プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
371 / 799
9章 夏休みとシアター

第371話 子供だけでお出かけ⑮酔いどれ

しおりを挟む
 思いを馳せていたのを、ロサの声で引き戻される。

「それと、これはシュタイン領主はもうご存知だと思うが、来年度ガゴチの将軍の子供が留学してくる。夏休み以降から入園したいと打診があって、なんとか来年度まで引き伸ばしたんだ」

 カゴチが?

「君たちは当事者の家族だったから知っていると思うけれど、ガゴチは評判通りまともな国じゃない。そして聖女候補誘拐にも関わったと思われる。裁判で完全にガゴチの国自体が関わっているとわかれば、留学を取りやめさせることもできるが、恐らく〝国としても遺憾だけれど全ての民の思っていることまではわからない〟そう逃げると思うんだ。だから入園してくるだろう。何が目的かはわからないけれど、聖女候補に執着しているような気がしているんだ。それから……例の件、難を逃れたのはリディア嬢、君の貢献度が高かったとみんなが口を揃えて言う。だから、ガゴチは君がいなければ聖女候補を手に入れられたのにと君を疎ましく思っているかもしれない」

 場がシーンとする。

「リー顔が赤くない?」

 アラ兄に言われる。
 頬に手を添えると、ちょっと熱い?
 ロサがテーブルの上に目を走らせハッとした表情を浮かべた。

「あ、そのお菓子、もしかして一気に食べた? ……悪かった、先に伝えるべきだった。お酒が使われているので食べ過ぎないようにと言われていたんだ」

 まだ誰も手をつけていないそれぞれのお皿と反対に、わたしのは空っぽだ。
 この世界はお酒を造ることを法として取り締まっているが、飲む方は法で取り締まってはいない。推奨は社交界デビューする14歳から。お酒も高いから子供がグビグビ飲めるほど買うこともないしね。そこまで規制しなくても大きな問題が起きたことはないようだ。
 お酒かー。子供も食べるお菓子に使うんだからドバドバ使ったわけではないだろうし。

『リ、リディア?』

「なぁに、もふさま?」

 慌てたように兄さまが駆け寄ってきた。

「リ、リディー、大丈夫かい?」

「大丈夫って何が?」

「殿下、彼女の様子がおかしいので、すみませんが失礼します」

「ああ、そうしてくれ。いや、うっかりしていた。申し訳ない」





 気がつくとわたしは馬車の中、寝そべっていた。

「どこ?」

 頭がなんか変。前に座っているのは父さまだよね?

「大丈夫くわぁー、リーディー」

 耳に水が入ったみたいに、間延びした変な感じに聞こえた。

「父さま、なんか、変」

「ど、どぉーした? 気持ちぃ悪いのぉかぁ?」

 父さまが中から馬車の側面を叩いている。
 馬車が止まった。

「ふわふわする」

 手を伸ばす。父さまに届いているはずなのに、なんか違う。

『リーーディーアーーー』

 もふさま?
 頭の中がもったりしてる。なんかよく聞こえない。

「水をー飲むぅーかー?」

「水? 水が欲しいの?」

 父さまの上から水が落ちてきて父さまが水浸しになった。髪がぺちゃんこだ。
 なんで父さまの上から水が?
 なぜかわからないけど、わたしは笑っていた。
 笑ってる? うん、何かが面白いんだろう。
 馬車のドアが開く。開けた誰かが中の惨状を見て驚いている。

