プラス的 異世界の過ごし方

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8章 そうしてわたしは恋を知る

第329話 夏休み前③劇

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 まだ期間があるからか本気モードへとは気持ちが発展しないけど。
 実際は夏休みが終わるとひと月後にはもう学園祭で、時間が足りなく感じるのだろうな。

 クラスの学園祭実行委員は、スコットとレニータに決まった。ふたりが前に出て、クラスの出し物を決めるべく話し合いとなったが、なかなか案が出ない。
 学園祭の花形は食べ物を売る屋台系だそうだ。今年は人気者の集まりである生徒会がカフェをやるので、お茶とお菓子以外に特化した目をひく何かじゃないと客は呼べないだろうと予想されている。

 それで出し物になるのかなー、劇とかかなーという話になった。

「劇っていうと、初代聖女の物語とか?」

「騎士・パデリック物語?」

 どちらも有名だけど面倒くさそう。上品で丁寧、もってまわった長いセリフがお約束だ。

「あのさー」

 普段あまり発言しないトレミが手をあげた。わたしと同じぐらいの体型の小柄な男の子だ。

「D組にはシュタインさんもいるし、街を半壊したその時のことを劇にしたら話題になるんじゃないかな?」

 ヲイ。

「街じゃなくて教会だから」

 思わず訂正を入れてしまった。

「それ、リディアが思い出すの嫌じゃなかったら面白そう」

「脚色すればいいんじゃない? 愉快に楽しく」

 わたしは慌てて言った。

「裁判になることだから、あまり良くない気がする」

 脚色したことが人々の記憶に残ってしまうのは良くない。

「そっかー。リディアは何かいい案ない?」

 レニータに催促された。

「うーーーん、来てくれた人が楽しめることがいいよね」

「楽しめること?」

「うん。例えば劇は劇でも体験型の劇とか」

「「「「「「体験型の劇?」」」」」」

「わたし、家族とダンジョンに行ったことがあるんだけど。魔法で魔物を倒したりして。怖かったけど、達成感があって……お宝が出てくると嬉しいし」

「「「「「「お宝?」」」」」」

 すこぶる反応のいい男の子たちに頷く。

「魔物のお肉とか、ナイフとか、収納袋が出たこともある。試練の間の魔物を倒した時だけどね。戦う時はもちろん怖いし、こっちも命の危険があるわけだけど、倒せると強くなれたようで嬉しいし、お宝が出ると胸が踊って。わたしが今思いついた楽しいのはそういうのだけど……」

「詳しく」

 スコットに真面目な顔で促される。

「えっと、だから。わたしたちが劇中で……例えば村の子供たちになって、お客さまを冒険者に仕立て上げるの」

「仕立て上げる?」

 キャシーが首を傾げた。わたしは胸の前で手を組んだ。

「〝冒険者さま助けてください。あの洞窟に住む魔物が夜ごとにやってきて、食べ物を差し出せ、出なければお前たちを殺すというのです。今までなんとか食べ物を捧げてきましたが、村には食べ物が残り少ないのです。魔物に殺されなくても、これでは食べ物がなくて冬を越すこともできないでしょう。私たちは魔物に殺されるか、食べるものがなくて飢死してしまいます。冒険者さま、どうか魔物をやっつけてください〟とか言って、村に伝わるとかいう祝福の剣を渡して戦ってもらうことにする。お客さんが頷いたら背景を変えるとかして洞窟内になり、今度わたしたちは魔物になりきって戦うの。で、最後はお客さんに勝ってもらって魔物はもう村を荒らしませんって宣言して魔物がせしめていたお宝を渡す。
 お客さんは魔法禁止で、こっちは魔法を使って演出するの」

「演出?」

「アイデラは幻影魔法得意だよね? 洞窟の中にいるみたいに見せたり。アマディスは音を大きくできるって言ってたよね? 水魔法で手に少し水を当てて音を大きく出したら、攻撃されたみたいに感じるんじゃないかな? そんなふうにみんなが魔法でできることをして、冒険者と戦うの。最後はその祝福の剣だとかで、お客さんが斬り込むそぶりをしたらやられたーって倒れて、魔物が降参する。魔物から宝をもらい、村人からも助かりました、ありがとうございましたとか言って、お礼を渡して大団円」

 シーンとした。

「……だから、例えばだけど……。そうやって巻き込み型の劇はどうかなと……思った……んだけど……」

 うう、この空気どうすればいいんだ。失敗したと声が尻つぼみになる。

 けれど、一瞬後に沸き立った。

「それめちゃくちゃ面白そう!」

「みんなの魔法でできることを集めたら、いろんなことができるね」

「ワクワクする!」

 えへ? そう思う? 
 そう思うよね?
 みんな楽しそうな顔してる。
 学園祭の時は魔法をフリーに使っていいんだって。そんなチャンス活かさない手はないじゃない?
 そうだ! これ戦うフリは魔法戦の練習にもなるね。あれ、使えるかな。臨場感出るよね。そして練習にもなり一石二鳥だ。

 大雑把な設定が決まっていく。ちょっと楽しみになってきた。
 これから細かいことを詰めていくのが大変だけどね。お客さんのうちどれくらいを巻き込むのか、とか、乗ってくれない人もいるだろうし。そうするとアドリブができるキャストが必要になってくる。

 決めるのは大変だし、いっぱい悩むだろうけど、もし楽しんでもらえたらその考えた時間は、わたしたちにとってかけがえのない宝物となるはずだ。




 寮の出し物は慎重に決めなければならない。寄付金を絶対に集めないといけないからだ。ガネット先輩に手伝ってもらいながら、学園祭での出し物を話し合った。やっぱりみんな屋台を、食べ物を売るのがいいんじゃないかと話が出た。食事の支度も持ち回りで手伝うようになって、みんな作ることが楽しいようだ。
 ただ、何だったら売れそうとかは思い浮かばないという。
 みんなにどんなものが食べたいか聞いてみた。
 お腹にたまるものという意見と、簡単なものでもいいからお菓子を作ってみたいという意見があった。甘いものは魅力らしい。ただ生徒会のカフェとかぶらないようにしないと……。

 お腹に溜まって、お菓子で甘くて……。でも甘いのが苦手な人もいるから、そういう人も楽しめるもので。生徒会とはかぶらない……。
 考えていると、みんなに見られていた。
 うっ。なんかすっごく期待に満ちた目。

「……思い浮かぶものはあるんだけど、作るのはみんなの協力がいるし、ちょっと大変かもしれません」

「それはお菓子? 私たちでも作れるものなの?」

「コツはいるけれど、誰でも作れる……というか、好きなように好きなもので作れるのがウリですね」

 みんなが顔を見合わせた。
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