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11章 学園祭
第440話 大丈夫か?
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「なぁ、リディー、大丈夫か?」
「大丈夫って?」
「同じクラスに、第1王子殿下の〝影〟がいて」
噛むのをやめて父さまを見あげる。自分の心を見つめ直す。
「エンターさまなら大丈夫みたい。もし、ご本人だったり、あの方が出てきたら、ちょっと自分がどう思うのか想像はつかないけど……」
うん、アダムなら大丈夫。本人だったり、王妃さまが現れたらちょっとわからないけど。
「そうか」
食べ終わった父さまは、そう言ってわたしの頭を撫でた。
「それよりね、わたしは……公爵令嬢と会いたくないの」
父さまはわたしの頭をまた撫でる。
「……学園にいれば会うこともあるだろう」
そうなんだよね。あの件があってから、幸いわたしはまだメロディー嬢に会っていない。あんなことをしておいて、何事もなかったようになるシステムもよくわからないし、メロディー嬢の心の動きが怖い。
だから会いたくないのだ。
「リディア、父さまは言った。学園は勉強以外にも人との付き合い方や、いろいろな考えを学べるところだと。人を思い合ったり、力を合わせることを体験できるところだと」
わたしは頷いた。
「いろんな思いや考えを学べるところであるけれど、理解はしなくてもいい。あると知るだけでいいんだ」
「理解しなくても?」
「人はみんな違うし、今まで生きてきた環境も何もかも違う。それをわかろうと歩み寄るのはいいことだけれど、全てを理解できると思うのは傲慢だ。同じ人間ではないのだから相手のことが全部わかることは決してない。
わからないものなのに、その気持ちもわかる、それもわかると理解できるものだと思っていたら、リディーは人の気持ちにがんじがらめになって、自分の気持ちがわからなくなってしまう。あくまで人の気持ちは人の気持ちでいいんだ。公爵令嬢の気持ちは彼女自身のもの。リディーがわかる必要はない。無理して考えなくていいんだよ」
考えたくなくて、寄り付きたくないと思っていた。逃げているような気がして、それも心に少し重たかった。
でも父さまがそれでいいと言ってくれると、考えなくていいと言ってくれると、少しだけ心が軽くなった気がする。
「あ、リディアさま」
「アイリスさま」
アイリス嬢はフォルガードの王子と一緒だった。あら、仲良くなったのね。
アイリス嬢は父さまにも挨拶をして、王子も父さまに挨拶をした。
父さまも無難に返している。
ふたりは講堂でやるときの劇を見に来てくれると言った。
お礼を言っておく。
あ。言ってたそばから……。
「リディアさま」
『我が乗せて走ってやろうか?』
わたしはお礼代わりに、もふさまを撫でる。
すこぶる笑顔で歩み寄ってきたのはメロディー嬢だった。
歩いてくるだけなのに、スポットライトが当たったように輝いて見える。
その後ろには公爵さまもいらっしゃった。
わたしは立ち上がって、ふたりに向かってカーテシーをし、父さまも礼を尽くした。
公爵さまもメロディー嬢も先日の件はひとつも触れず、輝かしい笑顔で、学園祭を楽しみましょうモードだ。なんかいろいろ話しかけられた気がするけれど、頭の中には入ってこないで、わたしを通り過ぎていく。
では、と別れに導かれる言葉が出たとき、ほっとした。
でも、メロディー嬢に手首をもたれ引き止められ、わたしの顔は引きつっていたと思う。
それを知ってか知らずか、手を離し、劇を見に行きますね、と言われた。わたしはペコリとする。
手を持たれたとき、全身に鳥肌が立った。
ずいぶんナーバスになっているみたいだ。
心のままに、しばらく近寄りたくないと思ってしまった。
寮の出し物に向かう。
「父さま、お腹にまだ余裕あるよね?」
『我も余裕があるぞ』
「しょっぱい系と甘い系どっちがいい? わたし作るよ」
「そうだな。しょっぱいのにしてもらおうかな」
『我は両方だ』
「はーい」
ふたりに近くのベンチで待っていてもらう。
うわー、結構並んでるね。
「あれ、シュタインさん、まだ早くない?」
「家族に食べてもらいたいんです。こっちで作らせてもらってもいいですか?」
「もちろん、どうぞ」
わたしはエプロンをした。そして奥に行き水魔法で手を洗った。
ひっきりなしにいつも並んでいるという。すごいね。
看板には「クレープの店」と書かれていて、できあがったクレープのイラストも描かれている。
メニューにもわかりやすいよう、イラストの解説付きだ。
メニューはしょっぱい系のものと、甘いモノに分かれている。
しょっぱい系は、甘いものが苦手な人のために取り入れた。
生地は小麦粉にミルクと卵を溶いたもの。これを薄く伸ばして包む皮とする。
中の具材が様々だ。
しょっぱい系は、ソーセージのみ、チーズのみ、ソーセージとチーズ両方がある。
かける調味料は、塩、トマトンソース、カラシ、マヨソースを揃えている。
甘い方は生クリーム、ベリー、バナーナ、そしてチョコレート!
単品でもいいし、トッピングをプラスすることもできる。
単品だと600ギル、トッピングが各100ギル。チョコレートトッピングだけ200ギルだ。チョコのみの単品だと700ギル。
わたしは父さまのソーセージチーズクレープ700ギル。もふさまの生クリームバナーナチョコの900ギル。もふさまの合わせて1600ギルと、父さまのと合わせて2300ギルを払った。
そしてふたりに持っていくのを作らせてもらった。
視線を感じる。
「え、どうしました? コンロ使います?」
しょっぱい系注文とチョコ単品注文の時しかコンロは使わない。コンロは2つあるから、使っても平気かと思ったんだけど。
「ああ、そうじゃないのよ。不思議だと思って」
「何がですか?」
「シュタインさんがやると、どこか危なっかしく見えるのよね。でもお料理上手なの知ってるし、見栄えはまぁ……だけど、でもおいしそうにも見えるのよねー。だから全然心配ないと思うんだけど、やっぱりなんかやらかしそうなのよ」
ひどい評価だ。
わたし5歳から台所に立っているのに。
……その時は、本当に立って指示してただけだけど。
「大丈夫って?」
「同じクラスに、第1王子殿下の〝影〟がいて」
噛むのをやめて父さまを見あげる。自分の心を見つめ直す。
「エンターさまなら大丈夫みたい。もし、ご本人だったり、あの方が出てきたら、ちょっと自分がどう思うのか想像はつかないけど……」
うん、アダムなら大丈夫。本人だったり、王妃さまが現れたらちょっとわからないけど。
「そうか」
食べ終わった父さまは、そう言ってわたしの頭を撫でた。
「それよりね、わたしは……公爵令嬢と会いたくないの」
父さまはわたしの頭をまた撫でる。
「……学園にいれば会うこともあるだろう」
そうなんだよね。あの件があってから、幸いわたしはまだメロディー嬢に会っていない。あんなことをしておいて、何事もなかったようになるシステムもよくわからないし、メロディー嬢の心の動きが怖い。
だから会いたくないのだ。
「リディア、父さまは言った。学園は勉強以外にも人との付き合い方や、いろいろな考えを学べるところだと。人を思い合ったり、力を合わせることを体験できるところだと」
わたしは頷いた。
「いろんな思いや考えを学べるところであるけれど、理解はしなくてもいい。あると知るだけでいいんだ」
「理解しなくても?」
「人はみんな違うし、今まで生きてきた環境も何もかも違う。それをわかろうと歩み寄るのはいいことだけれど、全てを理解できると思うのは傲慢だ。同じ人間ではないのだから相手のことが全部わかることは決してない。
わからないものなのに、その気持ちもわかる、それもわかると理解できるものだと思っていたら、リディーは人の気持ちにがんじがらめになって、自分の気持ちがわからなくなってしまう。あくまで人の気持ちは人の気持ちでいいんだ。公爵令嬢の気持ちは彼女自身のもの。リディーがわかる必要はない。無理して考えなくていいんだよ」
考えたくなくて、寄り付きたくないと思っていた。逃げているような気がして、それも心に少し重たかった。
でも父さまがそれでいいと言ってくれると、考えなくていいと言ってくれると、少しだけ心が軽くなった気がする。
「あ、リディアさま」
「アイリスさま」
アイリス嬢はフォルガードの王子と一緒だった。あら、仲良くなったのね。
アイリス嬢は父さまにも挨拶をして、王子も父さまに挨拶をした。
父さまも無難に返している。
ふたりは講堂でやるときの劇を見に来てくれると言った。
お礼を言っておく。
あ。言ってたそばから……。
「リディアさま」
『我が乗せて走ってやろうか?』
わたしはお礼代わりに、もふさまを撫でる。
すこぶる笑顔で歩み寄ってきたのはメロディー嬢だった。
歩いてくるだけなのに、スポットライトが当たったように輝いて見える。
その後ろには公爵さまもいらっしゃった。
わたしは立ち上がって、ふたりに向かってカーテシーをし、父さまも礼を尽くした。
公爵さまもメロディー嬢も先日の件はひとつも触れず、輝かしい笑顔で、学園祭を楽しみましょうモードだ。なんかいろいろ話しかけられた気がするけれど、頭の中には入ってこないで、わたしを通り過ぎていく。
では、と別れに導かれる言葉が出たとき、ほっとした。
でも、メロディー嬢に手首をもたれ引き止められ、わたしの顔は引きつっていたと思う。
それを知ってか知らずか、手を離し、劇を見に行きますね、と言われた。わたしはペコリとする。
手を持たれたとき、全身に鳥肌が立った。
ずいぶんナーバスになっているみたいだ。
心のままに、しばらく近寄りたくないと思ってしまった。
寮の出し物に向かう。
「父さま、お腹にまだ余裕あるよね?」
『我も余裕があるぞ』
「しょっぱい系と甘い系どっちがいい? わたし作るよ」
「そうだな。しょっぱいのにしてもらおうかな」
『我は両方だ』
「はーい」
ふたりに近くのベンチで待っていてもらう。
うわー、結構並んでるね。
「あれ、シュタインさん、まだ早くない?」
「家族に食べてもらいたいんです。こっちで作らせてもらってもいいですか?」
「もちろん、どうぞ」
わたしはエプロンをした。そして奥に行き水魔法で手を洗った。
ひっきりなしにいつも並んでいるという。すごいね。
看板には「クレープの店」と書かれていて、できあがったクレープのイラストも描かれている。
メニューにもわかりやすいよう、イラストの解説付きだ。
メニューはしょっぱい系のものと、甘いモノに分かれている。
しょっぱい系は、甘いものが苦手な人のために取り入れた。
生地は小麦粉にミルクと卵を溶いたもの。これを薄く伸ばして包む皮とする。
中の具材が様々だ。
しょっぱい系は、ソーセージのみ、チーズのみ、ソーセージとチーズ両方がある。
かける調味料は、塩、トマトンソース、カラシ、マヨソースを揃えている。
甘い方は生クリーム、ベリー、バナーナ、そしてチョコレート!
単品でもいいし、トッピングをプラスすることもできる。
単品だと600ギル、トッピングが各100ギル。チョコレートトッピングだけ200ギルだ。チョコのみの単品だと700ギル。
わたしは父さまのソーセージチーズクレープ700ギル。もふさまの生クリームバナーナチョコの900ギル。もふさまの合わせて1600ギルと、父さまのと合わせて2300ギルを払った。
そしてふたりに持っていくのを作らせてもらった。
視線を感じる。
「え、どうしました? コンロ使います?」
しょっぱい系注文とチョコ単品注文の時しかコンロは使わない。コンロは2つあるから、使っても平気かと思ったんだけど。
「ああ、そうじゃないのよ。不思議だと思って」
「何がですか?」
「シュタインさんがやると、どこか危なっかしく見えるのよね。でもお料理上手なの知ってるし、見栄えはまぁ……だけど、でもおいしそうにも見えるのよねー。だから全然心配ないと思うんだけど、やっぱりなんかやらかしそうなのよ」
ひどい評価だ。
わたし5歳から台所に立っているのに。
……その時は、本当に立って指示してただけだけど。
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