プラス的 異世界の過ごし方

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10章 準備が大切、何事も

第402話 巻き込まれ

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『あのむすめだ』

 もふさまから教えてもらわなかったら、飛び上がっていたかも。
 先輩たちと別れて寮へと向かう途中、花壇横にアイリス嬢が屈んでいたのだ。
 低いところから手を伸ばして引っ張るから、わたしは地面に尻餅をついた。

「リディアさま、ごめんなさい。けれど、こちらに」

 花壇の奥へと連れて行かれる。

「どうしたんですか、アイリスさま?」

「声を小さくしてください。逃げても逃げても振り返るといるんです!」

 ああ、フォルガードの王子か。
 なんでホラーチックなの? 
 一瞬笑いそうになったが、もちろんアイリス嬢は真剣なので、わたしは笑わないように気をつけた。

「アイリスさまにご執心みたいですね」

 アイリス嬢は拗ねた目をする。

「わかってらっしゃるクセに。あの方はあたしではなく聖女候補に興味があるだけですわ」

 少し寂しそうな目をする。

「それより、やっぱり、リディアさま、すごいですわ!」

 興奮を抑え切れないというようにわたしの手をとる。

「自分の関係する未来しか見えないって言ったら、リディアさまが〝秘訣〟を教えてくださいましたでしょう? 〝あたしの未来を〟としか思っていなかったけれど、リディアさまの助言で何かしらの関係性を持つようにしてギフトを使うようにしたんです。関係性を持つためにその場所に行ったり、話して〝知っている〟人となるのは手間はかかりますが、成功です。正しくはあたしの未来ではないのに、一度関われば、あたしの未来に含まれるようです。こうやって情報が集まると楽しくなってきましたわ!」

 やっぱり! 
 ギフトは自分の記憶、経験で広げることができるんじゃないかと思ったんだ。わたしの〝プラス〟みたいにね。
 薔薇色の頬ってこういうのをいうんだろうなぁ。アイリス嬢が輝いて見える。

「それで少しわかったことがありますの」

「なんです?」

 わたしは前のめりになった。

「おやおや、アイリス嬢、こんなところで女生徒と逢瀬ですか?」

 わたしはあまりに驚いたので、アイリス嬢と一緒に淑女にあってはならない、〝悲鳴〟と呼ぶには品のない〝叫び声〟をあげていた。こともあろうか他国の王子に向かって。
 もふさまは悲鳴をあげたわたしたちに驚いたようだった。

 フォルガードの王子殿下と護衛さんは忍び寄ったのではなく、ごく普通に歩いてきていたので、わたしたちも普通に気づいていると思っていたそうだ。

「こ、これは驚かせたようだ、失礼」

 いや、笑ってるよね?

「それにしてもこんなところに隠れるようにして……そして驚きっぷりからいって、何か人には言えないようなことを話していたのかな?」

 アイリス嬢は不敵に笑った。

「殿下、その通りですわ。乙女の内緒話ですの」

「それはますます気になるなー」

「乙女の秘密に関わろうとするなんて、マナー違反ですわ」

 相手は王子殿下なのに、アイリス嬢、強いな。

「アイリスさま、殿下はアイリスさまに用事があるのでしょう。先程の話、また改めて聞かせてください。わたしは退散いたしますわ、ご機嫌よう」

 立ち去ろうとすると、アイリス嬢に腕をつかまれる。

「リディアさま、お待ちになって。殿下、あたしに用事ですの? なんでしょう?」

 アイリス嬢がつかんだ腕を離さない。

「休息日に町を案内してくれないかな?」

 おお、デートのお誘いですな。

「そういうのは親しいお友達に頼んでは? あたしは殿下と親しくもありませんし」

「親しくなりたいから誘っている」

 おお、直球だね。

「……殿下は聖女候補に興味がおありで親しくなりたいのですよね?」

「聖女候補であるアイリス嬢に興味があるんだ」

「休息日はお勤めもありますし……」

「あ、噂の占い師を知ってる? 予約を取ったんだ」

「え、予約? そんなことできますの? それに、もう噂が立ちすぎて毎日場所を変えていますのよ?」

 殿下はにっこりと笑った。

「立場を利用して、金を積んでね」

 身も蓋もない。けれど、アイリス嬢の気を引くことには成功したようだ。
 かなり乗り気になっている。だって前に乗り出したもん。

「あたし一人じゃ行きませんわ。リディアさまと一緒でしたら考えます!」

 をい、わたしを巻き込むな。

「アイリスさま、わたし学園以外の外出を禁止されていますの」

「え?」

 アイリス嬢の顔が驚いたというより歪んだ。なんかその、ていよく拒否られたと思って傷ついたように見えた。これは居心地が悪い。わたしは嘘じゃないんだとわかってもらえるように言葉を足した。

「誘拐に巻き込まれたこともありますし、領地では乗っていた馬車が襲われました。家族がとても心配していて、家族と一緒にしか外出できないんです」

 大きな瞳がますます大きくなり、小さな形のいい唇も驚いたようにかわいく開いた。

「まぁ、馬車を襲われた? ぶ、無事でよかったですわ……」

「それなら心配ないよ。立場を利用してしっかり守ってもらうから。シュタイン嬢も一緒に」

「いいえ。ありがたいお話ではありますが、襲撃犯は捕まえたものの、背景までよくわかっておりませんの。また狙われることがあるかもしれません、それに誰かを巻き込みたくないのです。ですから、わたしはご一緒できません」

「……我が国の護衛は強いから、心配しなくていいよ。それに巻き込まれて怪我をするほど、か弱くはないしね」

 殿下が不敵に笑う。
 いや、そういうことじゃないんだと話そうとしたけど。

「リディアさま、王族の守りなら完璧ですわ。あの百発百中の占い師ですのよ? 現れる場所も神出鬼没で、この機会を逃したら、2度と会えないと思います!」

 彼女はわたしの手を握りしめた。
 あなた、星の位置で占うより確かな、未来を見られるギフトがあるでしょう?

「それに、あたし、女の子の……お友達と一緒に街を歩くの夢だったんです」

 目がキラキラしている。普段からかわいいアイリス嬢がもっとかわいくなり、殿下も護衛さんたちもアイリス嬢から目が離せないでいる。
 王都に出てきたのは聖女候補で教会に守ってもらうため。日々、お勤めなどもあり自由に過ごせる時間も少なかっただろう。お腹の中でどう思われていても扱いは〝聖女候補さま〟。友達も作りにくかったことが予想できる。

「シュタイン伯の了承を得られれば良いか?」

 ダメ押しにアイリス嬢がキラキラした瞳で見上げてくる。
 ヒジョーに断りにくい。

「……はい、父の許しが得られましたら……」

 父さまは渋ってみせたようだが、国は違うといえど王族だ。もふさまが一緒なことと、わたしのことも守る条件で休息日は殿下とアイリス嬢とお出かけをすることになった。
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