345 / 926
8章 そうしてわたしは恋を知る
第345話 耳鳴り
しおりを挟む「そのことは、家で対処しますので」
やんわりとウチの問題だからと告げる。
メロディー嬢は的確に受け取ったようで傷ついた顔をした。
両手で口元を覆い、微かに震えている。
え?
「申し訳ございません。私余計なことを言ったのですね。ランディラカさまという方がいらっしゃるのに失礼ですし、シュタイン嬢もお困りだと思ったのです」
だから詳しく言わなくていいってば。
「自分で対処しますから大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」
そう締めくくれば、触れてくれるなのサインが伝わったようで、話題を変えてきた。
「シュタイン嬢は婚約者のランディラカさまとどこでお会いになりましたの?」
婚約者の話は嬉しいものだと言ったからだろう、今度は兄さまのことを聞いてきた。
「フランツさまは曽祖父の養子ですので、辺境で暮らしていた時から一緒におります」
「シュタイン嬢の婚約者にするために、ランディラカさまを養子にされたのかしら?」
「さぁ、わたしにはわかりません」
「ランディラカさまの実のご両親のことをシュタイン嬢はご存知ですの?」
「……なぜ、そんなことをお聞きになるんですか?」
メロディー嬢はにっこりと笑った。
「あら、婚約者の話をされると嬉しいとシュタイン嬢がおっしゃったからですわ。間違っていましたかしら?」
「わたしの尋ね方がよくなかったようですね。婚約者の話を聞くのは、婚約者のことを知りたいのではなくて、令嬢がお相手の婚約者をどう思っているかを聞きたいからですわ。つまるところ令嬢のことが知りたくて尋ねるのです。きっとわたしの質問が、メロディー嬢が婚約者の第1王子さまをどう思っているかではなく、第1王子さまのことをただ尋ねたように聞こえてしまいましたのね」
あなたはわたしが婚約者をどう思っているかを聞きたいんじゃなくて、兄さまのことをただ知りたいように聞こえるんですけど、と言ってやる。
微かに目を大きくした。
「私の出自に関心がおありですか?」
「兄さま……」
兄さまが横に来ていて、メロディー嬢を見下ろす。
「メロディー嬢、私に関することはリディーではなく、私にお聞きください」
メロディー嬢は笑顔を張り付かせたまま言った。
「ではお言葉に甘えて。ランディラカさまの実のご両親はどちらの方ですの?」
なんでそんなことを聞くの?
「気を悪くなさらないとよろしいのですが、休み明けにパーティーをする予定です。ぜひ、シュタイン嬢とパートナーの方と一緒にお誘いしたいと思っておりますわ。シュタイン家の出自は確かですが、パートナーのランディラカさまはどうなのかと思って、気になりましたの」
うわー、超失礼!
「私は養子になった時から、前ランディラカ辺境伯が父と思っております。それ以外に親はありません。それから、リディーは今年はまだパーティーに参加させません、申し訳ありませんが」
「……氷の君、婚約者のシュタイン嬢以外には本当に冷たいんですのね。でも、私にそんな態度をとってよろしいのかしら?」
一気に雰囲気が悪くなった。
「コーデリア嬢? どうかしたのかい?」
「ロサさま、なんでもありませんわ。婚約者の方がシュタイン嬢を独り占めするから、少し悔しくなりましたの」
「あはは、フランツは婚約者のことになると、頭に血がのぼってしまうんだ。それだけ大切に思っているってことだ、許してやってくれ」
ロサにおさめられたら、双方納得するしかない。話はここまでだ。
一呼吸おいてメロディー嬢は言った。
「シュタイン嬢はメピアの花をご存知かしら?」
「……存じあげません」
クスッと笑ってから、そのまま静かに微笑んだ。見るものを魅了する笑み。わたしの言葉に満足したように。わたしが知らなかったことを喜ぶように。
「もう季節は終わってしまいましたけど、雨が降ると花開きますの。白い可憐な花ですのよ。メピアを讃える歌があって……小さい頃そんな歌を私に歌ってくださった方がいました」
いい思い出なんだろう。メロディー嬢の頬が色づいた。
そして胸の前で手を合わせた。
「シュタイン嬢、お願いがありますの」
嫌な予感しかしない。
「な、なんでしょう?」
「昨夜、置き手紙がありまして。私、脅迫されてますの」
は?
