421 / 799
10章 準備が大切、何事も
第421話 穢れ
しおりを挟む
「リディア嬢?」
ロサの声がした気がする。目が重たい。
なんとか目を開けると、ロサとイザークとラストレッド殿下がいた。
わたしは座り込んでいた。
体を起き上がらせようと思うのに、うまくいかない。
「オーラの色がところどころ変色している」
「どういうことだ?」
「ルシオかメリヤス先生に診てもらった方がいい」
「保健室に連れて行こう」
「殿下、兄である私が運びますので」
「そんなことを言っている場合ではないだろう!」
……なんとなくそんな会話が聞こえた気がしたが、次に気がついた時、わたしは保健室のベッドの上だった。
「リー、大丈夫?」
『リディア大丈夫か?』
横からアラ兄ともふさまに覗き込まれた。
ゆっくり体を起こす。アラ兄が手助けしてくれる。
「大丈夫だけど、いったいどうなって?」
「イザークや殿下たちと会ったのを覚えてる?」
「なんとなく」
「その後気を失っちゃったんだ。それで慌てて保健室に」
「どうやら穢れに触れたようですね?」
後ろから現れたのはメリヤス先生だった。
「穢れ、ですか?」
耳慣れない言葉だ。
「穢れというそのものがあるわけではありません。悪しき思いが精神や魔力を蝕むことを指します。瘴気が極端に少ない人は、人が多いところで穢れに触れやすいと書物にありました。学園は人が多いですが、シュタイン嬢は今までならなかったから大丈夫かと思ったのですが、今日は体調が悪かったのかな?」
先生は探るようにわたしを見た。
「寝不足でした」
「それが原因かもしれないですね。弱っているときは、悪しきものに、支配されやすい。これからこんなふうに気分が悪くなったら、これを手に少しとって、自分に数滴ふりかけて」
先生は話しながら後ろにある備え付けられた棚に手を伸ばした。部屋はいつも清潔で整えられている。棚だけが異質で所狭しといろいろな薬の類が置かれているが、見る人が見ればその法則性はわかるのだろう。一番上の先生しか手の届かないところに手を伸ばし、瓶のようなものを掴んだ。
それを持ってきて、わたしに差し出す。
ちいさな綺麗なガラス瓶だ。
「これは?」
アラ兄が尋ねると、
「聖水ですよ」
とメリヤス先生は微笑んだ。
そっか、こういう時、聖水が効くのか。聖水ならもふさまの水浴び場にあるからなくなったらもらいに行けるか。
「ごめんね、リー、オレが驚かせたから」
「驚いたは驚いたけど、そのせいではないよ」
多分。
メリヤス先生が微笑んだ。
「お兄さんから何を聞いたんだい?」
「それがその、この間学園に不法侵入して捕らえられた人が亡くなったことを。知ってると思ってつい言ってしまったら、みるみる顔色が悪くなって……」
「確か侵入者が捕らえられた時、シュタイン嬢も一緒にいたんでしたね?」
「……はい」
「今はどうですか? そのことを思い出して気分が悪いですか?」
「なんともないです」
「今まで人の亡くなった話を聞いて、ここまで気分が悪くなったことはありますか?」
「……いいえ」
「そうですか……。神託を得られる神官は皆、聖水を持っていました。神は〝高エネルギー〟の存在で人族と話すときは人族のレベルまで自らを落として〝同エネルギー体〟レベルになるそうです。そういったことができるから〝神〟なのですが。でもそれは魔のある高位の者もできることのようです。人を誑かそうとして、神のふりをして話しかけてくる者もいるらしく、昔、悪しき者ではないか聖水を撒き、その反応で見極めたと聞きます。その名残で神官は悪しき何かを退けるために聖水を常備しています」
アラ兄がごくんと喉を鳴らした音がわたしまで届く。
「それが妹に何か関係が?」
「神託を聞ける者でなくても、人以外の存在に耳を傾けることができるものは、悪しき力の余波を受けたりするのです。ふと、そのことを思い出しました。怖がらせるつもりはありません。けれど、私も神官の端くれ。ふと思いついたことに、今は繋がりが見えなくても何かあることを経験上知っています」
先生は申し訳なさそうにした。
「確かなことを言えなくて申し訳ありませんが。シュタイン嬢、気をつけてお過ごしください。あなたは良くない何かを感じ取ったのかもしれません」
わたしはアラ兄と顔を見合わせた。
「先生、ありがとうございました」
