プラス的 異世界の過ごし方

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9章 夏休みとシアター

第391話 神さまと話せる人

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「リディーは〝禁忌〟の方を知ったら、怒りだすかもね」

「兄さま、知ってるの?」

「詳しくは知らないよ。ただ瘴気が生まれた原因となった時の話らしいよ」

「そんな話、誰が作ったんだか」

 兄さまが手を止めた。

「誰って、神さまだよ?」

「え、神話、創世記を? 瘴気も? それは神さまが創ったんじゃないよね?」

 兄さまは驚いた顔をしている。

「? 瘴気はわからないけど、世界は神さまが創られたから、創世記はその時のことを神さまから聞いて、書き残したものだよ」

 え?

「神さまと話せるの?」

「今は話せる人は少ないらしいけど、神官は話せたよ」

 ええっ?
 兄さまはおかしそうに笑う。

「リディーは聖獣さまと話せるのに、神さまと話せる神官はいないと思ったの?」

 え。もふさまは聖獣だ。確かにわたしは聖獣と話せる。
 神官って神さまと話せたんだ……。
 神さまを激しく信仰しているのが教会で、そう導く人たちが神官なんだと思ってた。
 でも、そうじゃなくて、神さまと話す役割を持つのが神官なのか。
 ……聖獣と話せるわたしはなんなのかな? 何か役割があるのかな?

 あれ? 神話や、創世記が神さまから聞いたものだってことは、事実ってこと?

「兄さま、冗談じゃなくて? 創世記って神さまから聞いた本当のことなの?」

「そうだと思うよ。そうじゃなきゃ、自分たちの世界の成り立ちをそんな複雑にしたりしないだろ? これも水にさらす?」

「うーうん、そっちは鉄板に」

 鉄板の油が熱されたところに野菜を入れていく。ナスの水を切りながら、他の野菜たちを炒め揚げだ。

 どこかの世界を真似た箱庭。そこに生命が宿り、仕方なく見守ることになった世界。創造主は封印され。創造主の監督者がその後管理することになった……。
 そして禁忌の神話。それを読めば、瘴気の成り立ちがわかる?

「兄さま、禁忌の神話って、どうすれば知ることができるんだろう?」

「……神官の上層部、各国の王や代表は知らされると思うけど。リディー、禁忌は知ってはいけないから禁忌なんだ」

「でも、瘴気のことを知らないと」

「……私もこれからは考えるから、無茶はしないでね。ルシオに聞き出そうとしたり、ロサ殿下に取引を持ちかけたりしないでね?」

 うっ、なんでわかった?

「やっぱりふたりに聞く気だったんだね?」

「すぐにじゃないよ。ルシオに恩を売っておけば、いずれルシオが神官長になった時に聞けるかなとは思ったけど」

「恩を売るだなんて、リディー、そんな考えをしちゃ駄目だよ。あのふたりならリディーに……そうじゃなくて」

 兄さまは頭を振る。

「それに、神官長ぐらいなら教えてもらえないはずだ。世界中の神官の長、大神官か、上から3番目ぐらいの地位までにならないとね。だから、ルシオやロサ殿下に聞こうとしないでね? リディー約束だよ。もし破るなら……家から閉じ込めて出さないようにするからね?」

 そう言った兄さまの目は笑っていなかった。




「うわー、姉さまケーキがある!」
「なんで? なんのお祝い」

「後からね」

 そう言ってまずは普通のご飯だ。
 兄さまと一緒に作ったご飯はとても美味しくできた。
 デザートの時間となり、ケーキを切り分ける。お茶の用意まで手伝ってくれて、ハンナはお風呂に入りそのまま休むと退出した。ハンナはお客さまがいなければ食事は一緒にとるけれど、夜のお茶の時間は自室で過ごすと決めているようだ。ハンナの分のケーキはちゃんと渡した。