何いってんだ?寄りの衝撃を受けたのはわたしだけではなく、みんな手を止めメロディー嬢を見る。
「脅迫とは穏やかではないですね、どういうことですか?」
ロサがメロディー嬢に近寄った。
ピキーンと高い音がしたような気がした。
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジ
何? 耳鳴り?
もふさまが体を少し起こして壁で見えない外を見るような仕草をした。
「よくあることですわ。婚約者から降りるように定期的に手紙がきますのよ」
よ、よくあるの?
「騎士団に届けましたか?」
「最初の頃は。でも結局相手は分からずじまい。……複数の方がいらっしゃるのだけはわかったようですけど。ですから、今は届けておりません。気をつけるよう言われるだけですから」
「なぜ、私に言わなかった?」
ロサがメロディー嬢の手を掴む。
「……未来の義弟の手を煩わせたくなかったからですわ」
「第1王子殿下には言ったのですか?」
兄さまが鋭くいうと、メロディー嬢は目を伏せた。
「……言っておりません」
一瞬の沈黙の後、彼女はわたしを見る。
「ただ、今回は寮の部屋の扉に手紙がありましたの。学園内は安全だと思っていただけに少し怖くなってしまって。それで護衛をランディラカさまに受けていただけないかと思い、シュタイン嬢に許可いただきたいのですわ」
突っ込みどころ満載なんだけど。
耳鳴りが酷くて、頭がガンガンしてきた。
やんわりとウチの問題だからと告げる。
メロディー嬢は的確に受け取ったようで傷ついた顔をした。
両手で口元を覆い、微かに震えている。
え?
「申し訳ございません。私余計なことを言ったのですね。ランディラカさまという方がいらっしゃるのに失礼ですし、シュタイン嬢もお困りだと思ったのです」
だから詳しく言わなくていいってば。
「自分で対処しますから大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」
そう締めくくれば、触れてくれるなのサインが伝わったようで、話題を変えてきた。
「シュタイン嬢は婚約者のランディラカさまとどこでお会いになりましたの?」
婚約者の話は嬉しいものだと言ったからだろう、今度は兄さまのことを聞いてきた。
「フランツさまは曽祖父の養子ですので、辺境で暮らしていた時から一緒におります」
「シュタイン嬢の婚約者にするために、ランディラカさまを養子にされたのかしら?」
「さぁ、わたしにはわかりません」
「ランディラカさまの実のご両親のことをシュタイン嬢はご存知ですの?」
「……なぜ、そんなことをお聞きになるんですか?」
メロディー嬢はにっこりと笑った。
「あら、婚約者の話をされると嬉しいとシュタイン嬢がおっしゃったからですわ。間違っていましたかしら?」
「わたしの尋ね方がよくなかったようですね。婚約者の話を聞くのは、婚約者のことを知りたいのではなくて、令嬢がお相手の婚約者をどう思っているかを聞きたいからですわ。つまるところ令嬢のことが知りたくて尋ねるのです。きっとわたしの質問が、メロディー嬢が婚約者の第1王子さまをどう思っているかではなく、第1王子さまのことをただ尋ねたように聞こえてしまいましたのね」
あなたはわたしが婚約者をどう思っているかを聞きたいんじゃなくて、兄さまのことをただ知りたいように聞こえるんですけど、と言ってやる。
微かに目を大きくした。
「私の出自に関心がおありですか?」
「兄さま……」
兄さまが横に来ていて、メロディー嬢を見下ろす。
「メロディー嬢、私に関することはリディーではなく、私にお聞きください」
メロディー嬢は笑顔を張り付かせたまま言った。
「ではお言葉に甘えて。ランディラカさまの実のご両親はどちらの方ですの?」
なんでそんなことを聞くの?
「気を悪くなさらないとよろしいのですが、休み明けにパーティーをする予定です。ぜひ、シュタイン嬢とパートナーの方と一緒にお誘いしたいと思っておりますわ。シュタイン家の出自は確かですが、パートナーのランディラカさまはどうなのかと思って、気になりましたの」
うわー、超失礼!
