プラス的 異世界の過ごし方

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11章 学園祭

第444話 ファースト

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『リディア、我はここにいる。中にはフランツとふたりで行くが良い』

 え?

『何もないと思うが、何かあった時は聖樹さまの中へ飛べ、良いな?』

「う、うん」

「どうしたの?」

「もふさまがね……」

 わたしはもふさまの言葉を兄さまに伝えた。
 中庭に作られた大きな迷路は、順番待ちの生徒で列をなしている。

「リディー、大丈夫。何かあっても私がいるし、主人さまはふたりにしてくれたんじゃないかな?」

 もふさまはわたしに伝えた後、のそのそと校舎の方へ歩いて行く。
 通りすがりの生徒たちに「お遣いさまだ」と、時には祈られたりしてる。
 なんで祈る??

「迷路の必勝法って知ってる?」

「ああ、片手をつけとくとってやつ?」

 わたしが思い出しながら言うと、兄さまは頷いた。
 遠回りにはなるけど、片手を壁にずっとつけていけば、絶対出口に出られるという。

「でも、ここは魔法を使っているから、それはできないだろうけどね」

「あ、そっか」

 スタートの位置で、左手にリボンを結ばれる。魔具がついていて、同じ場所に5分以上いるとスタッフが駆けつけるそうだ。
 迷って出られない人がいたら困るものね。
 並んでいたぐらいなのに、中に入ると人は見当たらない。

「どっちに行く?」

 兄さまに尋ねられて、わたしは左の道を選んだ。

 手を繋いでゆっくり歩く。2メートル以上ある土の壁は圧迫感はあるけど、道幅がとられているからか、そこまで抜け出せない感はなかった。

「クレープ屋も、D組の劇も評判いいね」

「本当?」

「カフェで噂されてたよ。講堂でやるときに見に行くからね」

 兄さまに妖精の衣装を見せていないことを思い出して、一瞬固まる。
 父さまが過剰反応なんだ、きっとそう。自分に言い聞かせる。
 通路が分かれていたので、右に曲がる。

「あ、朗読は何時からだっけ?」

「10時から」

 兄さまは明日わたしが出演するものを見にきてくれる予定で、そのため、今日ウエイターの時間が長かったそうだ。

「ありがとう」

 そうだったのか、お礼を言うと神々しいスマイルをくれる。
 右に折れる通路があったので曲がってみた。

「ラストレッド殿下とはどこで会ったの?」

「アラ兄の魔具クラブ。魔具、すっごい進化してた。驚いちゃった」

「アランは、本当に自由に魔法を使える世の中にしてくれそうだ」

 兄さまの言葉にわたしは頷いた。
 左に曲がる。

「ラストレッド殿下は、魔具に並々ならぬ思いがあるみたいだね」

「ウチの魔具が凄いのは魔使いの家だったからかって、ウチに招待してくれって言われたよ」

 驚いたように兄さまがわたしを見る。

「いつ?」

「さっき」

「リディーに?」

「え? うん」

「……そう。エンター君とはどう? 大丈夫?」

 兄さまにも心配をかけてたみたいだ。

「父さまにも言ったけど、エンターさまは大丈夫みたい。ご本人と、王妃さまが出てきたらわからないけどね」

 手を強く握られる。

 行き止まりだった。
 壁にメッセージが貼ってあった。
【まだまだ先は長い】
 まだ歩き出したばかりだもん。

 来た道を引き返す。折れた道を左に行ってみる。

「兄さまはどう? メロディーさまとは会われたの?」

「護衛を終え、労ってもらったよ」

「それだけ?」

「……ああ、元々、それだけの関係だから」

 しばらく黙ったまままっすぐ歩き、右に折れた。壁に花を這わせてある。きれいな道だ。


 耳鳴り!
 耳というか頭がというか、不快で痛くて気持ち悪い。

 急に響いてわたしは耳を押さえた。

「リディー?」

 サイレンが鳴った。

《学園に侵入者あり、侵入者あり。警備員以外は近くにいる者同士でかたまり待機》

 非常ベルみたいのが鳴り響いている。
 兄さまはわたしを守るように抱きしめた。

 学園祭だもん、生徒以外にもいっぱい人がいる。こういう時は非常ベルは切られるって聞いたけど。侵入者ってわかるレベルの害をなす存在が入り込んだってこと?

《侵入者確保、侵入者確保》

 非常ベルは止み、サイレンが再び鳴る。

《危険は去りました。引き続き、学園祭をお楽しみください》

 ええっ??? 情報、それだけ?
 それだけで、気持ちを切り替えられるもの??

「大丈夫?」

 兄さまが心配顔だ。

「うん、おさまった」

 聖樹さまとの繋がりが強化されたからか、非常ベルが鳴る時、耳鳴りが凄いんだよね。でもこの間の時ほど長くなかったから、頭がガンガンするのもそこまででもない。

「迷路、棄権する?」

 心配そうな兄さまに、わたしは首を横に振った。

「歩ける。大丈夫。でも棄権ってどうやって?」

「5分動かずにいれば、係の人が来るだろうから待つこともできるし。リディーを抱えて壁を飛び越えるのが一番早い。お望みとあらば」

「望みません」

 兄さまは笑った。
 でもそっか、兄さまはわたしというお荷物があっても、この壁を飛び越せちゃうんだ。

 お花の道をしばらく歩いたが、そこも行き止まりだった。
 少し戻って反対側に曲がる。

「何があったんだろう?」

 もふさまが外に残ったのは何か予感することがあったのかな?

「外に出たら、わかるよ」

 兄さまがいくぶん、のんびり目に言った。
 ま、そだね。

 今度は天井が塞がっている通路で、キラキラ光る石が埋め込まれ、それが発光して、星が瞬くみたいできれいだった。

「きれいだね」

 兄さまが頷いてくれる。

「リディーは楽しい、面白い、きれい、かわいい。いっぱい好きなものがあるよね」

「うん!」

「わたしはこれからも、リディーと一緒にそういった思いを共有できたらと思う。いつも隣で共有していきたいと思う」

「わたしも、に……フランと一緒に同じものを見たい」

 兄さまに引き寄せられる。
 ちょんとおでこにキスされる。
 目があって笑えば、今度は眦にキスが降りてきた。

 今までもこういう顔キスはあった。
 そう、あったんだけど、なんだか無性に恥ずかしくなって。

 兄さまの手がわたしの顔に触れる。その手で上をむかされる。
 見上げると兄さまの瞳が熱を持っていて、ドキンと胸が跳ね上がった。
 頬に兄さまの唇が降りてきた。長く、熱い。少し開いた口の間から漏れる吐息が熱くて、兄さまの胸に置いていた手が思い切り服を掴んでいた。

 顔が離れていき、その手に手を重ねられ、兄さまを見上げる。
 熱っぽい瞳は変わらず、また兄さまの顔が近づいてくる。

 あ……。
 唇が重なって、わたしは思わず息を止めた。
 静かに重ねられた唇は、静かに離れていく。
 兄さまと目が合う。

 押されて壁に背中がぶつかる。頭に回された手で、頭はガードされていたけど。
 再び顔が近づいてきて、唇を食べられる。食い尽くすような勢いで迫られ、頭は壁についているし、顔は手でホールドされているし逃げ道はひとつもなく焦った。ますます探られ、息もしづらいし。
 その焦りもいつしかボーッとしてきて何がなんだかわからなくなる。
 カクッと足に力が入らなくなった時、兄さまに支えられた。
 兄さまの口が離れていく。見上げれば

「……物足りない顔してる」

「してないっ!」

 わたしは自由になった両手で顔を覆った。

「かわいい顔を隠さないで」

 絶対顔赤いし、涙目にもなってる。
 もう知らないと歩き出そうとしたけど、足ががくんとなる。
 もう、やだ!

「ごめん。触れたら、我慢できなくなって」

 うーーーーー。なんか恥ずかしいーーーーーーーーーっ。

「歩ける? ずっとここにいると誰か来ちゃうから」

 うー、それは勘弁。
 仕方なく兄さまの手を借りて歩き出す。

「……嫌だった?」

 あ。
 そうだ、兄さまだって不安になるよね。
 わたしは首を横に振る。

「嫌じゃない。けど、驚いて」

 兄さまは、いつもわたしに優しい。接し方もそう。わたしが宝物であるかのように、壊れ物であるかのように、そっと優しく扱う。
 それに慣れていたから、それしか知らなかったから。
 急によく知っているはずの兄さまが違う人みたいに感じられて、押し切れらた自分にびっくりして、息もつけないほど熱く口を探られて、訳わからなくなってしまった。

「また、していい?」

 そんな天使の顔で、悪魔のささやきをされても!

「し、知らない!」

 いいとは恥ずかしすぎて言えんがな!
 兄さまはクスクス笑っている。

 それにしても、兄さま、ちょっと慣れているんじゃない?
 ……本来今年17だし。どこで、誰と??
 わたしの中で疑惑が生まれた。
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