プラス的 異世界の過ごし方

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9章 夏休みとシアター

第382話 苦い思い出

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 寝る前にベッドへ横になり、みんなでおしゃべりしているとノック音がした。

『エリンとノエルだぞ』

 もふさまが教えてくれる。わたしはベッドから降りた。
 そしてドアを開ける。

「どうしたの?」

「姉さま、一緒に寝ていい?」

 夕食の時にしゅんとしていたから、父さまに何か言われて堪えているのだろう。

「どうぞ」

 ドアを大きく開けて枕持参のふたりを招き入れる。
 ハッとしてベッドを見ると、もふもふ軍団はぬいぐるみになり、上掛けの上に散っていた。

「姉さまは本当にぬいぐるみが好きなのね」

 そう言ってエリンは枕をわたしの枕の隣に置くと、そうっともふもふ軍団を救い上げて枕の上側の棚に置き始めた。
 やっと約束を守る気になったらしい。

「もふさま、一緒に寝させてね」

 エリンがもふさまにお願いをすると、もふさまは少し端によった。
 反対隣りにノエルが枕を置く。3人と1匹で並んで横になる。

「姉さま、あたし今までぬいぐるみを大事に扱ってって言われて約束したのに守ってなかった、ごめんなさい」

「僕もごめんなさい」

「……わかってくれたならいいのよ。これからは大切にしてね」

「「うん」」

 ふたりは頷いて、声音が明るく響いた。

「僕たちが約束を守れないから、みんな呆れてたんだよね?」

「そんなことないわ。姉さまも約束を守らなくて、取り返しがつかなかったかもしれない失敗をしたことがあるの」

「姉さまが?」

「そうよ。父さまと母さまに危険だから絶対に魔力を使うなと言われて約束したのに、どうしても早く魔法を使えるようになりたくて魔法を使っちゃったの」

 ふたりの喉が鳴る。

「それで?」

「父さまと母さまにみつかって、体が大丈夫か心配されて、約束を破った罰に次の日まで魔法を使っちゃいけないって言われたの。……人の命がかかっていたの。だから姉さまは多少危険があったとしても、結果なんともなかったんだからいいじゃないかって思ったの。罰は後で受けるから、命を繋ぎ止めることを優先させてほしくて。でも、それを父さまと母さまに禁止された」

「ど、どうして? 約束を破ったから?」

「約束を破ったからでもあるけど、姉さまのこれからを心配して、だね。誰かを救うためなら自分が危ない目にあってもいいという考えを許すことはできないって罰せられたの。父さまたちの気持ちもわかるけど、今の優先順位は命をつなぎ止めることだってわんわん泣いたんだけど、絶対ダメって。命がかかっているのに、もしまた魔法を使ったら、命をつなぎ止めること自体を拒否するとまで言われた」

 双子が左右からわたしの腕に絡みついてくる。

「魔法が使えない1日が怖かった。その間に死んでしまったらどうしようと思って。わたしが最初に約束を破らなければ、今日何かできたかもしれないのに。辛い思いを止められたのにって。怖くて辛かった。姉さまが姉さま自身にすることだから大丈夫だと思ってしたことが、それによって誰かを苦しめ、それも死なせてしまうかもしれないことが、とても怖かった。姉さまは自分に決して約束は破らないって誓ったの。自分を軽んじないともね」

「……で、どうなったの?」

 わたしは笑いかける。左右、順番に。

「間に合ったわ」

 ふたりは安心したように笑った。そして黙り込んで何かを考えているようだった。そのうち、わたしも眠ってしまった。



 もふさまに顔を舐められ起こされる。
 しまった、隣のエリンとノエルはいなかった。朝練に行ったとのことだ。
 みんな早起きだなー。

 あ、父さまに話すことがあるんだっけ。時間とってもらわなくちゃ。
 朝ごはんを簡単にすませ、アスレチック会場に向かうと、もう人だかりができていた。楽しみにしていてくれたようだ。

 わたしは女の子たちには〝ズボン〟を勧め、貸し出した。
 今まで畑仕事用に使っていたものがあるので、大きさはバリエーションがある。
 父さまから開場のアナウンスがあり、子供たちが走り出した。
 中には大人も混じっている。
 アスレチックは遊戯についている番号通りに進むのが望ましく、ただ無理そうだったら迂回してもいいと伝えてある。
 1番の山に次々とチャレンジャーが群がる。登り切れる子と、途中までしかいけなくて、もう一度降りてから助走をつけて頑張るんだけど、どうしても上にいけない子も、なかにはいた。
 わたしも人が少なくなってから挑戦したが、純粋に運動神経のみに頼ると1番もクリアできなさそうだった。
 あ。そうだ。トランポリンの下敷きを入れて動く練習をここでしよう。一石二鳥!
 靴にトランポリン素材の下敷きを入れた。

 うっ。
 このふわふわ感覚は難しい。転ぶ!と思った時はもふさまが引っ張ってくれて、転ばずにすんだ。

「もふさま、ありがと」

『リディア、お前には向いてない遊具なのではないか?』

 もふさまをジト目で見たが、通じなかったようで、首を傾げられた。
 ふと見渡せば、どのアトラクションもすごい列となっている。池に落ちたのかずぶ濡れの子もいる。先頭集団は6番まで行ってるよ。エリンとノエルも先頭集団だ。兄さまやアラ兄たちはお手本となり、また先生となりうまくできるよう指導している。1番でつまづいて進めない運動音痴の子たちと目があってなんとなく笑ってしまう。うちらには突破が難しそうだね。

 仲間意識ができたので、尋ねられたトランポリンの下敷きを貸したら、みんな勢いでホップステップジャンプと山を登ってしまった。
 裏切り者め! なんか楽に進んでいるよ。わたしみたいにフラフラすることはない。なにそれ、ひどい!
 それを見た子たちも下敷きを入れてやりたがった。

 結局、きている子たちの分、全部さも用意していたかのように作りながら収納袋から出していくことになり。魔力をかなり使ってしまった。

 一番の難関は池の中にある網に飛びつくやつみたいだ。飛びついてしっかりと網を握らないとだから。そこでボチャンボチャンと池に落っこちていた。
 でもどの顔も楽しそうに輝いている。水に落ちてさえ楽しそうだ。
 わたしは楽しいのはイカダだけだったし、ほとんどもふさまに助けてもらうことになったけれど、みんなの楽しそうな顔を見られたのでヨシとする。
 アスレチック気分を味わった。
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