プラス的 異世界の過ごし方

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10章 準備が大切、何事も

第399話 あやふやな〝ごめんね〟

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「リディア、どうしたの、顔色悪いよ?」

 出会い頭にダリアが大声でいうと、隣のレニータに小突かれている。
 思い出したようで

「あ、ごめん。昨日気持ち悪いことがあったんだものね」

 と同情的な顔になった。

「それもだけど、あの後今日提出の宿題やったから、寝不足なの」

 夏休み中に宿題を終わらせてなかった自分が悪いのだけど、マグノリア令嬢たちをわたしは恨むよ。

「で終わったの?」

 ジョセフィンに尋ねられてわたしは頷いた。そりゃ終わらせたよ。

「大丈夫? 朝ごはん食べられる?」

  食堂の前で話していたので、彼女は中を親指で示した。

「飲み物だけにしておこうかな」

 この状態で食べたら胃もたれしそうだ。
 食べるわけでもなくテーブルに座っていたら眠りそうになった。4時間は眠ったのに。まだ今日は短縮授業で、午前中のみなのが救いだ。

 食事を終え、支度を整え、みんなで教室に向かう。
 兄さまを見つけた。今日はメロディー嬢の護衛の日みたいだ。
 兄さまの騎士見習い姿をかっこいいと騒ぐ人もいれば、第一王子殿下の婚約者の護衛をかって出るなんてそこまでして出しゃばりたいのかしら?と言っているのも聞こえてきた。
 あんだって??
 兄さまは学園から頼まれて仕方なくやっているというのに!
 隣の子が呟いた子に合図をして、わたしが睨んでいるのに気づきビクッとなる。

「先輩たち、あの護衛は王室から学園を経由した要請ですよ。護衛に選ばれた生徒は断ることができなかった。王室も絡んでいるから滅多なことは言わない方がいい」

 わたしと先輩たちの間に入り、助言をかましたのは、昨日学園を休んだアダムだった。長めの前髪から覗くのは青い瞳。アダムは茶色の髪だからそこは違うけど、なぜかヒンデルマン先生を思い出させた。
 先輩たちは何か言おうとしたけど、アダムのカッコよさにノックアウトされたのか顔を赤くしてパタパタと駆けて行った。

「エンターさま、おはようございます。お久しぶりです」

 レニータたちはアダムに機嫌よく挨拶する。アダムは微かに微笑んだ。

「もう体調は大丈夫なの?」

 尋ねるとアダムは目を細める。

「……ああ、大丈夫だ。僕より、君の方が具合悪そうだけど、どうしたの?」

「宿題を片付けるのに、遅くまでというか早くまで起きていて寝不足なの」

「あんなことが起こらなければ、早く終わったのにね」

 ダリアにわたしは頷く。ほんとだよ。夕方からやっていれば睡眠時間は普通に取れたのに。

「あんなことって何かあったの?」

 少し楽しげに聞いたアダムにレニータが昨日は寮にいなかったのかと尋ねた。
 男子寮にも先生たちが入っただろうからね。学園生なのに知らないなんて。

「近くの医師のところに泊まっていたから」

 入院していたのか。
 みんな悪いことを聞いたと思ったのだろう。昨日あったことを話して聞かせた。

「それで誰がやったことかわかったのかい?」

「わたしが留守中の部屋の様子を録画していたのに映ってた」

 本当は夏休み中稼働させておくつもりはなかったんだけど、単に消し忘れたのだ。終業式の日、一目散に領地に向かっちゃったから。

「誰だったのか聞いても?」

 もう学園側は知っているし、寮の手引きした子も呼び出されたから、ここにいる寮の子はみんな知っている。

「4年生のD組の先輩がドーン寮へと引き入れ、4年生のマグノリア令嬢がわたしの部屋に入り、魔具を取り付けていたの」

「マグノリア令嬢?」

 アダムが驚いた声をあげる。

「知っている方?」

「名前だけは」

 男爵令嬢なのに? 有名な方だったのかな?

「何か知ってるの? だったら教えて。わたし初めて見る人だった」

 一瞬目を伏せたアダムだったけど、教えてくれた。

「急に話題にあがった方だね。第2王子殿下の婚約者候補に」

「え? マグノリア家は男爵なのに?」

 思わず聞いてしまった。

「あり得ないから、噂だろう。まぁ養子になって身分をあげる手はあるといえばあるけれど」

 ロサの婚約者候補がわたしに関心を持つ? いや、関係性はなさそうだ。

「それでどうしてそんなことをしたって?」

 わたしの部屋に入り、録画の魔具を取り付けたふたりは、呼び出され事情を聞かれた。その話は当事者のわたしにだけ教えてもらえたことだった。
 だからアダム以外のみんなも知らなくて、わたしの言葉を待っている。

「伯爵令嬢の暮らしが気になり、ドーン寮なら簡単に中に入れそうなので録画する魔具をつけたそうよ」

「何それ」

 ジョセフィンが眉を寄せる。

「暮らしが気になるって、部屋を見せてもらうで十分よね? それも寮の部屋を撮るなんて! 録画って、そのままの映像を閉じ込めておくことなんでしょう? そんなのを秘密裏につけておくなんて、嫌な感じしかしないわ」

 アダムがため息をついた。

「どうしました、エンターさま?」

 昨日も休んでいたことだし、具合が悪くなったのかと思ったのだろう、ダリアが強めの調子で聞く。

「ああ、いや。由々しきことだと思ってね」

「ええ、本当にそうね!」

 キャシーが手を拳にしてうんうん頷いている。
 視界から、兄さまとメロディー嬢が消えていった。

「大丈夫かい?」

 アダムに心配されて頷く。

「授業中眠ってしまうかもしれない危険性以外は」

 答えるとみんなに笑われた。
 教室に入り、挨拶を交わしながら席へと向かう。

「リディア嬢、ごめんね」

「え、何が?」

 尋ねたけど、アダムはあやふやに笑うだけだ。

「席につけー」

 チャイムと共に先生が入ってくる。
 朝のホームルームで良くない行いをしたふたりの女生徒が退園処分となったことが伝えられた。クラスメイトからためらいがちに視線がくる。

「マグノリア男爵令嬢と知り合いだったの?」

 先生が出ていくと、D組のもうひとりの貴族、オスカー・ボビーから尋ねられる。

「ううん、知らない」

 と首を横に振れば、オスカーはそうかと頷く。

「お前、敵作りやすい奴だなー」

 イシュメルの言葉が胸に刺さった。茶化すような表情がすぐさま引き締まる。

「お、おい」

 イシュメルが慌てた。わたしを見たレニータがイシュメルに詰め寄った。

「ちょっと、あんた!」

「なんだよ、間違ってはねーだろ?」

 イシュメルが言い返す。

「レニータ、イシュメルに声をあげるのはお門違いよ!」

 イシュメル大好きなアイデラがそれを止めようとして、カオスな空間になった。
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