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9章 夏休みとシアター
第362話 子供だけでお出かけ⑥横転
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「アニキ、大丈夫っス。子供生きてるっス。気を失ってるけど」
え、気を失ってる? 脳しんとう? どこかぶつけたんじゃ。頭は怖いんだよ。
起きあがろうとするとニアに止められた。
「馭者台にふたりいたよな? あとひとりはどこだ?」
え、いるのはひとり?
「放り出されたか? おい周りを探せ。それからあいつの話じゃ子供4人のはずだ。中にふたりいる」
「ひとりは小さな女の子だったよな? 横転したんだぞ、中で死んだんじゃねーか?」
もふさまは?
ニアがアラ兄ごとわたしたちを安定する場所に座らせて、懐から棒のようなものを出した。一振りするとそれは長めの棒になり。彼はそれを構えながら横長になった幌の出入口からこそっと出ていった。
赤い点は9つ。強くても1対9は厳しいはずだ。じゃあ、魔法で補佐しよう。
「あ、ひとりこっちに倒れてますぜ。ん、狼? アニキ、横に白い、お、狼がいるっス!」
多分もふさまのことだろう。兄さまかロビ兄が飛ばされたんだ。
早く手当てしないと。
アラ兄の服を引っ張る。
アラ兄が首を横に振る。
馭者台に続く横長になった穴から敵が入ってきた。
「いやしたぜ、ふたり。ひとりは血を流してる。ちっちゃいのは抱えられていて怪我してるかは見えない」
嘘、アラ兄、血を流してる?
アラ兄の背中に回していた手を引っ込めて見てみるとベッタリと赤いものがついていた。
アラ兄を見上げれば、力なく笑う。
わたしは背中に手を回して、光魔法を使った。
アラ兄の怪我を治して! 温かいオレンジ色の光を想像して、アラ兄が傷のない元気な状態を思い浮かべる。
「リー、ありがと。痛みが消えた」
すっごく小さな声で耳元に囁かれる。アラ兄は怪我人のふりを続けるんだね。
わたしも気を失っていると見せかけるために目を閉じた。
これはみんな怪我をしている。早く治さなくちゃ。
やってきた男に揺さぶられる。わたしを抱きあげようとしたけれど、アラ兄が離さなかったので、諦めた。
「おい、ちょっと手伝ってくれ、ふたり運ぶから。ちびっちゃいのを離さないから、ふたりまとめてじゃねーと運べねー」
さらにふたりほど幌に入ってきて、アラ兄とわたしを引き離そうとしたけど、アラ兄が絶対離さなかったので、ふたりまとめてふたりがかりで運ばれる。
明るいところに出た。
アラ兄に抱きかかえられながら、目を細く開けて、周りを見る。
! ケイン! ケインが倒れている!
あ、どうしよう。ううん、泣いてる時じゃない。早く治さないと。
横に転がらせられていたのは兄さま、ロビ兄で、ふたりともどこかしら傷をおい血を流していた。
大きなもふさまがやってきて、わたしたちの横に寄り添う。
『ふたりとも意識はある。血は出ているが軽傷だそうだ』
「もふさまは?」
『我は怪我などせん』
「お、ちびっちゃいのが目を覚ましたようですぜ」
「白い狼だ、おい、追い払え!」
棒を持った人たちがもふさま目掛けて集まってくる。
『リディア、こいつらどうする?』
ニアはいない。逃げちゃったのかな? そういう人には見えなかったけど。
わたしはアラ兄の手を静かに解いて、起き上がる。
少し頭がくらくらした。
「あなたたちは何です?」
「近頃のガキってのは礼儀を知らねーな。馬車が横転したから、助けてやったっつーのに」
ぬけぬけと!
道の真ん中に岩があった。山側から落としたんだろう。これが側面に当たったんだ。
わたしはケインに駆け寄った。
目を閉じている。足が変な風に曲がっている。息が荒い。
「ケイン! お薬塗るから」
わたしは何かを塗る振りをしながらケインに光魔法をかけた。
ごめんね。ケインに痛い思いをさせて。
ケインがブルッと震えたと思ったら、立ち上がった。そしてわたしの顔を舐めた。鼻をフガフガ言わせている。
「驚いて倒れただけか。馬も運がいいな」
横たわっているロビ兄の顔色が悪い。
もふさまはわたしの横にたえず寄り添う。
「ロビ兄!」
お腹のあたりで泣き崩れるようにして光魔法をかける。
ロビ兄の傷を治して!
少しすると頭に手が掛かった。
「リー、大丈夫だ。ありがとう」
あー、よかった。次は兄さまだ。
どこに傷があるかわからないので、アラ兄、ケイン、ロビ兄にしたのと同じように、兄さまにも丸ごと光魔法だ。
握った手が持ち上がり、そこにちゅっとされる。
「兄さま!」
「リディー、ありがとう。心配をかけたね」
ううんとわたしは首を横に振った。
これで怪我は心配ない。
「兄さま、伝達魔法で父さまに連絡して。〝ぶっ潰す〟って」
「リ、リディー」
兄さまに腕を持って止められる。
「兄さま、止めないで。わたし、怒ってるの」
みんなに怪我をさせた。
ウチの物なら簡単に盗めると思った? 言うことを聞くと思った?
これは未登録の物を〝盗ませ〟〝商品登録〟させてしまったわたしの落ち度だ。
ポポ族のリポロさんみたいに、全く関係ない人も巻き込んだ。
「……止めないよ。でもやられた分、私たちにもやり返させて」
「そうだよ。おれにも〝お返し〟させて」
「オレもだ」
3人はゆらりと立ち上がる。もふさまがわたしのすぐ前で背を向けお座りする。
「その狼はお嬢ちゃんのなのかい? 追い払ってやろうと思ってたんだよ」
微妙な笑顔を貼り付けて恩を売るつもりらしい。
え、気を失ってる? 脳しんとう? どこかぶつけたんじゃ。頭は怖いんだよ。
起きあがろうとするとニアに止められた。
「馭者台にふたりいたよな? あとひとりはどこだ?」
え、いるのはひとり?
「放り出されたか? おい周りを探せ。それからあいつの話じゃ子供4人のはずだ。中にふたりいる」
「ひとりは小さな女の子だったよな? 横転したんだぞ、中で死んだんじゃねーか?」
もふさまは?
ニアがアラ兄ごとわたしたちを安定する場所に座らせて、懐から棒のようなものを出した。一振りするとそれは長めの棒になり。彼はそれを構えながら横長になった幌の出入口からこそっと出ていった。
赤い点は9つ。強くても1対9は厳しいはずだ。じゃあ、魔法で補佐しよう。
「あ、ひとりこっちに倒れてますぜ。ん、狼? アニキ、横に白い、お、狼がいるっス!」
多分もふさまのことだろう。兄さまかロビ兄が飛ばされたんだ。
早く手当てしないと。
アラ兄の服を引っ張る。
アラ兄が首を横に振る。
馭者台に続く横長になった穴から敵が入ってきた。
「いやしたぜ、ふたり。ひとりは血を流してる。ちっちゃいのは抱えられていて怪我してるかは見えない」
嘘、アラ兄、血を流してる?
アラ兄の背中に回していた手を引っ込めて見てみるとベッタリと赤いものがついていた。
アラ兄を見上げれば、力なく笑う。
わたしは背中に手を回して、光魔法を使った。
アラ兄の怪我を治して! 温かいオレンジ色の光を想像して、アラ兄が傷のない元気な状態を思い浮かべる。
「リー、ありがと。痛みが消えた」
すっごく小さな声で耳元に囁かれる。アラ兄は怪我人のふりを続けるんだね。
わたしも気を失っていると見せかけるために目を閉じた。
これはみんな怪我をしている。早く治さなくちゃ。
やってきた男に揺さぶられる。わたしを抱きあげようとしたけれど、アラ兄が離さなかったので、諦めた。
「おい、ちょっと手伝ってくれ、ふたり運ぶから。ちびっちゃいのを離さないから、ふたりまとめてじゃねーと運べねー」
さらにふたりほど幌に入ってきて、アラ兄とわたしを引き離そうとしたけど、アラ兄が絶対離さなかったので、ふたりまとめてふたりがかりで運ばれる。
明るいところに出た。
アラ兄に抱きかかえられながら、目を細く開けて、周りを見る。
! ケイン! ケインが倒れている!
あ、どうしよう。ううん、泣いてる時じゃない。早く治さないと。
横に転がらせられていたのは兄さま、ロビ兄で、ふたりともどこかしら傷をおい血を流していた。
大きなもふさまがやってきて、わたしたちの横に寄り添う。
『ふたりとも意識はある。血は出ているが軽傷だそうだ』
「もふさまは?」
『我は怪我などせん』
「お、ちびっちゃいのが目を覚ましたようですぜ」
「白い狼だ、おい、追い払え!」
棒を持った人たちがもふさま目掛けて集まってくる。
『リディア、こいつらどうする?』
ニアはいない。逃げちゃったのかな? そういう人には見えなかったけど。
わたしはアラ兄の手を静かに解いて、起き上がる。
少し頭がくらくらした。
「あなたたちは何です?」
「近頃のガキってのは礼儀を知らねーな。馬車が横転したから、助けてやったっつーのに」
ぬけぬけと!
道の真ん中に岩があった。山側から落としたんだろう。これが側面に当たったんだ。
わたしはケインに駆け寄った。
目を閉じている。足が変な風に曲がっている。息が荒い。
「ケイン! お薬塗るから」
わたしは何かを塗る振りをしながらケインに光魔法をかけた。
ごめんね。ケインに痛い思いをさせて。
ケインがブルッと震えたと思ったら、立ち上がった。そしてわたしの顔を舐めた。鼻をフガフガ言わせている。
「驚いて倒れただけか。馬も運がいいな」
横たわっているロビ兄の顔色が悪い。
もふさまはわたしの横にたえず寄り添う。
「ロビ兄!」
お腹のあたりで泣き崩れるようにして光魔法をかける。
ロビ兄の傷を治して!
少しすると頭に手が掛かった。
「リー、大丈夫だ。ありがとう」
あー、よかった。次は兄さまだ。
どこに傷があるかわからないので、アラ兄、ケイン、ロビ兄にしたのと同じように、兄さまにも丸ごと光魔法だ。
握った手が持ち上がり、そこにちゅっとされる。
「兄さま!」
「リディー、ありがとう。心配をかけたね」
ううんとわたしは首を横に振った。
これで怪我は心配ない。
「兄さま、伝達魔法で父さまに連絡して。〝ぶっ潰す〟って」
「リ、リディー」
兄さまに腕を持って止められる。
「兄さま、止めないで。わたし、怒ってるの」
みんなに怪我をさせた。
ウチの物なら簡単に盗めると思った? 言うことを聞くと思った?
これは未登録の物を〝盗ませ〟〝商品登録〟させてしまったわたしの落ち度だ。
ポポ族のリポロさんみたいに、全く関係ない人も巻き込んだ。
「……止めないよ。でもやられた分、私たちにもやり返させて」
「そうだよ。おれにも〝お返し〟させて」
「オレもだ」
3人はゆらりと立ち上がる。もふさまがわたしのすぐ前で背を向けお座りする。
「その狼はお嬢ちゃんのなのかい? 追い払ってやろうと思ってたんだよ」
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