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9章 夏休みとシアター
第368話 子供だけでお出かけ⑫悪い奴は認めない
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父さまは商会のドアを蹴破って入った。
そんな父さまを初めて見たので、わたしはちょっとビクついた。
商会には2人の目つきの悪い用心棒がいて、父さまを止めようとしたけれど、父さまはふたりを一瞬にして地面と仲良くさせた。ニアがやるねぇとでもいうようにヒューと口笛を吹く。
奥からクレソン商会のトップが出てきた。神経質そうな人で父さまより少し年上な感じ。父さまがシュタイン領主だと見ただけでわかったようだ。そして殴られた用心棒たちをチラリと見て、いきなりの暴力はどういうわけでしょう?と静かに問い質された。
父さまはニアに合図をして、ニアがわたしたちを襲ったアニキを連れてきた。
「そちらは?」
クレソン氏は顎でアニキをしゃくり尋ねる。
「息子たちの乗った馬車がこの者たちに襲われましてね、この者はクレソン商会から頼まれたと言うんですよ」
クレソン氏は鼻で笑う。
「ならず者のいうことを信じたんですか? それになぜうちの商会がお宅のご子息の馬車を襲わなくちゃいけないんですか?」
ドアは破壊してない状態だし、大きな声で話しているし、人は倒れているしで、いつの間にか人だかりができている。
父さまの連れてきた人たちがわたしの後ろに立って、人々の視界から遮られる。フォンタナ家の人たちだ。
「ぬいぐるみの中身を知りたくて、どこから仕入れているのか聞いてこいと言われたそうだが」
クレソン氏は鼻で笑った。
「知りたくても、私だったら子供に聞こうとは思わないだろう」
ニヤッとする。
「では、クレソン商会は一切関わりがないと?」
「当たり前だ」
「そうか、その言葉を忘れないでくれ。今ここで認め謝罪をし、二度とこんなことをしないと約束するなら、減刑も考えるが、あくまで白を切るというならこちらも遠慮なくやらせてもらう。クレソン商会を潰すし、悪事を全てつまびらかにするから楽しみに待っていてくれ。ああ、繋がっているあんたに命令しているのが誰かもわかっている。私は時間がかかろうが絶対に罪を明らかにするからな」
父さまはテーブルの上に大きな硬貨を置いた。壊したドア代だろう。
「父さま……」
わたしは怒りをなんとか抑え込んで出て行こうとした父さまの服の裾を引っ張る。
「どうした?」
「心配なことがあるのです」
握った手を口元に添えてポーズを取る。
「……何が心配なんだ?」
家族はわたしのあからさまに怪しげなパフォーマンスに引いているが、付き合ってくれるようだ。
「わたしが差しあげたぬいぐるみ、お腹が裂かれていたのです」
「……聞いたよ」
「ほら、わたしのぬいぐるみだけ、雪くらげの住処が足らなかったでしょう? 父さまから絶対ダメって言われていたけれど、売るのではなくてわたしのだからいいと思ったの」
「それで?」
「わたしは絶対に中身を出したりしないもの。だから、雪くらげの〝毒〟を抜く前の、雪くらげの住処を使っていたの」
父さまの目が少しだけ大きくなった。
「ああ、なんてことをリディー。あの毒は触ると大変なことになるだろう」
「そうなの。最初はなんでもないのだけど、2日、3日と経つうちに皮膚が爛れてきて痛みが出てくるそうよ。そして呼吸が少しずつしにくくなってきて、ひと月もすると亡くなる人もいるって」
「いくら触らないからって危険なものを使っちゃダメじゃないか」
「ごめんなさい。だって、毒を抜かない方がふわふわさは格別にいいんだもの。直接触らなければ害はまったくないし。それに万一に備えて解毒薬は持っていたから」
スッと目を走らせると、あんなに偉そうにしていたのに、顔が青いね。
「ぬいぐるみのお腹を裂いたなら、毒を含んだ住処を触ったと思うの。だから解毒剤を渡したかったのに。その人はどこにいるのかしら?」
「ああ、ここにはいないようだから必要ない」
「リディーは優しいな。必要な雪くらげの住処の仕入れ先を知るために、私たちは襲われて怪我をしたんだよ?」
「ええ、とっても怖かった。痛かったし。ケインや兄さま、アラ兄、ロビ兄が怪我をして本当に恐ろしかった。許せないわ。……でもわたしたちは生きているわ。ひと月ほどしたら亡くなる方が何人か出るんだと思うと、黙っているのは心苦しかったの」
兄さまがわたしの頭を撫でる。
「リディーの気持ちはわかったけど、仕方ないよ。この商会の人が頼んだ人じゃないそうだから」
「引き揚げよう」
