プラス的 異世界の過ごし方

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9章 夏休みとシアター

第360話 子供だけでお出かけ④髭の人

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 魔力は3分の1は残っている。今までだってもっと少なくなることはあったし、それでもなんでもなかったのに。わたしはせっかくスクワランまで来ていたのに、どこか怠くて宿でぼんやりしていた。

 もふさまともふもふ軍団には部屋で食べていてもらうことにして、わたしたちは宿の食堂でご飯を食べることにする。
 3人ともシャツにズボンという軽装だったけど、一番上のボタンをあけているのでいつもよりどこか大人っぽく見えた。
 わたしは大人しめのワンピースを着ている。

 4人で食事が運ばれてくるのを待っていると、テーブルにおじさんがぶつかってきた。
 なんだなんだと顔をあげれば、

「こりゃ失礼」

 と頭を下げたけれど、何かに気づいたようにじっくりと見てくる。

「よく見れば子供じゃないか。ん、親はどうした?」

 余計なことを。周りの視線が突き刺さってくる。
 ちょうど料理を持ってきてくれた宿屋の人が、兄さまに年齢を確認した。
 兄さまは証書があると言ったけれど、宿の人が困っている。目を引いちゃったからね。面倒ごとは避けたいのだろう。
 わたしは隣の兄さまの服を引っ張った。
 テントあるし、町から出て野営するのもいいだろう。

「その子たちの保護者は私だ」

 2つほど向こうのテーブルの、頬に傷のある髭の人が立ち上がった。
 え、知らん人だけど。
 余計なことを言ったおじさんも宿の人も態度を改めた。
 お店の人がお詫びのつもりかもう一席用意してくれて、自称わたしたちの保護者と同じテーブルになる。

「助かりましたが、初めてお会いすると思います」

 抑えた声で兄さまが言った。

「ああ、その通りだな。証書があるっていうし、スクワランの門を通れたんだ、身元は確か。そしてこの宿は普通の水準より上。金も持っているってことだ。質素な格好をしているが、裕福な貴族の子供だろ? で、俺は今、助けた。そこで相談なんだが、俺を護衛に雇ってくれないか?」

「護衛?」

「護衛を頼むほど、私たちはあなたのことを知りませんが」

「元々護衛を雇う気はなかったんだろ? けど、泊まるには保護者が必要だ。護衛もできる保護者っつー大人なだけで、お前たちに利はあるんじゃねーか?」

「あなたに、私たちに対する変な下心があるなら、私たちは不利になります」

 髭おじさんは少し考える。顎髭を触っている。

「子供にしちゃー、スレてんなー。ま、そーじゃなきゃ子供だけで宿になんか泊まらないか」

「リーはどう思う?」

 やばっ。今探索使えないんだっけ。それを兄さまたちに伝え忘れていた。
 あ、鑑定、とりあえずしておくか。
 
 ニシア・クランチ、32歳。職業:傭兵

 鑑定もレベルは上がったけど、やっぱり、人だとこれくらいしかわからない。

「おじさん、誰?」

「ああ、俺はニアだ」

 いきなり偽名かい。

「傭兵だ。私兵をしていた契約が切れてよ、王都まで行こうと思ったけど、案外物価が高いから懐が寂しくてな。そんで坊ちゃんたちに目をつけたってわけだ」

 どうする?と兄さまに目で聞かれる。

「報酬は?」

 わたしが尋ねると、こっちが提示するのか?と首を傾げる。

「そうだな。今夜の護衛なら、4人で1万ギル。それから家まで、1日ごとに3万5千ギルでどうだ?」

 何が目的なんだろう? 本当に言葉通りなのかな?
 4万5千ギルなら払えるし。断って、なんだったんだろうっていつまでも疑問に思っているの鬱陶しいしね。

「兄さまたち、お願いしようよ」

「ふーーん、嬢ちゃんがこの中の頭《かしら》か。雇ってくれて助かるぜ」

 にかっと笑った。

「報酬以上のことが起こらないといいんですが」

 兄さまが不穏なことを言う。

「あ?」

「え、兄さま、どういうこと?」

「リディーは心配しなくていいよ。ほら、食事をしよう」

 兄さまは教えてくれる気はないようなので、仕方なく食事に集中する。
 ニアさんは部屋の外で徹夜で護衛してくれるそうだ。
 5日ぐらいの徹夜なら慣れているから気にするなと言われる。
 徹夜慣れするなんて、私兵って大変そう。
 アラ兄が何かを耳打ちして、ニアさんは少し驚いていた。


 部屋でわたしたちだけになったのでニアさんに何を言ったのか聞いてみると、夜は眠った方がいいと。襲われるとしたら明日の帰り道だろうからと言ったそうだ。

「どうして? それになんで襲われるって確信してるの?」

「ん? 例の人から奪ったぬいぐるみを今調べているだろう。雪くらげのすみかはどうやって手に入れているか聞きにくると思うんだよね。領地に入っちゃったら正面切って来れないだろうから。子供だけのオレたちに聞きにさ」

 えーーーーーーーー。

「確かに大人より子供の方が口を割りそうではあるけれど、子供が素材の手に入れ方を知ってると思うもの?」

 兄さまたちは目を合わせる。

「盾にとって父さまの口を割らせる方法もある」

 あ、そっか。

「それか、リーを人質にとって、オレたちに聞きにいかせるとかね。……お茶会で販売したのが最初だから、知ってると思われてもおかしくないしね」

 アラ兄の意見に納得だ。

「大丈夫だよ。リーは馬車の中にいればいい。おれたちがやっつけるから」

 胸を叩いたのはロビ兄だ。

「そういえば、リディーは何か細工してたよね?」

「ああ、追跡の魔具をつけておいた。帰ったら父さまに辿ってもらおうと思って」

 尋ねられて答えれば、兄さまに頭を撫でられる。

「狙われるとしたら明日の帰り道だ。今日はしっかり眠ろう」

 わたしはもふさまともふもふ軍団に囲まれて眠りについた。

 あの人、わたしたちがどこに帰るのか、名前さえも確かめないでそれでいいのか?と思いながら。
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