プラス的 異世界の過ごし方

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9章 夏休みとシアター

第361話 子供だけでお出かけ⑤襲撃

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 ニアさんが大きなあくびをする。

「夜は眠ってくださいって言ったのに、眠らなかったんですか?」

「いや、お言葉に甘えて眠ったさ」

 人好きのする顔で笑っている。

『その者ならドアの向こう側に一晩中いたぞ』

 もふさまが教えてくれる。

「私たちが向かうのは王都と反対方向です。護衛はここまでにしますか?」

 兄さまが尋ねた。

「反対方向か。ま、王都に行こうと思ってはいたけどアテがあるわけじゃねーしな。家まで送り届けるよ。乗り掛かった船だからな」

 そう言って兄さまの頭をぐしゃぐしゃに撫でたから、にっこり笑っているけど兄さまは確実に怒っている。

 朝食を済ませ、お土産を買う。何回か来ている街なので、買うものは決まっているんだ。

「俺が馭者をするか?」

「いえ、中で彼女を守ってください。絶対に誰も近づけさせないでくださいね」

 兄さまがにこやかに言った。

「はいはい」

 ニアさんは今度はわたしの足元にいたもふさまを撫で回した。大きな手で遠慮なくやっているように見えたけれど、もふさまは嫌がっていないから、手加減しているのだろう。

「お嬢ちゃんは坊ちゃんたちのお姫さまなんだな」

 こっそり言われる。フォンタナ家の人々に姫と呼ばれるのは未だに抵抗を感じてしまう時があるのだが、なぜか今は反発する気が起きなかった。

 馭者台に兄さまとロビ兄が座り、幌の中にわたしたちは入った。もふさまを抱っこして、アラ兄の隣に座る。出発だ。

 ああ、そういえば、昨日マップモードの調整をしようと思っていたのに、疲れていたのか眠っちゃったんだよね。
 わたしは軽く目を閉じてタボさんとコンタクトを取った。
 そして、探索マップの鑑定は、わたしが指摘した物のみ鑑定をすることにした。
 多分これで恐ろしいほど魔力を持っていかれることはないはず。

 恐る恐るマップモードを開いてみれば、いつもの探索マップ画面だ。魔力も減ってない。ふうーと胸を撫で下ろす。

「ねぇ、アラ兄、本当に来るかな?」

「オレと兄さまはそう思ってるよ」

「……来たら倒すだけ?」

「……リーはどうしたいの?」

「わたし、ちょっと頭に来てる」

 一瞬驚いた顔をしてから、アラ兄は笑った。

「やっと調子が出てきた?」

 あ、昨日はプラスの失敗でちょっとぼんやりしてたのだ。

「知りたいなら自分で聞きにくるべきだと思う。それを脅したのかなんなのか知らないけれど、間に人を入れてきたのが気に食わない」

 もふさまが顔をあげた。

『どうするのだ?』
『何するの?』

 リュックの中からも期待に満ちた声があがる。

「ニアさん」

「ニアでいいぞ」

「あなたはどれくらいの腕をお持ちですか? あなたを信用してもいいのでしょうか?」

「そうだな、騎士団に入れる腕ぐらいには信用してくれていいぜ」

 その回答にもふさまが何も言わないと言うことは、強い人なんだろう。

「アラ兄、この間のマッサージクリームと同じ人だと思う?」

 何商会だったっけな。マッサージクリームを堂々と商品登録した人。
 売り出してみたようだが売れ行きは芳しくないという。そりゃあれだけポンと売り出して、まあわたしの書いたメモのままやり方をつけたところはよかったけど。それが何にどういいとはプレゼンしてないのだから、当然といえば当然の結果だ。
 何だっけ、ペロペロキャンディーみたいな名前。ペロペロじゃなくて……ペネペロ……違うな。……ペネロペ!

「どうだろう? そうも考えられるけど、同じようなことを考える人がいてもおかしくない」

 …………。

「で、リーはどうしたいの?」

「捕まえたい」

「兄さま、リーが捕まえたいって」

 兄さまは少しだけ後方に首を回した。

「リディー、気持ちはわかるけど、ちょっと危険だ。もしリディーが怪我をしたらと考えると恐ろしい。奴らがきたら全速力で逃げるよ。少々足止めぐらいはするけど」

「でも兄さま、ニアもいる。どんな目的かわからないと、これからも気持ち悪いし」

「ダメだ。たとえば馬車が襲われて、敵を捕らえられたとしよう。それが全員ならいいけど、もし他にもどこかで待機していたら?」

「お嬢ちゃん、坊ちゃんの言う通りだぜ。こちらは総勢5人。相手が何人いるかわからない。4人とも腕に覚えがあるようだが、相手だってどんな力量かはわからないだろ? 何かあっても逃げるのを第一に考えるべきだ」

 ニアが言うと説得力があった。
 わたしの中でニアの好感度があがる。
 すごい、子供を子供扱いしないなんて。ちゃんと戦闘員数に入っている。ま、リップサービスかもしれないけど。

 そうか、でも、確かに相手側の力量を間違えたらどんな大惨事になるかわからない。それなら仕方ない。

「わかった。諦める」

「……貴族の嬢ちゃんにしては聞き分けがいいな」

 ニアに頭を撫でられた。

「妹に触らないでください」

「悪い悪い」

 アラ兄に怒られてニアは手を引っ込めた。


 まあ、本当に誰かに襲われるかはわからないしね。
 と思っていたら、少し先に赤の点が現れた。

「アラ兄」

 服を引っ張る。
 アラ兄は頷いた。
 もふさまが注意を促すように吠えて大きくなった。

「な、なんだぁ?」

 さすがに、大きくなったもふさまにニアは驚いたようだ。

「お遣いさまが中に入っているんです」

 ニアは目をパチクリさせている。
 あ、聖樹さまを知らなければお遣いさまって言ってもわからないか。
 説明しようと口を開きかけたとき、もふさまの鋭い叫びが聞こえた。

『来るぞ!』

 来る?
 ケインのいななき。馬車が大きく揺れた。アラ兄がわたしを庇うように覆い、アラ兄ごとニアに抱えられる。
 音と衝撃に目を瞑る。ぐるぐると回り、あちこちにぶつかったような感覚があったけれど。
 横転した? 衝撃はあったけれど、抱え込まれていたからわたしは無事だ。
 もふさまの微かな唸り声が聞こえた。
 みんなは?

「嬢ちゃん、じっとしとけ」

 ニアは傷だらけだ。
 アラ兄と目が合う。アラ兄が頷く。怪我はない? 兄さまとロビ兄は? ケインは? もふさまがいない。


「なんてことすんだ、オッちんでねーだろうなー? 誰だよ、岩を転がしたやつ」

 外で濁声が響く。

「だって、油断ならねーから子供と思うなって言ってたじゃないっすか」

「つっても子供だぞ。奇襲に対応できるわけねー。どうすんだよ、死んでたら」
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