プラス的 異世界の過ごし方

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9章 夏休みとシアター

第378話 休めない夏休み

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 父さまがわたしを見た。

「カートライト令嬢とずいぶん話し込んでいたと聞いたぞ」

「うん」

「楽しい話ではなかったのか?」

「うん、いずれ相談する」

「そうか。ペネロペ商会だが、本部が海外にあるから調べがなかなか進まない。でも、外国に顔のきくクジャクさまや皆さまが手を貸してくれて調べているからな」

「……うん」

「父さま、ニアはガゴチの人なんだって」

 父さまの目が少し大きくなった。

「双子がいきなりニアに挨拶した後そう言って。ニアは5年前に国を出て人探しをしているんだって」

「そうか。フランツから聞いたが、殿下から来年度ガゴチの子が留学してくる話は聞いたな?」

「うん、聞いた。父さまは世界議会の人から聞いたんでしょ?」

「なぜそれを?」

「双子が言ってた」

 父さまに促されてニアと出くわした時のことを話した。父さまは顎に手をやって、下の双子と少し話をしてみると言った。

「アランやロビンがニアと話しているところを見たか?」

 わたしは首を傾げた。

「スクワランからの帰り道でどうだったんだろう? その後も特に会ったとか話したとかは聞いてないけど?」

「そうか。ガゴチの目的はわからない。リディアへの報復だったらと思うと、お前を閉じ込めておきたくなる」

 あ。
 アイリス嬢は言っていた。いろいろな未来を見て。例えば一つの問題がその未来ではなくなっていて。胸を撫で下ろした途端、違う形で同じようなことが起こっているのだと。
 アイリス嬢はだからわたしが閉じ込められるって危惧していたんだよね。
 母さまが元気だからそこでの閉じ込めは回避したけれど、まさか、今度はガゴチに狙われたらとかで籠ることになるのじゃないよね?

「なぁ、リディア。学園に通っていたいか?」

 うっ。

「父さま、わたし、学園でいっぱいやりたいことがある」

 父さまは寂しげに見える表情で頷いた。

「……そうか。リディア」

「はい」

「危険が迫った時は、魔力を出し惜しみしなくていいから、自分を守りなさい。リディアはまだ大人ではないし、素早くないし、判断も遅い。けれど、魔法の威力は確かで、的確な魔法の使い方をしていた。いや、むしろ無意識に魔力を操る方が、自分の身を守れるのかもしれない。危険な目にあって魔力が解放されたのだとでもなんとでも言える。だからためらってはいけないよ。自分を守ると約束してくれ」

「約束する。ためらわず、自分をちゃんと守る」

 父さまが笑ってくれた。

「そういえば明日が化粧水を売り出す日だな。アールの店に出るのか?」

「うーうん、今はホリーさんにお任せ。明日は領地恒例の魔物狩りだよ」

 父さまは顎を触って、そうだったなと思い出したようだ。

 夏と秋の終わりに恒例となっている魔物狩り。領地の人なら参加資格あり。ただし山の真ん中あたりまで一人で行けないとダメ。全部狩るつもりではいるけど、あんまり下の方に魔物を追い立てちゃうと、とりこぼしたら危険だからね。
 山の中腹ぐらいのところにいればもふさまが上から魔物を追い込んでくれる。冒険者ギルドから人を派遣してもらったり、警備隊のおじいちゃんたちにも一緒に行ってもらうこともあるけれど、わたしたち兄妹が引率している。もふさまの貢献度が一番高いけど。密かにもふもふ軍団も放しているので、それぞれに狩りを楽しんでいる。

 秋の終わりのものは、冬の保存食用の意味合いが強いので気合の入り方が半端ないが、夏のものは腕試しや腕が鈍らないようにだったり、初めての魔物狩りをする子供だったりする。明日はわたしたちの他に56人参加予定だ。5班に分けたチームとして、わたしたち兄妹、エリンとノエルはふたりで、それぞれの班につく。

 明日から化粧水の発売が始まり、魔物狩りの日でもある。
 次の日がアスレチック公開で、子供たちに遊んでもらう予定だ。
 その次にはおじいさまとシヴァを交えての話し合いが控えていて。
 次の週にはクジャク公爵さまたちが避暑にやってくる。魔使いの住んでいた家を見たいと言っていたから町外れの家に行ったり、宿屋がいっぱいなので、窮屈な思いをさせてしまうけど、ウチに泊まっていただくことにもなるだろう。女性陣は帽子を作るのを楽しみにしている。
 そう考えるとダンジョンに行く暇がないね。いろいろな素材を確保したいんだけどな。
 その間に宿題、クラブの物語も仕上げないとだし、神話と聖女のことと、あ、トランポリンの下敷きを入れて歩く練習もしなくちゃ! やることがいっぱいありすぎる。全部できるかなー。

「どうした?」

「夏休み中にやらなくちゃいけないことが多すぎて全部できるかなー。宿題が全然終わってないんだけど」

 心配事を口にすれば父さまが吹き出す。
 今、笑うところあった?
 わたしの視線に気づいて父さまはバツが悪いように謝った。

「悪かった。近頃のリディアは急に大人になってしまったような気がしていたが、夏休みか、そうだな、リディアはまだ1年生だもんな」

 急に父さまに抱きしめられる。

「あまり急に大人になるな。ゆっくり成長して、父さまにもう少しだけ守らせてくれ」

 わたしは答える代わりにぎゅーっと抱きついた。
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