アラ兄に続いてわたしもお礼を言ってから保健室を出た。
廊下の角を曲がってから、アラ兄にお願いする。
「アラ兄、兄さま……あと、レオたち大丈夫か父さまに伝達魔法で聞いてもらってくれる?」
「わかった。リーはどうする? 行ってくるから、ここで待ってる?」
「ううん、寮に帰る」
「じゃあ、送っていく」
「ううん。早く結果を知りたい。わかったら、伝達魔法でわたしにも知らせてほしい」
アラ兄は下に視線をやり一瞬考えたけれど、即決した。
「わかった。もふさま、リーのこと頼みます」
もふさまは頷いた。
アラ兄は廊下を走り出して、あっという間に見えなくなった。どちらかというとアラ兄が勉強、ロビ兄が運動方面に力を発揮するように見えていたけれど、その走りっぷりはロビ兄と全く同じだった。
部屋に届いた伝達魔法の手紙には、兄さまもレオたちも無事で何も起きてはいないから安心しなさいと書いてあった。
レオたちもなんだかんだ楽しそうにやっている旨を父さまが教えてくれた。
ほっとする。
先生が雰囲気出していうから、なんかわたし感じ取っちゃったのかと思って、気が昂ってしまったみたいだ。
侵入者が亡くなっていたことを聞いた時、口封じ?と頭に浮かんだ。嫌な話ではある。でもあそこまで気分が悪くなったのは、おかしいと思える。その前に魔力が暴走しそうになった。それを引きずっていたのかな?
それが一番しっくりくる気がする。
ロサの声がした気がする。目が重たい。
なんとか目を開けると、ロサとイザークとラストレッド殿下がいた。
わたしは座り込んでいた。
体を起き上がらせようと思うのに、うまくいかない。
「オーラの色がところどころ変色している」
「どういうことだ?」
「ルシオかメリヤス先生に診てもらった方がいい」
「保健室に連れて行こう」
「殿下、兄である私が運びますので」
「そんなことを言っている場合ではないだろう!」
……なんとなくそんな会話が聞こえた気がしたが、次に気がついた時、わたしは保健室のベッドの上だった。
「リー、大丈夫?」
『リディア大丈夫か?』
横からアラ兄ともふさまに覗き込まれた。
ゆっくり体を起こす。アラ兄が手助けしてくれる。
「大丈夫だけど、いったいどうなって?」
「イザークや殿下たちと会ったのを覚えてる?」
「なんとなく」
「その後気を失っちゃったんだ。それで慌てて保健室に」
「どうやら穢れに触れたようですね?」
後ろから現れたのはメリヤス先生だった。
「穢れ、ですか?」
耳慣れない言葉だ。
「穢れというそのものがあるわけではありません。悪しき思いが精神や魔力を蝕むことを指します。瘴気が極端に少ない人は、人が多いところで穢れに触れやすいと書物にありました。学園は人が多いですが、シュタイン嬢は今までならなかったから大丈夫かと思ったのですが、今日は体調が悪かったのかな?」
先生は探るようにわたしを見た。
「寝不足でした」
「それが原因かもしれないですね。弱っているときは、悪しきものに、支配されやすい。これからこんなふうに気分が悪くなったら、これを手に少しとって、自分に数滴ふりかけて」
先生は話しながら後ろにある備え付けられた棚に手を伸ばした。部屋はいつも清潔で整えられている。棚だけが異質で所狭しといろいろな薬の類が置かれているが、見る人が見ればその法則性はわかるのだろう。一番上の先生しか手の届かないところに手を伸ばし、瓶のようなものを掴んだ。
それを持ってきて、わたしに差し出す。
ちいさな綺麗なガラス瓶だ。
「これは?」
アラ兄が尋ねると、
「聖水ですよ」
とメリヤス先生は微笑んだ。
そっか、こういう時、聖水が効くのか。聖水ならもふさまの水浴び場にあるからなくなったらもらいに行けるか。
「ごめんね、リー、オレが驚かせたから」
「驚いたは驚いたけど、そのせいではないよ」
多分。
メリヤス先生が微笑んだ。
「お兄さんから何を聞いたんだい?」
「それがその、この間学園に不法侵入して捕らえられた人が亡くなったことを。知ってると思ってつい言ってしまったら、みるみる顔色が悪くなって……」
「確か侵入者が捕らえられた時、シュタイン嬢も一緒にいたんでしたね?」
「……はい」
「今はどうですか? そのことを思い出して気分が悪いですか?」
「なんともないです」
