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10章 準備が大切、何事も
第422話 あっけない結末
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ウィットニー嬢問題は急展開をむかえ、拍子抜けするぐらいいいようにおさまった。それもメロディー嬢の采配で。
兄さまが学園とメロディー公爵家に護衛をできないと断りを入れた。
引き下がらなかったのがメロディー家というか、メロディー嬢だった。
兄さまは自分が狙われている情報を入手したとだけ告げた。
それ以上兄さまから情報が引き出せないと感じると、メロディー嬢は家の力で情報を集め、行動に出た。
調べあげウィットニーに兄さまの監禁を示唆したロジールナ令嬢に会いに行ったのだ。そして長い時間、話をして改心させたという。
彼女はウィットニーに自分のしたことを謝り、その足でロジールナ領にある修道院に向かったそうだ。学園も退園して。
生徒も借りることのできる会議室に呼び出されて、そこでメロディー嬢からそう報告を受けた。全てが終わったことになっていて驚いた。
メロディー嬢は概要をいい、無機質な机の向こう側から詳細を語り出した。
兄さまを狙っている人を探し、兄さまに起こっている問題はわたしの部屋に魔具を取りつけたマグノリア令嬢が関係しているとあたりをつけた。さらに調べを進め、ロジールナ令嬢にたどり着いたそうだ。ロジールナ令嬢とは寮が同じで、顔見知りだった。メロディー嬢はロジールナ令嬢に接触した。
ロジールナ令嬢は、兄さまに憧れていたという。
ただ見ているだけでよかったのに、わたしという婚約者が入園してきて、仲のいいわたしたちを見ることになり、嫉妬心が湧きあがったという。それがいつしか歪み、兄さまの目が自分に向かわないのはわたしがいるからだと考えた。兄さまの隣にいるのは自分であるはずなのに、わたしが魔法と魔具を駆使して兄さまを捕らえているのだと。
メロディー嬢は辛抱強くどうしてそう思ったのかを尋ねた。そして筋の通っていない、令嬢の思い込みの部分をひとつずつ解きほぐしていったそうだ。
そうして令嬢は気づかされた。全てが自分の思い込みで、そして犯罪まがいのことをし、それをまた人にやらせようとしていたことに。
気づいたとき令嬢は泣き崩れたという。
「当事者でない私が何かをいうのは間違っていると思いました。
けれど、傷ついている令嬢が罪を認め、修道院に行くと言いました。修道院に行くということは、14歳の未来ある令嬢が貴族社会から去るということですわ。
リディアさま、お部屋に魔具を仕掛けられ、とても嫌な思いをされたと思います。でも、それを実行したマグノリア令嬢は退園という処分を受けました。ロジールナ令嬢は、貴族の令嬢でありながらこれから修道院で暮らします。私はふたりとも相応の処分を受けたのではないかと思いました。ですから、彼女がそのまま修道院に行くのを止めませんでした。
リディアさまはそれ以上に彼女たちに罰を望まれますか?」
辛そうな顔でわたしをみつめてくる。
その時、わたしの心の中にはいろんな感情が渦巻いていた。
ひとつは外野が何を言ってんだ? って思い。
もし、わたしがメロディー嬢に、今こういう状態なんです。解決策が見つからなくて、助けてください! と協力を求めたんだったら、メロディー嬢がこうしましたよと言ってきても、任せたんだもん、ありがとうございました一択しかないと思う。
でも、誰が頼んだ?
コトを起こさず未然に防いだ、それは称賛に値する。
それにわたしだって、あれ以上に何かが起こってないのであれば、それ以上に罰を与えてほしいとは思っていない。
けれど〝それ以上に彼女たちに罰を望まれますか?〟とおきれいな顔を辛そうに歪ませて聞かれると、素直にお礼をいう気になれなかった。
それから、ロジールナ令嬢がそんなことをしたのは、わたしに巣食う呪いの欠片が彼女の憎しみを膨らませてしまったのかといたたまれない気持ちもある。
同時に。
ロジールナ令嬢がウィットニー嬢に謝るのは当然だ。魔具を仕掛けさせ、そのことで退園することになったのだから。でもそのウィットニー嬢のやった、魔具をわたしの部屋に置いたことを、わたしには謝らないわけ?と、心の狭いことを思っている。
いたたまれない気持ちと、謝るならわたしにもだろっ、と正反対に向かう気持ちを抱えている。
そしてあっけなさすぎる。言われてすぐに改心できるもの?
その気にさせるような甘い報酬を囁き、人を使って〝魔具〟を仕掛けるような人が? まだ衝動的に自分でやってしまったとかなら、感情的で突発的な性格で窘められて改心したという流れはわかる気がする。感情が落ち着けば理性的なところが戻ってきて、自分の行動を鑑みられるからだ。
けれど、彼女はマグノリア令嬢を使った。そこには冷静さがある。自分のしたことだとバレないように頭を使っている。十分、理性的だ。理論的に考えらえる人が、指摘されたからって認めてすぐに改心するもの?
いや、でも本当に退園したわけだし。
わたしはチラリとメロディー嬢を盗み見る。
わたしはメロディー嬢を否定的な気持ちでみたいだけなのかもしれない。
メロディー嬢はコトが起こる前に、そう、事前に防ぎ、そして改心までさせた。
そう聞くと、ウィットニーにコトを起こさせて、そこを捕まえようと思っていた自分が恥ずかしくなる。だからメロディー嬢のしたことを単に認めたくなくて、あーだこーだ思いを巡らせているだけなのかもしれない。
第一王子は王さまにはならないと言われているけれど、もし王位を継ぐことがあれば、その婚約者であるメロディー嬢は王妃さまとなる。問題を事前に収めることのできる力量、だてに婚約者と選ばれたのではないんだと納得してしまった。
それからロジールナ令嬢に違和感がある。彼女とはミス・スコッティーがいなくなった後に少しだけ話を聞きに行った。その時話しただけだけど、特にわたしに含むところはないように思っていた。わたしの観察力がないといえばそれまでなんだけど、でもすっごいサラッとした時間だった。
なんか柳みたいな人だと思ったのを覚えている。柳に風っていえばいいのかな。逆らうことをせず、風に吹かれるままにしなやかに生きていくような。問題のあるミス・スコッティーの後ろ盾だったことも、表面的には「なんてこと」と悲観する言葉を使っていたけれど、別段困っていなくて、情報をくれる人とだけ思っていただけのように感じた。あの彼女に憎むという熱い感情があって、それを人にやらせたりするようには見えず、わたしのロジールナ令嬢の印象と一致しなかった。
わたしが何も言わずにいると、兄さまが言った。
「なぜ、あなたがウチの問題に介入してきたかはわかりませんが、ロジールナ令嬢の気持ちを変えさせた手腕には称賛しお礼を言います。けれど、どう処分するかはウチに任せていただきたかった」
メロディー嬢はハッとする。
「良かれと思っていたしましたが、出しゃばりすぎたようですね。申し訳ありません。罰を与えるというのなら、公爵家が間に入りましょう」
「それは必要ありません」
兄さまが突っぱねる。
「どうして、ですの?」
「これはウチの問題で、メロディー公爵家とはなんの関係もないからです」
その時、わたしは全身が鳥肌立った。
「……失礼いたしました。ランディラカさま、けれどこれで憂ごとはなくなったはず。私の護衛は引き続きお願いできますね?」
「いいえ。お断りします」
「なぜ、ですの? リディアさまが反対されていて?」
「いいえ、お伝えした通りです。私は問題を抱えています。そんな私は護衛に相応しくありません」
「問題は解決しました!」
メロディー嬢が初めて感情的だった。
「そうですね、ひとつは片付きましたが、他にもあります」
「わ、私の護衛がしたくなくて、理由を作りますのね?」
「聡明なメロディー公爵令嬢、私では力不足です。あなたをしっかり守れる、護衛をお探しください」
静けさが舞い降りる。
「……わかりました。ランディラカさまが護衛を降りるとおっしゃられてから、お願いする方を選んでいただいています。ただ明日だけ、どなたも都合がつかないのです。最後と思って、明日だけお願いできないでしょうか? リディアさま、どうかお願いします。明日はジェイさまもブライさまも都合がどうしてもつかなくて……」
兄さまと顔を合わせる。
兄さまは少しだけ足元を見て、顔をあげた。
「わかりました。突然今日代わってもらって、ジェイにも迷惑をかけましたし。明日は私が護衛をさせていただきます」
「よかった。ありがとうございます」
それはきれいにメロディー嬢は微笑んだ。
兄さまが学園とメロディー公爵家に護衛をできないと断りを入れた。
引き下がらなかったのがメロディー家というか、メロディー嬢だった。
兄さまは自分が狙われている情報を入手したとだけ告げた。
それ以上兄さまから情報が引き出せないと感じると、メロディー嬢は家の力で情報を集め、行動に出た。
調べあげウィットニーに兄さまの監禁を示唆したロジールナ令嬢に会いに行ったのだ。そして長い時間、話をして改心させたという。
彼女はウィットニーに自分のしたことを謝り、その足でロジールナ領にある修道院に向かったそうだ。学園も退園して。
生徒も借りることのできる会議室に呼び出されて、そこでメロディー嬢からそう報告を受けた。全てが終わったことになっていて驚いた。
メロディー嬢は概要をいい、無機質な机の向こう側から詳細を語り出した。
兄さまを狙っている人を探し、兄さまに起こっている問題はわたしの部屋に魔具を取りつけたマグノリア令嬢が関係しているとあたりをつけた。さらに調べを進め、ロジールナ令嬢にたどり着いたそうだ。ロジールナ令嬢とは寮が同じで、顔見知りだった。メロディー嬢はロジールナ令嬢に接触した。
ロジールナ令嬢は、兄さまに憧れていたという。
ただ見ているだけでよかったのに、わたしという婚約者が入園してきて、仲のいいわたしたちを見ることになり、嫉妬心が湧きあがったという。それがいつしか歪み、兄さまの目が自分に向かわないのはわたしがいるからだと考えた。兄さまの隣にいるのは自分であるはずなのに、わたしが魔法と魔具を駆使して兄さまを捕らえているのだと。
メロディー嬢は辛抱強くどうしてそう思ったのかを尋ねた。そして筋の通っていない、令嬢の思い込みの部分をひとつずつ解きほぐしていったそうだ。
そうして令嬢は気づかされた。全てが自分の思い込みで、そして犯罪まがいのことをし、それをまた人にやらせようとしていたことに。
気づいたとき令嬢は泣き崩れたという。
「当事者でない私が何かをいうのは間違っていると思いました。
けれど、傷ついている令嬢が罪を認め、修道院に行くと言いました。修道院に行くということは、14歳の未来ある令嬢が貴族社会から去るということですわ。
リディアさま、お部屋に魔具を仕掛けられ、とても嫌な思いをされたと思います。でも、それを実行したマグノリア令嬢は退園という処分を受けました。ロジールナ令嬢は、貴族の令嬢でありながらこれから修道院で暮らします。私はふたりとも相応の処分を受けたのではないかと思いました。ですから、彼女がそのまま修道院に行くのを止めませんでした。
リディアさまはそれ以上に彼女たちに罰を望まれますか?」
辛そうな顔でわたしをみつめてくる。
その時、わたしの心の中にはいろんな感情が渦巻いていた。
ひとつは外野が何を言ってんだ? って思い。
もし、わたしがメロディー嬢に、今こういう状態なんです。解決策が見つからなくて、助けてください! と協力を求めたんだったら、メロディー嬢がこうしましたよと言ってきても、任せたんだもん、ありがとうございました一択しかないと思う。
でも、誰が頼んだ?
コトを起こさず未然に防いだ、それは称賛に値する。
それにわたしだって、あれ以上に何かが起こってないのであれば、それ以上に罰を与えてほしいとは思っていない。
けれど〝それ以上に彼女たちに罰を望まれますか?〟とおきれいな顔を辛そうに歪ませて聞かれると、素直にお礼をいう気になれなかった。
それから、ロジールナ令嬢がそんなことをしたのは、わたしに巣食う呪いの欠片が彼女の憎しみを膨らませてしまったのかといたたまれない気持ちもある。
同時に。
ロジールナ令嬢がウィットニー嬢に謝るのは当然だ。魔具を仕掛けさせ、そのことで退園することになったのだから。でもそのウィットニー嬢のやった、魔具をわたしの部屋に置いたことを、わたしには謝らないわけ?と、心の狭いことを思っている。
いたたまれない気持ちと、謝るならわたしにもだろっ、と正反対に向かう気持ちを抱えている。
そしてあっけなさすぎる。言われてすぐに改心できるもの?
