プラス的 異世界の過ごし方

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9章 夏休みとシアター

第358話 子供だけでお出かけ②羽の人

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 いつもの馬車も馭者席に座ると新鮮だ。
 左右にはアラ兄とロビ兄が馬を走らせている。
 幌馬車なのに二頭立てで走らせていて、アンバラスさが面白い。
 兄さまの馭者の手綱さばきはなかなか上手だ。

 ケインは馬車をひくのも人を乗せるのも、どちらも躊躇いがないが、兄さまが乗ってきたレンタルのお馬さんは人を乗せるのはいいけど、馬車をひくのは好きではないみたい。あちこち行こうとして、ケインが鼻を鳴らした。足並みを揃えなくちゃいけない2頭が険悪な雰囲気になった時、もふさまが小さく唸ったらお馬さんは大人しくなった。もふさま、最強。
 もふもふ軍団はぬいぐるみを解いて、後ろの幌スペースで転がっている。揺れるたびにあちこち転がってぶつかっているのだがそれが楽しいらしい。よく酔わないなー。
 
 途中に見晴らしのいい丘があったので、そこでランチをとることにした。長い時間いるわけではないけれど、結界石も置いた。みんなには人が来たらぬいぐるみになってもらうようお願いしておいて、シートを広げる。
 今日のお弁当は酸っぱめのタレの入ったお肉と野菜がてんこ盛りのサンドイッチだ。それとホワイトシチュー。
 お肉が入っているから、みんな満足してくれた。暑い時に酸っぱめのものを食べると体が元気になる気がする。ホワイトシチューは好物だから暑い時でも全然オッケー。デザートにする前に、もふもふ軍団の顔をふく。シチューだと我を忘れるみたいでお皿に顔を突っ込むようにして食べるから、顔がシチューまみれになるのだ。
 拭き終わり、ティーゼリーを出していると、みんながコロンとぬいぐるみになった。わたしたちは道からちょっと外れたところに馬車を止め、さらにその先でシートを広げている。同じく道を外れて馬車が止められたので、わたしたちは警戒した。探索マップでは赤い点はない。

 馬車から降りてきたのは、褐色の肌の華奢な男の人。成人したてぐらいかな? 深緑色の髪をドレッドヘアにして、その髪に鳥の羽を挿している。どこかエキゾッチクなお兄さんをぽけーっと口を開けたまま見ていると、彼はチャーミングに笑った。

「やぁ、こんにちは。ここは見晴らしがいいね、隣の場所を借りてもいいかな? 昼食をと思ってね」

「どうぞ」

 兄さまがにこやかに言った。
 羽のお兄さんは無造作に地面に座って、包みから出したパンをムシャムシャと食べ出した。
 人が来てしまったからデザートは後でにしよう。
 わたしたちはアイコンタクトをとり、片付けを始めた。

 もふもふ軍団を寄せ集めていると、

「も、もしかして、お嬢ちゃんが持っているのはぬいぐるみかい?」

「あ、はい、そうですけど」

「よかったら、少しだけ見せてもらえないだろうか?」

 わたしがためらったのを見て、羽のお兄さんは言葉を足した。

「妹からぬいぐるみを欲しいと言われていてね。今までぬいぐるみを売っていたことがあるという町を巡っているんだが、一向に出会えないんだ」

 ぬいぐるみは希少価値を持たせる意味でも抑えて売り出しているから。
 わたしはアリを差し出した。この人なら乱暴に扱うことはないと思ったからだ。

「ありがとう。柔らかい。ふわふわだ。それにこの手触り……」

 あ、まずい。アリたちは本物の毛皮だ。わたしが手を伸ばすと、もう一度お礼を言って返してくれた。

「お嬢ちゃんはこんなにいっぱい、どこで買ったんだい?」

「これは特別仕様なんです。わたしが持っているのはシュタイン領で手に入れたけれど、しばらくは販売しません」

「君たちはシュタイン領から来たのかい?」

 わたしたちは頷いた。

「お嬢ちゃん、お願いがあるんだ」

 そうわたしの手を取ったので、兄さまが瞬時に払った。
 お兄さんは慌てる。

「あ、すまない。そのぬいぐるみをひとつ譲ってもらえないだろうか? 金額を提示してくれれば、いくらでも用立てるから!」

 その必死さに体が怯えた
 食べていたパンもいかにも固そうなものだった。馬車に乗ってはいるけれど、きている服とかもそういいものではなくて、言葉の綾だったのかもしれないけど、いくらでも用立てるの台詞に違和感しかない。ぬいぐるみの値段なんてそこまでしないものだとしても、だ。

「これらは特別なものなので、お譲りすることはできません」

 そういうと肩を落とした。

「無理を言った。悪かったね」

 なんとか笑顔を貼り付けている。


「妹さん、どうかしたんですか?」

 ロビ兄が尋ねる。

「あ、いや、ど、どうして?」

「必死だから、妹さんに何かあったのかと思って」

 お兄さんの顔色がもっと悪くなる。

「いや、何かあったわけでは……」

 手がブルブル震えているんだけど……。

「リー、リーぬいぐるみ……普通のやつ、今持ってる?」

「ロビン」

 わたしに尋ねたロビ兄を兄さまが名を呼んで諫めた。

「妹が大事な気持ちはわかるから」

 お兄さんが顔をあげる。

「ロビン、わかっていてそう言ってるんだよね?」

 アラ兄が確認した。
 ん?

「必死さは本物だから」

「……君たち何を言ってるの?」

「お兄さんはおれたちのことを知っていて、ぬいぐるみを絶対手に入れるように言われてきたんでしょ?」

 え?
 お兄さんが誰よりビクッとしている。

「ずっと距離を空けてつけてきたでしょう? 妹が一緒だからゆっくり走らせてきたんだ。それでも抜かないから、つけられてるってわかった」

「すみませんでした! 申し訳ありません」

「その様子じゃ脅されたか、妹を人質に取られたのかな? でも、悪いけれど、だからってぬいぐるみを譲る謂れはないんだよ、ウチにはね」

「おっしゃる通りです」

 もう土下座の一歩手前だ。

「リディー、どうする? この人にぬいぐるみを渡したら、それは妹に渡されるのではなく、十中八九解体されるだろうね。ぬいぐるみを手に入れるように頼んだ人によってね」

 そういうことか。
 わたしは少しだけ細工をして、わたしの作った布製のぬいぐるみを渡した。

「そこまでわかっているのに……なぜ、譲ってくださるのですか?」

「兄が心動かされたようなので、それに応えるだけです」

 お兄さんは受け取ってしばらくじっとしていた。
 ぬいぐるみは商品登録しているし。
 もしかしたら中のふわふわの物の正体を知りたいのかもしれない。これじゃなくても、ぬいぐるみがあれば鑑定でわかることだ。たとえ〝雪くらげのすみかとしている何か〟とわかったとしても、それを手に入れるのは困難だろう。雪クラゲは海の主人さまの眷属さんたちしか行けないような深いところにしか住んでいないから。

「こ、この御恩は決して忘れません。私はポポ族のリポロ。何かの役に立ってみせます。シュタイン家の皆さま」

 お兄さんはそういうと立ち上がり、礼を尽くして馬車に戻り、来た道を引き返して行った。
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