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9章 夏休みとシアター
第389話 家族間大会議⑥いつでもどこでも
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「もし、ジェイ将軍はずっと前に亡くなっていて、おれたちがその子供だってわかったらどうなると思う?」
「ガゴチの現在の将軍をよくなく思う者もいる。初代将軍の忘形見になら従うとまつりあげる者もいるだろうし、現在の将軍側には初代将軍の子供は目の上のたんこぶだ。消してしまえと考える者も出てくるだろう」
父さまは真剣な顔で答えた。
「お前たちはそう明かすつもりなのか?」
「ニアから剣の太刀筋や魔法が似ているって言われたって言ったよね? 兄さまが侯爵さまに似ているって言われるように、おれたちももう少し大きくなったら、もう母さまに似ているって言われなくなって、将軍に似ているって言われることがあるかもしれない。後手にまわって、家族に何かされたら嫌だ。それぐらいなら、こっちから明かして、ガゴチを統率して、2度と悪いことはさせない」
ロビ兄、アラ兄の瞳に決意が見える。
「お前たちは父さまと母さまの子だ。似ているなんて言わせない」
「……もちろん、そうだよ。でも来年度ガゴチの将軍の子が学園に通うようになって。恐らくそのお付きの人とかが一緒に来るでしょ? そこには前将軍を知っている人たちが来るかもしれない。クララがウチのことをガゴチに報告したかどうかはわからないけど、ウチを探っていたことで何か思われていたら? ニアだって少し一緒に戦っただけなのに、すぐにそう言ったよ。もしそのことで、父さまやみんなに何かあったら嫌なんだ。ガゴチは何をするかわからないんだから」
父さまが立ち上がった、あっという間に双子の間に立ち、そしてふたりを力強く抱きしめた。
「と、父さま……」
「父さま、泣いてるの?」
「お前たちが考えていることはわかった。でも、お前たちは私の子だ。どうしても将軍になりたいと、その国で一番になりたいのだと、そういう考えであるなら応援するが、守るために辛い選択をすることは許さない。父さまをもっと信じてくれ」
「信じてるよ、誰よりも!」
「うん、だって、オレたちの父さまだもん!」
固く固く3人はぎゅーっとした。
もふさまがわたしのほっぺを舐める。しょっぱいはずだ。
ロビ兄とアラ兄はそんなことを考えていたんだ。
ふとアラ兄がわたしを見る。
「リー、泣かないで」
「泣くよー」
わたしは訴える。ガゴチの人になるつもりだったなんて……。
アラ兄かロビ兄がシュタイン領をいずれ治めるんだと思ってた。兄さまから、領地はエリンかノエルが治めるだろうと聞いて、胸がざわざわした。それが、双子の考えはもっとかっ飛んでいて、大陸違いの外国に行こうとしていたなんて。
「ふたりとも、どこにも行っちゃやだ!」
わたしは立ち上がりふたりに突進した。
「ガゴチはこれからだって、聖女候補やリーや……ウチにだって何か仕掛けてくるかもしれないよ? おれたちがいなければ……」
「馬鹿なこと言わないで。ガゴチがとんでもないいい国ならまだしも、世界議会からも危ないと言われているそんな国に、わたしの〝兄さま〟たちを絶対にあげない!」
そう口にしながら、最近どこかで耳にしたことがある台詞な気がした。
あ、エリンとノエルだ。
〝ウチの家族は誰もあげないんだから〟
〝誰にもあげないよ!〟
エリンのスキルが未来視だと言っていた。あの子はニアがガゴチの人で、ガゴチに双子が行ってしまう未来を見たの?
そう思うと、すっごく怖くなった。
「父さま、クララの行方は本当にわからなかったのですか? それとも何か知っているんですか?」
兄さまが鋭く尋ねた。
「クララの行方はわからない。でも今思えば、クララは前将軍派だったのだろう。逃げる前までの言動で知っていることは、クララの探していた人は前将軍だと思われる。そして、前将軍が亡くなったと確信していた。なぜか忘れ形見がいると思っていた。それがアランとロビンかリディーか、3人ともかと思っていたようだ」
わ、わたしも? なんで?
