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10章 準備が大切、何事も
第420話 ある女生徒の野望(後編)
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コビー氏と別れた後に、アラ兄たちと協議して、直近で一緒のお茶会へ2回以上行っている令嬢をピックアップして、アルノルトに調べてもらった。特にウチと敵対しているような家はなかったが、知っている名前があった。ミス・スコッティーの後ろ盾だったロジールナ伯爵家だ。マグノリア家は男爵家だけど、お友達は伯爵家が多い。
翌々日、コビー氏から連絡があった。酷く慌てていた。
3人の令嬢がウィットニー嬢に会いにきたそうだ。
お茶を楽しんで帰っていったが、その後からウィットニー嬢の様子がおかしい。何があったと聞くと、ある令嬢にとんでもないことを頼まれていた。
ウィットニー嬢もさすがにそれは犯罪だとわかり、自分にはとてもできないとパニックになっていたそうだ。
その犯罪とは、兄さまを拉致して、監禁することだった。
「は?」
わたしは聞いたことを話してくれているにすぎない、年上の相手だということも忘れて、訝しさ100%の〝は?〟を返してしまった。
パニクっていたウィットニー嬢は今までの出来事もコビーに全部打ち明けたそうだ。話をまとめると。
ある令嬢は、兄さまと結ばれる運命らしい。
それをわたしが邪魔だてしていると。
兄さまもわたしから逃げたいのだけれど、わたしが夜な夜な術をかけて運命をねじ曲げているそうだ。その証拠を掴むのに、わたしの部屋に録画の魔具を仕掛けたらしい。
「お尋ねしますが、世の中には運命をねじ曲げる術なるものがあるんですの?」
わたしは知らないけど、そんなポピュラーな呪術があるのかと思って、コビー氏に尋ねる。
「私ははじめて聞きました」
一般的じゃないってこと?
いや、術のことは一旦置いておこう。問題はそこじゃない。
兄さまを監禁するって何が目的なわけ? そりゃ監禁するのが目的なわけだけど。
結ばれるって本当にそう考えているとか?
『リディア、落ち着け』
「リー、大丈夫か?」
ロビ兄に肩をガシッと持たれた。
息が荒くなってる自分に驚く。まずい。
大丈夫、何も起こらない!
自分の中の魔力を丸く回転させるイメージ。
大丈夫、鎮まれ。
目を開けると、アラ兄、ロビ兄、コビー氏、もふさまが心配そうにわたしを見ていた。
黒幕はわたしに何か含むところがあるんだろうと思っていただけに、兄さまがターゲットとわかりびっくりだ。自分じゃなくて人が標的ってめちゃくちゃ心臓に悪い。
何か仕掛けてくるなら、逆手に取ろうと思っていた。
ウィットニーが誰それにやれと指示されたと言っても、証拠がない限り、陥れられたって言われるのがオチだし。人にやらせるタイプの人はウィットニーがやらなければ次のトカゲの尻尾を探すだろう。新手が出てくるより、注意するべき人がウィットニーとわかっている方がマシだと思った。でも、それはあくまで相手がわたしの場合。ターゲットが兄さまだったなんて。
さすがにどうしたらいいのかわからなくて、当事者である兄さまと、父さまにも相談をすることにした。伝達魔法の魔具を使うのに、先に兄さまを呼んで話した。
兄さまはそれは是非、行動してもらおうといった。そう父さまに話してみるとも。
ウィットニー嬢にはこのことで訴えることはしないから、言われたと通りに行動するよう促した。
「兄さま、本当にいいの?」
兄さまが強いのはわかっている。学園で3番目に強いとお墨付きもあるし。
でも監禁を望んでいるわけだから、何があるかわからない。不安になる。
「少し考えがあるんだ」
「考え?」
「ああ。私は今狙われている。問題を抱えている私は護衛に相応しくないと思うんだ。そんなことに第一王子殿下の婚約者を巻き込むわけにはいかないだろう?」
なるほど!