「どーうーしたーんですかぁ? と、父ぅさま、なぁんでずぶ濡れなぁんですかー?」

「兄さまだ!」

「えー、ちょっとー、リディー危なーいよぉ」

「リディー、馬車からぁ降りるんじゃなーい」

「「どーしたのぉ?」」

「あはははは、双子みたい!」

 ケインの後ろから同じ顔したアラ兄とロビ兄がぴょこぴょこ顔を出すんだもの。

「リポロたちの馬車は先に行ってもらってよかったな。ほら、リディー、馬車に戻るんだ」

「父さま、なんで濡れているの?」

 アラ兄の声がする。

「ナンデダロウナ?」

「あー、頭が痛い」

「リディーダメだよ、そっち行っちゃ」

「ダメって言っちゃダメ!」

 自分の声が頭に響いて、痛かったので頭を押さえた。

「もふさま!」

 大きなもふさまが横に来てくれた。わたしはしがみつく。

「みんなあれしちゃダメ、これしちゃダメっていうけど、わたしだって守れるんだから! 強いん……? 人がかくれんぼしてる」

「人がかくれんぼ?」

「かくれんぼじゃなくて、強いの! 亀の子たわしだったことだってあるんだから!」

「カメノコタワシ?」

「主人さま、そのまま馬車の中にお願いします」

「そうだ! かくれんぼ。おじさんたち、出てきなさいよ」

「何を言ってるんだ、リー」

「出てこないなら、出てきてもらうまで」

「リ、リディアやめなさい! って酔っ払いに何を言っても無駄だな」

 巻き起こした風はおじさん5人を連れてきた。ヨレヨレだ。
 なんか見たことある。

「クレソンさん、何をなさっていたんですか?」

 父さまの声が低く聞こえる。

「な、何もしていない。魔法で攻撃してきたのはそっちだろ?」

「攻撃ですって? 攻撃ってのはこういうのをいうのよ!」

 兄さまに抱え込まれた。

「もー、止めないで」

「リディーは馬車の中に入ってて」

 兄さまの手を払う。
 と、後ろから手を引かれた。

「形勢逆転だな。おい、娘、解毒薬をだせ!」

「解毒薬? なんの話? それより、放して。わたしは兄さまと話をしているの!」

「兄と話すのは後でにしてもらおう。領主よ、娘がどうなってもいいのか? 早く出さないと、娘の命はないぞ?」

「ごちゃごちゃうるさいなー。わたしに触るな!」

 もう、さっきっから、触るなって言ってるのに!
 戒めがなくなった。地面におじさんたちが転がっていた。

「みんなわたしをすぐに止めるけど……頭痛い、もー、もふさま。アオ、レオ、アリ、クイ、ベア、帰るよ」

 よいしょっと、もふさまのふわふわの背中に乗り込む。
 日向の匂い。

『よし、家に帰ろう』

 もふさまがそう言ってくれたので、わたしは安心して目を閉じた。




 わたしはどうやらお菓子に使ったお酒で酔っ払ってしまったらしい。記憶はあやふやな上、その後も眠ってしまったようなので、全ては後からもふさまやもふもふ軍団から聞いた。

 クレソン商会のクレソン氏は解毒薬欲しさにわたしたちをまたしても襲撃してきたらしい。しつこい! 護衛部隊を先に行かせたのでチャンスと思って襲うタイミングを伺っていた。そこに馬車が止まった。
 護衛部隊は微かに後ろに見えていた馬車が見えなくなり待っていてもなかなかこないので引き返してきて、クレソン商会の転がっている男たちをお縄にした。
 地味に〝毒が回る話〟が効いたようで、襲撃したのを認めるから解毒薬をくれと言われたそうだ。訴えたスクワランのお役人たちと相談して、嘘の毒話は彼らには話さないことにして、栄養剤を渡したそうだ。でもペネロペに頼まれたとは口を割らなかったらしい。

 クレソン商会はトップが捕まり、悪どいことをする商会だとわかり、取り潰された。
 倒れていたのは、わたしが魔法で攻撃したからだと事実を述べたが、わたしの魔力量や、体調を崩して寝ていたのを護衛が見たこと、その前から彼らは嘘をついていたことから、記録には襲撃されたが、父さまたちが返り討ちにしたと残された。

 さて。わたしは微かに覚えていることの他にはるかにいっぱい、みんなを手こずらせたらしい。
 ロサの屋敷から帰る際は、歩くのは嫌だとか、おんぶしてくれなきゃ動かないとか、散々わがままを言ったそうだ。人のいるところで、もふさまや、もふもふ軍団に普通に話しかけたらしい。
 11歳にして酒癖が悪いとレッテルを貼られてしまった。
 不名誉ではあるが、わかったことがある。
 もうちょっと魔力がある設定にしておけばよかったと思った。魔法を自主規制せずに使えるのはストレスがないことだと知った。周りはハラハラしたようだけど、思いつくままに魔法を使えて、わたし的にはスッキリしていたのだ。目を覚ましてから半日、頭痛が激しかったので、あのお菓子はおいしいけど二度と食べないと誓ったけれどね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...