父さまが言って、ニアがアニキの首根っこを持って移動する。アニキは目をギョロギョロさせていて怯えているように見えた。
「ま、待て」
父さまが振り返る。
「何か?」
「そ、その雪くらげの住処というものには本当に毒があるのか?」
「住処自体に毒はありません。雪くらげに毒があるのです。雪くらげが使った住処ですと、住処にも毒がついています」
「そ、そんな危険なものを中身にして売っているのか?」
「毒のないものしか使用していないから大丈夫ですよ」
「な、なんで毒がないと言い切れるんだ?」
「雪くらげが住処として使ったかどうかで色味が違うからです。使用してない住処となるものはきれいで真っ白ですが、雪くらげが暮らした後は生成り色になるのです」
おおー、父さまがもっともらしい嘘を並べる。
わたしの作ったぬいぐるみは薄い布で作ったからか微かに日に焼けていた。入れたときは真っ白だった住処が、お腹を割かれて見せられた時、目の覚めるような真っ白ではなかったんだよね。父さまはアラ兄たちからそのことを聞いたのかもしれない。
「おい、嬢ちゃん、しっかり触らなければ大丈夫だよな? 指先が軽く触れたぐらいなら?」
アニキの顔色が悪い。
「それはわかりませんわ。作業する時は念のため絶対に毒を通さない手袋しますし、どれくらい触れたらまずいかなんて調べたことありませんもの」
「俺は中に手は入れてねーけど、触っちまったかもしれねー。解毒薬をくれ!」
「あなたが本当のことを話したなら解毒薬をあげてもよかったんですけど、あなた嘘を言ったでしょう? クレソン商会から頼まれたなんて言って、わたしを騙しましたね? だからわたしたちはクレソン商会さんに申し訳ないことをしてしまったのよ?」
「俺は騙してねー。嘘をついているのはこいつだ!」
アニキはクレソン商会のトップを睨めつけた。
「お前だって触っちまったんだろ? 解毒しないと死ぬんだぞ?」
「私は触れていない。それにお前はその親子に担がされているだけだ。雪くらげなんて初めて聞いた。お前はなんでそれが雪くらげのなんとかだと知ったんだ? 誰かが鑑定したんじゃないのか? もし毒があるなら鑑定した時にわかったはずだ!」
気づいちゃったか、惜しい!
ま、簡単に自白に持ち込めたらめっけもんぐらいに思ってただけだからいいけどさ。
アニキはクレソン氏とわたしたちを見比べている。
「どちらが本当かひと月後にはっきりしますわ。もっとも、わかった時には命はないでしょうけれど」
ふふふと笑っておく。せいぜい本当かな?とドキドキするがいい!
そんな父さまを初めて見たので、わたしはちょっとビクついた。
商会には2人の目つきの悪い用心棒がいて、父さまを止めようとしたけれど、父さまはふたりを一瞬にして地面と仲良くさせた。ニアがやるねぇとでもいうようにヒューと口笛を吹く。
奥からクレソン商会のトップが出てきた。神経質そうな人で父さまより少し年上な感じ。父さまがシュタイン領主だと見ただけでわかったようだ。そして殴られた用心棒たちをチラリと見て、いきなりの暴力はどういうわけでしょう?と静かに問い質された。
父さまはニアに合図をして、ニアがわたしたちを襲ったアニキを連れてきた。
「そちらは?」
クレソン氏は顎でアニキをしゃくり尋ねる。
「息子たちの乗った馬車がこの者たちに襲われましてね、この者はクレソン商会から頼まれたと言うんですよ」
クレソン氏は鼻で笑う。
「ならず者のいうことを信じたんですか? それになぜうちの商会がお宅のご子息の馬車を襲わなくちゃいけないんですか?」
ドアは破壊してない状態だし、大きな声で話しているし、人は倒れているしで、いつの間にか人だかりができている。
父さまの連れてきた人たちがわたしの後ろに立って、人々の視界から遮られる。フォンタナ家の人たちだ。
「ぬいぐるみの中身を知りたくて、どこから仕入れているのか聞いてこいと言われたそうだが」
クレソン氏は鼻で笑った。
「知りたくても、私だったら子供に聞こうとは思わないだろう」
ニヤッとする。
「では、クレソン商会は一切関わりがないと?」
「当たり前だ」
「そうか、その言葉を忘れないでくれ。今ここで認め謝罪をし、二度とこんなことをしないと約束するなら、減刑も考えるが、あくまで白を切るというならこちらも遠慮なくやらせてもらう。クレソン商会を潰すし、悪事を全てつまびらかにするから楽しみに待っていてくれ。ああ、繋がっているあんたに命令しているのが誰かもわかっている。私は時間がかかろうが絶対に罪を明らかにするからな」
父さまはテーブルの上に大きな硬貨を置いた。壊したドア代だろう。
「父さま……」
