルが高いというか……。
「さすがユオブリア、レベルが高いですね。これが4年生? すぐにでも官僚になれそうだ」
将軍孫が唸った。
お世辞をいうような子には見えないし……本当にそう思っていそうな感じだ。
確かにこんな案件を考えられる柔軟性は子供の特権だと思うし、もしそれを実現できる権力とさらなる深い思考が加われば、未来は明るい気がする。
展示も楽しめるものだとわかったので、片っ端から入っていった。ロサもカフェに貢献していてほとんど回っていなかったそうで、新鮮だと楽しんでいる。
これはすごい案だ、よく実験したね、など言い合いながら、教室を回っていく。
レモネードで喉を潤して、おしゃべりして。将軍孫は人当たりは悪くないので、気を許しそうになって、慌てて気を引き締めたりした。
そしてクレープ屋に行って、お金を落としてくれた。毎度あり。
ロサが見るものや手にしたものはロイヤル追い風が吹く。
ますます長蛇の列になった。ありがとーございます。
わたしは練習の時から長いスパンでクレープを食べ過ぎているので、今日は食べなかった。もふさまにわたしの分を食べてもらう。
『チョコだけのものも、これはこれでおいしいな』
でしょ! 鉄板で温めてチョコがとろけるから、他のみたいにチョコを振りかけるのとはまた違ったおいしさがあるんだよ。
そう言いたいけど、ロサや将軍孫がいるから言えない。
後で覚えてたら言おう。
そんなふうにふらふらと目につくところに入ったり、食べたりしているうちに、クラブの当番の時間になった。
わたしがそういった時、ブライが駆けてきた。
「ロサ殿下!」
わたしたちに挨拶してから、ロサに耳打ちした。
なんかあったみたい。
「生徒会に戻らなくてはならないようだ。残念だが、ここまでだ」
わたしやロビ兄、最後に将軍孫に挨拶して、ブライと一緒に歩いて行った。
本当に店番なんだけれどもと、言ってみたがついてくるという。
ロビ兄も付き合ってくれるみたいだから、まぁいいけど。
当番に3人という大所帯で行くと、エッジ先輩は顔を引きつらせていた。
パラパラとだけど人は訪れる。エッジ先輩のお菓子は完売、ユキ先輩と部長の絵と椅子が数点残るだけだ。
商品も少ないし、外に出ていていいよと言われる。
っていうか、広くはない部室に、お客さまだけでなく3人いて鬱陶しいのだろう。
最後の当番の時間も30分と元々短かったので、お言葉に甘える。
部室から出て、屋上で待機した。お客さんが増えたら応援に入ろう。
「学園というのは思ったより楽しそうだな」
「ガゴチに学園はないんですか?」
「……ああ、ないな。教育など不要。武を極めろという方針だ」
「それなのに留学はどうして?」
将軍孫がこちらを見た。
「さぁな、ジジイとオヤジの考えだから。でも俺は思惑にただ乗るつもりはない。学びはどんなことでも必要だから、俺はそれを糧にして新しいガゴチを作る」
「新しいガゴチ?」
「ジジイもオヤジも頭がおかしいんだ。奪うことでしか国を守れないと思っている。古い考えだ。そんなんだから、余計にバカにされんだ。でも武の部分は尊敬している」
「強いのか?」
ロビ兄が初めて将軍孫に話しかけた。
「ああ、強いぞ」
「お前は強いのか?」
「ジジイやオヤジには全く届かない」
「リー、木刀出して」
「え、ここで?」
ロビ兄が頷くから、見せ収納袋から木刀を取り出す。
「収納袋持ちか?」
「ダンジョンで出たんだ」
ロビ兄がわたしの代わりに答えて、木刀の一本を将軍孫に投げた。
「打ち合いしようぜ」
将軍孫はニヤリと笑った。
受け取った木刀をお互いに打ち付けた。
一拍おいて、すごい速さで打ち付ける音が聞こえる。けど剣筋は見えない。
早い、早すぎる。
カン カン カン カン カン カカーン カン カン カン カッ
お互いに飛び退く。お互いに走り寄ってまた剣先がぶつかり合う。
『ほう、これは……』
もふさまの尻尾が揺れる。楽しそうに。
ギャラリーが集まり出した。
そりゃそうだよな。何のパフォーマンスかと思ったのだろう。
決着はなかなかつかない。
ロビ兄と同じぐらい強い。
木刀が飛んできて、もふさまが咥えた。
「リー、ごめん、大丈夫?」
「もふさまが守ってくれた」
「もふさま、感謝します!」
将軍孫が弾いたロビ兄の木刀が、わたしたちの方に飛んできたのだ。
「もふさま、ありがと」
お礼を言えば、もふさまは木刀をペッとした。
「すまない、怪我がなくてよかった」
将軍孫は顔を青くしている。
「わざとじゃないのはわかっていますから、大丈夫ですよ」
「お前、強いな」
ロビ兄がニッと笑う。釣られたのか将軍孫も笑った。
こうしていると普通の子供にしか見えない。腕は立つし、頭も良さそうだけど。
でもさ、ガゴチ将軍の孫なんだ。
この子は何をするつもりがなくても、将軍はアイリス嬢とメロディー嬢と懇意にしたがったっぽい。何かを仕掛けるつもり? 聖女候補を拐おうとしたぐらいだから、アイリス嬢はわかる。でもメロディー嬢は? すでに婚約者もいる。それも相手は第1王子だ。
何、何が目的?
聖女候補で何をする気なの?
……でも、この子はただその人たちの子供なだけだ。
それはわかっているけれど、誘拐犯1の国にしたことを知ってしまった。その国の将軍の子だと思うと……。
歴史を辿れば、国の成り立ちは血生臭いものが付き纏う。ユオブリアだって、最初は領土を広げていった。それもわかってる。
だけど、ガゴチという国名を聞くだけで、気持ちが穏やかではいられない。
目の前にいる子は、普通と変わらないのに。
なんていうか、気持ちの収めどころが難しい……。
レベルが高いというか……。
「さすがユオブリア、レベルが高いですね。これが4年生? すぐにでも官僚になれそうだ」
将軍孫が唸った。
お世辞をいうような子には見えないし……本当にそう思っていそうな感じだ。
確かにこんな案件を考えられる柔軟性は子供の特権だと思うし、もしそれを実現できる権力とさらなる深い思考が加われば、未来は明るい気がする。
展示も楽しめるものだとわかったので、片っ端から入っていった。ロサもカフェに貢献していてほとんど回っていなかったそうで、新鮮だと楽しんでいる。
これはすごい案だ、よく実験したね、など言い合いながら、教室を回っていく。
レモネードで喉を潤して、おしゃべりして。将軍孫は人当たりは悪くないので、気を許しそうになって、慌てて気を引き締めたりした。
そしてクレープ屋に行って、お金を落としてくれた。毎度あり。
ロサが見るものや手にしたものはロイヤル追い風が吹く。
ますます長蛇の列になった。ありがとーございます。
わたしは練習の時から長いスパンでクレープを食べ過ぎているので、今日は食べなかった。もふさまにわたしの分を食べてもらう。
『チョコだけのものも、これはこれでおいしいな』
でしょ! 鉄板で温めてチョコがとろけるから、他のみたいにチョコを振りかけるのとはまた違ったおいしさがあるんだよ。
そう言いたいけど、ロサや将軍孫がいるから言えない。
後で覚えてたら言おう。
そんなふうにふらふらと目につくところに入ったり、食べたりしているうちに、クラブの当番の時間になった。
わたしがそういった時、ブライが駆けてきた。
「ロサ殿下!」
わたしたちに挨拶してから、ロサに耳打ちした。
なんかあったみたい。
「生徒会に戻らなくてはならないようだ。残念だが、ここまでだ」
わたしやロビ兄、最後に将軍孫に挨拶して、ブライと一緒に歩いて行った。
本当に店番なんだけれどもと、言ってみたがついてくるという。
ロビ兄も付き合ってくれるみたいだから、まぁいいけど。
当番に3人という大所帯で行くと、エッジ先輩は顔を引きつらせていた。
パラパラとだけど人は訪れる。エッジ先輩のお菓子は完売、ユキ先輩と部長の絵と椅子が数点残るだけだ。
商品も少ないし、外に出ていていいよと言われる。
っていうか、広くはない部室に、お客さまだけでなく3人いて鬱陶しいのだろう。
最後の当番の時間も30分と元々短かったので、お言葉に甘える。
部室から出て、屋上で待機した。お客さんが増えたら応援に入ろう。
「学園というのは思ったより楽しそうだな」
「ガゴチに学園はないんですか?」
「……ああ、ないな。教育など不要。武を極めろという方針だ」
「それなのに留学はどうして?」
将軍孫がこちらを見た。
「さぁな、ジジイとオヤジの考えだから。でも俺は思惑にただ乗るつもりはない。学びはどんなことでも必要だから、俺はそれを糧にして新しいガゴチを作る」
「新しいガゴチ?」
「ジジイもオヤジも頭がおかしいんだ。奪うことでしか国を守れないと思っている。古い考えだ。そんなんだから、余計にバカにされんだ。でも武の部分は尊敬している」
「強いのか?」
ロビ兄が初めて将軍孫に話しかけた。
「ああ、強いぞ」
「お前は強いのか?」
「ジジイやオヤジには全く届かない」
「リー、木刀出して」
「え、ここで?」
ロビ兄が頷くから、見せ収納袋から木刀を取り出す。