「なんのお祝いのケーキ?」

「エリンとノエルが素敵なスキルを持ったお祝いよ」

「「え?」」

 双子は揃って父さまを見た。

「凄いスキルを授かったのね、おめでとう」

 母さまが祝福する。

「魔力が多いだけでも羨ましいのに。その上、すげースキル、本当にお前たち、凄いな!」

 ロビ兄がにかっと笑った。

「おめでとう。凄いスキルだね」

 アラ兄も褒め称える。

「とても素敵な力だね」

 わたしもふたりをギュッとする。

「おめでとう。気をつけて使うんだよ」

 兄さまは双子の頭を撫でた。
 双子ははにかんで嬉しそうにしている。

「ありがとう。僕たちのスキルまだ不安定だから。ちゃんとできたら報告するつもりだったんだ」

「いろんなところから欲しがられるスキルだって聞いた。だから気をつけて使う。心配しないで」

「お前たちを信じているからな。明日からクジャクさまたちがいらっしゃる。魔使いの家を見てみたいとおっしゃられたから、家にも来ていただく。そのつもりでいてくれ。ノエルは少しクジャクさまと話してみるといい。それからクジャクさまの転移を経験するといいだろう」

 ノエルの瞳がきらっと輝いた。
 わたしに向き直る。

「姉さま、使えるようになったら、姉さまの行きたいところ、どこにでも連れてってあげる。だから僕とずっと一緒にいるといいよ。そしたらみんなに会いにすぐに行けるから!」

 ノエルったら。かわいいことを言ってくれる。

「エリンの未来視はどんな感じなんだ?」
「どんな未来をみた?」

 アラ兄とロビ兄が前のめりで尋ねる。

「最初は夢をみたんだと思っていたの。ものすごく現実っぽい夢だなって。ほら、夢って思い返してみるとどこかあやふやだし、雑でしょ? 領地の子と砦の子が知り合いのはずないのに、一緒に遊んでいたり。そういうところがない夢をみたのだと。でもこの間、ちゃんと起きているときにその映像が頭の中に降りてきたの。それで夢じゃないって」

「へー、どんな映像だったんだ?」

「姉さまが男の子を叩いてた」

 え。
 父さま、母さま、アラ兄、ロビ兄、兄さまが揃ってわたしを見た。もふさまは今日はゆっくりみたいで、まだ〝会議〟から帰ってきていない。
 わたしはブルブルと首を横に振った。
 叩いてないよ!

「それはいつだ?」

 父さまが真剣な声で聞く。

「いつかはわからないよ」

「場所はどこだった?」

 兄さまが尋ねる。

「学園だと思う。制服にエプロンしてる姉さまが、銀の短髪の男の子をパーンって」

 エリンが嬉しそうに手を振る。平手打ちしたっぽいね。そんな手つきだ。

「リディー、心当たりは?」

「あ、ありません」

 叩いてないよ。

「これからか……」

 わたしがこれから男の子を平手打ちするってこと?
 なんでよりによってそんな未来をみるかなー。

「エプロンしているってことは、寮で何か作っているか、クラブでおやつ作っているか。クラブの子に銀髪の子いる?」

「いない」

「クラスには?」

「いない」

「姉さまかっこよかったし、姉さまは怪我しないわ、大丈夫!」

 いや、エリン、そういうことじゃないから。
 みんな心配そうにわたしを見ていた。

「手を出さないよう、気をつけます」

 言われる前に言っておく。

「いいや、危険があったときは躊躇わず叩いても、魔法を使ってもいいぞ。リディーに危険がないようにしなさい」

 ……父さま。

「そうだよ、リーが手をあげるなんてよっぽどのことだ。そんな奴は叩きのめされて当然だ」

「拳を奮う時は親指を中に入れる方が力が入るからな」

 そうなんだ……。

「リディー、そんなことをして手を怪我したらどうするの? やるときは魔法にしなさい」

 母さままで。

「ああ、そんなことを聞くと、やっぱりリディーは家に閉じ込めていた方がいいような気がするよ」

 ……兄さま、冗談っぽく言ってるけど、目が笑ってない。
 まさか、本当に……閉じ込もる未来は回避しているはずなのに。
 出来事を変え、けれど結末は同じになる、そう伏し目がちに言ったアイリス嬢の顔がよぎる。

「もう、やだなー、みんな心配しすぎ。わたし強いから大丈夫だってば。さ、エリンとノエルはケーキを選んで? どれがいい?」

 大きさやベリーを揃えようとは一応したんだけど、まちまちだからね。主役ふたりに好きなところを選んでもらう。

「あたし、これ!」
「僕、こっち」

 ケーキは生クリームとベリーの甘さがちょうどよくておいしかったはずだ。みんなの視線が気になって、ケーキを飲み込むので精一杯で、せっかくのケーキなのに味がよくわからなかった。
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