「私は養子になった時から、前ランディラカ辺境伯が父と思っております。それ以外に親はありません。それから、リディーは今年はまだパーティーに参加させません、申し訳ありませんが」
「……氷の君、婚約者のシュタイン嬢以外には本当に冷たいんですのね。でも、私にそんな態度をとってよろしいのかしら?」
一気に雰囲気が悪くなった。
「コーデリア嬢? どうかしたのかい?」
「ロサさま、なんでもありませんわ。婚約者の方がシュタイン嬢を独り占めするから、少し悔しくなりましたの」
「あはは、フランツは婚約者のことになると、頭に血がのぼってしまうんだ。それだけ大切に思っているってことだ、許してやってくれ」
ロサにおさめられたら、双方納得するしかない。話はここまでだ。
一呼吸おいてメロディー嬢は言った。
「シュタイン嬢はメピアの花をご存知かしら?」
「……存じあげません」
クスッと笑ってから、そのまま静かに微笑んだ。見るものを魅了する笑み。わたしの言葉に満足したように。わたしが知らなかったことを喜ぶように。
「もう季節は終わってしまいましたけど、雨が降ると花開きますの。白い可憐な花ですのよ。メピアを讃える歌があって……小さい頃そんな歌を私に歌ってくださった方がいました」
いい思い出なんだろう。メロディー嬢の頬が色づいた。
そして胸の前で手を合わせた。
「シュタイン嬢、お願いがありますの」
嫌な予感しかしない。
「な、なんでしょう?」
「昨夜、置き手紙がありまして。私、脅迫されてますの」
は?
何いってんだ?寄りの衝撃を受けたのはわたしだけではなく、みんな手を止めメロディー嬢を見る。
「脅迫とは穏やかではないですね、どういうことですか?」
ロサがメロディー嬢に近寄った。
ピキーンと高い音がしたような気がした。
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジ
何? 耳鳴り?
もふさまが体を少し起こして壁で見えない外を見るような仕草をした。
「よくあることですわ。婚約者から降りるように定期的に手紙がきますのよ」
よ、よくあるの?
「騎士団に届けましたか?」
「最初の頃は。でも結局相手は分からずじまい。……複数の方がいらっしゃるのだけはわかったようですけど。ですから、今は届けておりません。気をつけるよう言われるだけですから」
「なぜ、私に言わなかった?」
ロサがメロディー嬢の手を掴む。
「……未来の義弟の手を煩わせたくなかったからですわ」
「第1王子殿下には言ったのですか?」
兄さまが鋭くいうと、メロディー嬢は目を伏せた。
「……言っておりません」
一瞬の沈黙の後、彼女はわたしを見る。
「ただ、今回は寮の部屋の扉に手紙がありましたの。学園内は安全だと思っていただけに少し怖くなってしまって。それで護衛をランディラカさまに受けていただけないかと思い、シュタイン嬢に許可いただきたいのですわ」
突っ込みどころ満載なんだけど。
耳鳴りが酷くて、頭がガンガンしてきた。
137
お気に入りに追加
1,377
あなたにおすすめの小説

転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)

間違えられた番様は、消えました。
夕立悠理
恋愛
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。
運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。
「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」
ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。
ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。
「エルマ、私の愛しい番」
けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。
いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。
名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

お姉様に恋した、私の婚約者。5日間部屋に篭っていたら500年が経過していました。
ごろごろみかん。
恋愛
「……すまない。彼女が、私の【運命】なんだ」
──フェリシアの婚約者の【運命】は、彼女ではなかった。
「あなたも知っている通り、彼女は病弱だ。彼女に王妃は務まらない。だから、フェリシア。あなたが、彼女を支えてあげて欲しいんだ。あなたは王妃として、あなたの姉……第二妃となる彼女を、助けてあげて欲しい」
婚約者にそう言われたフェリシアは──
(え、絶対嫌なんですけど……?)
その瞬間、前世の記憶を思い出した。
彼女は五日間、部屋に籠った。
そして、出した答えは、【婚約解消】。
やってられるか!と勘当覚悟で父に相談しに部屋を出た彼女は、愕然とする。
なぜなら、前世の記憶を取り戻した影響で魔力が暴走し、部屋の外では【五日間】ではなく【五百年】の時が経過していたからである。
フェリシアの第二の人生が始まる。
☆新連載始めました!今作はできる限り感想返信頑張りますので、良ければください(私のモチベが上がります)よろしくお願いします!

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる