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10章 準備が大切、何事も
第409話 オババさまの占い⑦誘導
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父さまの肩越しで頷き、早口に言い募る。
「近くにずっともふさま、聖なる者がいたから、大きくならなかったんだろうって。6年も大きくならなかったのなら、これからも大きくなることはないだろうって。
わたし、運がいいの。元々瘴気スペースも少ないから瘴気は増えなかったし、自分で光魔法をかけていたからそれも効いてるかもしれない。もふさまとずっと一緒だったからそれも作用した。ああ、アオもラッキーバードだもん、そんなことがうまく重なって、呪いは残ってしまっているけれど、ベアにも感知されないくらいの、ステータス異常にも出ないぐらい小さなものなんだと思う。ただ……」
「ただ?」
わたしを抱きしめたままの父さまに優しく促される。
「呪いの瘴気は増えたくて、増やしたくて、引き寄せる性質があるって。引き寄せたり増幅させる性質があるんだって」
抱え込む手に力が入る。
「今までも引き寄せていたけれど、わたしは瘴気を大きくすることもなく、切り抜けられた。だから、心配しないで!」
「リーの中の呪いはどうすれば消えるの?」
後ろからアラ兄に尋ねられる。
「元々の呪いを作った術師か、その術師よりうわまわる実力の呪術師なら解けるって」
「絶対見つける」
父さまが低い声で言った。決意の深さがうかがえる。父さまはわたしたちのためなら、王族にだって静かに仕掛ける人だ。
「ううん、父さま。みんなも。もし呪術師の情報がわかったら教えて欲しいけど、そこからコンタクトとるのはわたしがしたいの。時間の取れる長い休みには呪術師を探しに行く。それでわたしに巣食う呪いを完全に解いてもらう。だから協力してください!」
父さまがゆっくりとわたしの肩を持って顔を見るようにする。
「母さまには絶対内緒ね。秘密だから、わたしが呪いを解きに行くにはみんなの協力が必要なの」
「リディー」
父さまに再びぎゅーっと抱きしめられる。それはとても長く続いた。
「……もしかして今までリーに向いた悪意って」
アラ兄の呟きが聞こえた。
わたしは父さまに思い切りぎゅっと抱きついて、〝大丈夫〟を伝える。
少しして緩んだ腕をとく。父さまににっと笑って見せて。
それからアラ兄に振り返って答える。
「うん、可能性はある。わたしに巣食う呪いの瘴気が、誰かの瘴気を増幅させていたのかもしれない」
みんながいたたまれない顔をするから笑ってみせる。
「オババさまが言ってくれたんだけど、確かに増幅させたのはわたしかもしれないけど、増幅させられるような瘴気をその人が持っていたのも事実だし、わたしが〝無事〟ってことはその瘴気を滅してその人を助けたんだって。……わたしはその考えにすがろうと思う」
「なー、リディー」
父さまに優しく呼びかけられた。
振り返ると、父さまがわたしの頬に両手を添えた。
「ありがとうな、母さまを守ってくれて。エリンとノエルに会わせてくれて」
そう言ってくれたから、わたしは心から笑うことができた。
「うん、母さまを守れてよかった。エリンとノエルに会えて本当によかった!」
夜も更けていた。明日も普通に学園なので、そこでお開きにした。
少し顔色の悪い兄さまが少し話せるかな?と部屋に来た。
わたしは招き入れる。
兄さまに抱きしめられた。小さな子供がお気に入りのおもちゃを取り返して、もう取られるもんかとかき抱くみたいに。
「……兄さま、苦しい」
少し我慢してみたが、長くは無理と思って腕を軽く叩く。
「ご、ごめん」
すぐに緩んだ。近くでもふさまが少し心配げにこちらを見ていた。
わたしは目で大丈夫だと合図した。
「怖いだろう?」
胸の中で答える。
「怖くないといえば嘘になる。だけど、わたし本当に運がいいの。この6年間やり過ごしてきたように、これからもなんとかしていけると思う。でもできれば〝呪い〟はなくしたいから、呪術師を探して完全に呪いを無くしたいの。協力してくれる?」