「収納袋持ちか?」
「ダンジョンで出たんだ」
ロビ兄がわたしの代わりに答えて、木刀の一本を将軍孫に投げた。
「打ち合いしようぜ」
将軍孫はニヤリと笑った。
受け取った木刀をお互いに打ち付けた。
一拍おいて、すごい速さで打ち付ける音が聞こえる。けど剣筋は見えない。
早い、早すぎる。
カン カン カン カン カン カカーン カン カン カン カッ
お互いに飛び退く。お互いに走り寄ってまた剣先がぶつかり合う。
『ほう、これは……』
もふさまの尻尾が揺れる。楽しそうに。
ギャラリーが集まり出した。
そりゃそうだよな。何のパフォーマンスかと思ったのだろう。
決着はなかなかつかない。
ロビ兄と同じぐらい強い。
木刀が飛んできて、もふさまが咥えた。
「リー、ごめん、大丈夫?」
「もふさまが守ってくれた」
「もふさま、感謝します!」
将軍孫が弾いたロビ兄の木刀が、わたしたちの方に飛んできたのだ。
「もふさま、ありがと」
お礼を言えば、もふさまは木刀をペッとした。
「すまない、怪我がなくてよかった」
将軍孫は顔を青くしている。
「わざとじゃないのはわかっていますから、大丈夫ですよ」
「お前、強いな」
ロビ兄がニッと笑う。釣られたのか将軍孫も笑った。
こうしていると普通の子供にしか見えない。腕は立つし、頭も良さそうだけど。
でもさ、ガゴチ将軍の孫なんだ。
この子は何をするつもりがなくても、将軍はアイリス嬢とメロディー嬢と懇意にしたがったっぽい。何かを仕掛けるつもり? 聖女候補を拐おうとしたぐらいだから、アイリス嬢はわかる。でもメロディー嬢は? すでに婚約者もいる。それも相手は第1王子だ。
何、何が目的?
聖女候補で何をする気なの?
……でも、この子はただその人たちの子供なだけだ。
それはわかっているけれど、誘拐犯1の国にしたことを知ってしまった。その国の将軍の子だと思うと……。
歴史を辿れば、国の成り立ちは血生臭いものが付き纏う。ユオブリアだって、最初は領土を広げていった。それもわかってる。
だけど、ガゴチという国名を聞くだけで、気持ちが穏やかではいられない。
目の前にいる子は、普通と変わらないのに。
なんていうか、気持ちの収めどころが難しい……。
62
お気に入りに追加
1,227
あなたにおすすめの小説
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結・短編】婚約破棄された悪役令嬢は、隣国でもふもふの息子と旦那様を手に入れる
未知香
恋愛
フィリーナは、婚約者の護衛に突き飛ばされここが前世の乙女ゲームの世界であることに気が付いた。
……そして、今まさに断罪されている悪役令嬢だった。
婚約者は憎しみを込めた目でフィリーナを見て、婚約破棄を告げた。
ヒロインであろう彼女は、おびえるように婚約者の腕に顔をくっつけて、勝ち誇ったように唇をゆがめた。
……ああ、はめられた。
断罪された悪役令嬢が、婚約破棄され嫁がされた獣人の国で、可愛い息子に気に入られ、素敵な旦那様と家族みなで幸せになる話です。
ハイエルフの幼女に転生しました。
レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは
神様に転生させてもらって新しい世界で
たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく
死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。
ゆっくり書いて行きます。
感想も待っています。
はげみになります。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
望月かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる