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10章 準備が大切、何事も
第415話 初陣③勝利への動線
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おお、押してる。みんな頑張ってる。
短い時間だからか、魔法をためらうことなく思い切り出せているようだ。
まさか最初から飛ばしてくるとは思わなかったのだろう、A組は慌てている。
守り隊のダリアとキャシーのふたりはバディーだ。ダリアが時間を知らせ、キャシーはそれを合図で伝える役目を担っている。
「2分30秒経過」
ダリアが言って、キャシーが合図を送る。突撃隊のメランが合図を受け取り
「交代」
と声をあげた。
A組が何事かと警戒している。
突撃隊の魔法で攻撃していた子は木刀を手にし、武力で戦ってきた子は魔法を使い出した。
さすがA組、戦い方がお上品だ。土魔法の使い手が5人はいたはずなのに仕掛けてこない。土魔法で足場に何かを仕掛けられると思ったけど、それがない。魔力温存かな?
ふと目を細めてみると何箇所か微かに土の色が違うところがあった。陣地の周りに。そっか、土魔法は〝守り〟に使うつもりなのね。でも、わたしたちはA組の陣地に最初に辿り着けなかったら行かないつもりだ。関係なくなるので、あの落とし穴(多分)は無視してもよさそうだ。
汚い手は使わず、正々堂々と。そんなスローガンが掲げられていそう。戦いも一対一を基本としている。
わたしは守り隊に合図を送る。みんなが中央の戦いを注視する中、守り隊のわたしたちは、地味な移動を始める。右斜め前に一歩移動だ。
何気なく、ただ見守っているふりをしながら右斜め前に移動、一歩、一歩、A組の陣地に近づく。大将の帽子が要なので、陣地はそれほど大切ではない。だからわたしたちは移動することを決めた。すべては最後の3分でわたしが敵地に乗り込める距離にするため、だ。
「2分30秒経過」
開始から5分が経った。ダリアの声に、キャシーが合図を送る。もう一度、魔法で戦うか木刀で戦うかを入れ替えて、押され気味を装っている。
いい感じ。攻め時と思ったのか、少なめ人数である守る側の3人が頷き合って走り出し、陣地から出てきて攻めに転じた。
すごいなA組は。誰かに対しての魔法攻撃ではなく、〝範囲〟で魔法を使っている。多分、それがA組の作戦なんだろう。魔法を使う時は広範囲でダメージをっていう。けれどそれがD組にはいい作用をした。逆に個人的に攻撃魔法を使われる方が慣れていないのだD組は。
魔法初心者にありがちのことなのだが。最初は魔法を使えるようになることが目標だ。だから水を出せたり、風がそよげば喜ぶ。では次にもっと強く目標物に狙いを定めてとやろうとすると、目標物まで届かないか、逆に広い範囲で雨を降らせたり、風が吹いたりする。あくまで一瞬だけれど。練習で散々とばっちりを受けてきた。だからあらぬ方から水や風がやってくることにわたしたちは慣れている。普通なら驚くだろうところでも、またかよって思うぐらいだ。文句は言うけど。
後退しているし、攻撃も受けているけれど、そこまでのダメージは受けてない。みんな、やるじゃん!
団子状の戦いになってきた。そうなるとA組も魔法を使いにくいみたいだ。味方に魔法が及ぶことを心配しているのだろう。D組は関係なく使っているけどね。レベルが低いからできる技だ。
わたしは手をあげて、守り隊の子たちに合図をした。
顔が硬っているが、わたしたちは一の陣、陣形ままに大将ごと前進する。
A組の突撃隊がそれに気づいた。こちらに向かおうとしたが、D組の突撃隊はそれを許さない。
近づいていくと砂埃がすごくて咳が出た。むせた。
わたしは水を撒いた。誰かの風魔法と融合してしまったらしい。わたしは膝下に水を撒いたつもりだったんだけど、舞い上がり落ちて水は敵も味方もびしょ濡れにした。わりと結構な量だったようだ。
「リ、リディア!」
アイデラから怒りの声が上がる。
「ご、ごめん、地面に水を撒いたつもりが……」
わ、わざとじゃないの。
A組からの視線も痛い。
「みんな戦いに集中!」
号令をあげたのはエリーだ。
さすがだね、木刀捌きは一番うまい。
D組の棄権者は誰も出ていない。すれすれに免れている。
攻撃に関しては、魔法で威嚇し体勢を崩したところに木刀で攻撃のパターンに慣れられてしまったようで、新たなA組の棄権者は出ていない。
「2分30秒経過」
キャシーの合図で役割を入れ替える。
A組の魔法が強さを増す。終わりに近くなったから魔法を思い切り使ってくるはずだ。案の定、D組の子が水鉄砲を顔にくらっている。何人か尻餅をついた。そこを木刀で突こうとしているのを見たら、思わず風ピストルを使っていた。セーフ。どっから風きた?とA組の子がキョロキョロしてる。わたしは何もしていないフリを装う。
エリーが守りの陣形に飛び込んできたので、キャシーが守り隊を囲むように水柱をあげた。守り隊を囲むように噴水が吹き上げた感じだ。
そこまでの威力はないから簡単に外から中へと入ってこられるけれど、少しだけ相手の勢いを削ぐことができる。
守り隊は入ってこようとするA組の子を木刀で叩き、阻止している。
突撃隊の子たちがD組陣地に向かったA組の突撃隊を後ろから攻撃した。
お、ユリアさま出てきたね。
あちらも陣地を抜け出して、3人がユリアさまを守りながら、こちらにやってくる。
なんとか攻撃を防いでいる突撃隊に、また攻撃する人が増えたら辛い。
キャシーに伝えると、アイデラへと合図を出す。
アイデラがギュッと目を瞑るのが見えた。
あと少しで団子の戦いに参戦のユリアさまと3人が、足を止め不安そうに周りを見ている。彼女たちはアイデラの幻影魔法で檻に閉じ込められたように見えているのだろう。
手で檻に触れようとすればすぐ気づくはずだけど。
「2分30秒経過」
戦いでけっこう入り乱れている。これなら誰が魔法を使ったかわからないだろうと、どさくさに紛れて風のカーテンで守り隊を囲む。みんなと頷き合いながら、敵大将に近づいていく。
あ、気づかれちゃった。敵大将たち4人は檻が幻影だと気づいた。怒りMAXだ。
ユリアさまは顔を赤くして歩みを進める。
帽子を狙って攻撃するD組を簡単に木刀で払った。
なかなかできる。
立ち止まったかと思うと風を飛ばし、自分にちょっかいを出せないようにした。武力も魔法も自由自在。大将をやるだけはある。
見渡せばみんな肩で息をしている。ちょっと早いけど、仕上げといこう。
「出る」
短くいうと、キャシーが合図を送った。
再び水柱が勢いよくあがる。その合間から、ユリアさま目指して走っていく。
これで走るのが早かったらかっこいいんだけどね。
鈍足なので案の定、敵の目に留まってしまう。いや、違うか。足が早くても目には留まる。妨害しようにも足が早ければ逃げきれる、ただそれだけのこと。うん、足が遅くて妨害されてもそれを切り抜けられれば、鈍足は不利にならない。
エリーの木刀を払った。エリーが本気で驚いている。失礼な!
メランがエリーに木刀を突き出した。
メランにエリーを任せ、A組大将を目指す。
わたしが大将にたどり着けるよう、みんながわたしに近づこうとするA組の子に木刀で斬り込んでいく。仕掛けてくれている。
風や水がわたし目掛けてきたが、風のカーテンで弾いておく。
土魔法も使われそうになったが、土魔法をぶつけて封じさせていただいた。
なんで発動しないの?と焦った顔が見えた。
魔法がわたしに一切届かないからだろう、みんなの目が大きくなる。
守りの3人には水鉄砲をお見舞いした。加減がわからないの、というフリをして、しっかりしばらくの間邪魔できないよう強めのものを。
大将が膝をついたので、続けてユリアさまに風をお見舞いする。後ろに転がり尻餅をついている。喉元に木刀を突きつけて動きを止め、帽子を取った。
「D組、勝利」
先生の声がした。
たったこれだけの運動量でわたしの息は荒い。
ユリアさまが憎々しげにわたしを見あげた。
わたしは帽子を胸にし、礼を尽くした。
D組のみんなが走ってきて、わたしをもみくちゃにする。
「リディア、すごい!」
「勝った! 私たち勝っちゃった!」
「嘘みたい、勝った!」
みんな目がうるうるしてる。
ぴょんぴょん飛び跳ねている子もいる。
わたしたちは肩を叩いたり、ハグをして健闘を称えあった。
短い時間だからか、魔法をためらうことなく思い切り出せているようだ。
まさか最初から飛ばしてくるとは思わなかったのだろう、A組は慌てている。
守り隊のダリアとキャシーのふたりはバディーだ。ダリアが時間を知らせ、キャシーはそれを合図で伝える役目を担っている。
「2分30秒経過」
ダリアが言って、キャシーが合図を送る。突撃隊のメランが合図を受け取り
「交代」
と声をあげた。
A組が何事かと警戒している。
突撃隊の魔法で攻撃していた子は木刀を手にし、武力で戦ってきた子は魔法を使い出した。
さすがA組、戦い方がお上品だ。土魔法の使い手が5人はいたはずなのに仕掛けてこない。土魔法で足場に何かを仕掛けられると思ったけど、それがない。魔力温存かな?
ふと目を細めてみると何箇所か微かに土の色が違うところがあった。陣地の周りに。そっか、土魔法は〝守り〟に使うつもりなのね。でも、わたしたちはA組の陣地に最初に辿り着けなかったら行かないつもりだ。関係なくなるので、あの落とし穴(多分)は無視してもよさそうだ。
汚い手は使わず、正々堂々と。そんなスローガンが掲げられていそう。戦いも一対一を基本としている。
わたしは守り隊に合図を送る。みんなが中央の戦いを注視する中、守り隊のわたしたちは、地味な移動を始める。右斜め前に一歩移動だ。
何気なく、ただ見守っているふりをしながら右斜め前に移動、一歩、一歩、A組の陣地に近づく。大将の帽子が要なので、陣地はそれほど大切ではない。だからわたしたちは移動することを決めた。すべては最後の3分でわたしが敵地に乗り込める距離にするため、だ。
「2分30秒経過」
開始から5分が経った。ダリアの声に、キャシーが合図を送る。もう一度、魔法で戦うか木刀で戦うかを入れ替えて、押され気味を装っている。
いい感じ。攻め時と思ったのか、少なめ人数である守る側の3人が頷き合って走り出し、陣地から出てきて攻めに転じた。
すごいなA組は。誰かに対しての魔法攻撃ではなく、〝範囲〟で魔法を使っている。多分、それがA組の作戦なんだろう。魔法を使う時は広範囲でダメージをっていう。けれどそれがD組にはいい作用をした。逆に個人的に攻撃魔法を使われる方が慣れていないのだD組は。
魔法初心者にありがちのことなのだが。最初は魔法を使えるようになることが目標だ。だから水を出せたり、風がそよげば喜ぶ。では次にもっと強く目標物に狙いを定めてとやろうとすると、目標物まで届かないか、逆に広い範囲で雨を降らせたり、風が吹いたりする。あくまで一瞬だけれど。練習で散々とばっちりを受けてきた。だからあらぬ方から水や風がやってくることにわたしたちは慣れている。普通なら驚くだろうところでも、またかよって思うぐらいだ。文句は言うけど。
後退しているし、攻撃も受けているけれど、そこまでのダメージは受けてない。みんな、やるじゃん!
