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11章 学園祭
第443話 進化した魔具
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アラ兄の所属する魔具クラブ。魔具を展示したクラスに急いだ。
「アラ兄!」
「リー、来てくれたんだね」
気づいたアラ兄に優しく出迎えられる。
それに気づいて、スタッフの何人もが寄ってくる。
「お、君が噂の妹君か」
「先輩、リーを見ないでください」
「いいじゃないか、紹介してくれよ」
アラ兄は本当に渋々、わたしを先輩たちに紹介した。
わたしはカーテシーで挨拶する。
アラ兄が展示してある魔具の説明をしてくれる。するとこれは俺が作ったんだとか、工夫したんだとか割り込んで説明が入った。
なかなか魔具作りが発展している。すごいな。
わたしはこそっと設計図のことを尋ねた。だって物によっては、2つ以上の性能を同時につけているのもありそうだ。それってできるとまずいとされてきたことだよね? でも〝制限〟を考えない子供が追求心ままに研究すれば、何年かでここまで水準があがること? 子供でそうなんだから、大人だって本当はとっくに気づいているはず。
「アラ兄、この水準、大丈夫なの?」
目をつけられたりしないのか、不安になって尋ねる。
もふさまは気になった魔具があったようで、匂いを嗅いだりしている。
「賞を取ったりしてるから、認められてきてるんだと思うよ。気づいている人たちは少しずつ制限の枠を広げている。なんたって子供でも考えつくことなんだからね。賞で認められたってことは、そこまでは〝できる〟ことになるから」
魔具の設計図もずいぶんコンパクトに、そしてショートカットを埋め込むものも出てきているそうだ。ひとつの回路にひとつの魔法を乗せる、そんな術式を描いた設計図が今までの魔具だった。その術式に、メインとはならない簡単な動作の術式を、たとえるなら数学で「X」で未知数を表したように、「X」として完結している術式を、埋め込むやり方が流行っていて。簡単なものしかまだできないそうだけれど、その範囲でなら2つ以上の性能を同時にってことも可能になったとか。
これ、あと何年かでわたしが作った魔具も普通に流通できるんじゃない?
そしたら、魔具を作って売れる!
急に場の雰囲気が変わったので、なんだ?と思って振り返ると、フォルガードの王子が部屋に入ってきたところだった。
目があったので、頭だけ下げて挨拶をしておく。
アラ兄はクレープを食べてくれたそうで、おいしかったと言ってくれた。
劇は講堂のを見にきてくれるって。
わたしはロビ兄の演舞を見たんだと報告した。とってもカッコよかったと。
それから、ここの魔具に感動したとも。こっそりアラ兄が設計を教えたのかと聞けば、してないよと嬉しそうに笑った。
そっか、アラ兄が手を貸すことなく、そこまで進んでいるんだね。魔具も、魔法も夜明けは近い! それは言い過ぎだとしても、近づいている。そう、明けない夜はないんだ。
「リーはこれからどうするの?」
「兄さまのカフェに行こうと思って」
「そっか。おれ、今店番なんだ」
「気にしないで」
「それなら私と行こう。これからブレドのカフェに行くところだったんだ」
後ろから声がかかって、アラ兄が苦虫を噛み潰したような表情だ。
ラストレッド殿下と何かあったのかな?
「殿下は魔具をまだ十分に見ていないのでは? 私がご説明いたしますよ」
アラ兄が食い下がる。
「また来るから、その時に頼むよ」
ラストレッド殿下は、そう言って微笑むと、わたしに行こうと促した。
うーむ。どうしようかと思ったけれど、最初の計画通り、生徒会のカフェに行くことにした。もふさまも一緒だから、いっか。
苦手というわけではないが、まだそこまで一緒に過ごしたわけでもないので、ふたりになると会話に困る。あ、もふさまと、殿下の護衛は少し後ろにいるけどね。
黙って歩くのもなんなので話しかけることにした。
「5のCの迷路には行かれましたか?」
殿下は首を横に振った。
「知り合いが?」
「はい、知り合いもいますけど、難しいけど楽しかったって噂を聞いたので」
「へー、そうか。明日行ってみようかな」
「ユオブリアはいかがですか?」
「楽しいよ。魔力が多いからもっとみんなバンバン魔法を使っているのかと思ったが、そうではないのだな。それから魔具の発展がすごい。……でもそれはこの学園と君の家だけみたいだけど」
何を言い出すかな。身構えると、もふさまの毛がわたしの足に触れた。すぐそばにいてくれてる。
「君の家、元は魔使いの家だったんだって? それでいろんな魔具があったの?」
よくご存知だこと。調べれば、すぐわかることだけど。
それにしても、興味津々だ。
「まぁ、そんな感じです」
「君の家に招待してくれない?」
ラストレッド殿下に両手を取られる。
ええっ?