兄さまが答えてくれない。顔をあげると、切なげな瞳で見下ろされていた。
「リディーは策士だ。リディーの思い通りになるように私を誘導している」
「え、どういうこと?」
「そんなふうに言われたら、私は協力するしかないじゃないか」
兄さまはため息をついた。
「協力するけど。どうしたら、リディーを守れるんだろうね?」
「兄さま、わたしを守ってね? わたしも兄さまを守るから」
「……リディー、君を安全なところに閉じ込めてしまいたいよ」
その呟きは心からの声で、いたたまれなくもなるが、実行されたら困る。
「閉じこもっていたら、兄さまを守れないよ」
「ごめん……無理に笑わないで。私の前で無理しなくていいから」
「みんなわたしを甘やかしすぎ! わたし、大丈夫だから」
やりたいことをやってきた。望んだことをやってきた。そう行動できたことは恵まれていて、後悔もない。けれどこれからも後悔をしないためには、わたしは顔をあげる必要があるだけだ。
「私のお姫さまは、強がりでたくましい」
「……強くてたくましいの!」
兄さまはわたしから手を離してホールドアップをした。
「わかったよ。私は何をすればいい?」
「わたしはこれから呪術師の情報を集めるつもり。学園にいる時は図書室にそういった本がないかを」
わたしは占星術に潜んでいた呪術のことを話し、そしてその他の職種にもきっと切っては切り離せない部分が残っているだろうことを話した。
「なるほどね」
「でもね、兄さま、兄さまもやることがいっぱいあるでしょ。学園のことだけじゃなく、侯爵家のことも、メロディー嬢のことも、生徒会のことも。わたしのは切羽詰まっているわけじゃないから、時間がある時にと考えて」
アラ兄にもロビ兄にもお願いするつもりだ。アラ兄には魔具に関する本、ロビ兄には騎士とか魔法戦とかそういった本。クラブ活動の延長の調べごととすれば、怪しまれないと思うから。
「……わかった」
兄さまとおやすみの挨拶をする。
「主人さま、リディーをよろしくお願いします」
兄さまはもふさまにわたしのことをお願いした。そして踵を返す。
なぜかその時、わたしは胸がキューッと締めつけられるような気がした。
「近くにずっともふさま、聖なる者がいたから、大きくならなかったんだろうって。6年も大きくならなかったのなら、これからも大きくなることはないだろうって。
わたし、運がいいの。元々瘴気スペースも少ないから瘴気は増えなかったし、自分で光魔法をかけていたからそれも効いてるかもしれない。もふさまとずっと一緒だったからそれも作用した。ああ、アオもラッキーバードだもん、そんなことがうまく重なって、呪いは残ってしまっているけれど、ベアにも感知されないくらいの、ステータス異常にも出ないぐらい小さなものなんだと思う。ただ……」
「ただ?」
わたしを抱きしめたままの父さまに優しく促される。
「呪いの瘴気は増えたくて、増やしたくて、引き寄せる性質があるって。引き寄せたり増幅させる性質があるんだって」
抱え込む手に力が入る。
「今までも引き寄せていたけれど、わたしは瘴気を大きくすることもなく、切り抜けられた。だから、心配しないで!」
「リーの中の呪いはどうすれば消えるの?」
後ろからアラ兄に尋ねられる。
「元々の呪いを作った術師か、その術師よりうわまわる実力の呪術師なら解けるって」
「絶対見つける」
父さまが低い声で言った。決意の深さがうかがえる。父さまはわたしたちのためなら、王族にだって静かに仕掛ける人だ。
「ううん、父さま。みんなも。もし呪術師の情報がわかったら教えて欲しいけど、そこからコンタクトとるのはわたしがしたいの。時間の取れる長い休みには呪術師を探しに行く。それでわたしに巣食う呪いを完全に解いてもらう。だから協力してください!」
父さまがゆっくりとわたしの肩を持って顔を見るようにする。
「母さまには絶対内緒ね。秘密だから、わたしが呪いを解きに行くにはみんなの協力が必要なの」
「リディー」
父さまに再びぎゅーっと抱きしめられる。それはとても長く続いた。
「……もしかして今までリーに向いた悪意って」
アラ兄の呟きが聞こえた。
わたしは父さまに思い切りぎゅっと抱きついて、〝大丈夫〟を伝える。
少しして緩んだ腕をとく。父さまににっと笑って見せて。
それからアラ兄に振り返って答える。
「うん、可能性はある。わたしに巣食う呪いの瘴気が、誰かの瘴気を増幅させていたのかもしれない」
みんながいたたまれない顔をするから笑ってみせる。
「オババさまが言ってくれたんだけど、確かに増幅させたのはわたしかもしれないけど、増幅させられるような瘴気をその人が持っていたのも事実だし、わたしが〝無事〟ってことはその瘴気を滅してその人を助けたんだって。……わたしはその考えにすがろうと思う」
「なー、リディー」
父さまに優しく呼びかけられた。
振り返ると、父さまがわたしの頬に両手を添えた。
「ありがとうな、母さまを守ってくれて。エリンとノエルに会わせてくれて」
そう言ってくれたから、わたしは心から笑うことができた。
「うん、母さまを守れてよかった。エリンとノエルに会えて本当によかった!」
夜も更けていた。明日も普通に学園なので、そこでお開きにした。
少し顔色の悪い兄さまが少し話せるかな?と部屋に来た。
わたしは招き入れる。
兄さまに抱きしめられた。小さな子供がお気に入りのおもちゃを取り返して、もう取られるもんかとかき抱くみたいに。
「……兄さま、苦しい」
少し我慢してみたが、長くは無理と思って腕を軽く叩く。
「ご、ごめん」
すぐに緩んだ。近くでもふさまが少し心配げにこちらを見ていた。
わたしは目で大丈夫だと合図した。
「怖いだろう?」
胸の中で答える。
「怖くないといえば嘘になる。だけど、わたし本当に運がいいの。この6年間やり過ごしてきたように、これからもなんとかしていけると思う。でもできれば〝呪い〟はなくしたいから、呪術師を探して完全に呪いを無くしたいの。協力してくれる?」
兄さまが答えてくれない。顔をあげると、切なげな瞳で見下ろされていた。
「リディーは策士だ。リディーの思い通りになるように私を誘導している」
「え、どういうこと?」
「そんなふうに言われたら、私は協力するしかないじゃないか」
兄さまはため息をついた。
「協力するけど。どうしたら、リディーを守れるんだろうね?」
「兄さま、わたしを守ってね? わたしも兄さまを守るから」
「……リディー、君を安全なところに閉じ込めてしまいたいよ」
その呟きは心からの声で、いたたまれなくもなるが、実行されたら困る。
「閉じこもっていたら、兄さまを守れないよ」
「ごめん……無理に笑わないで。私の前で無理しなくていいから」
「みんなわたしを甘やかしすぎ! わたし、大丈夫だから」
やりたいことをやってきた。望んだことをやってきた。そう行動できたことは恵まれていて、後悔もない。けれどこれからも後悔をしないためには、わたしは顔をあげる必要があるだけだ。
「私のお姫さまは、強がりでたくましい」
「……強くてたくましいの!」
兄さまはわたしから手を離してホールドアップをした。
「わかったよ。私は何をすればいい?」
「わたしはこれから呪術師の情報を集めるつもり。学園にいる時は図書室にそういった本がないかを」
わたしは占星術に潜んでいた呪術のことを話し、そしてその他の職種にもきっと切っては切り離せない部分が残っているだろうことを話した。
「なるほどね」
「でもね、兄さま、兄さまもやることがいっぱいあるでしょ。学園のことだけじゃなく、侯爵家のことも、メロディー嬢のことも、生徒会のことも。わたしのは切羽詰まっているわけじゃないから、時間がある時にと考えて」
アラ兄にもロビ兄にもお願いするつもりだ。アラ兄には魔具に関する本、ロビ兄には騎士とか魔法戦とかそういった本。クラブ活動の延長の調べごととすれば、怪しまれないと思うから。
「……わかった」
兄さまとおやすみの挨拶をする。
「主人さま、リディーをよろしくお願いします」
兄さまはもふさまにわたしのことをお願いした。そして踵を返す。
なぜかその時、わたしは胸がキューッと締めつけられるような気がした。
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