驚いて父さまを見上げる。
「母さまはつわりが酷くて、辺境でも部屋にずっと籠もっていた。だからお腹の大きな姿を見ている人が少ないんだ。子供も3歳までは家から出さないから、子供を見かけなくても当たり前なんだが。辺境の町にいる新参者にでもそこ何年かのことを聞いて、産んだ様子がないのにいきなり子供がいたとでも聞いたのだろう」
「あの者は、どうしてシュタインと前将軍が関わりがあると思ったのかが不可思議だ」
おじいさまの言う通りだ。時間軸で考えれば、前将軍はガゴチから逃げてきてそこで母さまの姉さまと出会って恋に落ちたんだろうからね。それに前将軍が亡くなったって思っていたってのも……。
クララがウチに目をつけた経緯も、アラ兄たちのお父さんとお母さんの出会い、そして何があったのかとか、もう知ることはできない。
「アラン、ロビン。父さまに時間をくれ」
アラ兄とロビ兄は再び父さまにしがみついた。
父さまはそんなふたりをギュッとする。
「アラン、ロビン……もし前将軍の子供だと認められたとしてもお前たちではまだ偶像のままになり、利用されることになる。何にしても力をつけろ。それは武力だけのことではない」
父さまの胸の中で顔を上げ、双子は諭したおじいさまに頷いた。家族間会議はそこでお開きになった。
怒涛に過ぎた時間だった。衝撃があり過ぎて、もふもふ軍団が旅だったのがついさっきだなんて信じられない。
ふたりのシャツの裾を掴んでいたら、苦笑いをされた。
「リー、なんて顔してるの? そんな顔でいたら、エリンとノエルに怪しまれるよ」
「どこにも行っちゃ嫌だからね」
「リー、ありがとう。でも知っておいて。おれたちはいずれ大人になる。自分の目標のために旅立つこともあるかもしれない。でも、いつでもどこにいても、リーはおれたちの妹で、リーのことが大好きだ。言葉では表せないくらい」
思わずまたふたりに抱きつく。
わかってる。みんなの目の前に道は広がっている。いつまでも一緒の道を歩めるわけではない。大好きな人の夢や目標に向かって旅立つのなら、それは止めてはいけないことだ。その時はちゃんと餞の言葉を送るよ。
わたしだって、いつでも、どこにいても、大好きだって。とても言葉では言い尽くせないくらいに。
「ガゴチの現在の将軍をよくなく思う者もいる。初代将軍の忘形見になら従うとまつりあげる者もいるだろうし、現在の将軍側には初代将軍の子供は目の上のたんこぶだ。消してしまえと考える者も出てくるだろう」
父さまは真剣な顔で答えた。
「お前たちはそう明かすつもりなのか?」
「ニアから剣の太刀筋や魔法が似ているって言われたって言ったよね? 兄さまが侯爵さまに似ているって言われるように、おれたちももう少し大きくなったら、もう母さまに似ているって言われなくなって、将軍に似ているって言われることがあるかもしれない。後手にまわって、家族に何かされたら嫌だ。それぐらいなら、こっちから明かして、ガゴチを統率して、2度と悪いことはさせない」
ロビ兄、アラ兄の瞳に決意が見える。
「お前たちは父さまと母さまの子だ。似ているなんて言わせない」
「……もちろん、そうだよ。でも来年度ガゴチの将軍の子が学園に通うようになって。恐らくそのお付きの人とかが一緒に来るでしょ? そこには前将軍を知っている人たちが来るかもしれない。クララがウチのことをガゴチに報告したかどうかはわからないけど、ウチを探っていたことで何か思われていたら? ニアだって少し一緒に戦っただけなのに、すぐにそう言ったよ。もしそのことで、父さまやみんなに何かあったら嫌なんだ。ガゴチは何をするかわからないんだから」
父さまが立ち上がった、あっという間に双子の間に立ち、そしてふたりを力強く抱きしめた。
「と、父さま……」
「父さま、泣いてるの?」
「お前たちが考えていることはわかった。でも、お前たちは私の子だ。どうしても将軍になりたいと、その国で一番になりたいのだと、そういう考えであるなら応援するが、守るために辛い選択をすることは許さない。父さまをもっと信じてくれ」
「信じてるよ、誰よりも!」
「うん、だって、オレたちの父さまだもん!」
固く固く3人はぎゅーっとした。