「おい、ラス!」
唐突にロサが現れて、ラストレッド殿下の肩をつかんだ。
その視線で気づいたように。
「ああ、すまない。昂ってしまった!」
ふと周りを見れば、めちゃくちゃ注目を浴びている。
話しながらカフェの近くに来ていたようだ。
人もいつの間にか多かったし、自国の王子とフォルガードの王子がひとりの女生徒を挟み、何やら言い合っている、そんな風に見えたのだろう。
ロサはラストレッド殿下の手を外しにかかった。
「ブレド、お前、心が狭いぞ」
「な、何を言う。こ、婚約者のいる女性の手をとるなんて、友人として諫めているだけだ」
「リディー?」
「兄さま!」
ざわついているから、外まで見に来たらしい兄さま。
「どうしたの、何かあった?」
ロサと殿下に目を走らせる。
「うーうん、別に。お茶をいただきに来たよ」
そう告げればにっこりと笑った。
「ラストレッド殿下も、いらっしゃいませ。ロサ殿下、中に」
兄さまが促す。
わたしとラストレッド殿下は同じテーブルに案内された。
わたしはミルクティーを注文し、殿下はロサおすすめのクッキーとレモンのパウンドケーキ、それから紅茶を注文した。
ダニエルが入れてくれた紅茶って本当おいしいんだよね、なんでだろう?
ラストレッド殿下はクッキーをわたしの方に寄せて一緒に食べようと言ってくれた。一つだけいただくことにする。
「シュタイン嬢の婚約は、政略か?」
ずいぶん直球だ。
「いいえ、相思相愛です」
わたしが答えると殿下は吹き出した。ちょっと、失礼じゃない?
憮然としていると
「あ、悪かった。そう力強く言えるのは珍しいだろう」
まだ笑ってる。
ひどいなー、釣り合ってないとか思ってて、わたしがひとりで相思相愛と思っていると思ってそうだ。
「本当ですから! 兄さまに聞いてもいいですよ」
「嘘だとは思わないよ。それにフランツの気持ちも疑わない」
意味ありげに笑う。どういう意味?
嘘ではなくて、兄さまの気持ちは疑わないって言ったら、必然的に疑うのはわたしの気持ちってことにならない?
「楽しんでいただけてますか?」
ダニエルだ。
「ダニエルの紅茶は最高です。本当においしい!」
「喜んでいただけて何よりです」
「ああ、本当に味も良くて香りがいい。君が入れたのかい?」
「はい、お茶を担当しております」
「カフェも大盛況ですね」
「シュタイン領のお菓子がおいしいですからね」
ふふふ、とわたしたちは笑い合う。
お茶やお菓子を楽しんでいる女の子たち。視線は生徒会メンバーに釘付けだ。
そりゃこんな近くで見られるし、注文となるけど、話したような気分になれるし。
みんなのウエイター姿、いつまでも見ていたくなるものね。
「劇、楽しかったです。ハラハラしましたが、面白かったですよ」
「ありがとうございます」
「ダニエルはもう見たんだね?」
「はい、明日の講堂の時間は、こちらのウエイターなので」
「私は講堂の方に行かせてもらうよ」
そんなたわいのないお喋りをした。
ごちそうさまでしたと席を立つ。
「リディー」
あれ、ウエイターではなく普通の制服姿だ。
「どこか行きたいところは?」
「兄さま、もう終わりなの?」
「ああ、終わったから一緒に回らないか?」
「あ、わたし〝迷路〟に行きたい」
「迷路? ああ、5年C組のだね」
わたしは頷いた。
「殿下はいかがですか?」
「いや、私は明日行こうと思う」
「そうですか。じゃあ、リディー行こうか」
手を指し出され、その手に手を乗せる。
お会計に行くと、もう支払われていた。兄さまが奢ってくれたようだ。
お礼を言って、生徒会の方々とも挨拶をし、そこで別れた。
「アラ兄!」
「リー、来てくれたんだね」
気づいたアラ兄に優しく出迎えられる。
それに気づいて、スタッフの何人もが寄ってくる。
「お、君が噂の妹君か」
「先輩、リーを見ないでください」
「いいじゃないか、紹介してくれよ」
アラ兄は本当に渋々、わたしを先輩たちに紹介した。
わたしはカーテシーで挨拶する。
アラ兄が展示してある魔具の説明をしてくれる。するとこれは俺が作ったんだとか、工夫したんだとか割り込んで説明が入った。
