プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
447 / 868
11章 学園祭

第447話 夜が明けてみる夢

しおりを挟む
 イシュメルがどうしたらいい?と勇者さまたちに答えを委ねる。

 シンキングタイムは短く、答えはすぐに出た。王族少年がいるからってところが大きいと思うんだけど、昨日の2回目と同じ流れ。王さまに全てを任せようというもの。
 話が進んでほっとしたところだった。
 銀髪の少年が不思議そうに首を傾げた。

「学園祭でこの劇の流れは凄いな。だって、これ領主が平民の反乱を防げなかったって話だよね? 過去にそんなことがあってそれを真似た劇? それを参加させた客に判断を委ねるの? ユオブリアは面白い国だね。こうすればよかったのにって劇で国に訴えるの? それが狙い?」

 どこの国の子だか知らないけど、いろんな方面から考えられる子だね。
 絶対に外国出身で、身分は高い。ユオブリア語、流暢だし、完璧だけど。

「お前、ユオブリアをバカにする気か?」

 王族少年が銀髪少年につかみ掛かる。

「俺の言ったことを正しく聞いてくれ。外部が見にくる学園祭で、堂々とこのテーマを扱う平民のクラスに尋ねているだけだ。……そういえばD組は平民の中に貴族も混じっていると聞いた。シュタイン領であったことなのかな?」

 それが言いたかったのか? ターゲットはわたしだね。
 さっき助けてくれたのかと思ったけど、あれが弾みだったに違いない。
 王族の子は幼いからか、王族としてあろうという気持ちはあるけれど、まだ素直だ。強い調子で言われると、言葉が繋げなくなるみたい。黙ってしまった。

「あら、勇者さまたちって無粋なのね。物事ってのは途中で口を挟んだら、真相まで行きつけないわよ?」

 わたしは煽る。

「真相? この流れで何でこのテーマを選んだのかまで本当にわかるのか? それに我々がとんでもないことを言い出したらどうするんだ? 劇を無事終えられる自信があるのか?」

 こいつはただ本当に不思議と思っていて、それを口にしているだけなのかもしれない。ふと、そう思った。
 ターゲットがあって、潰してやろうと思っていたなら、そんなセリフにはならないだろう。煙に巻くつもりか?とか言って話を聞きたくないってスタンスに持っていくなどして、劇の進行を滅茶苦茶にするはずだ。
 でも、銀髪少年はちょっと違うのかもしれない。シュタインがターゲットなのはそうなのだろうけど、この劇の流れで、どう転んだとしても自分の知りたい結末はわからないだろうと思ったから、途中で尋ねたのだ。

 実はわたしたちの間でも、物語の筋が学園祭に相応しくないんじゃないかという意見は出ていた。
 ダンジョンで魔物を倒すシーンは絶対に入れたかった。みんなが楽しそうと確信し、入れたがったから。それでダンジョンに一緒に行ってもらうシチュエーションを考えて、アダムが持ってきてくれた史実を参考にしたのだ。ただ村人のやったことは犯罪が含まれている。それでモラルというか、学園祭、まさにあの少年が言ったように、外部の方が見にくる学園祭で。王族やお偉方の貴族もくるだろう学園祭で、発表する劇にはよろしくないのではないかと思いもした。

 けれどわたしたちは、そこに裏のテーマをみつけた。あくまでも〝裏〟だから気付いてもらう必要はない。表の内容で楽しんでもらえたらなと思う。
 でも、犯罪を含んでいて、それをどう捉えるかの判断を委ねることに首を傾げる人がいたら、わたしたちはわたしたちの思いを、裏のテーマを伝えたいと思っていた。
 今までの上演で突っ込まれなかったので、そちらのシナリオは使わないだろうと思っていたんだけど。

「とんでもないことなんて言わない。俺たちは騎士の勇者さまたちを信じてる」

 イシュメルが力強くいうと、子供たちみんなが頷く。
 そう、あなたたちは騎士の勇者に立候補してくれたのだから。
 劇ではあるけれど、魔物から子供を助けると思ってくれた心根を信じるよ。
 だから劇は暴走しないし、ちゃんと終えることができる。

「そういうなら、こちらも求めてる答えがもらえるんだと信じてみよう。王さまに判断を委ねよう」

 進んだ。物語が動き出す。この展開は2回目なのでスムーズだ。場面転換をして王さま登場。イシュメルはタジオ領に返し、村人たちには罰金の刑が言い渡される。さて、今回の勇者たちはわたしのお助けアイテムをどんな使い方するかな? そう思いながら問いかける。

「では、わたしからの宝を。どんな願い事もひとつだけ叶えて差し上げます」

 守りの木かな?と思いながら言うと、銀髪少年が進み出た。

「どんな願い事も?」

「はい」

「妖精のあんたが欲しい」

 あーーーーーー、ねぇーーーーーーーーーー。

 いるよね。1回だけ魔法が使えるとしたら、どんな魔法を使う?って言うと、魔法使いになるっていう奴……わたしだ。
 未来の猫型ロボットのアイテムがひとつだけもらえるとしたら何が欲しい?って言うと、四次元ポケットっていう奴……わたしだ!

「わたしがいたって、宝物はひとつ、願い事はひとつしか叶えられませんよ?」

 銀髪は頷いた。

「他の方は? この勇者さまの願い事でいいんですか?」

 みんな一歩下がる。
 えーーーー。勝手に言い出したのかと思ったけど、さっきのシンキングタイムで決まったことなのかもしれない。

「欲しいとは具体的に何を指しますか?」

 アダムのアナウンスが入る。

「そうだな、劇の後から学園祭が終わるまでの、妖精の時間が欲しい」

 客席からきゃあきゃあと声があがる。
 なにこれ、わたしこの後、いたぶられる流れ?

