プラス的 異世界の過ごし方

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8章 そうしてわたしは恋を知る

第330話 夏休み前④思いがけない

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 アルノルトに用意してもらった秘密兵器を、わたしが夜なべして加工をした。
 ふふふ。クラスのみんなに配っていく。
 それを時々靴の中敷きにして過ごし、慣れてもらうようお願いした。

「なんだよ、これ?」

「言ってもわからないと思うから、体験してもらうのがいいと思うんだ。わたしはトランポリンって呼んでるんだけどね、弾むの」

「弾む?」

「試しに靴の中にこの中敷きを入れて、軽く跳んでみて。軽くだよ。思い切りやったら天井にぶつかるかもしれないから」

「天井にぶつかる? は? 何言ってんだ、お前」

 イシュメルが結構な勢いで踏み込んだ。
 あっ。
 イシュメルはかなりの速さで飛び上がり、天井にぶつかる前に手で頭を庇った。その手が上壁に軽くぶつかる。
 胸を撫で下ろす。イシュメルの反射神経が良かったから間に合った。

「なんだ、これ」

「危ないな。やっぱ、だめ。みんな返して。怪我人でそう」

「え? そりゃないよ」

 みんな慌てて靴の中に中敷きを入れた。

「みんな怪我しないようにやってくれよ。怪我したら取り上げられちゃうぞ」

 スコットが注意すると、みんな神妙に頷き、歩き回ったり、ちょっと跳んでみたりしている。

「何これ、すっごく面白い」

「魔物の演出にいいかなと思って」

「お前、天才!」

 お褒めの言葉いただきました!

 ミラーダンジョン地下2階にあったトランポリン、あれは領地の大型宿泊施設内アトラクションとして活躍中だ。どういう原理かはわからないんだけど、ゴムとはまた違うもので弾力が半端ないのだ。最初は薄く伸ばしてゴムのように使えるんじゃないかと思い、馬車の車輪カバーを試したんだけど、〝弾む車輪〟になってしまったので諦め、弾むのを遊ぶためだけの遊具として使ってきた。

「これで歩くのちょっと楽しい」

 女の子たちも優雅にスキップしている。空中にいる時間がちょっと長くなるのって楽しい。調子にのると転びそうになるけど。そこをもふさまがすかさず襟のところや袖を咥えてくれているので転ばないですんでいる。みんな跳ねて歩くのうまいね。こけたりもしていない。わたしはもふさまのフォローがないと、ヤバげなのに、何さ、それ。

「君はやっぱり面白いな」

 ひとり椅子に座ったまま、頬杖ついたアダムに言われる。

「こうした使い方をしたのは初めてなの!」

 持ってきたのはわたしだから、誰よりも上手く扱えるべきなのにそうじゃないから呆れたんだろう。
 トランポリンの上で跳ねるなら、わたしが一番上手にできると思うけど。

「……この素材は何だい?」

 わたしは声をひそめる。

「植物と魔物の分泌物」

 知ったら嫌がる子、いそうだから。

「どこで手に入れたの?」

「ダンジョン産」

「なるほどね」

 アダムがわたしをじーっと見てる。

「なに?」

「君と一緒にいたら退屈しないですみそうだ」

「やめて、わたしを暇つぶしの道具みたいに言うの」

「そう聞こえた? 僕は最上級に褒めているんだけど」

「エンターさまは会話のお勉強された方がいいかもしれないですね」

 嫌味っぽく言ってやる。

「じゃあ教えてくれない?」

「何を?」

「ある人に伝えたいことがあるんだけど、鈍感でその上、思い込みが激しいんだ。どう言ったら、誤解しないで受け止められるかな?」

 ああ、鈍感ちゃんで、思い込みが激しい人ね。

「包み隠さず、ありのままを、伝えるのが一番じゃない?」

 自分で言っていて、そうだよなーと思う。偉そうに言っといてなんだけど、包み隠さず気持ちを言ったつもりなのに、兄さまにちゃんと伝わらなかった気がしている。こんなわたしが人に教えられることはないのに。

「僕は後2年もしたら、ある場所に行かされるだろう。そして閉じこめられるように暮らすことになる。その代償にひとつだけ願いを叶えてもらえるんだ」

 閉じ込められる?

「期間は? いつまで?」

 尋ねるとアダムは微笑んだ。

「死ぬまで」

 え? っていうか、笑いながら言うこと?

「それで納得してるの? 本当にそれ、いいの?」

 アダムは淋しそうに微笑った。

「納得はできてない。けれど、それが僕以外の総意だと言われたら従うしかない」

 南部はしきたりとかがうるさいのかな。

「どうしても嫌なら逃げちゃうのも手だよ」

 わたしは小声で入れ知恵した。

「きっと助けてくれる人もいるよ。わたしも凄いことはできないけど、時々ご飯の差し入れぐらいはするよ」

「君のご飯か。願いごとを叶えてもらえるなら、別にいいかなと思っていたけど、君の差し入れは魅力だな」

「あと2年あるなら、足掻いたら何か変わるかもしれない。思いつくこと全部やってみたら?」

 アダムはわたしをじっと見た。

「君はいつも思いがけないことを言う」

 思いがけない?

「6年前は欲しいものは欲しいと言えと」

 ああ、そんなこともあったかもね。

「普通だよ。アダムじゃなかった、エンターさまがちょっと変わってるんだよ」

「……僕のことまだアダムって思ってるの?」

「……そう呼んでたから癖になってるの」

「……君のほっぺ、つついてもいい?」

 は?

「ダメに決まってんでしょ」

「なぜ?」

「あのねー、ほっぺをつつかれるのが好きって人がそうそういるわけないでしょ?」

「じゃあ、頬に触れるならいい? 痛くしないから」

 ……こいつは人恋しいのか?

「ダメ」

「なぜ?」

「異性の婚約者でもない人に触れたら、疑われるよ、いろいろと」

 アダムは下を向いた。

「私の婚約者は私以外の人を慕っているようだ」

 え。いきなりヘビーな話だ。

「……そう言われたの?」

「いや。ただわかっただけだ」

「……それは辛いね」

 貴族の婚約は家同士が決めることが多いから、きっと想いが他にあってもどうにもできないのだろう。
 それに閉じ込められるとか言ってたから、南部ではうるさい決まりごとがいっぱいあるのかもしれない。
 そう知ると、アダムが少し斜に構えているのも納得できる気がした。
 あ、アダムは体が弱い。もしかして閉じ込められるって入院とかそういうこと? まさか、思い出作りに学園に来ているとか? 人恋しくて人に触りたいと思うのだろうし。なんかいろいろ気の毒だ。

「アダムは会話不足じゃないかな?」

「え?」

「婚約者とももっと話してみれば? アダムの勘違いかもしれないし。当たっていても、何かふたりでいい案が浮かぶかもよ? それにさ、アダムはかっこいいんだから、もっと青春を謳歌しなよ」

「青春?」

「んー、だから、〝今〟ってのは〝今〟しかないの。楽しまなくちゃ!」

「楽しむ?」

 まったくいつもおうむ返しだ。
 ほら、とわたしは中敷きを手に持たせた。
 しぶしぶ靴に仕込んでいる。立ち上がりタンと踏み込めばふわりと浮くように歩いた。

「……なるほど、これはなかなか」

「面白いでしょ?」

「エンターさま、優雅」

「なんでだ、同じもの使ってるのに」

 拗ねるようにドムが言ったので、みんなが大笑いした。
 そしてわたしもみんなとおしゃべりに夢中になってしまったので、そういえば、アダムが本当のところ何を言いかけていたのか聞きはぐっていたことに気づいていなかった。
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