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8章 そうしてわたしは恋を知る
第346話 バットタイミング
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なんで?
護衛なら、護衛をちゃんと雇えばいい。兄さまである必要はない。
学園内だから生徒に? だとしたらなぜ兄さまに?
「信用ならない出自のものに護衛をさせたいと?」
冷たい声で兄さまが尋ねた。
「出自の件は私の考えではありません。王族に連なる公爵家として、いろいろなことを言う者がいるのです。お気に触ったようですね、申し訳ありません。学園内で雇った護衛をつけるのは、殿下以外禁止されています。生徒で腕のたつ方を調べました。ジェイさま、ブライさま、ランディラカさまの順に強いとか。ジェイさまは騎士見習いで学園にはほとんどいらしてません。ブライさまは、ロサさまの護衛でもあります。ですので、ランディラカさまにご助力願えないかと思い、その前にシュタイン嬢の許可をいただこうと思いましたの」
これで許可しなかったら、わたし心の狭い酷い人になるじゃん。
でも、そりゃ脅迫されてたら怖いだろうし、気の毒だけど。
今までいくら手紙で脅していただけで実際何もなかったといっても、これからもそうだとは限らない。兄さまに危険なことをして欲しくない。……何より、兄さまとメロディー嬢が近くにいるっていうのが嫌だ。
メロディー嬢は兄さまが自分に冷たいって言ったけど、……兄さまはメロディー嬢に対して他の娘と接し方がちょっと違うと思う。どこがと言われたらうまく答えられないけれど。
耳鳴りが大きくなる。頭もガンガンしてくる。
「すみませんが、私はそういう話がきてもお断りさせていただきます」
兄さまが言って、ふとわたしを見る。
「リディー、どうした? 耳が痛いの?」
もふさまが立ち上がる。
兄さまが反射的にもふさまを見る。
サイレンのような音が鳴った。これはわたしだけじゃなくて実際みんなに聞こえているんだよね? みんなも動きを止めて目だけを動かす。
《学園に侵入者あり、侵入者あり、生徒は近くにいる者同士でかたまり待機するように》
耳鳴りが物理的な音に変わった。遠くで非常ベルみたいのが鳴っている。
侵入者?
「みんな、部屋の中央に」
女性陣がソファーに座り、窓側に兄さま、ドア付近にブライが陣取る。
もふさまはわたしの足元で警戒している。でも大きくなってはいないから、そう怖いことではないはずだ。
ノックがあり、ロサの護衛が部屋に入ってきた。
ロサだけ移動するという護衛に、わたしたちを放っておけないと意見する。
「もしロサ殿下が狙いだった場合、私たちは殿下をお護りするのみ、ご友人方が危険に晒されるやもしれません」
ロサは肩を落として目を瞑った。
「殿下、行ってください」
ダニエルが促すと、ロサは重たく頷いた。
そして振り返ることなく出て行った。
「私が狙われている可能性もありますね。だとしたら、ここにいたら皆さまを巻き込んでしまいますわ」
メロディー嬢が立ち上がった。
それを見計らったかのようにドアが開く。もふさまが大きくなりみんなの前に出た。入ってきた黒づくめのふたりが大きな白い獣にのけぞる。その瞬間、顔のところが空洞の警備兵が現れ、あっという間に黒づくめふたりを捕獲した。
《侵入者確保、侵入者確保》
ヒュンとした音とともに、警備兵も捕らえられた人たちも見えなくなった。
狐にでも化かされたかのように、わたしたちは口を開けてその方向を茫然と見ていた。
非常ベルの音が止み、危険は去ったアナウンスが流れる。
小さくなったもふさまを抱きしめてお礼をいう。
兄さまに大丈夫か聞かれてわたしは頷いた。
顔色の悪いみんなはお互いに大丈夫か確かめあった。
侵入者は生徒会室にやってきた。狙いはロサか……それか……。
特に真っ青になったメロディー嬢は
「やはり私が……」
と崩れた。意識を失った。そこを兄さまが支える。兄さまはメロディー嬢を軽々と抱きあげ、いわゆるお姫さま抱っこをしている。
「保健室に行く。今日は殿下もいらっしゃらないしここまでにしないか? ダニエル、みんなを寮まで頼む。リディーも今日はみんなと寮に帰って、いいね。お遣いさま、よろしくお願いします」
兄さまは口早に言って、ブライと一緒に部屋を出た。
メロディー嬢が狙われた可能性も高いとみたんだろう。
皆さまはサッと後片付けをして、ダニエルの先導でみんなと部屋を出た。
先にドーン寮へと送ってもらってしまった。
「もふさま、あの人たちの狙いはわかる?」
『……いや、わからん』
そうだよね、見ただけだもんね。
それにしても聖樹さまの護りが働くとあんなふうなんだね。侵入者がいれば警告がなされ、魔法警備隊も瞬時に動く。
陛下の決めた婚約話、自分の力ではどうすることもできない。それを撤回するよう脅迫の手紙がずっときていた……。どんなに怖くて、やるせなかっただろう。……でもあんな普通に街に買い物とか行けてるのだから、感覚が麻痺してきているのかも。ただ今回は、〝家〟に脅迫文がきたのではなく〝寮の部屋〟だった。外からの侵入者もあったけど、協力者が園内にいる可能性がある。
『どうした、リディア?』
「……メロディー嬢、怖かっただろうなと思って」
意識を失うぐらい怖かった。
兄さまは優しい人だ。
さっき見たメロディー嬢を抱える兄さまの姿が目に浮かぶ。
不謹慎にもあまりに美しい絵面に息を飲んだのはわたしだけではなかった。
……すっごくしっくりきているっていうか、お似合いで、とても素敵で……。
兄さまと話すタイミングも逃し、哀しい気持ちになっていた。
護衛なら、護衛をちゃんと雇えばいい。兄さまである必要はない。
学園内だから生徒に? だとしたらなぜ兄さまに?