なかなか魔具作りが発展している。すごいな。
わたしはこそっと設計図のことを尋ねた。だって物によっては、2つ以上の性能を同時につけているのもありそうだ。それってできるとまずいとされてきたことだよね? でも〝制限〟を考えない子供が追求心ままに研究すれば、何年かでここまで水準があがること? 子供でそうなんだから、大人だって本当はとっくに気づいているはず。
「アラ兄、この水準、大丈夫なの?」
目をつけられたりしないのか、不安になって尋ねる。
もふさまは気になった魔具があったようで、匂いを嗅いだりしている。
「賞を取ったりしてるから、認められてきてるんだと思うよ。気づいている人たちは少しずつ制限の枠を広げている。なんたって子供でも考えつくことなんだからね。賞で認められたってことは、そこまでは〝できる〟ことになるから」
魔具の設計図もずいぶんコンパクトに、そしてショートカットを埋め込むものも出てきているそうだ。ひとつの回路にひとつの魔法を乗せる、そんな術式を描いた設計図が今までの魔具だった。その術式に、メインとはならない簡単な動作の術式を、たとえるなら数学で「X」で未知数を表したように、「X」として完結している術式を、埋め込むやり方が流行っていて。簡単なものしかまだできないそうだけれど、その範囲でなら2つ以上の性能を同時にってことも可能になったとか。
これ、あと何年かでわたしが作った魔具も普通に流通できるんじゃない?
そしたら、魔具を作って売れる!
急に場の雰囲気が変わったので、なんだ?と思って振り返ると、フォルガードの王子が部屋に入ってきたところだった。
目があったので、頭だけ下げて挨拶をしておく。
アラ兄はクレープを食べてくれたそうで、おいしかったと言ってくれた。
劇は講堂のを見にきてくれるって。
わたしはロビ兄の演舞を見たんだと報告した。とってもカッコよかったと。
それから、ここの魔具に感動したとも。こっそりアラ兄が設計を教えたのかと聞けば、してないよと嬉しそうに笑った。
そっか、アラ兄が手を貸すことなく、そこまで進んでいるんだね。魔具も、魔法も夜明けは近い! それは言い過ぎだとしても、近づいている。そう、明けない夜はないんだ。
「リーはこれからどうするの?」
「兄さまのカフェに行こうと思って」
「そっか。おれ、今店番なんだ」
「気にしないで」
「それなら私と行こう。これからブレドのカフェに行くところだったんだ」
後ろから声がかかって、アラ兄が苦虫を噛み潰したような表情だ。
ラストレッド殿下と何かあったのかな?
「殿下は魔具をまだ十分に見ていないのでは? 私がご説明いたしますよ」
アラ兄が食い下がる。
「また来るから、その時に頼むよ」
ラストレッド殿下は、そう言って微笑むと、わたしに行こうと促した。
うーむ。どうしようかと思ったけれど、最初の計画通り、生徒会のカフェに行くことにした。もふさまも一緒だから、いっか。
苦手というわけではないが、まだそこまで一緒に過ごしたわけでもないので、ふたりになると会話に困る。あ、もふさまと、殿下の護衛は少し後ろにいるけどね。
黙って歩くのもなんなので話しかけることにした。
「5のCの迷路には行かれましたか?」
殿下は首を横に振った。
「知り合いが?」
「はい、知り合いもいますけど、難しいけど楽しかったって噂を聞いたので」
「へー、そうか。明日行ってみようかな」
「ユオブリアはいかがですか?」
「楽しいよ。魔力が多いからもっとみんなバンバン魔法を使っているのかと思ったが、そうではないのだな。それから魔具の発展がすごい。……でもそれはこの学園と君の家だけみたいだけど」
何を言い出すかな。身構えると、もふさまの毛がわたしの足に触れた。すぐそばにいてくれてる。
「君の家、元は魔使いの家だったんだって? それでいろんな魔具があったの?」
よくご存知だこと。調べれば、すぐわかることだけど。
それにしても、興味津々だ。
「まぁ、そんな感じです」
「君の家に招待してくれない?」
ラストレッド殿下に両手を取られる。
ええっ?