わたしは怒りをなんとか抑え込んで出て行こうとした父さまの服の裾を引っ張る。
「どうした?」
「心配なことがあるのです」
握った手を口元に添えてポーズを取る。
「……何が心配なんだ?」
家族はわたしのあからさまに怪しげなパフォーマンスに引いているが、付き合ってくれるようだ。
「わたしが差しあげたぬいぐるみ、お腹が裂かれていたのです」
「……聞いたよ」
「ほら、わたしのぬいぐるみだけ、雪くらげの住処が足らなかったでしょう? 父さまから絶対ダメって言われていたけれど、売るのではなくてわたしのだからいいと思ったの」
「それで?」
「わたしは絶対に中身を出したりしないもの。だから、雪くらげの〝毒〟を抜く前の、雪くらげの住処を使っていたの」
父さまの目が少しだけ大きくなった。
「ああ、なんてことをリディー。あの毒は触ると大変なことになるだろう」
「そうなの。最初はなんでもないのだけど、2日、3日と経つうちに皮膚が爛れてきて痛みが出てくるそうよ。そして呼吸が少しずつしにくくなってきて、ひと月もすると亡くなる人もいるって」
「いくら触らないからって危険なものを使っちゃダメじゃないか」
「ごめんなさい。だって、毒を抜かない方がふわふわさは格別にいいんだもの。直接触らなければ害はまったくないし。それに万一に備えて解毒薬は持っていたから」
スッと目を走らせると、あんなに偉そうにしていたのに、顔が青いね。
「ぬいぐるみのお腹を裂いたなら、毒を含んだ住処を触ったと思うの。だから解毒剤を渡したかったのに。その人はどこにいるのかしら?」
「ああ、ここにはいないようだから必要ない」
「リディーは優しいな。必要な雪くらげの住処の仕入れ先を知るために、私たちは襲われて怪我をしたんだよ?」
「ええ、とっても怖かった。痛かったし。ケインや兄さま、アラ兄、ロビ兄が怪我をして本当に恐ろしかった。許せないわ。……でもわたしたちは生きているわ。ひと月ほどしたら亡くなる方が何人か出るんだと思うと、黙っているのは心苦しかったの」
兄さまがわたしの頭を撫でる。
「リディーの気持ちはわかったけど、仕方ないよ。この商会の人が頼んだ人じゃないそうだから」
「引き揚げよう」
父さまが言って、ニアがアニキの首根っこを持って移動する。アニキは目をギョロギョロさせていて怯えているように見えた。
「ま、待て」
父さまが振り返る。
「何か?」
「そ、その雪くらげの住処というものには本当に毒があるのか?」
「住処自体に毒はありません。雪くらげに毒があるのです。雪くらげが使った住処ですと、住処にも毒がついています」
「そ、そんな危険なものを中身にして売っているのか?」
「毒のないものしか使用していないから大丈夫ですよ」
「な、なんで毒がないと言い切れるんだ?」
「雪くらげが住処として使ったかどうかで色味が違うからです。使用してない住処となるものはきれいで真っ白ですが、雪くらげが暮らした後は生成り色になるのです」
おおー、父さまがもっともらしい嘘を並べる。
わたしの作ったぬいぐるみは薄い布で作ったからか微かに日に焼けていた。入れたときは真っ白だった住処が、お腹を割かれて見せられた時、目の覚めるような真っ白ではなかったんだよね。父さまはアラ兄たちからそのことを聞いたのかもしれない。
「おい、嬢ちゃん、しっかり触らなければ大丈夫だよな? 指先が軽く触れたぐらいなら?」
アニキの顔色が悪い。
「それはわかりませんわ。作業する時は念のため絶対に毒を通さない手袋しますし、どれくらい触れたらまずいかなんて調べたことありませんもの」
「俺は中に手は入れてねーけど、触っちまったかもしれねー。解毒薬をくれ!」
「あなたが本当のことを話したなら解毒薬をあげてもよかったんですけど、あなた嘘を言ったでしょう? クレソン商会から頼まれたなんて言って、わたしを騙しましたね? だからわたしたちはクレソン商会さんに申し訳ないことをしてしまったのよ?」
「俺は騙してねー。嘘をついているのはこいつだ!」
アニキはクレソン商会のトップを睨めつけた。
「お前だって触っちまったんだろ? 解毒しないと死ぬんだぞ?」
「私は触れていない。それにお前はその親子に担がされているだけだ。雪くらげなんて初めて聞いた。お前はなんでそれが雪くらげのなんとかだと知ったんだ? 誰かが鑑定したんじゃないのか? もし毒があるなら鑑定した時にわかったはずだ!」
気づいちゃったか、惜しい!
ま、簡単に自白に持ち込めたらめっけもんぐらいに思ってただけだからいいけどさ。
アニキはクレソン氏とわたしたちを見比べている。
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