「信用ならない出自のものに護衛をさせたいと?」
冷たい声で兄さまが尋ねた。
「出自の件は私の考えではありません。王族に連なる公爵家として、いろいろなことを言う者がいるのです。お気に触ったようですね、申し訳ありません。学園内で雇った護衛をつけるのは、殿下以外禁止されています。生徒で腕のたつ方を調べました。ジェイさま、ブライさま、ランディラカさまの順に強いとか。ジェイさまは騎士見習いで学園にはほとんどいらしてません。ブライさまは、ロサさまの護衛でもあります。ですので、ランディラカさまにご助力願えないかと思い、その前にシュタイン嬢の許可をいただこうと思いましたの」
これで許可しなかったら、わたし心の狭い酷い人になるじゃん。
でも、そりゃ脅迫されてたら怖いだろうし、気の毒だけど。
今までいくら手紙で脅していただけで実際何もなかったといっても、これからもそうだとは限らない。兄さまに危険なことをして欲しくない。……何より、兄さまとメロディー嬢が近くにいるっていうのが嫌だ。
メロディー嬢は兄さまが自分に冷たいって言ったけど、……兄さまはメロディー嬢に対して他の娘と接し方がちょっと違うと思う。どこがと言われたらうまく答えられないけれど。
耳鳴りが大きくなる。頭もガンガンしてくる。
「すみませんが、私はそういう話がきてもお断りさせていただきます」
兄さまが言って、ふとわたしを見る。
「リディー、どうした? 耳が痛いの?」
もふさまが立ち上がる。
兄さまが反射的にもふさまを見る。
サイレンのような音が鳴った。これはわたしだけじゃなくて実際みんなに聞こえているんだよね? みんなも動きを止めて目だけを動かす。
《学園に侵入者あり、侵入者あり、生徒は近くにいる者同士でかたまり待機するように》
耳鳴りが物理的な音に変わった。遠くで非常ベルみたいのが鳴っている。
侵入者?
「みんな、部屋の中央に」
女性陣がソファーに座り、窓側に兄さま、ドア付近にブライが陣取る。
もふさまはわたしの足元で警戒している。でも大きくなってはいないから、そう怖いことではないはずだ。
ノックがあり、ロサの護衛が部屋に入ってきた。
ロサだけ移動するという護衛に、わたしたちを放っておけないと意見する。
「もしロサ殿下が狙いだった場合、私たちは殿下をお護りするのみ、ご友人方が危険に晒されるやもしれません」
ロサは肩を落として目を瞑った。
「殿下、行ってください」
ダニエルが促すと、ロサは重たく頷いた。
そして振り返ることなく出て行った。
「私が狙われている可能性もありますね。だとしたら、ここにいたら皆さまを巻き込んでしまいますわ」
メロディー嬢が立ち上がった。
それを見計らったかのようにドアが開く。もふさまが大きくなりみんなの前に出た。入ってきた黒づくめのふたりが大きな白い獣にのけぞる。その瞬間、顔のところが空洞の警備兵が現れ、あっという間に黒づくめふたりを捕獲した。
《侵入者確保、侵入者確保》
ヒュンとした音とともに、警備兵も捕らえられた人たちも見えなくなった。
狐にでも化かされたかのように、わたしたちは口を開けてその方向を茫然と見ていた。
非常ベルの音が止み、危険は去ったアナウンスが流れる。
小さくなったもふさまを抱きしめてお礼をいう。
兄さまに大丈夫か聞かれてわたしは頷いた。
顔色の悪いみんなはお互いに大丈夫か確かめあった。
侵入者は生徒会室にやってきた。狙いはロサか……それか……。
特に真っ青になったメロディー嬢は
「やはり私が……」
と崩れた。意識を失った。そこを兄さまが支える。兄さまはメロディー嬢を軽々と抱きあげ、いわゆるお姫さま抱っこをしている。
「保健室に行く。今日は殿下もいらっしゃらないしここまでにしないか? ダニエル、みんなを寮まで頼む。リディーも今日はみんなと寮に帰って、いいね。お遣いさま、よろしくお願いします」
兄さまは口早に言って、ブライと一緒に部屋を出た。
メロディー嬢が狙われた可能性も高いとみたんだろう。
皆さまはサッと後片付けをして、ダニエルの先導でみんなと部屋を出た。
先にドーン寮へと送ってもらってしまった。
「もふさま、あの人たちの狙いはわかる?」
『……いや、わからん』
そうだよね、見ただけだもんね。
それにしても聖樹さまの護りが働くとあんなふうなんだね。侵入者がいれば警告がなされ、魔法警備隊も瞬時に動く。
陛下の決めた婚約話、自分の力ではどうすることもできない。それを撤回するよう脅迫の手紙がずっときていた……。どんなに怖くて、やるせなかっただろう。……でもあんな普通に街に買い物とか行けてるのだから、感覚が麻痺してきているのかも。ただ今回は、〝家〟に脅迫文がきたのではなく〝寮の部屋〟だった。外からの侵入者もあったけど、協力者が園内にいる可能性がある。
『どうした、リディア?』
「……メロディー嬢、怖かっただろうなと思って」
意識を失うぐらい怖かった。
兄さまは優しい人だ。
さっき見たメロディー嬢を抱える兄さまの姿が目に浮かぶ。
不謹慎にもあまりに美しい絵面に息を飲んだのはわたしだけではなかった。
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