もふさまがわたしのほっぺを舐める。しょっぱいはずだ。
ロビ兄とアラ兄はそんなことを考えていたんだ。
ふとアラ兄がわたしを見る。
「リー、泣かないで」
「泣くよー」
わたしは訴える。ガゴチの人になるつもりだったなんて……。
アラ兄かロビ兄がシュタイン領をいずれ治めるんだと思ってた。兄さまから、領地はエリンかノエルが治めるだろうと聞いて、胸がざわざわした。それが、双子の考えはもっとかっ飛んでいて、大陸違いの外国に行こうとしていたなんて。
「ふたりとも、どこにも行っちゃやだ!」
わたしは立ち上がりふたりに突進した。
「ガゴチはこれからだって、聖女候補やリーや……ウチにだって何か仕掛けてくるかもしれないよ? おれたちがいなければ……」
「馬鹿なこと言わないで。ガゴチがとんでもないいい国ならまだしも、世界議会からも危ないと言われているそんな国に、わたしの〝兄さま〟たちを絶対にあげない!」
そう口にしながら、最近どこかで耳にしたことがある台詞な気がした。
あ、エリンとノエルだ。
〝ウチの家族は誰もあげないんだから〟
〝誰にもあげないよ!〟
エリンのスキルが未来視だと言っていた。あの子はニアがガゴチの人で、ガゴチに双子が行ってしまう未来を見たの?
そう思うと、すっごく怖くなった。
「父さま、クララの行方は本当にわからなかったのですか? それとも何か知っているんですか?」
兄さまが鋭く尋ねた。
「クララの行方はわからない。でも今思えば、クララは前将軍派だったのだろう。逃げる前までの言動で知っていることは、クララの探していた人は前将軍だと思われる。そして、前将軍が亡くなったと確信していた。なぜか忘れ形見がいると思っていた。それがアランとロビンかリディーか、3人ともかと思っていたようだ」
わ、わたしも? なんで?
驚いて父さまを見上げる。
「母さまはつわりが酷くて、辺境でも部屋にずっと籠もっていた。だからお腹の大きな姿を見ている人が少ないんだ。子供も3歳までは家から出さないから、子供を見かけなくても当たり前なんだが。辺境の町にいる新参者にでもそこ何年かのことを聞いて、産んだ様子がないのにいきなり子供がいたとでも聞いたのだろう」
「あの者は、どうしてシュタインと前将軍が関わりがあると思ったのかが不可思議だ」
おじいさまの言う通りだ。時間軸で考えれば、前将軍はガゴチから逃げてきてそこで母さまの姉さまと出会って恋に落ちたんだろうからね。それに前将軍が亡くなったって思っていたってのも……。
クララがウチに目をつけた経緯も、アラ兄たちのお父さんとお母さんの出会い、そして何があったのかとか、もう知ることはできない。
「アラン、ロビン。父さまに時間をくれ」
アラ兄とロビ兄は再び父さまにしがみついた。
父さまはそんなふたりをギュッとする。
「アラン、ロビン……もし前将軍の子供だと認められたとしてもお前たちではまだ偶像のままになり、利用されることになる。何にしても力をつけろ。それは武力だけのことではない」
父さまの胸の中で顔を上げ、双子は諭したおじいさまに頷いた。家族間会議はそこでお開きになった。
怒涛に過ぎた時間だった。衝撃があり過ぎて、もふもふ軍団が旅だったのがついさっきだなんて信じられない。
ふたりのシャツの裾を掴んでいたら、苦笑いをされた。
「リー、なんて顔してるの? そんな顔でいたら、エリンとノエルに怪しまれるよ」
「どこにも行っちゃ嫌だからね」
「リー、ありがとう。でも知っておいて。おれたちはいずれ大人になる。自分の目標のために旅立つこともあるかもしれない。でも、いつでもどこにいても、リーはおれたちの妹で、リーのことが大好きだ。言葉では表せないくらい」
思わずまたふたりに抱きつく。
わかってる。みんなの目の前に道は広がっている。いつまでも一緒の道を歩めるわけではない。大好きな人の夢や目標に向かって旅立つのなら、それは止めてはいけないことだ。その時はちゃんと餞の言葉を送るよ。
わたしだって、いつでも、どこにいても、大好きだって。とても言葉では言い尽くせないくらいに。
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