「妖精さん、願いを叶えますか?」

 アダム、助けろよ。全然そんな気ないよね?

「当番が入っているので無理です」

「当番か。いいぞ、手伝ってやる」

 え。

「妖精といえど、女の子ですから、一切触れないでくださいね。妖精さん、ということですので、願いを叶えてくださいね」

 アダムの奴。
 でも怒りを収め、にっこり笑う。早くここは出ていかないとね。劇を終えるために、やることがあるから。

 わたしは魔法の杖を振って、願い事が叶う魔法を振りかける。では後ほどお会いしましょうと勇者に微笑む。
 勇者たちに助けてくれてありがとうと言って退場。

 幕の中に入ると、アダムがわたしにノートを突き出した。
 シナリオの草案を書いていたものだ。
 もう赤字が少し入っていた。
 わたしは受け取って、今回の勇者さまの選んだ結末を擦り合わせ、急いで言葉を足していく。
 最後のナレーションを書き換えるためだ。
 書きあげてアダムに見せると、一読して時にはペンを走らせ、頷いてくれた。
 急いでジニーに渡す。間に合った!

 舞台では子供たちが「ありがとうございました!」と大声で声を合わせた。
 一呼吸置いてから、ジニーができたばかりの台本を読みあげる。


「そうして、イシュメルはタジオ領へと赴き、一生懸命、学び、働き、やがて領主となりました。彼は大きくなってから、かつて過ごした村を訪ねました。けれどお節介な妖精があげた守りの木があったため、イシュメルは〝村〟をみつけることができませんでした。〝領主〟の考えを持ったイシュメルと村人たちは、もう道が違ってしまったのです。
 かつての村人たちも、罪を償い、それぞれに幸せをつかみ暮らしました。でも、時々考えるのです。もしあの嵐で守りの木に雷が落ちなかったら、と。

 貴族と平民では役割が違います。でも役割をまっとうすることは同じです。罪を犯してはいけないことも同じです。ただその同じことと違うことが、こんがらがってしまったのかというようなことが時には起こります。
 参考にした史実も実際は犯罪を起こしてしまった平民側、導けなかった領主側も処分を受け、そのまま地図から消えていきました。
 領主が驚くほどの税をあげること。それに意見する領民。話を聞いてもらうために大切なものを盾にしようとする……その真相は、すんなり想像できたことではないでしょうか? 史実にも、振り返ってみれば、似たようなことはいっぱいあります。ですから想像に難くなかったのではないでしょうか?

 勇者さまより、この物語の主旨はこの場に相応しくないのではないかとご指摘がありました。私たちもそこは悩んだところでした。でも、そこに私たちは、D組だからこそ意味を持つと思って演じてきました。

 悪いことは悪いことです。罪は償うのが道理です。役割が違うこともわかっています。でもわたしたちはここで友を得ました。身分の壁をなくした友が。いずれ道が違えども、わたしたちは願います。守りの木にお互いが弾かれなくあるように。役割も何もかも違っても、友ということだけはいつまでも変わらないように。

 勇者さまたちや、過去に同じ思いをした勇者さまたちに贈ってもらった〝夜明け〟をわたしたちも繋いでいけるように……」

 余韻を残してから、ジニーの本当のラストナレーション。
 
「これにて『夜明けの勇者』は終了です。ご参加下さいました勇者さまには、一同御礼申し上げます。皆さま、ご観賞ありがとうございました。心より感謝いたします」

 シーンとした。パチ、パチッとゆっくりした拍手が早くなっていき、重なり、講堂中に拍手が響いた。

 わたしたちは学園にいることがとても楽しい。
 でもいつか、この楽しい時は終わってしまう。卒業したらみんな道は違い、会えることも少なくなる。
 道は違うし、暮らしている場所はバラバラだ。でも、わたしたちは〝友〟でいたい。いつかまた会えた時、同じことで一緒に笑い転げることができる友でありたい。
 史実は、立場の違う人たちがある期間一緒に楽しく過ごしていたが、ある出来事により映し出されたシルエットに思い知らされる。立場がどこまでも違うのだと。……そう解釈している。

 立場が違っても友でいられるか、それがわたしたちが投げかけてきた裏のテーマだ。なにをどう選ぶか、それは人それぞれに違って、それに正解も不正解もないと思っている。勇者さまたちがそれぞれ出した結論のように。
 けれど、D組の総意は〝友〟でありたい、だ。どんな結論を出したり、道を選んだり、遠回りをしてもいい。でも、やっぱり友でありたい、と。
 それは難しいかもしれない。幼いからわたしたちがそう思うだけで、大人になったら違う考えになるかもしれない。

 でも、今、わたしたちが見つけた答えはそれだったのだ。
 だから、みんなに問いかける。あなたはなにを大切にしますか?と。
 あなたの望む夜明けは、どんな未来でしょう?と。
 この楽しい学び舎で、わたしたちが最初に見つけ出した、心の琴線に触れたことだから。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。

新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。 初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。 今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。 誤字脱字等あれば連絡をお願いします。 感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。 おもしろかっただけでも励みになります。 2021/6/27 無事に完結しました。 2021/9/10 後日談の追加開始 2022/2/18 後日談完結

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

処理中です...