その気にさせるような甘い報酬を囁き、人を使って〝魔具〟を仕掛けるような人が? まだ衝動的に自分でやってしまったとかなら、感情的で突発的な性格で窘められて改心したという流れはわかる気がする。感情が落ち着けば理性的なところが戻ってきて、自分の行動を鑑みられるからだ。
けれど、彼女はマグノリア令嬢を使った。そこには冷静さがある。自分のしたことだとバレないように頭を使っている。十分、理性的だ。理論的に考えらえる人が、指摘されたからって認めてすぐに改心するもの?
いや、でも本当に退園したわけだし。
わたしはチラリとメロディー嬢を盗み見る。
わたしはメロディー嬢を否定的な気持ちでみたいだけなのかもしれない。
メロディー嬢はコトが起こる前に、そう、事前に防ぎ、そして改心までさせた。
そう聞くと、ウィットニーにコトを起こさせて、そこを捕まえようと思っていた自分が恥ずかしくなる。だからメロディー嬢のしたことを単に認めたくなくて、あーだこーだ思いを巡らせているだけなのかもしれない。
第一王子は王さまにはならないと言われているけれど、もし王位を継ぐことがあれば、その婚約者であるメロディー嬢は王妃さまとなる。問題を事前に収めることのできる力量、だてに婚約者と選ばれたのではないんだと納得してしまった。
それからロジールナ令嬢に違和感がある。彼女とはミス・スコッティーがいなくなった後に少しだけ話を聞きに行った。その時話しただけだけど、特にわたしに含むところはないように思っていた。わたしの観察力がないといえばそれまでなんだけど、でもすっごいサラッとした時間だった。
なんか柳みたいな人だと思ったのを覚えている。柳に風っていえばいいのかな。逆らうことをせず、風に吹かれるままにしなやかに生きていくような。問題のあるミス・スコッティーの後ろ盾だったことも、表面的には「なんてこと」と悲観する言葉を使っていたけれど、別段困っていなくて、情報をくれる人とだけ思っていただけのように感じた。あの彼女に憎むという熱い感情があって、それを人にやらせたりするようには見えず、わたしのロジールナ令嬢の印象と一致しなかった。
わたしが何も言わずにいると、兄さまが言った。
「なぜ、あなたがウチの問題に介入してきたかはわかりませんが、ロジールナ令嬢の気持ちを変えさせた手腕には称賛しお礼を言います。けれど、どう処分するかはウチに任せていただきたかった」
メロディー嬢はハッとする。
「良かれと思っていたしましたが、出しゃばりすぎたようですね。申し訳ありません。罰を与えるというのなら、公爵家が間に入りましょう」
「それは必要ありません」
兄さまが突っぱねる。
「どうして、ですの?」
「これはウチの問題で、メロディー公爵家とはなんの関係もないからです」
その時、わたしは全身が鳥肌立った。
「……失礼いたしました。ランディラカさま、けれどこれで憂ごとはなくなったはず。私の護衛は引き続きお願いできますね?」
「いいえ。お断りします」
「なぜ、ですの? リディアさまが反対されていて?」
「いいえ、お伝えした通りです。私は問題を抱えています。そんな私は護衛に相応しくありません」
「問題は解決しました!」
メロディー嬢が初めて感情的だった。
「そうですね、ひとつは片付きましたが、他にもあります」
「わ、私の護衛がしたくなくて、理由を作りますのね?」
「聡明なメロディー公爵令嬢、私では力不足です。あなたをしっかり守れる、護衛をお探しください」
静けさが舞い降りる。
「……わかりました。ランディラカさまが護衛を降りるとおっしゃられてから、お願いする方を選んでいただいています。ただ明日だけ、どなたも都合がつかないのです。最後と思って、明日だけお願いできないでしょうか? リディアさま、どうかお願いします。明日はジェイさまもブライさまも都合がどうしてもつかなくて……」
兄さまと顔を合わせる。
兄さまは少しだけ足元を見て、顔をあげた。
「わかりました。突然今日代わってもらって、ジェイにも迷惑をかけましたし。明日は私が護衛をさせていただきます」
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