「それより、リディーはちゃんと眠ってる? 顔色が悪いよ」
「あ、ちょっと寝不足だけど、大丈夫」
「だめだよ。リーは寝不足で身体を壊すから」
「そうだよ、このことはおれたちに任せて、リーはできるだけ眠って」
「えー大丈夫だよ」
後は兄さまたちに任せると話はついて、わたしのことはアラ兄が教室まで送ってくれるという。一人で戻れるって言ったんだけどね。
そうしないとわたしが聞き耳をたて、なかなか教室に戻ろうとしないのでアラ兄が送ると言い出したのだ。
「ねぇ、さっき魔力を暴走させそうになってた?」
ハッとして見上げれば、アラ兄がにこっと笑った。
「リーは兄さまのことになると、ほんと弱いね」
「だって……」
口が尖ってしまう。
「兄さまは強いから大丈夫だ。リーが狙われるより、ずっと不安は少ないよ。それに護衛を断れるなら、ほっとしただろう?」
「うん、それはちょっと嬉しい」
「本当にあれは何が目的なんだろうな?」
「え? メロディーさまが第一王子殿下の婚約者なのが気に食わない嫌がらせでしょ」
「メロディー嬢の自作自演かと思ってたんだ」
「え?」
「兄さまを護衛にするためにさ」
「そ、そこまでしないでしょう」
「うん、そうだったみたいだね。でも時期的にそう思った。けどそうじゃないなら、メロディー嬢にきた手紙は本当にメロディー嬢を標的にしているのかな?と思って」
「メロディー嬢に届いたんだから、メロディー嬢が標的じゃないの?」
「うーーん、オレはフェイクかと思った」
「フェイク?」
「聖樹さまの守りがどれくらいのものなのか確かめたんじゃないかと思う」
ええ?
「メロディー嬢の自作自演ならある意味よかったけれど、そうでないなら、いくつかの選択肢が生まれる。ひとつはそのまま、第一王子の婚約者になりたい者かメロディー家が婚約者なのを引き摺り下ろそうとしていて、切羽詰り学園でコトを起こそうとしている可能性。でも、変だろ? 王族やメロディー家に何かあったわけではないのに急に切羽詰まって寮に手紙を届けるなんて。それに、手紙を届けられるぐらいなら、そこでメロディー嬢に何かすることだってできるはずだ」
確かに、王族やメロディー家に何か起こったという話は聞いていない。情勢が変わっていないのに、メロディー嬢への何かが盛り上がるというのは違和感があるかも。それに〝脅迫〟も不思議といえば不思議だ。だって普通は守りが強くなるだろうからさ。……だから、嫌がらせみたいな〝脅迫〟メッセージかと思ったんだけど。
「標的はメロディー嬢と似たり寄ったりのレベルの子。王子殿下の婚約者レベルに大事にされる方。身に危険が迫っている状態で、どこまで踏み込めるかの実験だったんじゃないかとね」
「どういう意味?」
よくわからなくて尋ねた。
「今まで学園内の警備などどうなっているか外部からはわからなかったと思う。聖樹さまに守られた場所で安全と言われていた。それを人々は信じていた。だから学園内で今まで何かが起こった事はない。ところが、外国人の視察団を受け入れてしまい、聖女候補が拐われる事件が起きた。聖樹さまの守りも完璧ではないと知らしめてしまった。警備も厳重化されることは予想できても、恐らく学園内に死角はあると考えたものがいた。その者が何を狙っているのかはわからない。けれど、メロディー嬢ではない事は確かだろう。身分の高い者だ、きっと。男爵や平民ではない。ある程度の身分の高いものが狙われたらどうなるかを試したんだ。わざわざ脅迫状を出して多少は身構えさせるようにしてね」
「そ、そんな」
「父さまもそう思ってたみたいだし、学園も、大人たちはそう思っていたんじゃないかな? だからメロディー嬢の護衛も〝生徒〟で済ませられるんだ」
! 同じ情報から導き出せる答えが違いすぎる。
じゃあ学園側も本当はメロディー嬢に特に危険はないって思ってるってこと?
「でも、侵入者に狙われたのはメロディーさまだったでしょ?」
「うーーん、そういうフェイクにもできるだろう? 何もしゃべらず、すぐ亡くなったそうだけど、恐らく大陸違いって。え、あれ、リー知らなかった?」
亡くなった?
え? ……口封じ?