「おい、ラス!」
唐突にロサが現れて、ラストレッド殿下の肩をつかんだ。
その視線で気づいたように。
「ああ、すまない。昂ってしまった!」
ふと周りを見れば、めちゃくちゃ注目を浴びている。
話しながらカフェの近くに来ていたようだ。
人もいつの間にか多かったし、自国の王子とフォルガードの王子がひとりの女生徒を挟み、何やら言い合っている、そんな風に見えたのだろう。
ロサはラストレッド殿下の手を外しにかかった。
「ブレド、お前、心が狭いぞ」
「な、何を言う。こ、婚約者のいる女性の手をとるなんて、友人として諫めているだけだ」
「リディー?」
「兄さま!」
ざわついているから、外まで見に来たらしい兄さま。
「どうしたの、何かあった?」
ロサと殿下に目を走らせる。
「うーうん、別に。お茶をいただきに来たよ」
そう告げればにっこりと笑った。
「ラストレッド殿下も、いらっしゃいませ。ロサ殿下、中に」
兄さまが促す。
わたしとラストレッド殿下は同じテーブルに案内された。
わたしはミルクティーを注文し、殿下はロサおすすめのクッキーとレモンのパウンドケーキ、それから紅茶を注文した。
ダニエルが入れてくれた紅茶って本当おいしいんだよね、なんでだろう?
ラストレッド殿下はクッキーをわたしの方に寄せて一緒に食べようと言ってくれた。一つだけいただくことにする。
「シュタイン嬢の婚約は、政略か?」
ずいぶん直球だ。
「いいえ、相思相愛です」
わたしが答えると殿下は吹き出した。ちょっと、失礼じゃない?
憮然としていると
「あ、悪かった。そう力強く言えるのは珍しいだろう」
まだ笑ってる。
ひどいなー、釣り合ってないとか思ってて、わたしがひとりで相思相愛と思っていると思ってそうだ。
「本当ですから! 兄さまに聞いてもいいですよ」
「嘘だとは思わないよ。それにフランツの気持ちも疑わない」
意味ありげに笑う。どういう意味?
嘘ではなくて、兄さまの気持ちは疑わないって言ったら、必然的に疑うのはわたしの気持ちってことにならない?
「楽しんでいただけてますか?」
ダニエルだ。
「ダニエルの紅茶は最高です。本当においしい!」
「喜んでいただけて何よりです」
「ああ、本当に味も良くて香りがいい。君が入れたのかい?」
「はい、お茶を担当しております」
「カフェも大盛況ですね」
「シュタイン領のお菓子がおいしいですからね」
ふふふ、とわたしたちは笑い合う。
お茶やお菓子を楽しんでいる女の子たち。視線は生徒会メンバーに釘付けだ。
そりゃこんな近くで見られるし、注文となるけど、話したような気分になれるし。
みんなのウエイター姿、いつまでも見ていたくなるものね。
「劇、楽しかったです。ハラハラしましたが、面白かったですよ」
「ありがとうございます」
「ダニエルはもう見たんだね?」
「はい、明日の講堂の時間は、こちらのウエイターなので」
「私は講堂の方に行かせてもらうよ」
そんなたわいのないお喋りをした。
ごちそうさまでしたと席を立つ。
「リディー」
あれ、ウエイターではなく普通の制服姿だ。
「どこか行きたいところは?」
「兄さま、もう終わりなの?」
「ああ、終わったから一緒に回らないか?」
「あ、わたし〝迷路〟に行きたい」
「迷路? ああ、5年C組のだね」
わたしは頷いた。
「殿下はいかがですか?」
「いや、私は明日行こうと思う」
「そうですか。じゃあ、リディー行こうか」
手を指し出され、その手に手を乗せる。
お会計に行くと、もう支払われていた。兄さまが奢ってくれたようだ。
お礼を言って、生徒会の方々とも挨拶をし、そこで別れた。
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