プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
386 / 799
9章 夏休みとシアター

第386話 家族間大会議③軍団の想い

しおりを挟む
『なら、私が行こう!』

「レオ」

『私は人族に肩入れしても問題ないからな。少しの間、その共和国の農場を見てこよう』

「おいらも行くでち。レオだけじゃ心配でち」

『何をぉ? 私は人族より強いぞ。何が心配なんだ?』

「感情のままに行動するところでち。おいらが一緒なら、レオを止められるでち。元の姿になれば強いし、探る時は小さくぬいぐるみになって近づくでち。そして隠れるでち。危険はないでち」

 レオとアオのジャブが続く。
 そしてアオはわたしを見上げた。

「だからリディアは心配することないでち」

 !

『そういうことなら、わたくしも行きましょうかねぇ。アオも慌てやすいですから、常に冷静なわたくしがいれば、役立つというものです』

『行くー! リーの役に立つ!』
『行くー! いっぱいリーの役に立つ!』

『よし、決まりだ。みんなで共和国の農場に行くぞ』

 もふもふ軍団が盛りあがる。

「父さま、伝達魔法の魔具を貸して欲しいでち。それで連絡取り合うでち」

「あ、ああ、それはいいが……」

「ダメだよ、みんな。危険があったらどうするの?」

『私たちは強いよ、リディア。リディアの〝いっぱいやること〟を私たちも手伝える。だから恐がるな。リディアもまだまだだけどちゃんと強いし、ここにいる人族は人族の中でも強いぞ。自分だけで悩んで、辛くなるな』

 トテトテとレオがテーブルの上を歩いてきて、くりっとした大きな瞳でわたしを見上げた。空の青さを切り取ったような瞳に不安そうな顔をしたわたしが映っていた。

『リーはちゃんと強いから大丈夫』
『リーはボスだ!』

 アリとクイもわたしを見上げる。

『そうですねぇ。きっとリディアなら全てをやり通せますよ』

 ……ベア……。

「大丈夫、おいらたち、調べてくるでち。証拠も絶対出てくるでち。兄さまはちゃんとリディアの隣にいつもいるでち。だから魔力を暴走させたりしちゃダメでちよ」

「魔力の……暴走?」

 父さまの声がやけにゆっくりに聞こえたような気がした。

『アオ、それは秘密だったのに』

「え? 秘密だったんでちか?」

『まあ、いいや。そんなわけだから、私たちは行くよ。伝達魔法の魔具を貸してくれ』

「そんな今すぐじゃなくても!」

『主人さま、リディアとみんなを頼んだぞ』

『誰に向かって言っておる』

「ちょっと待って、ご飯をいっぱい作るから」

『今生の別れでもあるまいし。帰ってきたときにいっぱい作ってくれ。思い立った今、行くよ』

「あ、じゃあ、せめてこれ」

 アラ兄が自身の収納袋を手渡した。

『ありがとう。遠慮なくもらっとくぞ』

「リディア、そんなに長い別れじゃないでち。だから泣かないで。兄さま、リディアを捕まえていて」

「ちょっと、待って!」

 みんながわたしを振り返って見て、駆け出して行く。
 追いかけようとして、兄さまに止められる。

『リディアのために何かしたいのだ、気持ちを汲んでやれ』

 もふさまが言った。
 でも……。
 庭が見える窓に駆け寄る。
 庭先でみんな本来の姿になる。大きなドラゴンのレオの背中にみんなが駆けあがっていく。弾みをつけてレオが飛び立った。家が風に煽られたように音が鳴った。
 わたしは空を見上げた。と同時にして、一瞬にして消えた。

「え?」

『ミラーの空間からあちらに戻ったのだろう』

 あ、そうか。びっくりしたー。
 ふう、と息を整える。驚いたことにより、急に離れ離れになった不安が少しだけなりを潜める。





「さて、リディア」

 静けさが降りた部屋の中で、父さまがかしこまって言った。これあかんこと言われるやつだ。そう思って身構える。

「魔力の暴走とはいったい何かな?」

 ええと。

「カートライト令嬢と話してから、元気そうにしているけど塞ぎ込んでいるのも知っているよ。リディーが自分から話してくれるのを待っているつもりだったけど、悩んで辛くなっているなら話して欲しいな」

 兄さまがわたしの手を取りながら言う。

「魔力の暴走と合わせて、話そうな、リディア」

 うっ。
 父さまの笑顔の圧力。

「……魔力の暴走は、精神の均衡が崩れたみたいで、魔力酔いよりちょっと激しくて胸がわさわさしたことがあって。気づいたら聖樹さまのところにいて、落ち着かせてもらったの。魔力が暴走しそうだったって言われた。聖樹さまはわたしの魔力が暴走したら、学園に被害が出るだろうからわたしを呼び寄せたって言ってた」

「なぜ暴走しそうになったんだ?」

「それは……」

「それは?」

 チラッと原因である兄さまに目が行った。心配そうにこちらを見ている。ダメだ理由を言うのは恥ずかしすぎる。

「理由は言いたくない」

 おじいさまがほっほっほっと笑った。

「言わずとも、理由はわかっているようだな?」

「すっごく驚くっていうか、衝撃を受けると、均衡が崩れるみたい……」

「大人でも激しく動揺することはある。心を落ち着ける方法は人それぞれだ。リディーは魔力が多い。もし魔力が暴走したら大変なことになるかもしれない。早く落ち着ける方法を身につけるんだよ」

 父さまに諭される。

「はい」

「じゃあ、それ以外のリーの心配事って何?」

 アラ兄とロビ兄にも真剣に目を向けられている。
 わたしは不安度の小さなものから話すことにした。
 まず、宿題が進んでない。学園が始まったら学園祭の準備で追われるだろうし、年末のエイベックス女子寮との勝負。
 愚痴チックだよな。だから言うの嫌だったんだけど。

「え? リーが宿題? 難しいものでもあったの?」

 まーね、量はあるけど、粛々とやっていけばいつかは終わると思うんだよ。でも、一つだけどうしても意味のわからないものがある。

「意味がわからない? リーが? 教科は?」

「算術」

「えー、算術でリーが困っているの?」

 そういいながら、なんとはなしに嬉しそうなアラ兄とロビ兄。

「なんだ、割り算か? 教えてやるぞ? あ、今、問題は覚えてないか」

「ううん、覚えてる」

 無言で促されたので言うことにする。

「一番美しいと思う数式を理由とともに挙げよ」

「なんだよ、それ!?」

「やっぱ、そう思うよね?」

 わたしはわたしの気持ちをわかってくれたロビ兄の手を取る。

「だって、何が美しいと思うかなんて人によって違うでしょ? 正解なんて知らないよ」

「リディアが言うように正解は人により違っていいんだろう」

 おじいさまが言った。

「そうですよ、お嬢が素直に美しいと思えるものを理由と一緒に書けばいいんですよ」

 シヴァもそう言ってくれる。
 美しいと思える数式か、うーーーーむ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...