『大丈夫か、リディア』
わたしは片手を上げて大丈夫だといったものの、目の前が暗くなった気がして、アラ兄につかまった。もふさまも大きくなってわたしを下から支えてくれる。
「ご、ごめんね。もう知っているとばかり」
わたしは首を横に振ったが、その動作が余計に気分を悪くさせ、座り込みそうになった。
翌々日、コビー氏から連絡があった。酷く慌てていた。
3人の令嬢がウィットニー嬢に会いにきたそうだ。
お茶を楽しんで帰っていったが、その後からウィットニー嬢の様子がおかしい。何があったと聞くと、ある令嬢にとんでもないことを頼まれていた。
ウィットニー嬢もさすがにそれは犯罪だとわかり、自分にはとてもできないとパニックになっていたそうだ。
その犯罪とは、兄さまを拉致して、監禁することだった。
「は?」
わたしは聞いたことを話してくれているにすぎない、年上の相手だということも忘れて、訝しさ100%の〝は?〟を返してしまった。
パニクっていたウィットニー嬢は今までの出来事もコビーに全部打ち明けたそうだ。話をまとめると。
ある令嬢は、兄さまと結ばれる運命らしい。
それをわたしが邪魔だてしていると。
兄さまもわたしから逃げたいのだけれど、わたしが夜な夜な術をかけて運命をねじ曲げているそうだ。その証拠を掴むのに、わたしの部屋に録画の魔具を仕掛けたらしい。
「お尋ねしますが、世の中には運命をねじ曲げる術なるものがあるんですの?」
わたしは知らないけど、そんなポピュラーな呪術があるのかと思って、コビー氏に尋ねる。
「私ははじめて聞きました」
一般的じゃないってこと?
いや、術のことは一旦置いておこう。問題はそこじゃない。
兄さまを監禁するって何が目的なわけ? そりゃ監禁するのが目的なわけだけど。
結ばれるって本当にそう考えているとか?
『リディア、落ち着け』
「リー、大丈夫か?」
ロビ兄に肩をガシッと持たれた。
息が荒くなってる自分に驚く。まずい。
大丈夫、何も起こらない!
自分の中の魔力を丸く回転させるイメージ。
大丈夫、鎮まれ。
目を開けると、アラ兄、ロビ兄、コビー氏、もふさまが心配そうにわたしを見ていた。
黒幕はわたしに何か含むところがあるんだろうと思っていただけに、兄さまがターゲットとわかりびっくりだ。自分じゃなくて人が標的ってめちゃくちゃ心臓に悪い。
何か仕掛けてくるなら、逆手に取ろうと思っていた。
ウィットニーが誰それにやれと指示されたと言っても、証拠がない限り、陥れられたって言われるのがオチだし。人にやらせるタイプの人はウィットニーがやらなければ次のトカゲの尻尾を探すだろう。新手が出てくるより、注意するべき人がウィットニーとわかっている方がマシだと思った。でも、それはあくまで相手がわたしの場合。ターゲットが兄さまだったなんて。
さすがにどうしたらいいのかわからなくて、当事者である兄さまと、父さまにも相談をすることにした。伝達魔法の魔具を使うのに、先に兄さまを呼んで話した。
兄さまはそれは是非、行動してもらおうといった。そう父さまに話してみるとも。
ウィットニー嬢にはこのことで訴えることはしないから、言われたと通りに行動するよう促した。
「兄さま、本当にいいの?」
兄さまが強いのはわかっている。学園で3番目に強いとお墨付きもあるし。
でも監禁を望んでいるわけだから、何があるかわからない。不安になる。
「少し考えがあるんだ」
「考え?」
「ああ。私は今狙われている。問題を抱えている私は護衛に相応しくないと思うんだ。そんなことに第一王子殿下の婚約者を巻き込むわけにはいかないだろう?」
なるほど!
