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8章 そうしてわたしは恋を知る
第339話 憂鬱なメロディー嬢<後編>
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「恐れ多いですわ。わたしは王族と縁を持てるような者ではありませんもの。それにわたしの婚約者はフランツさまですので」
しっかりと否定しておく。
「つれないですわね。アンドレさまも、あなたに興味をもたれていたんですのよ。私、その時少々妬いてしまいましたわ」
「アンドレさま?」
「ああ、第1王子さまよ。ゴット・アンドレ・エルター・ハン・ユオブリアさまのことですわ」
「第1王子さまが、わたしにですか?」
「ええ、アンドレさまは私とではなく、あなたと婚約したかったんだと思いますわ」
はぁ???
平常心、平常心。
「ああ、わたしが聖女候補と噂が出たからですね」
わたしはカップに手を伸ばした。飲めるぐらいのぬるさになっている。
『アオはしゃべるなよ。リディア、この雌はなんか変だ。リディアを探ろうとしている』
え?
『わたくしにも、何かを聞き出そうとしているように感じられます』
探るって何をよ? 胸がバクバクしてくる。
「いただきましょう」
「はい」
フォークをきれいに使って、小さな口の中にお菓子を入れる。
控えめな色合いの艶々した口がかわいらしく動いている。
飲み込めば満足げな表情だ。
わたしも慌てていただいたが、香ばしい焼き菓子だった気がするけど、味はよくわからなかった。わたしは胸元のネックレスを弄ぶふりをして、録音のスイッチを入れた。
「学園と神殿が発表されましたね、あなたは身体的問題から決して聖女になることはないと」
「はい、その通りです」
「残念だわ」
な、何が? 何が残念なの?
聖女は王族と婚姻を結ぶことが多い。王族の婚約者なら〝聖女〟は決して嬉しい存在ではないはず。メロディー嬢の婚約者である第1王子だったり、親密な第2王子であるロサ殿下の正室になる可能性がある者となる。
その聖女はわたしでない、それが残念ってどういうこと?
本心から第1王子の婚約者である場合、ロサ殿下と聖女が婚姻すればいいと思っていて、わたしがロサ殿下と婚姻する聖女ではないから残念?
本心がロサ殿下と結ばれたいと思っている場合、第1王子と聖女が婚姻すればいいと思っていて、わたしが聖女ではないから残念?
そしてひねくれているかもしれないけど、わたしが嬉しくない存在の〝聖女〟でなくて残念?
なんかどの答えでも怖いんですけど。
「シュタイン嬢は、どなたが王太子になられると思います?」
これ、どう答えても、わたしどころか一族みんな反逆だとかそういう怖いことにも結びつけられるのを含んだ質問だ。
ヤメてーと思った。身が引き締まる。
「わたしには難しいことがよくわかりません」
怖いから回避だ。
メロディー嬢は首を傾げる。その仕草はかわいらしい。
「では、簡単に。アンドレ殿下とロサ殿下、どちらが王さまになられたらいいと思います?」
なんてことを言うんだ。
「わたしにはわかりません」
汗がじわりと出てくる。
「あら、わからなくてもいいのよ。どちらがいいと思うかを聞いているだけですもの」
だからそれだけで不敬ではないか。
「わたしのような者が何か思うだけで不敬ですわ。尊い方たちがお決めになることですもの」
メロディー嬢はため息をついた。
「……シュタイン嬢は私に心を開いてくれませんのね。思ったことをなんでも言い合えるお友達になりたいと思いましたのに」
とても淋しそうに目を伏せる。
哀しい顔をさせて悪いなとは思う。わたしと親しくなろうとして砕けた質問をしてきたのかもしれない。だけど。メロディー嬢のことをよく知らないし、うかつにそんな恐ろしい問題に答える気にはなれないよ。
メロディー嬢はチラリとわたしを見た。
「ごめんなさい。……まだ会って間もないのに、心を開いてなんて気が早すぎましたわね。私、あなたが聖女になってくれたらいいと思ってますの」
はい?
「わたしは身体的なこと……」
「存じておりますわ。でも何事も想定外のことってありますでしょう? ですから願っております」
「なぜですか?」
「私、慕っている方がおりますの」
まさか、婚約者以外の人をってここで挙げるわけじゃないよね?
心臓がまたバクバクしてくる。
「私はあなたが聖女で、あなたが正室となるのなら、諦められると思うのです」
真っ直ぐ瞳を見て言われた。
ど、ど、ど、ど、どういうこと? そう気持ちは膨れあがったが、事実を告げる。
「わたしは聖女にはならないし、わたしの婚約者はフランツさまです」
「……そうなんでしょうね」
メロディー令嬢はそう締めくくって、お店を後にした。
つ、疲れた。儚げなのは見た目だけで、なかなか芯のある人だった。どこかアイリス嬢と似たものを感じる。
夜から始まった家族会議で、メロディー嬢に言われたことを伝えておいた。単純に親しくなりたかったのかもしれないし、そうじゃなくて、含むところがあるのかもしれない。とにかくわたしは距離をおきたい。
マッサージクリームについてはわたしの考えを述べて、予定通りスキンケアシリーズを販売していくことに決まった。ホリーさんが見本で作ってくれた化粧水いれのボトル瓶は乙女心をくすぐるデザインだ。追って美白化粧水も売りたいので、そのボトルもお願いすることにした。
しっかりと否定しておく。
「つれないですわね。アンドレさまも、あなたに興味をもたれていたんですのよ。私、その時少々妬いてしまいましたわ」
「アンドレさま?」
「ああ、第1王子さまよ。ゴット・アンドレ・エルター・ハン・ユオブリアさまのことですわ」
「第1王子さまが、わたしにですか?」
「ええ、アンドレさまは私とではなく、あなたと婚約したかったんだと思いますわ」
はぁ???
平常心、平常心。
「ああ、わたしが聖女候補と噂が出たからですね」
わたしはカップに手を伸ばした。飲めるぐらいのぬるさになっている。
『アオはしゃべるなよ。リディア、この雌はなんか変だ。リディアを探ろうとしている』
え?
『わたくしにも、何かを聞き出そうとしているように感じられます』
探るって何をよ? 胸がバクバクしてくる。
「いただきましょう」
「はい」
フォークをきれいに使って、小さな口の中にお菓子を入れる。
控えめな色合いの艶々した口がかわいらしく動いている。
飲み込めば満足げな表情だ。
わたしも慌てていただいたが、香ばしい焼き菓子だった気がするけど、味はよくわからなかった。わたしは胸元のネックレスを弄ぶふりをして、録音のスイッチを入れた。
「学園と神殿が発表されましたね、あなたは身体的問題から決して聖女になることはないと」
「はい、その通りです」
「残念だわ」
な、何が? 何が残念なの?
聖女は王族と婚姻を結ぶことが多い。王族の婚約者なら〝聖女〟は決して嬉しい存在ではないはず。メロディー嬢の婚約者である第1王子だったり、親密な第2王子であるロサ殿下の正室になる可能性がある者となる。
その聖女はわたしでない、それが残念ってどういうこと?
本心から第1王子の婚約者である場合、ロサ殿下と聖女が婚姻すればいいと思っていて、わたしがロサ殿下と婚姻する聖女ではないから残念?
本心がロサ殿下と結ばれたいと思っている場合、第1王子と聖女が婚姻すればいいと思っていて、わたしが聖女ではないから残念?
そしてひねくれているかもしれないけど、わたしが嬉しくない存在の〝聖女〟でなくて残念?
なんかどの答えでも怖いんですけど。
「シュタイン嬢は、どなたが王太子になられると思います?」
これ、どう答えても、わたしどころか一族みんな反逆だとかそういう怖いことにも結びつけられるのを含んだ質問だ。
ヤメてーと思った。身が引き締まる。
「わたしには難しいことがよくわかりません」
怖いから回避だ。
メロディー嬢は首を傾げる。その仕草はかわいらしい。
「では、簡単に。アンドレ殿下とロサ殿下、どちらが王さまになられたらいいと思います?」
なんてことを言うんだ。
「わたしにはわかりません」
汗がじわりと出てくる。
「あら、わからなくてもいいのよ。どちらがいいと思うかを聞いているだけですもの」
だからそれだけで不敬ではないか。
「わたしのような者が何か思うだけで不敬ですわ。尊い方たちがお決めになることですもの」
メロディー嬢はため息をついた。
「……シュタイン嬢は私に心を開いてくれませんのね。思ったことをなんでも言い合えるお友達になりたいと思いましたのに」
とても淋しそうに目を伏せる。
哀しい顔をさせて悪いなとは思う。わたしと親しくなろうとして砕けた質問をしてきたのかもしれない。だけど。メロディー嬢のことをよく知らないし、うかつにそんな恐ろしい問題に答える気にはなれないよ。
メロディー嬢はチラリとわたしを見た。
「ごめんなさい。……まだ会って間もないのに、心を開いてなんて気が早すぎましたわね。私、あなたが聖女になってくれたらいいと思ってますの」
はい?
「わたしは身体的なこと……」
「存じておりますわ。でも何事も想定外のことってありますでしょう? ですから願っております」
「なぜですか?」
「私、慕っている方がおりますの」
まさか、婚約者以外の人をってここで挙げるわけじゃないよね?
心臓がまたバクバクしてくる。
「私はあなたが聖女で、あなたが正室となるのなら、諦められると思うのです」
真っ直ぐ瞳を見て言われた。
ど、ど、ど、ど、どういうこと? そう気持ちは膨れあがったが、事実を告げる。
「わたしは聖女にはならないし、わたしの婚約者はフランツさまです」
「……そうなんでしょうね」
メロディー令嬢はそう締めくくって、お店を後にした。
つ、疲れた。儚げなのは見た目だけで、なかなか芯のある人だった。どこかアイリス嬢と似たものを感じる。
夜から始まった家族会議で、メロディー嬢に言われたことを伝えておいた。単純に親しくなりたかったのかもしれないし、そうじゃなくて、含むところがあるのかもしれない。とにかくわたしは距離をおきたい。
マッサージクリームについてはわたしの考えを述べて、予定通りスキンケアシリーズを販売していくことに決まった。ホリーさんが見本で作ってくれた化粧水いれのボトル瓶は乙女心をくすぐるデザインだ。追って美白化粧水も売りたいので、そのボトルもお願いすることにした。
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