プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
350 / 799
8章 そうしてわたしは恋を知る

第350話 巣立つ雛

しおりを挟む
 父さまはケインに乗って迎えに来てくれていた。
 カトレアたちにお世話になりましてと頭を下げる。わたしも感謝を込めてペコリとする。
 ミニーを家まで送ると言ってみたけれど、ミニーは後で馬車に乗って帰るから大丈夫と言った。
 ふたりとカトレアの旦那さまにもう一度お礼を言ってさよならした。


 ケインにも抱きつく。ケインはフンフン鼻を鳴らした。
 もふさまを抱えて、ケインに乗せてもらい、父さまとふたり乗りだ。
 父さま、怒っている顔ではないけれど……。

「フランツたち、アルノルトからリディアが〝帰る〟と言っていなくなったと伝達魔法が来た」

 揺られながら父さまが静かに話し出す。

「それから雑貨屋の亭主からリディアがわんわん泣いていると連絡がきた」

「……ごめんなさい」

「何があった?」

「ごめんなさい。話すけど、一番に話さなくてはいけない人がいるの。話したら、父さまにも話す」

 後ろから頭を撫でられる。

「それはフランツか?」

 わたしは頷いた。なんで兄さまってわかったんだろう?

「子供はいつの間にか大きくなるのだな」

 パカラ、パカラとケインはゆっくり歩く。

「何かあった時、怖かった時。リディーが最初にすがりつくのはいつも父さまにだった」

 え?

「イダボアで保護されていた時も、お茶会を主宰して拐われた時も、馬車に物盗りがきた時はリディーが父さま父さまと立て続けに呼んでた。母さまにいっぱい怒られた後は父さまの執務室に来て膝に乗ってきた。チェリと喧嘩した時、ミニーと喧嘩した時も、妹や弟が呆れて見てるぞと言っても父さまの胸で全然泣き止まなかった。フランツたちが学園に行ってからは時々淋しくなるとエリンやノエルにわからないように、父さまたちのベッドに入ってきて一緒に眠らせてくれと言った」

 ……だってそれは一番安心できる場所だから。

「いつだって父さまにすがりついてきたのに……、この間拐われて再会した時は、フランツの胸に飛び込んだ」

 と、飛び込んだなんて。

「今回も泣きたくて、ミニーとカトレアに会いにきたんだね」

 確かに、今日は何も考えられなくなっていて、とにかくミニーとカトレアに会いたいという気持ちしかなかった。

「リディアは家族以外にも大切なものをみつけたんだ」

 わたしは体を捻って父さまに抱きつく。

「父さまも大事」

「ありがとう。リディーがそう思ってくれることも知っているよ。そうだね……子供の成長は嬉しいけれど、少しだけ淋しく感じることもある。手を離れてしまうんだとね。でも、安心もする。父さまはリディーより先にいなくなる」

「そんなこと言わないで」

 ギュッと抱きつくと、父さまがわたしの頭を撫でる。

「ごめん、ごめん、逝くのはずっと先のことにしたいが、こればっかりはわからないし、順番だから仕方ない。死んでしまったら、リディーに何かがあっても父さまは助けてやれない。でもリディーにはもう頼れる人がいて、相談できる友達もいる。家族や主人さまたち以外にも助けてくれる人がいる。だから父さまは安心できる」

 泣きやすくなってる。父さまがいなくなることを想像したわけじゃないのに、勝手に涙が出てくる。父さまの服を涙が濡らす。父さまはゆっくりとわたしの頭を撫でた。

「早々にくたばるつもりはないよ」

 父さまのぎゅーに力が入る。大きな手がわたしの背中でゆっくりとリズムをとる。

「ウチのお姫さまは相変わらず泣き虫だ」

「父さまが変なことを言うから!」

 顔をあげると鼻をつままれた。

「いつでも、どこでも、居ても居なくても、父さまはリディーが大好きだから」 

 !

「わたしも父さま大好き!」



 なかなか引っ込まない涙と鼻をすすると、いつもの川原まできていた。
 ケインが止まる。
 川原に?
 父さまがケインから降りて、わたしをおろす。

「父さま、どうして?」

「リディー!」

 声のした方を見れば、兄さまだ。
 父さまはわたしの頭に手をおいてひと撫でして、そしてわたしの背中に置いた手で兄さまの方に押し出した。

「リディー、どうして泣いてるの? 父さま、何があったんですか?」

 わたしは慌てて顔の涙を拭う。

「これは……父さまが変なことを言うから」

「父さま、リディーを泣かせたんですか?」

 兄さまの顔が真剣になる。
 父さまはもふさまを抱きかかえた。
 え?

「主人さまたちは、私と一緒に先に家に帰りましょう。フランツ、リディアのことは任せたぞ。それから最初に泣かせたのは父さまではない」

 カーーッと血液が沸騰した。そりゃバレバレだったかもしれないけど、どうしてそう見ていたように父さまは言うかなー。

『先に領主と帰っているぞ』

 と、もふさまが言えば、リュックの中から反対する声が上がった。けれど、もふさまは気にすることなく大人しくしていて、だから父さまはケインに乗っていった。


 兄さまと向き合う。
 騎士見習いの制服ではなく、いつもの制服だった。
 少しホッとする。

ーー先輩からのアドバイスよ。リディアの気持ちを伝えなさい。素直に言うの。それで振られたら……一緒に泣いてあげるからーー

 カトレアの声が聞こえた気がした。

「急にひとりで帰ってしまって、心配したよ」

「ごめんなさい」

「無事でよかった、ホッとした。またリディーに何かあったんじゃないかって、怖かった」

「……ごめんなさい」

 兄さまは儚げに微笑んだ。

「主人さまもいなくて、本当にリディーとふたりきりなんていつぶりだろうね?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結・短編】婚約破棄された悪役令嬢は、隣国でもふもふの息子と旦那様を手に入れる

未知香
恋愛
 フィリーナは、婚約者の護衛に突き飛ばされここが前世の乙女ゲームの世界であることに気が付いた。  ……そして、今まさに断罪されている悪役令嬢だった。  婚約者は憎しみを込めた目でフィリーナを見て、婚約破棄を告げた。  ヒロインであろう彼女は、おびえるように婚約者の腕に顔をくっつけて、勝ち誇ったように唇をゆがめた。  ……ああ、はめられた。  断罪された悪役令嬢が、婚約破棄され嫁がされた獣人の国で、可愛い息子に気に入られ、素敵な旦那様と家族みなで幸せになる話です。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...