「それより、リディーはちゃんと眠ってる? 顔色が悪いよ」
「あ、ちょっと寝不足だけど、大丈夫」
「だめだよ。リーは寝不足で身体を壊すから」
「そうだよ、このことはおれたちに任せて、リーはできるだけ眠って」
「えー大丈夫だよ」
後は兄さまたちに任せると話はついて、わたしのことはアラ兄が教室まで送ってくれるという。一人で戻れるって言ったんだけどね。
そうしないとわたしが聞き耳をたて、なかなか教室に戻ろうとしないのでアラ兄が送ると言い出したのだ。
「ねぇ、さっき魔力を暴走させそうになってた?」
ハッとして見上げれば、アラ兄がにこっと笑った。
「リーは兄さまのことになると、ほんと弱いね」
「だって……」
口が尖ってしまう。
「兄さまは強いから大丈夫だ。リーが狙われるより、ずっと不安は少ないよ。それに護衛を断れるなら、ほっとしただろう?」
「うん、それはちょっと嬉しい」
「本当にあれは何が目的なんだろうな?」
「え? メロディーさまが第一王子殿下の婚約者なのが気に食わない嫌がらせでしょ」
「メロディー嬢の自作自演かと思ってたんだ」
「え?」
「兄さまを護衛にするためにさ」
「そ、そこまでしないでしょう」
「うん、そうだったみたいだね。でも時期的にそう思った。けどそうじゃないなら、メロディー嬢にきた手紙は本当にメロディー嬢を標的にしているのかな?と思って」
「メロディー嬢に届いたんだから、メロディー嬢が標的じゃないの?」
「うーーん、オレはフェイクかと思った」
「フェイク?」
「聖樹さまの守りがどれくらいのものなのか確かめたんじゃないかと思う」
ええ?
「メロディー嬢の自作自演ならある意味よかったけれど、そうでないなら、いくつかの選択肢が生まれる。ひとつはそのまま、第一王子の婚約者になりたい者かメロディー家が婚約者なのを引き摺り下ろそうとしていて、切羽詰り学園でコトを起こそうとしている可能性。でも、変だろ? 王族やメロディー家に何かあったわけではないのに急に切羽詰まって寮に手紙を届けるなんて。それに、手紙を届けられるぐらいなら、そこでメロディー嬢に何かすることだってできるはずだ」
確かに、王族やメロディー家に何か起こったという話は聞いていない。情勢が変わっていないのに、メロディー嬢への何かが盛り上がるというのは違和感があるかも。それに〝脅迫〟も不思議といえば不思議だ。だって普通は守りが強くなるだろうからさ。……だから、嫌がらせみたいな〝脅迫〟メッセージかと思ったんだけど。
「標的はメロディー嬢と似たり寄ったりのレベルの子。王子殿下の婚約者レベルに大事にされる方。身に危険が迫っている状態で、どこまで踏み込めるかの実験だったんじゃないかとね」
「どういう意味?」
よくわからなくて尋ねた。
「今まで学園内の警備などどうなっているか外部からはわからなかったと思う。聖樹さまに守られた場所で安全と言われていた。それを人々は信じていた。だから学園内で今まで何かが起こった事はない。ところが、外国人の視察団を受け入れてしまい、聖女候補が拐われる事件が起きた。聖樹さまの守りも完璧ではないと知らしめてしまった。警備も厳重化されることは予想できても、恐らく学園内に死角はあると考えたものがいた。その者が何を狙っているのかはわからない。けれど、メロディー嬢ではない事は確かだろう。身分の高い者だ、きっと。男爵や平民ではない。ある程度の身分の高いものが狙われたらどうなるかを試したんだ。わざわざ脅迫状を出して多少は身構えさせるようにしてね」
「そ、そんな」
「父さまもそう思ってたみたいだし、学園も、大人たちはそう思っていたんじゃないかな? だからメロディー嬢の護衛も〝生徒〟で済ませられるんだ」
! 同じ情報から導き出せる答えが違いすぎる。
じゃあ学園側も本当はメロディー嬢に特に危険はないって思ってるってこと?
「でも、侵入者に狙われたのはメロディーさまだったでしょ?」
「うーーん、そういうフェイクにもできるだろう? 何もしゃべらず、すぐ亡くなったそうだけど、恐らく大陸違いって。え、あれ、リー知らなかった?」
亡くなった?
え? ……口封じ?
『大丈夫か、リディア』
わたしは片手を上げて大丈夫だといったものの、目の前が暗くなった気がして、アラ兄につかまった。もふさまも大きくなってわたしを下から支えてくれる。
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