プラス的 異世界の過ごし方

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8章 そうしてわたしは恋を知る

第351話 告白

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 本当だ。もふさまたちもいない。に、兄さまと完全にふたりきりだ。

「リディー、川原に行こうか」

 兄さまに言われて頷く。手を引かれて、道から外れ川原の方へと入っていく。
 今日は曇っているし、そんなに暑くない。
 兄さまが石の上にハンカチを敷いて、わたしに座るように促した。わたしは自分が制服姿だったことを思い出した。



「泣いたみたいだね」

 わたしは顔を押さえる。

「うん、いっぱい泣いた」

「私は今、不安がある反面とても期待しているんだ」

「期待?」 

「リディーがひとりで帰ってしまったと聞いて、伝達魔法を入れたら、父さまからリディーがミニーの家でわんわん泣いているって連絡が来たんだ」

 父さま、全部言っちゃたのね。顔を覆いたい衝動に駆られる。

「そのあと少ししてから、私たちは明日、馬車で出発し帰ってくるように指示があり、私だけ先にまずリディーと話をするように言われたんだ。父さまがリディーを迎えに行ってくるから、エリンたちには気づかれないようメインルーム経由でこちらに来て川原で待機するようにとね」

 メインルームから川原の近くに飛ばしてもらったのか。わたしはお遣いさまで帰ってきたことにできるから、そう辻褄を合わせるつもりなんだ。
 父さまには兄さまとのことでわたしがぐちゃぐちゃになってしまったのが、最初からわかっていたんだね。なんかすごく恥ずかしい。

「リディーはどうして、ひとりでここまで帰ってきたの?」

「ミニーとカトレアにどうしても会いたくなったの。すぐに。それでもふさまに乗ったり、ルーム経由で領地まで来ちゃったみたい」

 父さまが迎えに来てくれた時にやっと、自分がなりふり構わずここに来たことに気づいたんだと告げる。

「……それは私が護衛を引き受けたことに関係している?」

 川の流れる音だけが時を刻んでいく。

「……ロサから聞いた。王室からの要請で断れなかったって」

「ロサ殿下から?」

 兄さまの顔が強張っていた。

「カトレアに素直に言うべきって言われて、その時はそうだって思ったけど、今迷ってる。兄さまは優しくて、わたしに恩を感じているし、……情もあるだろうし。兄さまの未来を狭める気がするから。……そうなんだけど。気づいちゃったから、わかっちゃったから、ああ、何言ってるんだろ」

 わたし、また逃げようとしてる?
 わたしの気持ちが大事だと言ってくれたカトレアとミニー。
 指の先を強く押して自分に喝をいれる。
 わたしは立ち上がり、そして兄さまを見た。

「……兄さま。兄さまとメロディー嬢がとてもお似合いに見えてびっくりしちゃったの。それでね、わかった。わたし、兄さまに好きな人ができたら婚約を破棄しようって言ってきた。兄さまの恋を応援するって思ってた。でも、嘘だった。わたしは兄さまと婚約破棄したくないの。兄さまとずっと一緒にいたい。誰よりも近くに」

 兄さまのアイスブルーの瞳。初めてみた時もすごい〝青〟もあるもんだなーと思ってこんなふうにみつめたことを思い出す。

「わたしは、兄さまが、……家族としてだけじゃなくて、特別に好きだから」

 言った。言っちゃった。言っちゃった!
 もう後戻りはできない。

 兄さまも立ち上がり一歩、また一歩と近づいてきて、わたしを胸に抱きしめた。

「嬉しいよ、リディー。とても。……私の話を聞いてくれる?」

 胸の中で頷けば、兄さまが静かに話し出す。

「メロディー嬢の護衛は……護衛といっても助けを求める魔具を発信させるためのただそれだけの要員だけどね、これは王室から学園への依頼で。私は武術で本当に学園の3位らしく、引き受けるしかなかったんだ。そしてやるからには……本気で守るつもりでいる」

 兄さまはわたしの肩を持って自分から引き離し、手を取る。そしてわたしを石の上に座らせる。

「そのことで、リディーをまた泣かせるようなことがあるんじゃないかと、今、自分に問いかけている。彼女を守るけれど、私が1番に護りたいのはリディーだと、それは覚えていて欲しい」

 兄さまはわたしの手に重ねた手を優しくトントンとした。

「私はリディーと会った時から、リディーしか見てこなかった。リディーの明るい翠色の瞳を見た時に、その瞳に私が映った時からリディーだけが特別だった。……だけど、言われたんだ。それは本当に好きなのか?って。妹を思うような気持ちとは違うのかと。リディーが私のものだって威嚇したり、縛りつけているように見えるって。リディーは気持ちを大切にする娘だから、その想いが〝恋〟ではなかったらお互い辛い思いをするんじゃないかって」

 兄さまはそこまで言って、わたしを見てニコッと笑った。

「リディーが一番大切だ。リディーにはいつも笑っていてほしい。何より大切だけど、それを恋と呼ぶのかは私にはわからなかった。だから私の気持ちがどういった種類のものなのか見極めようと思ったんだ」

 胸の奥が鈍く痛む。
 兄さまの話を最後まで聞かなくちゃと思いながら、わたしにとって辛い話なのを予感している。
 涙よ、出るなよ。せめて兄さまの前では泣きたくない。わたしは自分の手をギュッと握りしめた。
 兄さまがわたしの髪を触る。ここに〝在る〟ことを確かめるように。
 そして、愛おしいといいたげに撫でた。
 わたしは兄さまの言葉を待った。
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