団子状の戦いになってきた。そうなるとA組も魔法を使いにくいみたいだ。味方に魔法が及ぶことを心配しているのだろう。D組は関係なく使っているけどね。レベルが低いからできる技だ。
わたしは手をあげて、守り隊の子たちに合図をした。
顔が硬っているが、わたしたちは一の陣、陣形ままに大将ごと前進する。
A組の突撃隊がそれに気づいた。こちらに向かおうとしたが、D組の突撃隊はそれを許さない。
近づいていくと砂埃がすごくて咳が出た。むせた。
わたしは水を撒いた。誰かの風魔法と融合してしまったらしい。わたしは膝下に水を撒いたつもりだったんだけど、舞い上がり落ちて水は敵も味方もびしょ濡れにした。わりと結構な量だったようだ。
「リ、リディア!」
アイデラから怒りの声が上がる。
「ご、ごめん、地面に水を撒いたつもりが……」
わ、わざとじゃないの。
A組からの視線も痛い。
「みんな戦いに集中!」
号令をあげたのはエリーだ。
さすがだね、木刀捌きは一番うまい。
D組の棄権者は誰も出ていない。すれすれに免れている。
攻撃に関しては、魔法で威嚇し体勢を崩したところに木刀で攻撃のパターンに慣れられてしまったようで、新たなA組の棄権者は出ていない。
「2分30秒経過」
キャシーの合図で役割を入れ替える。
A組の魔法が強さを増す。終わりに近くなったから魔法を思い切り使ってくるはずだ。案の定、D組の子が水鉄砲を顔にくらっている。何人か尻餅をついた。そこを木刀で突こうとしているのを見たら、思わず風ピストルを使っていた。セーフ。どっから風きた?とA組の子がキョロキョロしてる。わたしは何もしていないフリを装う。
エリーが守りの陣形に飛び込んできたので、キャシーが守り隊を囲むように水柱をあげた。守り隊を囲むように噴水が吹き上げた感じだ。
そこまでの威力はないから簡単に外から中へと入ってこられるけれど、少しだけ相手の勢いを削ぐことができる。
守り隊は入ってこようとするA組の子を木刀で叩き、阻止している。
突撃隊の子たちがD組陣地に向かったA組の突撃隊を後ろから攻撃した。
お、ユリアさま出てきたね。
あちらも陣地を抜け出して、3人がユリアさまを守りながら、こちらにやってくる。
なんとか攻撃を防いでいる突撃隊に、また攻撃する人が増えたら辛い。
キャシーに伝えると、アイデラへと合図を出す。
アイデラがギュッと目を瞑るのが見えた。
あと少しで団子の戦いに参戦のユリアさまと3人が、足を止め不安そうに周りを見ている。彼女たちはアイデラの幻影魔法で檻に閉じ込められたように見えているのだろう。
手で檻に触れようとすればすぐ気づくはずだけど。
「2分30秒経過」
戦いでけっこう入り乱れている。これなら誰が魔法を使ったかわからないだろうと、どさくさに紛れて風のカーテンで守り隊を囲む。みんなと頷き合いながら、敵大将に近づいていく。
あ、気づかれちゃった。敵大将たち4人は檻が幻影だと気づいた。怒りMAXだ。
ユリアさまは顔を赤くして歩みを進める。
帽子を狙って攻撃するD組を簡単に木刀で払った。
なかなかできる。
立ち止まったかと思うと風を飛ばし、自分にちょっかいを出せないようにした。武力も魔法も自由自在。大将をやるだけはある。
見渡せばみんな肩で息をしている。ちょっと早いけど、仕上げといこう。
「出る」
短くいうと、キャシーが合図を送った。
再び水柱が勢いよくあがる。その合間から、ユリアさま目指して走っていく。
これで走るのが早かったらかっこいいんだけどね。
鈍足なので案の定、敵の目に留まってしまう。いや、違うか。足が早くても目には留まる。妨害しようにも足が早ければ逃げきれる、ただそれだけのこと。うん、足が遅くて妨害されてもそれを切り抜けられれば、鈍足は不利にならない。
エリーの木刀を払った。エリーが本気で驚いている。失礼な!
メランがエリーに木刀を突き出した。
メランにエリーを任せ、A組大将を目指す。
わたしが大将にたどり着けるよう、みんながわたしに近づこうとするA組の子に木刀で斬り込んでいく。仕掛けてくれている。
風や水がわたし目掛けてきたが、風のカーテンで弾いておく。
土魔法も使われそうになったが、土魔法をぶつけて封じさせていただいた。
なんで発動しないの?と焦った顔が見えた。
魔法がわたしに一切届かないからだろう、みんなの目が大きくなる。
守りの3人には水鉄砲をお見舞いした。加減がわからないの、というフリをして、しっかりしばらくの間邪魔できないよう強めのものを。
大将が膝をついたので、続けてユリアさまに風をお見舞いする。後ろに転がり尻餅をついている。喉元に木刀を突きつけて動きを止め、帽子を取った。
「D組、勝利」
先生の声がした。
たったこれだけの運動量でわたしの息は荒い。
ユリアさまが憎々しげにわたしを見あげた。
わたしは帽子を胸にし、礼を尽くした。
D組のみんなが走ってきて、わたしをもみくちゃにする。
「リディア、すごい!」
「勝った! 私たち勝っちゃった!」
「嘘みたい、勝った!」
みんな目がうるうるしてる。
ぴょんぴょん飛び跳ねている子もいる。
わたしたちは肩を叩いたり、ハグをして健闘を称えあった。
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