「今まで人の亡くなった話を聞いて、ここまで気分が悪くなったことはありますか?」
「……いいえ」
「そうですか……。神託を得られる神官は皆、聖水を持っていました。神は〝高エネルギー〟の存在で人族と話すときは人族のレベルまで自らを落として〝同エネルギー体〟レベルになるそうです。そういったことができるから〝神〟なのですが。でもそれは魔のある高位の者もできることのようです。人を誑かそうとして、神のふりをして話しかけてくる者もいるらしく、昔、悪しき者ではないか聖水を撒き、その反応で見極めたと聞きます。その名残で神官は悪しき何かを退けるために聖水を常備しています」
アラ兄がごくんと喉を鳴らした音がわたしまで届く。
「それが妹に何か関係が?」
「神託を聞ける者でなくても、人以外の存在に耳を傾けることができるものは、悪しき力の余波を受けたりするのです。ふと、そのことを思い出しました。怖がらせるつもりはありません。けれど、私も神官の端くれ。ふと思いついたことに、今は繋がりが見えなくても何かあることを経験上知っています」
先生は申し訳なさそうにした。
「確かなことを言えなくて申し訳ありませんが。シュタイン嬢、気をつけてお過ごしください。あなたは良くない何かを感じ取ったのかもしれません」
わたしはアラ兄と顔を見合わせた。
「先生、ありがとうございました」
アラ兄に続いてわたしもお礼を言ってから保健室を出た。
廊下の角を曲がってから、アラ兄にお願いする。
「アラ兄、兄さま……あと、レオたち大丈夫か父さまに伝達魔法で聞いてもらってくれる?」
「わかった。リーはどうする? 行ってくるから、ここで待ってる?」
「ううん、寮に帰る」
「じゃあ、送っていく」
「ううん。早く結果を知りたい。わかったら、伝達魔法でわたしにも知らせてほしい」
アラ兄は下に視線をやり一瞬考えたけれど、即決した。
「わかった。もふさま、リーのこと頼みます」
もふさまは頷いた。
アラ兄は廊下を走り出して、あっという間に見えなくなった。どちらかというとアラ兄が勉強、ロビ兄が運動方面に力を発揮するように見えていたけれど、その走りっぷりはロビ兄と全く同じだった。
部屋に届いた伝達魔法の手紙には、兄さまもレオたちも無事で何も起きてはいないから安心しなさいと書いてあった。
レオたちもなんだかんだ楽しそうにやっている旨を父さまが教えてくれた。
ほっとする。
先生が雰囲気出していうから、なんかわたし感じ取っちゃったのかと思って、気が昂ってしまったみたいだ。
侵入者が亡くなっていたことを聞いた時、口封じ?と頭に浮かんだ。嫌な話ではある。でもあそこまで気分が悪くなったのは、おかしいと思える。その前に魔力が暴走しそうになった。それを引きずっていたのかな?
それが一番しっくりくる気がする。
52
お気に入りに追加
1,227
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください
捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。
クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」
パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。
夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる……
誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ハイエルフの幼女に転生しました。
レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは
神様に転生させてもらって新しい世界で
たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく
死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。
ゆっくり書いて行きます。
感想も待っています。
はげみになります。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる